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<東京怪談・PCゲームノベル>


 シンクロ

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「随分と自信があるみたいだね?」
「自信を持つのは、良いことだよね」
「そうだね。でもさ、僕たちに敵うとは思えないな」
「うん。無理だよ。そんなの無理だよ」
「圧勝じゃ、つまんないよね」
「うん。つまんない」
「じゃあ、こういうのは、どうかな」
「何?」
「二人に選ばせてあげるの」
「何で勝負するか、ってことを?」
「そうそう。どうかな?」
「うん。良いんじゃない。楽しそう」
「と、いうわけで。どうする?」
「何して遊ぶ?」

 満面の笑みを浮かべて、セラとシラが尋ねた。

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「え……と……」
 困り笑顔でチラリとオネを見やるクレタ。
 どうすれば良いかな? といった、その眼差しにオネはクスクス笑う。
 何でも良いんじゃないかな。楽しければ、セラもシラも満足するだろうし。
 でも……この二人が『遊ぼう』って言うのは『勝負しよう』ってことだからねぇ……。
 うんうん、と頷くオネを見ながら、クレタは必死に考えた。何をして遊ぼうか。
 しばらく考えた後、クレタの頭にポンと浮かんだ遊び。
 それは、エアホッケーだった。
 別に得意というわけではないけれど、幼い頃、研究施設でよく遊んだものだ。
 対戦相手は、いつもコンピューターで、遊ぶというよりは調査だったけれど。
 エアホッケーで遊ぼう、と呟いたクレタに、セラとシラは「いいよ」と声を揃えて即答した。
 そして、すぐさま必要な道具を出現させる。目の前にドーンと現れた黒いエアホッケーの台。
 台の上には、白いマレットが4人分と、パックが一つ。
 どこから出したんだろう……というか、何であるんだろう……。
 不思議そうに首を傾げるクレタに、セラとシラが笑って言った。
「ヒヨリが買ってくれたんだよ」
「ボクらに勝てた試しはないけどね!」
 エアホッケーセットは、ヒヨリが購入して二人にプレゼントしたものだそうだ。
 勝負の為に、というよりは、遊んでくれとウルサイ双子を大人しくさせる為に買った模様。
 ヒヨリやナナセ、他の皆も、こうして二人に捕まって遊んでるんだね……。
 マレットを手にしつつ、クレタは淡く微笑んだ。
 ゲームは、ダブルスで実施。
 セラ・シラのペアと、クレタ・オネのペア。
 位置について、オネはニコニコと微笑みながら屈伸運動を始めた。
「よぅし。やるからには勝たなきゃね」
「あっはは! ボクらに勝てると思ってるの!? どーするぅ、シラ」
「良いんじゃない。結果は、すぐに出るよ」
 決意を口にした瞬間に、足払いをかけられたような感覚。
 オネは、マレットを持って構えながら、逆サイドにいる二人を見やって言い放つ。
「二人の悔しがる顔、早く見たいな。僕」
 その言葉は、宣戦布告だ。お前たちは負ける、と言っているようなものだ。
 オネが発した言葉に、セラとシラは笑いつつも、揃って眉を寄せた。
 雰囲気に気圧されているクレタ。何だろう……この熱いムードは……。
 僕は……勝ち負けに執着しないっていうか、出来ないっていうか……。
 ちょっとでも楽しく、有意義な時間を過ごせれば良いって思ってるんだけど……。
 ちょっと、ビックリ……。オネ、そんなイキイキした顔するんだもん……。
 どうして、そんなに盛り上がれるんだろう……。凄いな……ちょっとだけ、尊敬するよ。
 ペアを組んで遊ぶっていうか……勝負するからには、僕も引いてちゃ駄目……だよね。
 セラとシラにも悪いし……うん、僕も気合を入れて、真剣勝負で……。
「よぅし。頑張ろうね、クレタ」
 ポン、と背中を叩いて言ったオネ。
 クレタは躊躇いがちに小さな声で言った。
「うん。……が、頑張る、ぞー……」

 プシュウと音が鳴り、いざ、プレイ開始。
 ジャンケンで決めた結果、初発はセラ・シラペアから。
 不敵な笑みを浮かべ、セラがパックを踊らせる。
 様子見の用途を兼ねているのだろう。初発は軽めのストレート、真っ直ぐに伸びる。
 あっさりとゴールを決めさせるわけにはいかない。
 クレタはパックの動きを見極め、ゴールギリギリで弾いた。
 打ち返すだけではなく、ちゃんと次の攻撃に繋がるように。
 弾かれたパックは、まだクレタ達のエリアにある。
 オネは「とぅっ」と妙な声を放ちながら、勢い良くパックを打ち返し放つ。
 放たれたパックは、いとも簡単にゴールへと吸い込まれた。
 ピロリーンと音がなり、スコアが0−1に。
 取り出し口からパックを取って、構えながらセラは笑った。
「ちょっとビックリ〜。意外とやるね、二人」
「最初から本気でいった方が良いかもね」
「だね。ボクも、そう思った。んじゃ、いっくよ〜」
「うん。いつでも」
 二人の目付きが変わった。手加減する必要がないと判断したが故に、とても楽しそうだ。
 本気になったセラとシラ。二人の動きは、見事なものだ。
 パートナーと重なり合うようにして動き、敵を翻弄していく。
 その不思議な動きに気を取られ、クレタとオネは戸惑ってしまう。
 向かってくるパックを、必死に追いかけるばかり。攻めれない。
「ちょ、待っ……。わぁ、ど、どうする、クレタ」
 スコアは相変わらず0−1のままだが、いつ引っくり返ってもおかしくない。
 いや、引っくり返ったら最期。そのまま、次々とキメられてしまうだろう。
 ゴールを死守しながら、どうしようとたじろぐオネ。
 隣で、同じようにゴールを守りながら、クレタはジッと観察していた。
 そして、二人の見事な動きに、欠点を見つける。
 確かに素晴らしい動きだ。重なり合うようにして、同じ方向へシンクロしている。
 だが、それこそが欠点になりうるのではないか。
 あまりにも動きが同じ。重なり合い過ぎている。
 それは即ち、攻撃時には攻撃に専念、防御時には防御に専念。
 そうならざるを得ないスタイルなのだ。
 二人でチカラを合わせる。呼吸を重ねる。
 見事なシンクロだけれど……それを、乱してしまえば良いのではないか。
 一つの行為を二人で行えば、当然威力は増す。
 けれど、その分、おろそかになってしまうのだ。
 攻撃時ならば、防御が。防御時ならば、攻撃が。
 二人でチカラを合わせて戦うことも素敵だけれど、
 役割をきっちりと分担して戦うのも、また素敵なシンクロといえる。
 クレタはオネを見やり、小さく頷くと、向かってくるパックを妙な方向へ弾いた。
 外壁に当たり、ジグザグと生き物のように活発に動くパック。
 単調な動きから変わったことで、少し焦ったのだろう。
 セラとシラは、違う方向に動いてしまった。
「あっ。ちょ、何してんのシラ。そっちじゃないって」
「違うのはセラだよ。こっちだってば」
 互いに文句を言い合いながらも、パックを打ち返す。
 生じた隙。今だ。一気に畳み掛けてしまえ。
 クレタは、返ってきたパックを、また妙な方向へと弾く。
 ジグザグに動くパック、その読めない動きにセラとシラは翻弄されてしまう。
 落ち着いて、ちゃんとパックの動きを読めば慌てることもないだろうに。
 立て続けに、慌てて違う方向に動いてしまうことが重なり、戸惑いは増すばかりだ。
 ただ二人を翻弄することを目的として、クレタはパックを踊らせているわけではない。
 二人が打ち返す、その軌道を計算しながら、冷静に放っている。
 ラリーが続く中、オネはクレタの作戦を理解して、ニコリと微笑んだ。
 クレタの読みどおりに返ってくるパック。
 そこで、オネが、渾身のチカラを込めて、ショット。
 乱れたままのシンクロでは、その攻撃を阻むことが出来ない。
 スコアは、0−2になった。

 二人の作戦は、そのまま見事に持続した。
 大した作戦でも攻撃でもないのに、どうして対処出来ないのか。
 理解出来ぬままのセラとシラは、ハァハァと息を切らす。
 思い通りにいかないがゆえに、体力の消耗も倍増していたのだろう。
 動きの予測、打ち方の工夫。トリッキーかつ計算されたプレイで、クレタとオネは、敵を翻弄し続けた。
 結果、勝者はクレタ・オネペア。圧倒的な点差で見事な勝利を収めた。
 セラ・シラペアのスコアは、ずっと変わらず『0』のままだった。
「やったぁ。勝ったぁ」
 ピョンと飛び跳ねて喜びを露わにするオネ。
 いつもと少し違う、元気いっぱいのオネに、クレタはクスクス笑う。
 頑張るぞって言ったものの、どうするべきかって悩んでたんだ……。
 頑張るっていう、そういう気持ちが、僕は未だに理解出来ずにいたから。
 でも、何となく……どういうことなのか、理解ったような気がする。 
 オネと一緒に、チカラを、息を合わせて勝ってみせる。
 負けるもんか、って……。いつしか、そう思いながらプレイしてたよ。
 勝ち負けなんか、どうでも良くて。拘る必要ないんだって思ってたけれど……。
 負けたくないなって思ってた。負けたら、悔しいだろうから。
 悔しい思いはしたくないなって、そう思うようになってたんだ。
 これ、負けず嫌いとは少し違うよね……?
 勝ちたいって思うのは、きっと当然のことなんだよね……?
 面白いかも……。勝負って……こういう気持ちで望むことなんだ……。
 勝利したクレタとオネは、とても嬉しそうに微笑んでいるが、
 負けたセラとシラは、ガックリと肩を落としている。
「負けた……。ボクらが負けるなんて、おかしいよ」
「セラが悪いんだよ。変な方向にばっか動くから」
「何言ってんのっ? ボクじゃないよ、シラの動きが変だったんだよ」
 言い合い衝突する双子。その姿を見て、クレタとオネは微笑んだ。
 大切なことに気付くこと、負けた原因を理解すること。
 それが出来ないうちは、負ける気がしない。
 クレタとオネは顔を見合わせて頷き、言い合う双子に声を揃えて提案した。
「もう一回、勝負する……?」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / オネ / ♂ / 13歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / セラ / ♂ / 16歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / シラ / ♂ / 16歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ『 シンクロ 』への御参加、ありがとうございます。
 「が、頑張る、ぞー…」が可愛すぎです。
 確信犯ですよね? コラッ!(笑) 参りました。降参です。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.11 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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