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<東京怪談・PCゲームノベル>


 依存ショウ

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 傍にいるとドキドキする。ドキドキして、満たされる。
 でも、そこで、それだけで満足することが出来なくて。
 もっと、もっとって欲しがってしまう。
 知らないことは何もない。
 そのくらいまで、その領域まで踏み込みたい。
 他の奴に笑いかけていたり、楽しそうにしていると頭が変になる。
 自分のいないところで、この人は、こんな顔をするのかって。
 その表情さえも、自分のものにしたいと願うようになってしまう。
 とにかく、全部。全部知りたいんだ。全部、欲しい。
 おかしいよね。こんなの。欲張りっていうより、異常だよね。
 性別とか年齢とか、そんなの関係ないんだ。
 この空間で共に生きる人、仲間全員に、その想いを抱いてる。
 勿論、きみのことも……。
 ねぇ、俺、変かな。やっぱり、変なのかな。
 気持ち悪いって思う? 逃げようって……思う?

 他愛ない話をしていたのに。いつしか、尾根に異変が起きた。
 闇を這いながら、ジリジリと近付いてくる。
 その異様な雰囲気に、思わず後退り。
 けれど、ソファにぶつかってしまって。
「っわ……」
 そのままソファに埋もれるようにして倒れ込めば、
 尾根は、覆い被さるようにして乗ってきて、両腕を押さえた。
 見下ろす、その瞳は……。切なさに満ちているような、そんな気がした。
 ジッと見つめながら、尾根は尋ね続ける。
「ねぇ、俺、変かな。変なのかな」
 繰り返す、その瞳に……。見覚えがあるような、そんな気がした。

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 何度も何度も執拗に繰り返す。
 訊ねているくせに、答えを聞きたいはずなのに。
 答えさせる猶予を与えぬように、尾根は繰り返した。
 クレタに、動揺している様子はない。ただジッと動かず、尾根を見上げる。
 揺れる栗色の髪、柔らかそうな髪。女の子みたいな声。
 今、自分の両腕を押さえつけて組み敷いているのは、間違いなく尾根だ。
 それなのに、どうしてだろう。どこか、別人のような。そんな気がする。
 怖いだとか、そんなことは思わない。心は静か。落ち着いているよ。
 自分でも驚くほどに冷静なんだ。少し驚きはしたけれど、焦ってはいない。
 ねぇ、尾根。もう訊かないで。何度も何度も同じことを訊かないで。
 答えを聞きたいのなら、ちゃんと言うから。聞かせてあげるから。
 隙間を頂戴。答えを返せる隙間をくれないと、返してあげることは出来ないよ。
 小さな声で呟いたクレタの言葉に、ようやく繰り返すことを止めた尾根。
 両腕は押さえたまま、目を泳がせて言葉を待つ。
 聞きたいのに聞きたくない。そんな気持ちなんだ、きっと。
 少し驚きはしたけれど、気持ち悪いだなんて……そんなことは思わないよ。
 理解できない気持ちじゃないから。その気持ち。
 聞きたいから訊いたはずなのに、いざ尋ねると怖くなる。
 聞きたくないって、心のどこかで思ってしまう。
 だから目を逸らす。出来うることならば、耳も塞いでしまいたい。
 きっと、きみはそう思ってる。……僕も、そうだった。
 きみの目、今、泳がせているきみの目は、似てる。
 愛していると告げ、腕を掴んだヒヨリの瞳に、とてもよく似ている。
 でも、一つだけ。決定的に異なるところがあるんだ。
 交わらない視線。
 想いを告げた後、僕はきみと視線を交えていない。
 変わらずずっと、こうしてジッと見上げているけれど交わらない。
 目を逸らすことを、ヒヨリはしなかった。
 あの日、目を逸らしたのは僕のほうだった。
 きっと今、きみは怖いんだろう。こうして見つめられていることが。
 あの日の僕と同じように。
 尾根が発した想いを理解できないわけではないけれど、同調は出来ない。
 クレタは、ここまで強く想うことを理解できずにいる。また、その経験もない。
 大切だと思い実感することはあっても、欲したりはしない。
 いや、しないのではなく、出来ないのだ。
 与えられる愛情しか知らないから、欲することが出来ない。
 少しだけ、羨ましくも思う。誰かを心から欲する気持ちを抱くことを。
 自分にはない気持ち、知りえない気持ちだからこそ、クレタは実感する。
 自分と尾根が、まったくの別人、別物であることを、切々と。
 同時に違和感を覚える。覚えたそれは、いつまでたっても払えない。
 告げた想いは、本心なのだろうか。
 いつから、そう思うようになった?
 僕のことを欲しいと願うようになった?
 はっきりと言える? 明確な時期を、きみは言える?
 きっと……出来ないはずだ。本心じゃないから。
 僕じゃなく、木ノ下さんや斉賀に同じことをしても、きみは、そうして目を逸らすだろうか。
 聞きたくないって……きっと、思わないはずだ。
 逆に、聞きたくて仕方なくて、何度も尋ねるんじゃないかな。
 目を逸らすことなく、相手の目を見て繰り返すんじゃないかな。
 きみのことを、変な人だなんて言うつもりはないけれど、少しおかしいなと思うんだ。
 きみだけじゃなく、他の皆も、近頃……妙な言動が多いような気がするんだ。
 話す分には普通だし、いつもどおりなんだけれど、どこか妙で。
 焦っているような、そう、時間に追われているような……そんな風に見えるんだ。
 僕が真実を知る度に、この空間自体が歪んでいくような、そんな気がするんだ。
 ねぇ、尾根。きみも、その不思議な雰囲気に流されてないかな。引き摺られてないかな。
 思い出して。ちゃんと、見てあげて。自分のこと。
 木ノ下さんと斉賀が大好きだよね、きみは。
 誰よりも何よりも二人のことを思ってるはずだよね。
 きみが欲しいのは、僕じゃない。
 見誤っているんだ。きみが本当に欲しいのは、僕じゃない。
 木ノ下さんと話しているときの尾根は、凄く明るくて素直。
 斉賀と話しているときの尾根は、凄く楽しそうで可愛い。
 そんなきみを見る度、僕は心の中で微笑んできたんだ。
 他人事なのに、自分のことのように嬉しい気持ちになったんだよ。
 きみが二人を想う姿は、僕を幸せな気持ちにさせるんだ。
 きっと、自分だけではなく他の皆も、そう思っているはずだ。
 思い出せば、今自分がしている行為に疑問を抱くはずだ。
 もしもここで想いに応えるような答えを貰えたとしても、嬉しくなんてないはずだ。
 本当に欲しいものじゃないんだから。まがいものなんだから。錯覚なんだから。
 見つめたまま繰り返す内、尾根は目を泳がせることを止め、スッとクレタから離れた。
 胡坐をかいて項垂れる尾根の背中は、しょんぼりしているように見えた。
 身体を起こしたクレタは淡く笑い、尾根の背中をポンと叩いて促す。
 こんなところでボーッとしてて良いの? 二人のところに行かなくて良いの?
 きっと待ってるよ。今日は、ウルサイのが来ないなぁって言いながら。
「ごめんねっ。ありがと」
 背中を向けたまま立ち上がり、そう告げて尾根は駆け出した。
 向かう先は、二人のところ。大好きな人のところ。

 *

「欲張りな男だと、そう思うか?」
 いいえ。そんなこと、微塵も思いません。
 あなたが、思うが侭に求めてくることで、僕は満たされる。
 僕が、あなたに差し上げられるものなんて、たかが知れています。
 この身体と心。僕は、それしか持ち合わせていませんから。
 声にして発することはしないけれど、僕は願っています。心のどこかで。
 あなたが、もっと欲してくれないかと。もっと、貪欲に欲してくれないかと。
 無理矢理でも構わない。痛くても辛くても構わない。奪って下さい。何もかも。
 口に出来ないが故、余計に想いは募ります。
 どうすれば良いのか、わからなくなっているんです。
 僕を見下ろすあなたの目が、あまりにも綺麗で。
 幸せだと感じるけれど、満たされるけれど。
 出来うることならば、叶うのならば、もっと、もっと。
 塞がれた口、掌の中でなら。
 あなたの掌の中でなら、想いを吐いても良いですか。

「…………」
 どうして今、このタイミングで思い返してしまったのだろう。
 ソファに凭れ、クレタは溜息を落とした。鮮明に残る記憶。
 同じような場景、状態。それなのに、違った。
 先程は何も感じなかったのに、平然としていられたのに。
 あの日の自分は、惑っていたではないか。幸福の中、酔いしれて。
 異なる想い、自分の有様。クレタは、ゆっくりと瞬きしながら唇に触れた。
 思い返すだけに留まらず、今すぐ立ち上がって駆け出して。
 時の狭間へ、あなたがいる場所へ向かいたいと思っている。
 偉そうに諭したくせに……僕は、何なんだろう。
 誰かを心から欲する気持ち。僕は、それを知らない。知らない……んだよね?
 知らない……はずだ。 僕は……どうしたいんだろう。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / 尾根・弘一 / ♂ / 16歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『 依存ショウ 』への御参加、ありがとうございます。
 他人を諭し、己を知る。諭し諭され。愛のカタチ。
 いつしか開幕している、依存ショー。主役は自分。
 尾根の依存も当てはまるのですが、クレタくんの依存も当てはまる。
 依存する相手は違えど。演じるショーは同じもの。
 そんな、シナリオタイトルに仕掛けたトリックのタネ明かし。
 以上です。不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.05 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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