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<東京怪談・PCゲームノベル>


 黒鳥 -クロノバード-

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 ふっ、と視界が暗くなった。
 いや、この空間は、いつだって暗いけれど。
 普段とは比べ物にならないほど、真っ暗になったのだ。
 何もない漆黒の空間にポィッと放り込まれたような。
「……? ……!」
 何事かと見上げて目を見開いた。
 そこには、空間全体を包み込むような……巨鳥がいたからだ。
 黒い巨鳥はバサバサと翼を揺らして、真上を旋回している。
 何となく、嫌な予感がした。
 そして、嫌な予感というものは、大抵当たるものだ。
 ジッと見上げていると、やがて巨鳥はピタリと旋回を止めて……。
「……。……う」
 物凄いスピードで急降下してくるではないか。
 鋭い嘴が狙い定めるものは……この心臓だ。
 咄嗟に身構えはしたものの、どうしよう。
 どう考えても、太刀打ち出来る "サイズ" じゃない気が……。

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(夢ならば……)
 夢ならば、即刻。覚めて頂きたいものです。
 苦笑しながら、吉奈は全力疾走。
 とりあえず、急降下による攻撃に対処せねばなるまい。
 どうして私を狙ってくるのでしょう。たまたま、でしょうかね。
 もしも、ここを通ったのが私ではなくナナセやオネだったのならば、
 あなたは彼等を狙って、そうして急降下してきたのでしょうかね。
 そうだとしたら……私って、本当に運がないといいますか悪いといいますか。
 厄介事を引き寄せてしまうような、そんな体質なのでしょうか。
 今回に限らず、面倒な事象に巻き込まれてばかりですから。
 中には、面倒だと思う反面、幸せを感じるような事もありましたけれど。
 全力疾走して攻撃を避けるものの、吉奈の身体能力は一般的な人間、女の子と同等だ。
 彼女には特殊な能力が備わっているが、それは身体能力を強化するような類ではない。
 巨鳥が目前に迫った瞬間、そのタイミングを見計らって真横へ飛びのく吉奈。
 闇に顔を打ちつけ、巨鳥は痛みからジタバタと、もがき暴れる。
 ズササササッと闇を転げ回る吉奈。衣服は真っ黒に染まってしまった。
 顔についたクロノクレイ(時の泥)を拭いながら、吉奈は呼吸を整える。
 脳天に一撃。結構なダメージだとは思うけれど、仕留められる程のものではない。
 巨鳥は、バサバサと翼を揺らして再び、空高く舞い上がった。
 先程と同じように旋回を繰り返す巨鳥。タイミングを見計らって、また急降下してくるだろう。
 どうしたものか。ただ逃げ回るばかりでは、何の解決にもならない。
 仕留めることが出来るような技。若しくは、長時間足止めさせられるような技。
 必死に考えてみるものの、思い当たらない。私には、そんな能力はありません。
 そうして考える内、巨鳥はピタリと旋回を止めて再び急降下してくる。
「……っ」
 イチかバチかだ。
 吉奈は身構え、迫ってくる巨鳥を見据える。
 効果が薄くとも、何度も繰り返せばダメージは蓄積されていくはずだ。
 同じところを狙えば尚更。狙うべき場所は……目。目しか、あるまい。
 翼や嘴は、先程の衝突音から察するに、かなりの強度を誇るだろう。
 だが、目ならば。露出している目ならば、きっと。
 それに、目を攻撃することが出来たのならば、同時に足止めも出来るはずだ。
 うまくいくかどうか。その保障はないけれど。このままジッとしているなんて論外ですから。
 ただ逃げ惑うだけというのも、何だか負け犬のようでカッコ悪い気がしますから。
 目前に迫る巨鳥。吉奈は、先程と同じようにギリギリのタイミングで横に飛びのいた。
 ただ、先程とは異なる点が一つ。
 ボフッ―
 飛びのくと同時に、吉奈は巨鳥の目に僅かに触れて起爆させた。
 いつもとはまるで違う、何とも迫力のない爆発音。
 目までも、強度を誇るのか。吉奈は、転げ回りながら危機感に苦笑した。
 だが、まるでノーダメージというわけでもないらしい。
 巨鳥は、驚いたのか、爆発すると同時に再び空へと舞い戻った。
 自身の片目に走る僅かな痛み。フワリと昇る煙。
 カウンター気味に攻撃された。それを把握したのだろう。
 巨鳥は大きな頭をブンブンと振った。
 その動きに合わせて、巨鳥の片目から昇る煙も踊る。
(マズイですね。余計に刺激してしまっただけのようです)
 苦笑しながら、起爆の際に使用した右腕をギュッと押さえる吉奈。
 急降下で落下してくる巨鳥に攻撃を仕掛けたのだ。
 ギリギリで避けているとはいえ、そのスピードに乗った威力を払うことは出来ない。
 狙うべきポイントを抑えることは出来たものの、吉奈の右腕からはポタポタと血が滴り落ちる。
 どうしましょうか。完全に太刀打ち出来ません。
 それに、もう右腕は使い物にならない。
 左は……利き腕ではないですから、先程よりも威力が落ちるでしょう。
 そうなってしまうと、もう、私には、どうすることも出来ないじゃないですか。
 頭を振ることを止め、再び旋回を始めた巨鳥。
 また、落下してくるのですね。私の心臓目掛けて。
 運がなかったのだと、悟るべきなのでしょうか。
 けれど、私も大概、諦めが悪いようで。
 どうにか出来ないかと、今も必死に考えています。
 まぁ、良い案なんて一つも浮かばないのですけれど。
 苦笑しながら見上げ、仕方ないか……と心の奥底で悟りだした吉奈。
 まだまだ、知りたいことや見聞きしたいことが沢山あったけれど。
 何者かもわからぬ存在に、理由もなく殺されるだなんて悔しいけれど。
 どうすることも出来ないが故に、諦めるしかないようで。
 ハァ、と溜息を落として、吉奈はスッと目を伏せた。
 逃げることもしない。どう足掻いても逃れられぬのなら。
 どうぞ。この心臓が欲しいのならば、奪って下さいな。
 ただ、美味しくはないと思いますよ。苦いのではないかと思います。
 心が渋く苦味を帯びるようなことばかりを、私は繰り返してきましたから。
 そんなことを考え、半ば自分の『最期』を悟りだした時だった。
 吉奈の耳に、指笛の音が届く。
 ふっと目を開き見やれば、遠くからJが闇を舞うようにして駆け寄ってくるではないか。
 助かった。助けて下さい。だなんて、あなたに救いを求めるような真似はしません。
 寧ろ、余計に面倒なことになったと……。あなたのタイミングを、私は恨みます。
 あなたに最期を見られるだなんて。見取られるなんて。何だか微妙な心境です。
 それならば、ヒヨリやオネ……同じ仲間に見取られたかった。
 なんて、我侭ですかね。一人で死に行くよりは素敵なことだと、有難味を覚えるべきなんでしょうかね。
 フゥ、と溜息を吐くと同時に、フワリと身体が軽くなる感覚。
 あれっ? と思った次の瞬間には、吉奈はJの腕の中にいた。
「…………」
 見上げて沈黙する吉奈。Jはクスクス笑うばかりだ。
 笑っている場合じゃないんじゃないでしょうか。
 どうやったのかは知りませんけれど、避難させてくれたことには感謝します。
 でも、仕留めたわけではないでしょう? 今度は、あなたも一緒に狙われることになるんですよ。
 それとも何ですか。 あなたならば、一撃で仕留められると。その微笑みは、自信によるものですか?
 不安を覚えつつ、先程まで自分が立っていたであろう場所を見やる吉奈。
(……。あれ?)
 見やって早々に吉奈は目を丸くした。
 あの場所目掛けて、あの場所に立っていた私を目掛けて落下していたはずなのに。
 巨鳥がいない。忽然と姿を消した。
 もしや、本当に夢だったのか。
 いや、でも確かに私の腕は出血を……。
 ふと自分の傷付いた腕を見やる。そして、また目を丸くした。
 確かに出血していたのに。痛みも走っていたのに。
 何事もなかったかのように、元通りになっているではないか。
 一体、どういうことだ……。Jが来たことが何か関与しているのだろう。
 間違いない、と悟った吉奈は顔を上げて尋ねようとした。そして、またもや目を丸くする。
 先程まで、自分を襲っていた巨鳥が、Jの背後にいたからだ。
「―!」
 逃げなくちゃ、そして、Jに伝えねば。そう思って、吉奈はバッとJの腕から逃れようとした。
 だが、Jは腕を掴み、それを阻んで笑う。
「大丈夫。もう、襲わないよ」
「……。……は?」

 *

「…………」
「怒ってるのかい?」
 膝を抱えて座る吉奈の肩を抱き寄せて笑うJ。
 怒ってるか、ですって? そんなの、訊くまでもないじゃないですか。
 あなたにとっては、ほんの戯れでも。私は、恐怖のようなものを覚えたんですから。
 まぁ、自分でも少し驚きましたけど。死にたくないだなんて。
 そんなことを、私も思うんだなって。そこは、ビックリしてますけど。
 けれど、驚かせて欲しいだなんて私は一言も言ってないですし。
 好き好んで驚きたがる人なんて、そうそういないと思いますし。
 黒い巨鳥、クロノバード。
 それは、Jが生み出した存在。
 彼の意のままに動く、玩具のようなもの。
 遠く離れた場所を、一人で歩いていた吉奈を見つけたJが仕向けた悪戯。
 腕に走った痛みはダミー。実際には傷付いてなどいなかった。
 痛んだ、と思うことで、吉奈は更に危機感を覚えた。
 その表情を見るのが、堪らなく楽しく幸せだ。
 どうしよう、どうしようって。
 外見はいつもどおりクールなんだけど、内心は恐怖に支配されていただろう?
 その真逆加減というかね。バラバラな心と身体が……とっても魅力的なんだ。
 初めから、それが目的だったわけじゃない。
 ちょっとしたコミュニケーションを取ろうと思っただけだよ。
 でもね、驚いて、何とかしようと足掻くキミを見ている内に興奮してしまって。
 悪戯のつもりが、悪戯じゃなくなってしまったんだ。
 ごめんね。そして、ごちそうさま。とっても美味しい表情だったよ?
「…………」
 不愉快そうな表情を浮かべ続けている吉奈。
 さすがに、やりすぎたかな。怒るのも無理ないよね。
 Jはクスクス笑いながら、吉奈に『ある物』を差し出した。
 差し出されたのは、黒い笛だ。ホイッスル。
「……。何ですか、これ」
「お詫びにプレゼントするよ。吹いてごらん」
「…………」
 冷たい眼差しでJを見やりながらも、吉奈はホイッスルを受け取って一吹き。
 甲高い音が闇に響き渡る。そして、その音に反応するかのようにして……。
 上空で旋回していた巨鳥がピタリと動きを止めて落下してくる。
 バサリと翼を揺らし、吉奈の目の前に着地した巨鳥。
 大きな青い瞳で見やる、その姿は従順な……ペットのようだった。
「こんなに大きな鳥をプレゼントされても困るんですけど」
「まぁ、お詫びってことで」
「……要らないです。お返しします」
「あぁ、もう無理だよ」
「はい?」
「それ、吹いた時点で主人交代だからね」
「…………」
「可愛がってあげて。俺だと思って」
「…………」
 可愛がれだなんて。それこそ無理なんですけど。
 あなただと思えだなんて。無理難題なんですけど。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 3704 / 吉良原・吉奈 / ♀ / 15歳 / 学生(高校生)
 NPC / J / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ『 黒鳥 -クロノバード- 』への御参加、ありがとうございます。
 アイテム:クロノバード・ホイッスルを贈呈致しました。アイテム欄を御確認下さい。
 欲しくもないのに受け取ってしまった感じかと思いますが…可愛がってあげて下さいませ…。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.19 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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