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<東京怪談・PCゲームノベル>


 存在を許された日

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 12月12日。
 その日は、二人が存在を許された日。
 ヒヨリとナナセ、二人の誕生日。
 誕生日まで一緒だなんて。さすが、パートナー?
 もう、何度目になるか思い出せやしないけれど、
 今年も心を込めて、メッセージを贈るよ。
 "おめでとう" と "ありがとう" を、二人へ。
 今回は、どうしようかな。
 プレゼントは勿論用意するけれど……。
 何か、サプライズ的なこと、してあげたいかも。
 うーん。どうしよう。何が良いかな、どんなことが良いかな。
 こんなに悩むのって、初めてのような気がする。

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 ガシャンガシャンと激しい音を立てて、床に散乱するパーティグッズ。
 全員で慌ててスライディングしたけれど、間に合わなかった。
 床に伏せている仲間を見やって、クレタはクスクス笑う。
「笑い事じゃないでしょっ。も〜。何やってんのさ、ベルーダぁぁ」
「…………」
「ごめんなさい、は!?」
「……うるっせぇなぁ」
「ごめんなさい、でしょ!!」
「う〜る〜せ〜」
 ギャーギャーと言い争うのは、ベルーダとヨハネだ。
 他の仲間達は、溜息を交えながら苦笑して立ち上がり、服についた埃を払う。
 一向は今、揃ってギルド1階にある食堂にいる。とても賑やかで和やかな雰囲気だが、
 実際のところは、時間に追われてテンテコマイな状況だ。
 一向は、チカラを合わせて『準備』している。
 この場にいないメンバー、ヒヨリとナナセを『祝う』為に。
 今日は二人の誕生日。クレタが発案したパーティは、
 シンプルながらも、二人を想う気持ちが、たっぷりと込められている。
 ほっぺたが落ちてしまいそうになるくらい、美味しい料理。
 料理は、もちろん、ハルカが腕によりをかけて作った自信作ばかり。
 色とりどりの花や電飾で飾りつけるパーティ会場は、見るからに華やか。
 ここに二人を招き入れて、全員で『おめでとう』を。
 ……とまぁ、この辺りまでは定番だ。パーティの定番。
 ただ普通にお祝いするだけでは、つまらないから、とクレタは仕掛けを施した。
 クレタが一人で仕掛けられるような内容ではない。
 その仕掛けには、今、ここで準備している面子全員が協力している。
 脚立の上から腕を伸ばすベルーダ。その手に、手作りの飾りを箱から取り出し渡しながら、
 クレタは、何とも幸せそうにニコニコと微笑んだ。
 上手くいくかな。成功するかな。驚いてくれるかな。喜んでくれるかな。
 それを思うと、ソワソワドキドキ。微笑まずにはいられない。
 飾りを受け取りながら、さすがのベルーダも、つられて微笑んでしまう。
(ぷ……。何つぅ顔してんだか、こいつは。女みてぇな奴だな、ほんと)
「こら! ベルーダ! 何サボってんのぉ!?」
「サボってねぇし……」
「言い訳する暇があったら、とっとと手を動かす!」
「…………」
 ワクワクするね。楽しみ。どうなるかなぁ。どうなったかなぁ。うまくいったかなぁ。
 それにしてもヨハネ……。こういうときは、すごく頼もしいね……。
 チラリと時計を確認したクレタ。時刻は、十八時。
 そろそろ、戻って来てくれないと、色々とズレこんでしま……。
「あ……。おかえり、キジル」
「ただいま〜」
 ヒョッコリと姿を見せたキジルに駆け寄り、ソワソワしながら尋ねるクレタ。
「どんな……感じ……?」
 不安と期待が入り混じった表情。キジルは笑いながら腕まくりをし、
 完璧だよ、と言い残して準備作業に合流した。
 報告を聞いたクレタは、コクリと頷いて、いそいそとキッチンの奥へ。
 クラッカー、良し。ワイン、良し。プレゼント、良し。準備万端。いつでもどうぞ……。

「…………」
「…………」
「…………」
「……。ちょっと。いつまで突っ立ってるつもり?」
「あぁ、うん。……じゃ、行くか。スタートは、どこだっけ」
「3階ね。廊下の一番奥、だったはずよ」
「……何だかなぁ。バレバレなんだよなぁ」
「ふふ。まぁ、いいじゃない。たまには」
「たまにだから、余計に照れ臭いんだって。こういうの」
「いいから。早く行きましょう」
「へいへい……」
 今から十分程前のこと。テラスでくつろいでいたヒヨリとナナセを捕獲し、キジルは告げた。
 スタート地点は3階、廊下の一番奥から。そこから、順番に宝物を見つけて行ってくれ、と。
 クレタに頼まれたとおり、台詞もそのままにキジルは二人へ伝えた。
 ちょっとした仕掛け。悪戯っぽい仕掛けだけれど、だからこそ出来ることもある。
 クレタが考案した仕掛けは、メッセージカードだ。
 ギルド本部の各所に、それぞれが想いを綴ったメッセージカードを隠す。
 次のカードの在り処が記されているので、その通りに見つけていく。
 すると、最終的には食堂前に辿り着く。そこで、ゴール。パーティ開始。
 普段は言えないようなこと。口に出来ないことを文字にして伝える。
 どういうことなのか、何となく把握しているヒヨリは、とても照れ臭そうだ。
 ナナセは、素直に微笑み、楽しもうという意思が見受けられる。
 スタート地点、一番最初に二人が見つける宝物は、キジルとヨハネからのメッセージ。
 廊下、突き当たりにある壁に、これみよがしに貼られたカードを剥がしてヒヨリは笑う。
「宝探しじゃねぇだろ、これじゃあ」
「ふふ。何て書いてあるの?」
「……至ってシンプル。ほい、見てみ」
「わぁ。素敵。二人らしいわね」
 カードを見ながらクスクス笑うヒヨリとナナセ。
 キジルとヨハネからのメッセージは、文字ではなく絵だった。
 二人の似顔絵が描かれている。ナナセは、とても可愛らしく描かれているのだが、
 ヒヨリの似顔絵は微妙だ。何だか、とてもアホっぽく見える。二人には、そう映っているのか。
 照れ臭い気持ちは拭えぬまま。二人は、カードの裏に記された指示通りに次のお宝スポットへ。
 二人が次に入手した宝物は、斉賀・尾根・木ノ下からのメッセージカードだった。
 記されているのは英数字のみ。 『A1A2S2T4R3!』
「……うん? 何かしら、これ」
「暗号だ。ものっすごい安易だけど」
「え? 何、何て書いてるの、これ」
「自分で考えろ。よし、次行くぞ」
 次に二人が入手した宝物は、ジャッジとベルーダからのメッセージカード。
 これもまた、英数字だけが記されていた。 『BG20081218』
「…………」
「…………」
 記された数字を見て、二人は顔を見合わせ苦笑を浮かべた。
 カードに記されてたのは、英数字ではなく日付だ。これは、暗号ではない。
 現在、二人が共同で行っている書類整理作業の、しめきり日である。
 嫌がらせのように思えるが、実際は違う。
 二人にしか出来ない作業だからこそ、信頼して任せている。その想いの表れだ。
 とはいえ、念を押されたようで心境は微妙。二人は苦笑を浮かべたまま次のスポットへ。
 次に入手した宝物は、セラ・シラからのメッセージカード。
 カードには『おめでとう』とお祝いの言葉と、二人が描いたであろうイラストが。
 和みを与える、ごくごく普通のメッセージカード。……に、思えたけれど。
 お祝いメッセージの下に、欲しいものリストが書かれている。
 その大半が玩具やお菓子だ。祝われる立場なのにオネダリされるとは、どういうことだ。
 ヒヨリとナナセは、双子の『らしさ』にクスクスと笑う。
 次に入手した宝物は、ワンとハルカからのメッセージカード。
 彼等のメッセージは、一番マトモだった。面白味には欠けるけれど。
 定番だけれど、だからこそ素直に嬉しい。それにしても、この二人は揃って字が上手いな。
 それが余計に嬉しい気持ちにさせているのかもしれない。達筆とは素晴らしいものだ。
 手に入れた宝物を懐にしまいながら、ヒヨリは言った。
「さて。宝探しも終盤ですか」
「そうね。あと二つ……」
「あ、ひとつ見つけた。残り、ひとつだな」
「…………」
 宝探しを続けるうちに、クセというか、仕組みを理解した。
 3階からスタートして、二人は着々と下に降り進んでいる。
 次は、どこか。カードの裏に記されている在り処を見ずとも、ヒヨリは宝物を発見できるまでになっていた。
 ヒヨリが発見した宝物は、2階から1階へ降りる中央階段の手摺に貼り付けられていた。
 オネからのメッセージカードだ。二人へのメッセージが長々と連ねられている。
 普段、御話するときは淡白だが、文字にすると雄弁になるようだ。
 そして、文の纏め方が上手い。意外な特技を発見した気分。
 オネからのメッセージカードの裏に記された、次の宝物の在り処。
 次で最後になるらしい。GOAL!の追記がされている。
 ヒヨリとナナセは、カードを懐にしまい、最後の在り処へと向かった。
 最後の宝物は、クレタからのメッセージカードだ。
 女の子のような可愛らしい文字で『ありがとう』と『大好き』が綴られている。
 クレタからのメッセージカードは、1階にある食堂の入り口、扉に貼られていた。
「なるほど。ここがゴールですか」
「ドキドキするわね」
 微笑みながら、ゆっくりと扉を開けるヒヨリとナナセ。
 扉が開くと同時に、中で待機していたメンバーは一斉にクラッカーで歓迎した。
 次々と鳴り響くクラッカーの音に笑いながら、ヒヨリとナナセは会場の中心部へ。
 食堂は、パーティの為にテーブルや椅子が整理され、広々とした空間になっている。
 中央に一つ、大きな丸いテーブル。その上に、ラズベリーケーキ。
 ヒヨリとナナセが揃って大好きな果実を使ったケーキだ。
 クレタが、ハルカに御願いして用意したものである。
「う〜わ。本格的」
「ふふ。美味しそう」
 二人の顔を合わせても足りないほど大きなケーキ。
 心踊り、同時に照れ臭くもあり。恥ずかしさを紛らわすように、ケーキに指を差し込んでみるヒヨリ。
 ヨハネとキジルが笑いながら、お皿とフォークを持って駆け寄ってくる。
 こんなに賑やかで、言い方は少しアレだけど『仕組まれた』お祝いは初めてだ。
 昔からの馴染みメンバーは、今更、こんな凝ったことをしない。
 要するに、このパーティを発案したのは、間違いなくクレタだろう。
 そう判断して、ヒヨリとナナセは、クレタに歩み寄り「ありがとう」と御礼を述べた。
 ありがとうだなんて。それは、僕の台詞だよ……。
 二人には、お世話になりっぱなし。二人がいなきゃ、僕……今、こうして笑っていられなかったと思う。
 だから、ありがとうを、そのまま二人に返すよ。ちょっと照れ臭いけれど……。
 生まれてくれて、ありがとう。存在していてくれて、ありがとう。
 微笑みながら、クレタは二人へ用意したプレゼントを贈る。
 ヒヨリには、銀色のカフスボタン。留め金で装着するタイプで、シンプルかつ上品なデザインだ。
 クリスタルガラスがはめこまれており、ヒヨリ好みのオシャレな代物。
 ナナセには、銀色の腕時計。ベルトはブレスレットタイプで輪が重なる。シンプルかつエレガントなデザイン。
 ケースはオーバルで、更にオシャレに。文字盤は白で文字はクリスタルガラスのドット。
 素敵なプレゼントに、二人は子供のように大はしゃぎ。
 嬉しそうな顔を見て、クレタは自身の頬をカリカリと掻きながら微笑んだ。
 それは、一通りの進行を終えた、そのことを伝える為の合図だ。
 合図を目にして、一人、離れた場所にいたJがスッと立ち上がる。
 Jが手指を踊らせると、会場が薄暗くなり、飾られた電飾に、次々と明かりが灯っていく。
 ヒヨリとナナセを祝うなんて、気が進まなかったけれど、
 クレタに御願いされては、断ることなんて出来やしない。
 Jは苦笑しながら、再びソファに腰を下ろした。

 心を込めて贈る『ありがとう』と『おめでとう』と『だいすき』
 いつまでも、こうして。楽しいこと、嬉しい気持ちを共有し続けていきたいな……。
 悲しいことは、ないに越したことはないけれど。悲しいときは、辛い気持ちを半分こしたいな……。
 ヒヨリ、ナナセ。お誕生日、おめでとう。いつまでも、変わらずにいてね。
 優しくて温かい。そんな二人でいてね。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / ナナセ / ♀ / 17歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ヒヨリ / ♂ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / キジル / ♂ / 24歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ヨハネ / ♂ / 15歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ベルーダ / ♂ / 22歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ETC

 シナリオ『 存在を許された日 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 2008.12.18 / 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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