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<東京怪談・PCゲームノベル>


 黒鳥 -クロノバード-

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 ふっ、と視界が暗くなった。
 いや、この空間は、いつだって暗いけれど。
 普段とは比べ物にならないほど、真っ暗になったのだ。
 何もない漆黒の空間にポィッと放り込まれたような。
「……? ……!」
 何事かと見上げて目を見開いた。
 そこには、空間全体を包み込むような……巨鳥がいたからだ。
 黒い巨鳥はバサバサと翼を揺らして、真上を旋回している。
 何となく、嫌な予感がした。
 そして、嫌な予感というものは、大抵当たるものだ。
 ジッと見上げていると、やがて巨鳥はピタリと旋回を止めて……。
「……う……わ」
 物凄いスピードで急降下してくるではないか。
 鋭い嘴が狙い定めるものは……この心臓だ。
 咄嗟に身構えはしたものの、どうしよう。
 どう考えても、太刀打ち出来る"サイズ"じゃない気が……。

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 戸惑っている暇なんて、ありゃしない。
 すぐにでも対策を練らねば。あの大きく鋭い嘴で突かれてしまったら最期。
 引き裂かれる人形のように、僕の身体はバラバラになってしまう。
 色々なものが飛び出すんだろうな……。肉とか、骨とか、内臓とか……。
 ……だから、余計なこと考えてる暇なんて、ないんだってば。
 それに、すごく気持ち悪くなってしまった。うぅ……。
 心臓目掛けて飛んでくる巨鳥。
 大きい、いや、大きすぎるが故に、動きが見やすい。
 とはいえ、あの巨体だ。避けることは出来ても、連続で飛び掛ってこられては参る。
 全力疾走して、別方向へスライディング。
 攻撃は免れたものの、お気に入りのパーカーの袖が真っ黒に汚れてしまった。
 クロノクレイ(時の泥)は、なかなか落ちないのに……洗濯、面倒なのに。
 ……だから、余計なこと考えてる暇なんて、ないんだってば。
 すぐさま立ち上がり、体勢を整えて巨鳥を見やる。
 巨鳥はブワリと舞い上がり、宙で、タイミングを計っている。
 またか。また心臓目掛けて飛んでくるのか。
 執拗に狙う急所。命を奪ろうとする、その姿勢。
 どうしてだろう。どうして、僕を狙うんだろう。
 たまたま? 遭遇したのが、たまたま僕だったから?
 オネやヒヨリと遭遇していたら、彼等に襲い掛かったのだろうか。
 そう考えると、これはこれで、良かったとも思える。
 彼等が襲われるんじゃなく、自分が襲われているのだから。
 とはいえ、どうしたものか。大きいばかりでなく、頭もキレそうだ。
 宙でタイミングを計っているのが、その何よりの証拠。
 避け続けることは出来ないだろう。
 きっと、そのうち、こちらの動きを読んでくる。
 動きを読まれてしまったら、お終いだ。
 ザックリと心臓を貫かれて、僕は死ぬ。
 死という言葉が脳裏を掠めた瞬間、ようやく事の重大さを実感した。
 どうしてだとか、何の為にだとか、そんなことは、どうでもいい。
 こんなところで死ぬなんて、絶対に嫌だ。
 僕には、まだまだ、やりたいこと、見たい景色がたくさんあるんだから。
 巨体を一撃で仕留めるチカラは、僕にはない。
 それならば、こちらも急所を狙うしかないだろう。
 どんなに大きな身体でも、目は露出したまま、無防備な状態だ。
 クレタは身構え、猛スピードで落下してくる巨鳥の目を見据えた。
 ギリギリまで引き付けて、タイミングを計る。
 生じるチャンスは一瞬だ。そのチャンスを逃さず確実に捕まえる。
 台風のような音を上げながら落下してくる巨鳥。
 あと、10メートルまでの至近距離に迫った瞬間。
「……っ!」
 クレタはギュゥッと固く目を閉じて、両腕を巨鳥へ向けて伸ばした。
 身構えていた間に精一杯の精神統一。出来うる限りの能力解放。
 伸ばした腕、その先の掌から、弾けるように光が出現した。
 出現した光は、そのまま形を成して。見たこともないほど、分厚い光の壁を作る。
 突如、目の前に出現した光の壁。怯む巨鳥。
 だが、自分のスピードを抑えることは手遅れだった。
 減速できぬまま、ガツンと光の壁に頭を強打する巨鳥。
 攻撃は失敗した。失敗しただけでなく、カウンターを食らう始末。
 頭部を強打したことにより、巨鳥を眩暈が襲う。
 必死に体勢を立て直そうとするものの、脳に走る衝撃は大きい。
 フラフラとよろめく巨鳥。クレタは、飛びのくようにして後退し、
 離れた場所から、更なる追随を仕掛けていく。
 クレタの能力は『光』の属性を宿している。
 光に属する能力は、主に防御特化だ。
 それゆえに、一撃必殺の技を、クレタは持ち合わせていない。
 光の刺で頭部に衝撃を与え続け、攻撃意欲を削ぐのが、精一杯だ。
 当然、巨鳥もジッとしていない。ジタバタと暴れ、反撃を試みる。
 巨体で暴れ回られれば、それに伴って暴風が辺りに吹きすさぶ。
 吹き飛ばされぬように、グッと踏ん張りをきかせつつ、
 クレタは、光の刺に加えて、強烈な光を放ち目晦ましも加えていく。
 優位に思えるが、実際はピンチだ。
 このまま、攻撃意欲が失せれば良いけれど、
 延々と暴れ続けられてしまっては、手の施しようがない。
 能力を発動できる時間にも限りがある。体力が尽きてしまえば、終了だ。
 どうしてだろう。どうして、この鳥は、僕を狙うんだろう。
 僕の小さな身体や心臓で、お腹が満ちることはないと思うんだけれど。
 このままじゃ、マズイ……よね。誰かに、応援を頼むべきなんだろうな。
 どうしよう。誰を呼ぼう。今日は、朝から皆、仕事に出てるからな……。
 ギルドに残ってる人なんて、いるだろうか。いただろうか。
 光による足止めを続けながら、必死に思い返すクレタ。
 いいや、とりあえず、本部に連絡を入れよう。
 誰かが出てくれることを祈りながら。
 片腕を下ろし、携帯を取り出そうと、懐に手を差し込んだ。
 その時だ。
「クレタ!」
 聞き慣れた声が耳に届く。
 声の聞こえた方向を見やれば、そこにはJの姿があった。
 仕事帰りなのだろう。両手には、お土産らしき袋が、たくさんある。
 良かった……。ホッとした瞬間、全身のチカラが抜けた。
 それに伴い、光の能力もフッと煙になって消えてしまう。
(やっ……)
 マズイ、と慌てて、すぐさま能力の再発動を試みる。
 だが、圧倒的に時間が足りない。構え直した時には既に、巨鳥は目前に迫っていた。
「…………!!」
 身体を裂かれて絶命するのなら、痛みを感じるのは、どのくらいだろう。
 どうせ死に還ってしまうのなら、一瞬で。痛みに足掻くことなく一瞬で逝きたい。
 ギュッと固く目を閉じて、死を受け入れた上で己の最期に希望を添えた。
 だが。
「……。……?」
 痛みを感じない。衝撃も感じない。一体、どういうことだ。
 一瞬で絶命した場合、こんなにも、あっけないものなのか。
 キョトンとしながら、クレタはゆっくりと目を開いた。
「……。う、わっ……!?」
 視界いっぱいに飛び込んできたもの。それは、巨鳥の顔だった。
 大きなビー玉のような瞳が、綺麗に潤んでいる。
 巨鳥は、クレタの身体を裂くことなく、目前で止まった。
 止まった上で……大きな身体を、クレタに摺り寄せるではないか。
「な、何……。これ、どうなって……」
 グリグリと身体を押し付けられて揺れながら、クレタは呆けた。
 理解できずに戸惑っている様子のクレタを見やり、Jは笑う。
 笑いながら駆け寄ってくるJ。Jは、肩を揺らしながら事の詳細を説明した。

 *

 黒い巨鳥。クロノバード。名付けたのは、Jだ。
 飼い主、とは少し違う。クロノバードもまた、Jが生んだコーダなる存在だ。
 人の形をしていないだけで、クレタと同じ存在である。
 同じ存在ゆえに、嬉しかったというのもあるのだろうが。
 それ以上に、クロノバードは再会を喜んでいた。
 遠い昔、クレタとJの傍で過ごした日々。
 途方もない遠い過去、クロノバードは時の彼方へと飛び立った。
 Jに命じられたからだ。時の彼方で暴れている害ある歪みを抹消してこいと。
 クロノクロイツが本来の姿を取り戻し、再び時を刻むようになったことで、
 時の歪みは発生しなくなった。厳密には、見えなくなっただけなのだが。
 歪みが消えたことで、使命を果たし終えたことをクロノバードは理解する。 
 そして、闇を真っ直ぐに飛び、仲間の元へと帰ってきた。
 そこで、早々にクレタと遭遇。以前よりも立派に大きく成長したクレタを見て、
 クロノバードは親のような心境になり喜んだ。
 溢れる嬉しさを抑えることが出来ずにクレタ目掛けて飛ぶ。
 それは、久しぶりだね! と再会を喜び、抱きつくような行為だった。
 けれど、猛スピードで飛び掛ってこられては、殺られる、と思うのも無理はない。
 クレタは苦笑しながら、クロノバードの翼を撫でた。
 触れた感触は、まるで絹のように滑らか。
 この感触。そうだ、覚えてる。
 僕は、きみの翼を撫でるのが大好きだった。
 すべすべしていて、気持ち良かったんだ。
 Jの腕の中。その次に気持ち良い、心地良い感触だった。
 慌てざるを得ない状況から、昔を懐かしむ和やかな雰囲気へ。
 クロノバードの翼を撫でつつ、クレタは嬉しそうに微笑んだ。
 大きくなったね……。全然、わからなかったよ。
 僕の中で、きみは、あの日のまま。カラスくらいの大きさで止まっていたから。
 凄いなぁ。こんなに大きくなるんだ……。びっくりしたよ……。
 どんなに身体が大きくなろうとも、目だけは、変わっていない。
 あの日のまま、綺麗な青い瞳。Jの瞳、僕の右目と同じ綺麗な青。
 見上げて、クロノバードと見つめ合うクレタ。
 Jは、笑いながらクレタに言った。
「散歩してくれば。久しぶりに」
「散歩……。うん、そうだね。行こうか」
「あ。待った。その前に、これ」
「……? なぁに、これ……。笛?」
「そいつを呼ぶ時に必要なもの。元々、キミが持っていたものだよ。覚えてない?」
 手渡された黒いホイッスル。ホイッスルには『クレタ』と名前が彫ってある。
 読み書きを覚え始めたばかりの子供のような、つたなく、読みにくい文字。
 刻まれた自分の名前を見た瞬間、クレタの頭に記憶が蘇る。
 会話の出来る友達を与えることはしなかった。
 感情を覚えてしまうことを畏れたから。
 自分以外の存在とクレタが会話することを畏れたJ。
 けれど、友達という存在は不可欠だろう。
 そう思ったが故に、Jは黒い鳥を生み出した。
 名前は、そうだな……。クロノバード。
 安易だけれど、覚えやすくて良いだろう?
 クレタに出来た、初めての友達。
 ホイッスルを鳴らせば、クロノバードは、いつでも飛んできた。
 かけがえのない友達。大切な友達。そうだ、きみは、僕の初めての友達。
 ホイッスルを首に掛け、クレタは微笑んだ。
 じゃあ、行こうか、と言ったクレタを、クロノバードが止める。
 振り返れば、クロノバードは、翼を揺らしながら背中を向けていた。
「乗るの……? 落ちない……?」
 不安そうに笑うクレタ。クロノバードは目を伏せて頷くような動きを見せた。
 よじ登るようにして、クロノバードの背中に乗っかるクレタ。
 すべすべしているが故に、滑り落ちてしまいそうになる。
 ガシッと、しがみつくようにして掴まれば、クロノバードは、ゆっくりと浮上。
 滑り落ちぬように、必死にしがみ付くクレタだが、表情は明るい。
 こうして、きみの背中に乗れるようになるなんて。嬉しいな。
 ゆっくりね。スピード出しすぎないで。落ちちゃうから、ゆっく……。
「う、わぁ……!」
 ギュンとスピードを上げて空高く舞い上がったクロノバード。
 ゆっくりって言ったのに、と背中で文句を言いつつ笑うクレタ。
 二人の楽しそうな姿を見上げながら、Jは、その場に胡坐をかいて微笑んだ。
「クレタ! 落ちても受け止めるから大丈夫!」
「そ、そういう問題じゃなくて……」

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 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-
 NPC / クロノバード / ♂ / ??歳 / コーダ

 シナリオ『 黒鳥 -クロノバード- 』への御参加、ありがとうございます。
 必要フラグが全て立しておりましたので、このような結末になっております。
 アイテム「クロノバードホイッスル」をお届けしました。アイテム欄を御確認下さい。
 移動や散歩にどうぞ(笑) 餌は、主に花を与えて下さい。たくさん食べます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.16 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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