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<東京怪談・PCゲームノベル>


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 アナタが気持ち良いか良くないか、そんなことは、どうでもいい。
 自分の為に。自分が自分で在り続ける為に。アナタを利用するだけ。
 それなのに、どうしてかな。どうして、こんなに切ないのかな。
 ねぇ、お願いだから……。 こっち、見ないで。
 目は閉じていて。そして、必要以上に動かないで。
 アナタはただ、ジッとしていてくれれば良い。
 ネームコールも、愛の言葉も、何も要らない。
 ねぇ、お願いだから……。 こっち、見ないで。

 はっきりと覚えているのは、アナタの肌に酔いしれていた感覚。
 このまま、時が止まっても構わないと思えるほどの幸福感。
 絶頂の兆し。次第に近付いてくる、アナタと一つになる瞬間。
 あの日、初めて告げた言葉。初めて告げた想い。

 愛 し て い ま す

 響く銃声、シーツを染める、アナタの鮮血。
 繋がったまま冷たくなっていくアナタの頬を撫でて……。笑う。
 満たされているはずなのに。目的を果たすことが出来たのに。
 それなのに、どうしてかな。どうして、こんなに切ないのかな?
 ねぇ、お願いだから……。 こっち、見て。

 一体、何が起きたのか理解らなかった。
 覚えていないだなんて、そんな言い訳……。許されるはずもないのに。

 *

「はぁ。何とか落ち着いたな。良かった良かった」
 ワインを飲みながら満足気に笑うヒヨリ。
 少し酔っているのかな。気持ち良さそうな顔をしてる。
 漆黒の屋敷、その内部で執り行われるパーティ。
 今日は、記念日だもんね。みんな、楽しそうに笑ってる。
 賑やかな雰囲気に淡く微笑みながら、デザートを一口。
 相変わらずの腕前だ。ハルカが作ったものは、何でも美味しい。
 幸せな気分に浸りつつ、騒ぐ仲間を見やっていると。
「あ、そうだ」
 隣に座るヒヨリが、グラスを置いて顔を覗き込む。
「?」
 モグモグしながら首を傾げると、ヒヨリはニコッと笑って言った。
 これからも宜しく、なんて月並みな挨拶は置いといて、だ。
 大切なことを忘れてた。名前だよ、名前。この屋敷の名前。
 そうだなぁ、これからやっていくことを考慮したら、
 屋敷じゃなくて『ギルド』とか、そんな感じで呼んだほうが良いかもな。
 で。このギルドの名前。
 俺、そういうの考えるの苦手だから、お前に任せようと思う。
「何て名前にする?」
 微笑んで尋ねるヒヨリ。デザートを飲み込み、苦笑を浮かべてしまう。
 そんな大切なこと、決めるの? 決めちゃって良いの?
 何だかプレッシャーなんだけど。……どうしようかな。
 どんな名前が良いんだろう。えぇと、えぇと……。
「うーん……」

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 首を傾げながら、クレタは辺りを見回した。
 出来立てホヤホヤのギルド本部。オシャレな空間。
 そこに溢れる、仲間達の弾けんばかりの笑顔。
 普段から元気で賑やかな尾根やセラ・シラ、ヨハネは、相変わらず大騒ぎ。
 オネと斉賀は、料理を抓みながらチェス勝負。静かに白熱しているようだ。
 普段から落ち着いていて大人なワンやハルカは、相変わらず優雅に。
 ナナセと木ノ下は、食事の補充など、甲斐甲斐しく世話を焼きながら。
 キジルは、酔い潰れたベルーダの介抱に全力を注いでいる。
 ジャッジは、会場の隅に。その隣には……Jの姿もある。
 見慣れた姿、聞き慣れた声、居心地の良い空間。
 仲間の笑顔を見ている内、何とも言えぬ幸せな気分に浸る。
 笑い声が響く会場、中央にあるソファに並んで座るクレタとヒヨリ。
 ヒヨリから任された、プレッシャーな決断。
 このギルドに、名前を。
 まぁ、確かに、ヒヨリは『名付け』の類が苦手だ。
 オネが、つい最近、どこからか拾って帰ってきた犬に『ぼっこり』という名前を付けた。
 小さくて可愛いトイプードルなのに、ぼっこり。まぁ、ある意味可愛いかもしれないけれど。
 無論、オネは、その名前に大反対した。けれど、犬が気に入ってしまったようで。
 ぼっこり、と呼ばないと寄ってこない状況が続いている。もはや、どうしようもなさそうだ。
 これからは、この空間、ギルドが本拠地になる。何をするにも、ここが拠点。
 それ故に、おかしな名前を付けられては困る。愛着は湧くかもしれないけれど、
 外で説明する際に変な名前だったら、ちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
 そういう意味でも、名付けは重要な役割だ。クレタは、しばらく考えた。
 どうして僕なんだろう……。ナナセとか、こういうの得意だと思うんだけどな……。
 あ、キジルとかも、こういうの好きそうだよね……。ヨハネとかも……。
 笑顔でパーティを満喫する仲間達を見やりながら、あれこれ考える。
 そうして全員を見やっている内に、クレタの頭に、とある言葉が浮かんできた。
 賑やかな会場。溢れる笑顔。重なり合う笑い声。
 この居心地の良い空間は、まるで……曲のようだ。
 愛のカタチ。それを鮮明に理解した日。
 時計台の鐘が鳴り響いて、再び時が巡るようになったクロノクロイツ。
 数日前の、その瞬間から、演奏は始まった。
 全員の声が、心が重なり合う。
 例え遠く離れていても、それぞれ別のことをしていても。
 見事な演奏を心がけている者は、一人もいない。
 それこそ、好き勝手に別々のメロディを口ずさんでいる。
 けれど、不思議なことに、そのメロディが見事に重なり合う。
 重なり合って、綺麗な旋律を生み出す。
 皆もきっと、気付いているはず。誰も口にはしないけれど。
 素晴らしい演奏が出来ている、その歓びで心は満たされているはずだ。
 この気持ち。大切だと思う。自然体で奏でる旋律。この先も、ずっと……。
「アル……」
「ん?」
「アルペジオ、って……どうかな……」
「お。いいね。んじゃ、それに決定」
「え……」
「それが良いって、思ったんだろ?」
「うん……」
「じゃあ、決まり。よし、では、早速……」
 ニコニコと微笑みながら、懐から黒いカードを取り出したヒヨリ。
 右手には、白いアイスピックのようなものが握られている。
 カードに何かを刻み始めたヒヨリ。
 覗き込めば、ヒヨリが刻んでいるのは、先程クレタが提案した『名前』だった。
 そんなにアッサリと決めてしまって良いものなの……?
 この先、長くお世話になる名前だと思うんだ。何をするにしても。
 良いのかな……と苦笑を浮かべるクレタだが、ヒヨリの手指は止まらない。
「出来た。じゃあ、はい、これ。クレタの分ね」
「……うん。ありがとう」
 渡されたカードを受け取った。黒く薄いカード。
 刻まれているのは、ギルドの名前『アルペジオ』と、自分の名前。
 それから……よく理解らない、暗号のような英数字。
 ギルドに所属するメンバー。その証として与えられたカード。
 刻まれた自分の名前が、何だか妙に、くすぐったくて。
 クレタはカードを胸に押し当て、目を伏せて淡く微笑んだ。
 仲間として、この場所に存在している事実。
 みんなと手を取り、歩いていける、その事実が嬉しくて。
 幸せそうなクレタを見て、ヒヨリも微笑む。
 何つぅか、お前の笑顔って……威力が半端ないよなぁ。
 元気にさせるっていうか、幸せな気持ちにさせるっていうか。
 誰にでも出来ることじゃないよ、それって。
 ベルーダが笑っても、幸せだなぁ、なんて思わないもん、俺。
 うるせぇなぁ、とは思うけど。お前の笑顔は特別。っていうか、格別?
 この先、色々と大変かもしれないけれど……一緒に頑張っていこうな。
 何かあったら、すぐ俺に話してくれ。一人で悩んだりしないこと。
 いつでも飛んでいくから。お前の思い詰めた表情なんて、もう二度と見たくないから。
 そう告げながら、クレタの頭を撫でようと手を伸ばしたヒヨリ。
 ところが、その手がパシンと払われてしまう。
「痛っ」
 クレタの頭に伸びてきた手を払ったのは、Jだった。
 肩を揺らして笑いつつ、Jはクレタの隣に腰を下ろして警告を飛ばす。
「今の、宣戦布告かい? ヒヨリ」
「……お前が見てないとこなら、良いってことか?」
「駄目に決まってるでしょ。何を今更」
「はいはい。すみませんでした〜」
 苦笑しながら立ち上がり、Jの膝元へ黒いカードを投げやり去って行くヒヨリ。
 少々手荒に渡されたカードを手に取り、刻まれた文字を確認してJは微笑んだ。
 へぇ、なるほど。良いね、この名前。あいつが、こんな良い名前をつけるはずないな。
 あいつのネーミングセンスのなさは、驚異的だからね。鳥肌が立つよ。悪い意味で。
「これ、キミが付けた名前?」
「うん……。変……?」
「いや。良いと思うよ。俺は好き」
「そっか……。良かった」
 皆も気に入ってくれれば良いけど……。あなたが気に入ってくれたなら、それで良いかも……。
 嬉しそうに微笑みながら、カードを懐にしまうクレタ。
 その可愛い横顔に、いてもたってもいられず、Jはギュッとクレタを抱きしめた。
 こうして、同じ空間に生きていられること。これからも、ずっと傍にいられること。
 他の奴等はオマケ……とまではいかないけれど、俺の中心は、やっぱりキミ。
 キミと、こうして一緒にいられること。幸せに思うよ。
 このまま、時が止まってしまえば良いだなんて。
 せっかく動き出した時間を侮辱するような行為かな。
 抱き合う体勢から、寄り添う体勢へ。
 Jの肩に頭を預けて目を伏せるクレタ。
 預けられた頭に手を添えて、同じように目を伏せるJ。
 笑い声が響く、賑やかな空間。ここだけ、時間が止まっているかのよう。
 とても幸せな気分に浸っていたのだけれど。
 そのまま、酔いしれていることは、許されなかった。
 サクッ、と。二人の頭上にある壁に刺さった……ダーツの黒い矢。
 苦笑しながら、刺さった矢を引き抜くクレタ。
 矢を投げた犯人である尾根が、笑いながら手招きする。
「無粋だね」
「ふふ……。ねぇ、J」
「ん?」
「ダーツ……出来る?」
「うん。出来るっていうか、得意」
「僕……わからないから、教えて……?」
「オーケー。じゃあ、行こうか。早く行かないと、また矢が飛んでくるからね」
「ふふ。……うん」

 美味しい料理とワイン。
 笑顔溢れる、新しい空間。
 舞台は変われど、傍にいる仲間は、いつもの面子。
 繋いだ手を離さぬよう、皆で一緒に、歩いて行こう。
 ずっとずっと、このまま。幸せな気持ちに酔いしれていたい。
 クレタは笑う。誰よりも幸せそうに。クレタは笑う。
 今朝見た妙な夢に覚えた不安を、払うかのように。

 *

 アナタが気持ち良いか良くないか、そんなことは、どうでもいい。
 自分の為に。自分が自分で在り続ける為に。アナタを利用するだけ。
 それなのに、どうしてかな。どうして、こんなに切ないのかな。
 ねぇ、お願いだから……。 こっち、見ないで。
 目は閉じていて。そして、必要以上に動かないで。
 アナタはただ、ジッとしていてくれれば良い。
 ネームコールも、愛の言葉も、何も要らない。
 ねぇ、お願いだから……。 こっち、見ないで。

 はっきりと覚えているのは、アナタの肌に酔いしれていた感覚。
 このまま、時が止まっても構わないと思えるほどの幸福感。
 絶頂の兆し。次第に近付いてくる、アナタと一つになる瞬間。
 あの日、初めて告げた言葉。初めて告げた想い。

 愛 し て い ま す

 響く銃声、シーツを染める、アナタの鮮血。
 繋がったまま冷たくなっていくアナタの頬を撫でて……。笑う。
 満たされているはずなのに。目的を果たすことが出来たのに。
 それなのに、どうしてかな。どうして、こんなに切ないのかな?
 ねぇ、お願いだから……。 こっち、見て。

 一体、何が起きたのか理解らなかった。
 覚えていないだなんて、そんな言い訳……。許されるはずもないのに。

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 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / J(ジェイ) / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-
 NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / etc

 シナリオ『 ID: 』への御参加、ありがとうございます。
 ギルドメンバーの証『IDカード』をアイテムとしてお届けしました。
 アイテム欄を御確認下さいませ。クレタくんのIDは『 FG-TR 00287 』です。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.13 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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