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<東京怪談・PCゲームノベル>


 ラージュウルフの毛束

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 外界:ラフテスカという世界に生息している狼『ラージュウルフ』
 彼等は、国のシンボルであり神聖なる存在。神の使いと崇められている。
 今回、私は君に、この、ラージュウルフの毛束を集めてきて欲しいと依頼する。
 毛束を作ることは容易いだろう。誰にでも出来ることだ。
 厄介なのは、対象が『崇められている』存在だということ。
 聖なる存在の毛を刈るなんぞ、国民が黙っているはずもない。
 いいかね。くれぐれも、見つからぬように。
 後々、更に厄介なことになってしまうからな。
 うん……? 何の為に毛束が必要なのか、と?
 そうだな。本来ならば、伝えねばならぬことなのだろうな。
 依頼する以上は、君に隠し事をするべきではないのだろうな。
 だが、申し訳ない。教えることは出来ないのだ。
 気持ちは理解るが、敢えて、気にせぬフリをしてくれ。
 大丈夫。禁忌を犯すわけじゃない。
 私にとって、いや、我々にとって、必要になるものなのだよ。

 ジャッジの言葉を思い返しながら、時の回廊を行く。
 引っかかるところはあるけれど、引き受けてしまったからには遂行せねば。
 向かうは、外界:ラフテスカ。別名、青の都。
 以前、ナナセと一緒に読んだ文献に掲載されていた写真。
 それはもう、見事だった。青の都と称されるに相応しい、水の国。
 目的は観光じゃないけれど、この目で拝めると思うと、自然と歩みは速くなる。
 高鳴る胸は、期待によるものか。それとも、胸騒ぎによるものか。

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 へぇ……。ラージュウルフって、こんな感じなんだ……。
 ウルフ……。狼って名前だから、もっとこう……怖いっていうか凶暴そうなイメージがあったけれど。
 パラパラとページを捲りつつ、内容を確認しているクレタ。
 クレタが目を通しているのは、外界:ラフテスカに関する情報が記された文献だ。
 ナナセから借りてきたもの。情報をちゃんと頭に入れたら返しに行かねば。
 ジャッジに依頼されて早々に、クレタは文献を借りて手に取った。
 幸い、今すぐに行けということではなく、出発は三日後。
 どうして三日後なのか理解らなかったけれど、文献に目を通したことで、その疑問は晴れた。
 現在、ラフテスカは『お祭り』の真っ只中。
 ラージュと呼ばれる、そのお祭りは、平和と発展を願うものだそうで。
 お祭りの主役は、人々ではなく……この、ラージュウルフ。
 普段から崇められている存在が、より一層に崇められている状況のようだ。
 ジャッジからの依頼は、このラージュウルフの毛束を持ち帰るという内容。
 この時期に赴いて毛束を採取するのは困難というか、もはや自殺行為だ。
 文献には、ラージュウルフを狩ったという『罪』と『罪人』についても記されている。
 何というか……少し異常かもしれない。この崇め方は。
 罪人とされ処刑された人々の最期は、目を覆ってしまうほどに無残なものだ。
 構いませんよ、と承諾したものの……かなり危険な仕事なんじゃないだろうか。
 読み進める内に、クレタの中で恐怖のようなものが沸々と湧いてきた。
(まぁ……そんなに怯える必要もないんだろうけど……ね……?)
 同意を求めるような眼差しで見やる。視線の先には、J。
 クレタがラフテスカに赴く事と、仕事の内容を聞いたJは、
 否応なしに自分も同行すると名乗り出た。
 場所が場所だけに心配だから、と言って。
「ん? 読み終わったかい?」
「……。あ、うん。大体は……」
「じゃあ、次」
「うん?」
「俺にも貸して。一応、読んでおかないとね」
「あ、うん……」
「にしても……徹底してるよねぇ、キミは。俺と真逆だよ」
「何が……?」
「準備とかそういうこと。優等生って感じ」
「それは……褒めて……るのかな……」
「う〜ん。微妙なところ。しっかりしすぎてると可愛くないでしょ」
「え……と……」
「ふふ。クレタ。隣おいで。ここ、ここ。一緒に読もう」
「僕……もう、読んだ……」
「読むの面倒くさいから、要点だけ纏めて話してくれる?」
「……。わかった……」
 面倒くさがりっていうか……Jは、いつもそうだね。
 準備とか、そういうことを一切しないんだ。
 思いつきでパッと行動しちゃうっていうか……。
 僕には出来ないことだから、凄いなぁって思わされるんだけれど……。
 クレタの肩に頭を乗せて目を伏せているJ。
 まるで絵本を読み聞かせて貰っている子供のような姿にクレタは微笑んだ。

 三日後 ―

 クレタとJは、揃って外界:ラフテスカへ。
 ラフテスカは緑豊かな国だ。深く息を吸い込むと身体の中から浄化されていくかのよう。
 美しい景色に見惚れてばかりもいられない。ここに来た目的を忘れるはずもない。
 二人は観光客を装ってラフテスカの美しい町並みを横目にフラックスタルト草原と呼ばれる地へと赴く。
 ここは、ラージュウルフが大量に生息している場所で『神の庭』と呼ばれている。
 祭りが終了したばかりだというのもあるのだろう。
 草原の各所には、未だに祭壇などが配置されている。
 これから本格的に片付けが始まる……という状況なのか。
 司祭のような風貌の男女がウロウロしている。
「……難しそうだね」
 ポツリと小さな声で呟いたクレタ。
 Jはクスクス笑って「どうってことないよ」と言った。
 どこからくるのか、その自信は……。と思いつつも頼もしさを覚える。
 クレタはウン、と頷いた。その合図を皮切りに、二人は別行動。
 クレタは、そのまま真っ直ぐ歩いて行くけれど、Jはピタリと立ち止まった。
 立ち止まったJは、片付けをしている司祭らしき女性に声を掛ける。
「こんにちは、お嬢さん」
「……あら。観光ですか?」
「まぁね。どうして、すぐに理解ったのかな?」
「匂いがしませんもの」
「うん? 匂い?」
「ラフカ香ですわ。ご存知ないのですか?」
「う〜ん? さぁ、何のことだか、さっぱり」
「まぁ。もしや、ラージュの宴に参加していないのですか」
「宴? あぁ、そうだね。つい、さっき来たから」
「それは勿体のぅ御座いますね」
「その宴っていうの、もう少し詳しく聞かせてもらえる?」
「えぇ。か、構いませんわ」
 やたらと至近距離で話すJ。司祭らしき女性は戸惑いを隠せない様子だ。
 だが、戸惑ってはいるものの、嬉しそうにも見える。
 Jと女司祭の遣り取りを、何度も振り返って確認するクレタ。
 うん……打ち合わせどおりなんだけれど……お見事なんだけれど……何かな、この気持ち。
 ちょっと面白くないっていうか……複雑な気持ち……。
 少しだけ頬を膨らませつつ、スタスタと歩いて行くクレタ。
 心なしか、イライラしているようにも思える足取り。
 Jとの打ち合わせ。それは、役割の徹底。
 闇雲に捕まえて毛を刈るなんぞ出来るはずもない。
 それを、国民らが黙って見ているはずがない。
 それならば、どちらかが囮というか……気を引きつける事をしていてはどうか。
 クレタの提案をJは即座に承諾し、自分が、その役目を担うことを提示した。
 クレタとJの距離は、どんどん離れていくけれど、二人には距離など無意味だ。
 どんなに離れても、互いの声が心に届く。
 その現象を不思議に思ったことはない。
 他の誰かが聞けば、それってテレパシーっていうか超能力なんじゃ? と驚くかもしれない。
(問題ないよ)
 心に届いてきたJの言葉に頷き、クレタは見据えた。
 大樹の陰で身を休めているラージュウルフを。
 うわぁ……何だろう……優雅っていうか、気品があるっていうか……。
 写真で見るよりも、ずっとずっと神々しい感じ……。
 神様の使いって言われるのも理解る気がする……。
 ……あ、いけない。見惚れている場合じゃないよね……。
 毛束を手に入れなくちゃ……。そぅっと……そぅっと……。
 ラージュウルフと視線を交えたまま、ゆっくりと近付いて行く。
 事前の情報収集から、刈るべきは、腹部の毛だ。
 ラージュウルフの腹部を覆っている毛は、他の部位よりも多くフサフサ。
 何も、羊の毛皮を刈るようにツルツルにしてしまう必要はない。
 一握の毛束。それだけ入手できれば十分なのだ。
 腹部を覆っている大量の毛ならば、きっと痛みもなく刈れるはず。
 クレタはラージュウルフの前に屈み、鞄から銀色のナイフを取り出した。
 ギラリと輝く刃物。ラージュウルフはピクリと耳を揺らして警戒した。
 襲い掛かってこられたら無事では済まない。
 クレタは、荒れがちな呼吸を整えながら、迅速に毛を刈った。
 一瞬の出来事だ。毛を刈られたことに気付いていないのだろう。
 ラージュウルフは、クレタを見つめたまま微動だにしない。
(良かった……)
 毛束とナイフを鞄にしまい、スッと立ち上がって反転するクレタ。
 その姿を確認したJは、クスクス笑いながら頷いて、
 あれこれ教えてくれた女司祭の頭を撫でて感謝を告げた。
 名残惜しそうにJを見つめる女司祭。その眼差しが、何となく不快にさせた。
 クレタは、何だか面白くなさそうな顔をしつつ駆け出してJの元へ―
 行こうとしたのだが。
「っわ……」
 グィッと後ろから引っ張られて、クレタは、その場に尻餅をついた。
 振り返って見やれば、そこにはラージュウルフ。
 クレタの鞄にカプッと噛み付いて、足止めしたようだ。
「な、何……」
 やっぱり、怒っているのだろうか。目を泳がせるクレタ。
 だが、その恐怖は不要なものだった。
 どうしたことか。ラージュウルフが、大きな身体を摺り寄せてくるではないか。
 グイグイと押されて、最終的にマウントポジションを取られてしまう。
「重い……」
 苦しそうな顔をしているクレタを覗き込み、様子を見に来たJがクックッと笑う。
 笑ってないで助けてよ……と訴えるクレタの眼差し。
 Jの後を追って来た女司祭は、目を見開いて驚いた。
 ラージュウルフが、こうして人に懐くなどありえない事象。
 神の使いが人間に服従するなど、あってはならぬこと。
 それなのに、どうして……神妙な面持ちでクレタを見やる女司祭。
 ふと、女司祭の目に、とあるものが留まった。
 それは、クレタが身に着けているアクセサリーだ。
 普段から着けている、何の変哲もないシルバーアクセサリー。
 その殆どは、生まれて早々にJから贈られたものだ。
 中には、自分で購入したものもあるけれど。
「すみませんが、その装飾具……見せて頂けませんか?」
 神妙な面持ちのまま尋ねた女司祭。
 クレタはラージュウルフの重みに苦しそうにしつつも、
 身に着けていたシルバーリングを指から外して女司祭に渡した。
 受け取って早々に、女司祭が妙な行動に出る。
 リングの匂いを嗅ぎ始めたのだ。
(……何してるんだろう)
 キョトンとしつつ見やるクレタ。
 しばらくして、女司祭はリングをクレタの指に返して告げた。
「間違いありませんわ。ラフカ香ですね」
「うん? さっき、説明してくれた香水だよね? それって」
 足止め最中に聞かされた情報を思い返して確認したJ。
 ラフカ香。ラフテスカにしか存在しない藻を乾燥させて作る芳香剤。
 ラージュの宴には勿論のこと、普段からラフテスカには欠かせない代物。
 その香りは、ほのかにバニラのような優しく甘い香り。
 ラージュウルフが好む香り。猫に与える『マタタビ』のようなものらしい。
 そういえば、街を歩いていた時、不思議な匂いがするねとJと話していた。
 でも、どうしてクレタが身に着けているアクセサリーに、その香りが宿っているのか。
 さっぱり理解らず首を傾げ続けるクレタ。
 そんなクレタを優しく抱き起こし、女司祭は「ご案内致します」と言った。
 ラージュウルフに懐かれる、それは即ち……神の証。
 人外なる存在、偉大なる神の来訪。
 これを喜ばずして、何が神の国でしょうか。
 女司祭は興奮しているようで、自分の世界に浸りっぱなしだった。
 国の中心にある神殿で食事を……是非。そう熱の篭った御願いをされては断り難い。
 結局、クレタは何が何やら理解らぬまま、神殿へと案内されて行く。
 クレタに懐いたラージュウルフも、そのまま後ろを付いてくる。
 どういうことなんだろう。どうして、こんなことになったんだろう。
 どうして、僕の着けている指輪から、その……ラフカ香ってものが漂っているんだろう。
 良い匂いがするだなんて思ったことなかったけれど……。
「どういうことなのかな……」
 小さな声で尋ねてみたクレタ。
 クレタが女司祭に見せた指輪は、Jから貰ったものだ。
 当然、Jならば、どういうことなのか知っているはず。
 そう思って尋ねたのだが……Jにも理解らないらしい。
 Jいわく、このラフテスカという国に赴いたのは今日が初めて。
 今日まで、一度も訪れたことはない。無論、ラフカ香なんてものの存在も知らない。
 以前に来たことがあるのなら、何らかの過程で香りが宿ったことが考えられるけれど、
 存在すら知らなかったものが宿るなんてことは、先ず有り得ない。
 Jは苦笑しながらクレタに小声で尋ねた。
「俺に内緒で、一人でここに来たことあるんじゃないだろうね?」
「…………」
 まるっきり心当たりはない。クレタも、ここへ来たのは今日が初めてだ。
 そもそも、こんなところに一人で来るなんて……僕がするはずもないよ。
 無闇で外界へ行っちゃいけないっていう決まりがあるのは勿論だし、
 それに一人で来ても面白くないだろうし……。
 神殿へと案内される道中、クレタはずっと首を傾げていた。
 僕、ここに来たことがあるの……? 一人で……?
 そんなこと、有り得ないよね……。
 もしも来ていたとしても……何の為に? 目的こそ検討がつかないよ……?
 どういうことだろうと首を傾げ続ける。
 けれど、その途中。
 神殿が視界に入った、ほんの一瞬。
(……あれ?)
 クレタは感じた。
 懐かしさのようなものを。
「クレタ、どうした?」
「あ……ううん。何でもない……」

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 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ『 ラージュウルフの毛束 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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