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<東京怪談・PCゲームノベル>


 漆黒の砂時計

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 I don't believe in you,
 but can't live without you.
 I'm not expecting everything,
 but just being by your side will not satisfy me.
 I'm not sure even myself, what will fulfill my desire.
 Can I really trust my heart,
 that is so much wanting you?
 Will I be truly happy,
 just being swayed by my feelings?

 貴方のことなんぞ、信じられない。
 けれど、貴方がいねば生きていられない。
 全てを望むわけじゃないけれど。
 でもね、傍にいるだけじゃ物足りないのです。
 どうすれば満たされるのか。
 それは、自分でも理解らない。
 貴方に惹かれていく心だけを信じて、
 身を委ねれば、幸せになれるのですか?

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 想い、想う、想い、想う。あなたへ真っ直ぐに。
 そうだね……近頃は、鏡を見る時間が増えた。
 苦手だったのに。鏡に映る自分を見るのが堪らなく嫌だったのに。
 こうして自分と向かい合うことで、幸せな気持ちになれるんだ。
 自分を好きになった? ううん、違う。そうじゃなくて……。
 この瞳。あなたがくれた、右の青い瞳に魅入られてしまうんだ。
 ねぇ、あなたは気付いているかな。気付いてくれたかな。
 眼帯を外されて、あなたの想いと目的と誓いを告げられた、あの瞬間。
 僕が……どれほど満たされたと思う?
 言葉でなんて言い表せないよ。凄く……凄く嬉しかった。
 この世で最も綺麗なものを述べろって言われたら、僕は間違いなく即答するんだ。
 それは、あなたの瞳だって。あなた自身も綺麗だけれど、それ以上に……。
 あなたの瞳を見ていると、ホッとする。吸い込まれそうになるけれど、それが心地良い。
 あれから半月。あなたの隣で僕は変わらぬ毎日を過ごしてきたけれど。
 あなたと目が合う度に、幸せ過ぎてどうしようって戸惑った。
 傍にいない時も、一緒にいるような。一緒にいられるような、そんな気がしたんだ。
 鏡に映る自身の姿。その右目にそっと触れ、クレタは憂いの溜息を漏らす。
 こうして触れる度、幸福感と同時に切なくもなるんだ。不安になるんだよ。
 僕にとって、あなたは、こんなにも大きくて深くて、かけがえのない存在だけれど。
 あなたにとって、僕は、どんな存在なんだろうって考えてしまう。
 こんなこと聞いたら、きっと笑うんだろうな……。
 何、くだらないこと聞いてるんだって……笑うんだろうな。
 僕のことを大切に想ってくれているのは理解ってる。痛いほどに。
 だからこそ、あなたは僕に右目をくれた。誓いの言葉を添えて。
 この瞳だけに限らず、あなたは僕に様々なものを与えてくれる。
 手に取り触れることが出来る物も、目には見えないものも。
 惜しみなく与えられて、満たされて。でもね……それが、僕を不安にさせるんだ。
 僕は? 僕が、あなたに与えられるものって何だろう?
 何を差し出せば、あなたを満たすことが出来るんだろう。
 そんなことを考えてしまうんだよ。
 あなたは、傍にいてくれるだけで構わないって言うだろうけれど。
 それじゃあ、僕の気が収まらないんだ。
 僕だって……あなたのことを大切に想っているから。
 与えられるばかりじゃなく、与えることもしたいって……そう思うんだ。
 ねぇ、くだらないことだなんて言わないで。笑わないで。僕は本気なんだ。
 どうすれば、どうすれば、あなたに応えることが出来る?
 あなたに、この気持ちを伝えることが出来る?
 笑って、頭を撫でて、抱きしめて、それで終わりだなんて。
 そんなの嫌なんだ。
 知って欲しいんだよ。僕が、どれほど、あなたを想っているか。
 嬉しくて微笑んでいるのは理解るけれど、あなたは、いつでも子供を見るような眼差しで僕を見る。
 ありがとう、って。そう言われても嬉しくなんかないんだよ。
 僕が欲しいのは、感謝の言葉なんかじゃなくて。
 想定外の想いの大きさに驚く……そう、あなたの驚く顔が見たいんだ。
 可愛いねって囁かれながら抱かれるのは嬉しいよ。嬉しいけれど……。
 それだけじゃ物足りない。だって、知って欲しいから。
 僕が、こんなにも、あなたを想っていることを。
 ねぇ、J。
 僕はね……あなたと離れている間に、色々な経験をしたよ。
 その中でも、人を想う気持ちだとか……そういうところの変化は大きいと思うんだ。
 過剰評価? そうかもしれないね……。
 でも、心から、そう思うんだ。
 だって、今、僕は、こんなにも求めているから。
 あなたを。

 愛しているから。

 雪のように真っ白な肌。細い首。眠る愛しき人の首へ添える両手。
 コクリと息を飲んで、クレタは呼吸を整えた。
 眠るJ。揺れる長い睫毛。添えた両手に力を込めれば、睫毛は更に揺れ動く。
 僅かに開いた口の端から、健気に、それでいて必死に、小刻みに繰り返される呼吸。
 息苦しさに目を覚まし、Jの瞳がうっすらと開く。
 バチリと交わる視線。
 その瞬間、クレタは首に添えていた両手をパッと離し、慌てて、その場から逃げ出した。
 バタンと閉じる扉。勢い余って跳ね返り、また僅かに扉は開く。
 キィキィと音を立てながら揺れる扉を見つめつつ、Jは、ゆっくりと身体を起こす。
 コホンと一つ咳払いをして、乱れ気味の呼吸を整えつつ微笑むJ。
 ふと窓を見やれば、外から風が吹き込んできて、黒いカーテンをユラユラと揺らす。
 ここは、風など吹かぬ空間であろうに。その風が意味するものは。
 ふっ……と淡く微笑み、Jは、自身の首に触れた。
 未だ残る、冷たい感触。愛しき人の肌の温もり。
 聞き取りが困難なほどに小さな声でJは呟いた。
「そんなに、欲しい?」

 *

 欲しいよ。
 欲しいと思うからこそ……僕は、あなたの首に手を掛けた。
 どれほど、どれほど、僕が、あなたのことを想っているか。
 そうすることで、教えてあげられるって思ったから。
 そうすることでしか、伝えられないんじゃないかって思ったから。
 ギルド本部の中心を走る、巨大な中央階段。
 その途中にある踊り場で、クレタは脱力感を覚えた。
 ペタリとその場に崩れるように座り込み、膝を抱える。
 震える手足、身体。クレタは自身に何度も問い掛けた。
 僕……何をしようとした?
 あなたを……この手で……?
 震えの原因が今ひとつ掴めない状況。
 怖い? 怖かった? 違う? 後悔? 悔しい?
 悔しい? どうして? どうしてって、それは……。
 あなたを、手に入れることが出来なかったから……?
 あなたに、想いを伝えることが出来なかったから……?
 あなたを、殺めることが出来なかったから……?
 頭の中を駆け巡る自問自答に目を泳がせるクレタ。
 そこで、ふと、クレタは胸に違和感を覚える。
 圧迫されるような……その感覚は。
(…………)
 懐から取り出したのは、砂時計。
 どう足掻いても砂が落ちることのない不思議な砂時計。
 左胸を圧迫していたのは、この砂時計だった。
 どうしてこんなものを持っているのか、そう疑問を抱くことはない。
 何故って、知っているから。自分が、この砂時計を持っている理由を。
 砂時計を見つめるクレタの瞳が、静かに静かに落ち着きを取り戻していく。
 数分後、クレタはスッと立ち上がり、階段を上って自室へと戻る。
 その姿は、いつもと何ら変わりないものだった。
 あんなにも動揺していたのに、呼吸もすっかり元通りになっている。
 一歩、一歩、一段ずつ階段を上りながら、クレタは奇妙なことを呟いた。
「……そうだよ。僕は、……なんだから」
 砂時計を懐に戻し、階段を上っていくクレタ。
 その口元には、淡い笑みが浮かんでいた。
 動きこそ普段どおりではあるものの、その表情には異変を感じ取れる。
 聞き取れぬ部分があったクレタの小さな呟きと、冷め切ったような表情。
 一階ホールにある柱の影に隠れていたオネだけが。
 それらを目耳にしていた。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ『 漆黒の砂時計 』への御参加、ありがとうございます。
 自望狂誘。アイテムとして砂時計を贈呈致しました。御確認下さい。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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