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<東京怪談・PCゲームノベル>


 I'm longing you.

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 口にしなくても伝わるもの。
 想いなんて、ただ傍にいるだけで伝わるもの。
 そう思うから、そう思っていたから、告げなかった。
 でも、もう、このまま黙っているなんて、俺には出来ない。
 情けないことに、感化・影響されてるんだろうな、あいつに。
 躊躇うことなく、お前に想いを伝える、あいつに。
 あいつが、お前に伝える思いは、一方的なものかもしれないけれど。
 それでも、あいつは止めないだろ? お前が、どんなに拒んでも。
 その貪欲さ、高慢さ、無謀さ、それをいつしか、俺は羨ましく思ってた。
 拒まれると知って尚、どうして想い続けることが出来るのか。
 それが、理解らなかったんだ。
 理解らなかったから、俺には出来なかった。
 お前に拒まれるなんて、そんなこと……考えたくもないから。
 でも、違うんだよな。それじゃあ駄目なんだ。逃げているのと同じ。
 怯えることなく、告げるから。聞いてくれ。
 今更何を言ってるんだって。
 お前が笑ってくれることを、切に願うよ。

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「クレタ。ちょっと、良いか?」
「うん……?」
 見上げて言葉を返すと、自室空間にヒヨリが降りてきた。
 何の変哲もない光景? そんなことはない。明らかに、おかしいではないか。
 ヒヨリが、部屋に入る前に確認するだなんて、初めてのことだ。
 いつも、勝手に入ってくるのに。確認するだなんて……おかしいじゃないか。
 ソファに座るクレタに歩み寄るヒヨリは、いつもどおり微笑んでいた。
 けれど、クレタは、すぐさま違和感を覚える。何かが違う。
 何が違うのか、はっきりとは理解らないけれど、何かが違う。そう思った。
 感じた違和感は、確信へと変わる。
 ストンと隣に腰を下ろしたヒヨリの、 "とある所作" で。
 本人が気付いているかどうかは微妙だが、
 ヒヨリは何か思うところがある時、前髪を弄る。
 何気ない仕草ゆえに見落としがちだが、これは確かだ。
 とはいえ、クレタが、この癖に気付いたのは最近のことなのだが。
 横顔を見やりながら、ジッとしているクレタ。
 考え事をしている、何か話したいことがあったから、ここへ来た。
 そう気付いたとしても、追求することはしない。
 聞く立場である以上は、待たねばならない。クレタは、そう思っている。
 だが、ヒヨリにとって、ジーッと見つめられる、その眼差しは追求と同等の行為だ。
 待ってるつもりなんだろうけどな、お前、それ、待ててないから。
 まぁ……はぐらかす気もないし、もったいぶる必要もないんだよな、実際。
 ただ、想いを伝えるだけ。今、考えてることを、お前に伝えるだけ。
 簡単なことのはずなんだけどな。お前とは、いつも話してるわけだし。
 いや、待てよ。だからこそ、なのかもしれないな。
 告げようとしている想いが想いなだけに、躊躇うのかもしれない。
 いつも話しているからこそ、躊躇うのかもしれない。
 とか何とか……また、考え込んじゃってるし。
 駄目なんだろうな。これじゃあ。同じことの繰り返しだ。
 何の為に来たのか。お前に告げにきたことは、何なのか。
 ちょっと待ってくれ。整理するから。気持ちの。
 おかしいな。来る前に、何度も確認したんだけどなぁ。参ったね、どうも。
 一人、クスクスと笑い出すヒヨリ。当然、クレタはキョトンとした。
 首を傾げているクレタを見やり、ヒヨリは意を決する。
 納得するように頷いて、ヒヨリが告げたのは、まっさらな想いだった。
 お前のことを大切に想う気持ち。それは、俺だけじゃなく、みんな同じだ。
 ただ、知っておいて欲しいのは、俺の想いは特別だという点。
 大切に想うのは勿論なんだけれど、時々、手に負えなくなるんだ。
 その想いが強すぎて、おかしなことを口走りそうになる。
 危うくなる度、慌てて必死に抑えてきたから、お前は気付いていないだろうけれど。
 どこにも行けないように、この部屋から出られないように……だとか、
 お前の頭の中から俺以外の記憶を消してしまえば……だとか。
 変なことばかり考える。考えるべきじゃないことばかり考える。
 どうしちまったんだって、焦ってたよ。つい、この間までは。
 でもな、それが、これが、どういうことなのか理解ってからは冷静になれた。
 冷静になれたからこそ……抑えきれなくなったんだ。
 理解に苦しむ現象を理解できた瞬間は、昨日のことだ。
 歪みを還して戻ってきたお前と、時計台の前で遭遇した時のこと。
 俺は言ったよな。いつもどおり「おかえり」って。
 お前も、いつもどおり返した。「ただいま」って。
 そこまでは良い。何の問題もない。それこそ、いつもの光景だ。
 問題なのは、その後。微笑みながらスコアを渡して報告する、お前の顔。
 見ているうちに、ありえないことを俺は考えてしまった。
 一生懸命に話す、お前の喉を潰してしまいたいと。そう思ってしまったんだ。
 無意識のうちに腕は伸びて、俺は、お前の首に触れた。
 そのまま、両手を添えて。このまま、絞めてしまえば。そうすれば……。
 そんなことを、考えていたんだ。俺は。
 どうしたの? って、お前が、あどけない表情で訊くまで、ずっと。
 我に返って、すぐに手を離したけれど。背に隠した手は、震えてた。
 何を考えてるんだって。何をしようとしたんだって。戸惑ったよ。
 でもな、仕方のないことだったんだ。
 欲しいと思ってしまうのは、仕方のないこと。
 何もおかしいことじゃない。人を想うってのは、そういうこと。
 愛することの意味を、お前に教えた俺が忘れていたなんて可笑しな話。
 狂おしいほどに、愛しいと想う気持ち。
 お前の気持ちなんて関係なしに、全てを奪い去りたいと願う気持ち。
 独りよがりな愛情。間違った愛し方。
 同じなんだ。所詮、俺も。あいつと同じ。
 あいつを諭す権利なんて、俺にはなかったんだよ。同類なんだから。
 でも、同類だからといって、これから仲良く出来るのかっつぅと、それは無理な話だ。
 同類だからこそ、相容れない。欲するものが同じだからこそ、相容れないんだ。
 お前を護ってやると言った口と声で、こんなことを告げるのは気が引けるけれど、
 本音だから、もう隠しようのない本音だから、言うよ。
 俺は、お前を愛してる。
 代えのきかない、絶対無二の存在。
 傍にいるだけで満たされるだなんて、そんなのは錯覚。
 物足りないんだ。それだけじゃ、満足なんて出来やしない。
 お前の呼吸さえも、自分のものにしたいと。俺は、そう思ってる。
 頭のイカれた奴だと笑ってくれて構わない。
 お前も、あいつと同じじゃないかって、笑ってくれて構わない。
 いや、笑ってくれ。寧ろ、笑ってくれないと救われない気がするから。
 何言ってるんだって、笑ってくれ。いつもの謙虚な笑顔で。
「笑え。クレタ」
 俯いたまま呟くように言ったヒヨリ。
 異様な雰囲気に、クレタは戸惑いを隠せない。
 どうすれば良いのか、どう返せば良いのか、まるで理解らない。
 最初に出会った日のことは、今でも、はっきりと覚えてる。
 目を見て話せ、って言ってくれたこと、僕のことを知りたいと言ってくれたこと。
 仲間に迎えてくれた瞬間、とても嬉しかった。ありがとうって、そう思った。
 僕も、ヒヨリのこと好きだよ。大切に、思ってるよ。
 ねぇ、どうしたの、ヒヨリ。言ってる意味が理解らないよ。
 ヒヨリにはナナセっていう無二のパートナーが、いるでしょ?
 外の世界にだって友達たくさんいるし、どうして? どうして、僕なの?
 ねぇ、ヒヨリ。いつもの冗談……なんだよね?
 ちょっと、からかってみただけだって。そう言ってよ。
 いつもみたく笑って、頭を撫でながらタネ明かししてよ。
 クレタの言葉に、ヒヨリは俯いたまま、何も返さない。
 馬鹿じゃない。想いを感じ取れぬほど、そこまで鈍感じゃない。
 冗談ではないと、本気なのだと、理解る瞬間。
 クレタは、唇を噛み締めた。
 どうしてかな。何で……何で、こんなに悲しいのかな。
 大切な人に愛されるって、幸せなことのはずなのに、どうして悲しいのかな。
 キュッと目を閉じて、クレタは小さく息を吐いた。
 あぁ、そうか。あぁ、これは。あぁ、それは。
 応えられないからなんだ。
 僕も好きだよって、そう返すことは出来るけれど。
 ヒヨリが欲しいのは、その言葉じゃない。でも、僕は返せないんだ。
 欲しがっている言葉を、与えてあげることが出来ない。
 僕も愛してるよって。ヒヨリは、その言葉が欲しいのに。
 どうして返せないのか。答えは簡単だ。愛していないのではなく、愛せないから。
 忘れることも、掻き消すことも出来ないんだ。どんなに時を重ねても。
 過ちだと諭されても、疑うことは出来ないんだ。
 愛を諭してくれたのは、ヒヨリ。でも、
 愛を教えてくれたのは、Jなんだよ。
 それは、それだけは、僕の中で永遠に変わらないことなんだ。
 隣に並んで一緒に歩くことは出来ても、愛してるとは言えない。
 ヒヨリに身体を委ねることは……出来ないんだよ。
「……ごめん、なさい」
 ポツリとクレタが呟いた。
 その言葉を聞いた瞬間、ヒヨリは伏せていた目を開く。
 偽りのない言葉。偽りのない返答。クレタは、笑ってくれなかった。
 笑わずに、謝った。それが、何を意味するか。悟ったヒヨリは、クレタの腕を掴む。
 捻じ切られてしまいそうなほど、強く握られる腕。走る痛みは、肉体的なものではない。
 心臓を握り潰されるかのような痛みに顔を歪めながら、クレタは全力で払った。
 腕を掴むヒヨリの手を、振り解くようにして……払ってしまった。
 自分の行為が、理解できない。困惑した結果、クレタが取った行動は。
 退きだった。
 目を泳がせながら、ずるずると後退りしながらクレタは繰り返す。
「……ヒヨリのこと、大切に想ってるよ」
「じゃあ、何で逃げる?」
 被せるようにして尋ねてくるヒヨリ。
 退いた分、ヒヨリは追いかけるようにして寄ってくる。
 変わらず離れぬ距離にクレタが覚えたのは、恐怖だった。
「……本当だよ。……本当なんだ!」
 掠れた声で、精一杯の咆哮。
 その言葉を残して、クレタは駆け出し去って行く。
 息苦しい理由を考えつつ、呼吸の仕方を思い出しつつ、クレタは闇を駆けて思う。
 ヒヨリに裏切られたのか。僕が、ヒヨリを裏切ったのか。

 理解らない。

 大切に想っているなら、それが本心なら。何で逃げるんだよ。何で泣くんだよ。
 一人残されたヒヨリはソファに凭れ、大きな溜息を落とした。
 ごめんなさいって謝られて、それが何を意味するか、どういうことなのか。
 理解出来るくせに、理解出来たくせに、理解した上で。
 どうすれば、お前が「ごめんなさい」を取り消すか、取り消してくれるか。
 そんなことを考えてる。重症だ。どうしようもない。
 更に困ったことに、想いを告げたことを悔やむ気配もない。 
 どうすりゃいい。誰か、助けてくれ。

 Am I a fool?

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『 I'm longing you. 』への御参加、ありがとうございます。
 どうなるか理解らないまま紡いだのですが…結果、逃げてしまいました。
 暫く気まずそうですね。 Am I a fool? (俺って最低?)
 恋に惑溺、愛に飢餓。貪欲になる分、厄介なものです。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.03 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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