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<東京怪談・PCゲームノベル>


 映画館に行こう

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 誘ってみたものの、どうしよう。
 何となく、久しぶりに行きたくなったから誘ったんだけど。
 特に目当てがあるわけじゃないんだよね。困ったな。
 今、どんなのやってるんだろう。全然わかんないけど、えぇと……。
 自室にあるパソコンを使って調べてみる。
 検索枠に打ち込む文字は『 映画 』
 映画 の検索結果 約 214,000,000 件中 1-10件目(0.05秒)
「…………」
 ヒットしすぎだ。全部なんて見ていられない。
 どうすれば良いだろうかと考えつつ、あれこれワードを追加して再検索。
 次第にヒット件数は少なくなっていき、ホッと一安心。
 眺めるモニター。スクロール、停止、スクロール、停止。時々クリック。
 そうして様々なサイトを見ている内、とある映画の情報が目に留まった。
 これ、面白そうだけど。実際のところ、どうなんだろう。
 レビューを掲載しているサイトはないだろうか。えぇと……。

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「クレタ。まだ行かないの?」
「! あっ……うん。行こうか」
「ん? 何か用事があるなら済ませてからで良いよ」
「ううん……。いいよ、大丈夫」
「そう?」
「うん」
 笑ってはいるものの、内心は焦っている。どうしよう。
 何を観るか決めていないのに誘うなんて、あんまりだよね。
 映画館に行って、どれにしようか? だなんて、あんまりだよね。
 ヒヨリが言ってたんだ。誘う時は、場所や目的を明確にしてからって。
 まぁ、ヒヨリが言っていたのは、あくまでも女の子を『デート』に誘う場合のアドバイスだけれど……。
 デートとは少し違うにしろ、誘ったのは僕だ。曖昧なまま出掛けるなんて、あんまりだよね。
 せっかく一緒に出掛けるんだから、楽しくないと。オネが「つまんない」とか言ったら、どうしよう……。
 あれこれと考えながらも、オネと共に外界:東京にある映画館へと赴くクレタ。
 辛うじて、映画館そのものは絞り込めた。小さくて質素な映画館。雰囲気が気に入った。
 けれど、そこで今、何が上映されているのかは理解らない。雰囲気を重視しすぎた……。
 順序を間違えた。まず先に映画を絞ってから映画館、だった。間違った。
 どうしたものかと考えている内に、二人は映画館に到着。
 クロノクロイツを出てから、ずっと思い詰めたような表情のクレタ。
 その横顔を見ながら、オネはキョトンとしていた。
 映画を観に行かないかと誘われて、オネは、すぐに首を縦に振った。
 遠い昔、一度だけヒヨリ・ナナセと一緒に観に行ったことがある。
 あれから、どのくらいの時間が経過したか理解らないけれど、
 こうして誰かと映画を観に行くなんて、本当に久しぶりだ。
 隣を歩くオネが楽しそうにしている様を横目に見る度、クレタは焦る。
「何ていう映画、観るの?」
 映画の上映時間が記されたボードを見やって尋ねたオネ。
 クレタは、少々焦りながらも隣に並んでボードを見やる。
「えと……。……あっ」
「ん?」
「あ、ううん。何でもない……」
「うん? どれ観るの?」
 何という偶然。というか、ナイスな状況か。
 赴いた映画館のボード、上映リストに、先程ネットで調べかけていた映画があるではないか。
 タイトルは『intercross』 作品のチャッチフレーズは『天使と悪魔』
 間違いない。先程、目に留まった、あの映画だ。クレタは頷き、指で示して言った。
「これ。これ観よう……」
「うん。いいよ。面白いのかな、それ」
「僕も理解んないんだ。ただ、興味があって……」
「ふぅん。じゃ、観てみようよ」
「うん」

 目的の映画が上映されるまでの15分ほど。
 クレタとオネは、映画館内部にある小さなカフェでカフェモカを飲みつつ御喋り。
 どうして僕を誘ったの? というオネの質問に、何と返すべきか、クレタは頭を悩ませていた。
 何でか……って言われても、ちょっと困る……かな。うーん、どうしてだろう。
 一番、趣味というか感覚が近いから……かな。
 ヒヨリは、怖い映画しか観ないし、ナナセは、ラブロマンスしか観ないし……。
 感覚が違うと、一緒には楽しめないような気がしたから……かな。うーん、ちょっと違うかな。
 あれこれ考えている内に、上映時間になってしまった。
 空になったカップを下げつつ、オネは苦笑してクレタの服裾をツイツイと引っ張る。
「もういいよ、クレタ。始まっちゃうから、行こ」
「あ。……うん」

 外観写真の雰囲気でパッと決めてしまったけれど、中もイメージどおりだった。
 クレタとオネ以外には、数名しか客がいない。経営は大丈夫なのかと不安も覚えるけれど。
 二人は、真ん中の席へと並んで腰を下ろす。いつのまに買ったのか、オネの手にはポップコーンが。
(意外と、ちゃっかりしてるんだよね……。オネって……)
 サクサクとポップコーンを頬張るオネに淡く笑うクレタ。
 やがて照明が落ち、静寂の中、映画が始まった。
 intercross は、無名の監督が手掛けたアクション映画だ。
 監督が無名なだけに、キャストも無名な人物ばかり。
 映画という作品媒体上、役者の知名度は集客に大きく関与する。
 前評判もさることながら、上映後の評判も微妙なところ。
 微妙というよりは、誰も観ないが故に、レビューが出ないという状態だ。
 クレタはレビューがないかと調べようとしていたが、時間があっても、結局発見できなかったことだろう。
 物語の主人公は、男二人。揃って刑事という設定だ。
 二人には、それぞれ愛称がある。
 一人は『悪魔』と称され、情け容赦なく犯人を追い詰めて葬る男。
 もう一方は『天使』と称され、罪を犯した犯人さえも慈愛で包み込まんとする男。
 物語は、小さなバーで、天使と悪魔が顔を合わせるところから始まる。
 街に暗躍するマフィアの影。大きくなるばかりの、その影に人々は震えていた。
 生まれ育った街を愛しく、母のように思う気持ちは同じ。
 天使と悪魔は手を組み、チカラを合わせて、マフィア壊滅を志す。
 志は同じであれど、二人のスタイルは真逆だ。
 悪魔と称される意味を、天使は目耳で理解していく。
 正義の名の下に動いているはずなのに、
 どうして、こんなにも『悲鳴』や『命乞い』を聞く羽目になるのか。
 標的であるマフィアの尻尾を掴もうと動く中、天使は悪魔のスタイルに顔を顰めるばかりだった。
 相容れぬ者が組んでしまうと、何もかもが半減してしまうのではなかろうか。
 その思いを抱きだした天使に、悪魔は言った。
 俺のやり方が気にいらないのなら、今すぐ消えろ、と。
 その言葉を聞いた瞬間。天使の頭に『責任』 の二文字が浮かぶ。
 己のやり方こそが全て。そう思っている、この男に教えねばなるまい。
 暴力だけでは解決出来ぬことがあるのだと、教えてやらねばなるまい。
 教えてやれるのは、自分しかいない。
 ここで離れてしまえば、彼はこのまま突き進んでしまう。
 己こそが全てだと、そう錯覚したまま、周りを見やることなく突き進んでしまう。
 出会ったことも、組んだことも、何かの縁。天使は、その瞬間、悪魔の行動から目を背けることを止めた。
 愛を持って動くこと。天使が諭し告げる度に、悪魔は「くだらない」と唾を吐いた。
 だが、そうして想いを確実に交錯させることで、二人の間に揺るがぬ絆が生まれる。
 どちらが正しく、どちらが過ちか。そんなことは、どうでもいい。
 それは違うのではないか、そう思ったら腕を掴んで声を掛ければ良いだけ。
 天使と悪魔は、それぞれのスタイルを貫いた。そして、互いのスタイルに共感し合う。
 重なり合う心が成す行動には芯があり、もはや誰にも止められない。
 二人は互いに成長を重ねながら、やがて、目的であるマフィア壊滅任務を全うした。
 数え切れぬほどの人々を恐怖から救った。二人は英雄として、名誉賞賛を浴びる。
 確かな経験と、それに伴った地位を手に入れたとき、
 天使と悪魔は、信頼のおける『相棒』として互いを認めた。

 二人が英雄の肩書きを手に入れて、三年後―

 他愛ない話をしながら、缶コーヒー片手に歩く天使と悪魔。
 お前と、こんな話が出来るようになるだなんて、と互いに笑い合う。
 何とも和やかな雰囲気。その二人の前に、見知らぬ少女が現れた。
 泣き腫らした赤い目を見て、天使と悪魔は少女に歩み寄って問う。
 ― 迷子か?
 微笑み尋ねた天使と悪魔は、次の瞬間、揃って地に崩れた。
 痛む胸に触れれば、掌は鮮やかな紅に染まっている。
 何が起きたのか、二人は理解できなかった。
 ただ、ひとつだけ。死ぬんだと、その事実だけは把握出来た。
 重なり合うようにして地に伏せる天使と悪魔。
 二人は残された命で必死に足掻き、身を翻して空を仰ぐ。
 泣き腫らした瞳をゴシゴシと擦り、ニヤリと笑う少女。
 少女の手には、あのマフィアの刻印が刻まれた銃。
 ― どんなに、いけないことをしていても。
 ― どんなに、悪い人だったとしても。
 ― あたしにとっては、世界にたった一人のパパだったのよ。
 取り残されて孤独と戦う暗躍の残り子が発した想い。
 天使と悪魔が、最後に耳にした言葉。
 何もかもを忘却させるかのように、疎ましいほど、青い空。
 天使と悪魔が、最後に目にした光景。
 重なり合う想いは、そのままに。
 英雄を弔う、憎しみの歌。

 *

「…………」
「…………」
 スタッフロールが流れる中、クレタとオネは絶句状態だった。
 まさか、こんな終わり方をするなんて。序盤の賑やかな雰囲気からは想像できない結末だった。
 作品の完成度は高い。本当に無名の監督が手掛けたものなのかと疑ってしまうほどに。
 キャストらの演技も見事だった。どんどん、引き込んでいく魅力的なチャスト揃い。
 主役の二人以外、エキストラさえも、熱意ある演技で、記憶に残る。
 けれど、このポッカリと心に穴が開いたような感覚は、どうしてくれようか。
 俯き、クレタは小さな溜息を落とす。
 悲しいというよりは……。残念な気持ち……。
 英雄である二人も、英雄を殺めた少女も、救われないのではないか。
 唯一、救われるのは……街に暮らす人々かな……。
 でも、彼等も犠牲の上に幸せを感じるんだ。結局、救われない……。
 所々、自分と重なってハッとするシーンもあって、すごく入り込んでいたから、余計に切ない。
 ごめんね、オネ。まさか、こんな結末だったなんて、僕、全然知らなかったんだ。
 ただ、天使と悪魔っていうのが、気になるキーワードで……。
 謝るクレタに微笑みかけながら、オネは歩く。
 いつしか、クレタとオネは手を繋ぎ歩いていた。
 心に開いた穴を、互いに埋め合うかのように。
 この映画を、二人で一緒に観たこと。
 同じ存在である二人が一緒に観たことも、何かの縁だろうか。
「おなか空いたね」
「……そうだね。何か食べて帰る?」
「うん。何が良い?」
「えとね……」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / オネ / ♂ / 13歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『 映画館に行こう 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.10 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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