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<東京怪談・PCゲームノベル>


 ご奉仕

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 キミが傍にいれば、いつだって俺の意識は虚ろさ。
 でも、今日は一段と酷いな。妄想に歯止めが利かないよ。
 そんなに不安そうな顔で覗き込まないでくれ。
 ただでさえ、頭がイカれているのに。余計におかしくなりそうだ。
 大丈夫だよって言葉を返す度にイライラする。
 言葉じゃなくて、身体で教えてやろうか。
 ほら、大丈夫だろ? 寧ろ、いつもより元気だと思わない?
 ……そうやって、教えてやりたくなるから。
 頼むから。そんなに不安そうな顔で覗き込まないでくれ。
 その目は反則だろ。わかってて、やってんの……?

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「いい加減にしないと……怒るよ」
「…………」
 キョトンとした顔で、依然、Jを覗き込むクレタ。
 大丈夫なのかなと心配だから覗き込んでいる。まぁ、言うまでもない。
 珍しく、Jが風邪を引いて寝込んでしまった。
 今日は、一緒に外界へ遊びに行く約束をしていたのに。
 準備を整えて部屋に来たのだが、Jはソファでぐったりとしていた。
 パッと見ただけで具合が悪いことは明らかだった。何よりも顔色が悪い。
 そっと額に触れてみれば、思わずパッと離してしまうほどの熱さ。
 クレタは慌ててキッチンへ行き、ボウルに氷水を入れ、タオルを持ってJの元へと戻る。
 ひんやりと冷たいタオルに目を細め、Jは虚ろな意識の中、クレタの姿を確認した。
 同時に、テーブルの上のボウルが『サラダボウル』である事に苦笑を浮かべる。
 もっと他にあるでしょ……後でナナセに怒られても知らないよ?
 そうして微笑んでいられたのも束の間。Jは、間もなくして苛立ちを覚えるようになる。
 甲斐甲斐しく看病してくれるクレタ。それは有難い。非常に有難い。
 けれど……その姿が、あまりにも可愛くて参ってしまう。
 外出準備を整えた状態でJの部屋へ来たクレタ。
 今日は、いつもと違う格好だ。
 少しばかり女の子っぽいような気がしないでもない服装。
 滅多に見ることの出来ない帽子を被った姿は堪らなく可愛い。
 そんな状態で、不安気な表情で覗き込んでこられたら……キツいに決まってる。
 何がどうキツいのかは、敢えて言わぬままにしておくけれど。
「あー……。もう、本当、勘弁しろ。クレタ」
 溜息に混じりに言ったJ。言葉の意味を理解することは出来ないけれど、クレタは笑った。
 何だろう……どうしてか理解らないけれど、すごく可愛く思える。
 いつもは僕が、そっちの立場なのに。今日は、Jが子供みたい……。
 駄々を捏ねる子供みたいで可愛いなって思う……。
 言ってる意味が理解らない上に、ちょっと乱暴な口調だけれど。
 そういうところも、愛しく思える。……なんて言ったら、怒られるだろうなぁ。
 クスクス笑いながら、テーブルの上で何やら作業を始めたクレタ。
 うっすらと目を開き、Jは掠れた声で尋ねた。
「何やってんの……?」
「えとね……薬……」
 微笑み、花弁らしきものを見せて答えたクレタ。
 クレタが持っているのは、ビオナの花弁だ。
 クロノクロイツに住まう者だけに効果がある特効薬の材料。
 以前、ヒヨリが風邪を引いたときにも、この花を用いて特効薬を作った。
 その時、特効薬を作ったのはクレタではなくナナセで、
 クレタはビオナの花弁を採取するという役目を担ったけれど。
 あの日、ヒヨリが回復するのを待ちながら、クレタは特効薬の作り方をナナセに教えてもらった。
 もしかしたら、また、こうして誰かが風邪を引いて苦しむかもしれない。
 そうなった時に助けてあげられるように。その思いから、クレタはナナセに教えてくれと頼んだ。
 こんなにも早くに役立つことになるとは思っていなかったけれど、結果オーライ。
 調合を終えた特効薬の色と匂いを確かめ、クレタはウンと頷いた。
「はい。これ……苦いらしいけど、効くから。飲んで……」
「……嫌いな匂いがする」
「…………」
 プイッと顔を背けたJにクスクス笑いながら、クレタは身を寄せて口元へと薬を運ぶ。
 何度口元に運んでも、その度に顔を背けるJの姿は、子供そのものだった。
 嫌なら仕方ない……そう言って、クレタは口元へ寄せた薬を離した。
 が、飲ませないわけにはいかない。早く良くなって欲しいと願うが故の強行手段。
 飲ませることを諦めたと見せかけて、クレタはガッとJの口の中へ薬を押し込んだ。
 舌から喉へ伝い落ちていく苦味。やがて全身へ広がる深い極まりなき苦味に、Jは顔を歪めた。
「意外と巧みだね」
 眉を寄せながら必死に笑って言ったJ。
 クレタは照れ臭そうに微笑み返した。
 いや、褒めてるんじゃなくて、今のは嫌味のようなものなんだけれど……。

 薬が効いてくるまでは、待機することしか出来ない。
 ヒヨリの時は、すぐに効果が現れて、あっという間に治まったけれど。
 薬を飲ませて30分ほどが経過しても、Jに回復の兆しは見受けられない。
 もしかして……。その想いを胸にクレタは尋ねてみた。いつから具合が悪いのか、と。
 結果、予想通りの返答が返ってきた。
 3日ほど前から体調が悪いような気がしていたのだそうだ。
 どうして、もっと早く言ってくれないの……。クレタは苦笑しながらタオルを取り替える。
「心配するだろうなぁと思って」
「当たり前だよ……」
 すぐに処方しなかった場合、薬の効果が現れるまで時間が掛かる。
 遅くなればなるほど、その時間は長くなってしまうとナナセは言っていた。
 クレタは苦笑しながら帽子を脱ぎ、テーブルの上に置いて尋ねる。
「何か欲しいもの……ある? して欲しいこととか……何でも言って……」
 欲しいもの? して欲しいこと? そんなの、決まってるじゃないか。
 どうして今更そんなこと聞くんだ。理解ってて聞いてるのか?
 そうだとしたら、とんでもない悪戯者だ、キミは。
 虚ろな意識の中、Jはクッと笑いクレタの腕を引いた。
 コロンと転がり、Jの隣に寝転ぶ体勢になったクレタ。
 パチクリと瞬きしているクレタをジッと見つめながら、Jは本能のままに手指を動かした。
 何とも自然すぎて、一瞬呆けてしまったけれど。
 クレタはハッと我に返り戸惑いだす。
 軽やかにシャツのボタンを外していくJ。
「……あの」
「何?」
「……何を」
「して欲しいことある? って聞かれたから。要望を行動で示そうかと」
「……えぇと。添い寝……?」
「まぁ、そんな感じ」
「…………」
 淡々と、表情を変えぬまま言ってのけたJ。
 行動はいつものJだけれど。目が怖い。
 何となく落ち着かず、クレタはソワソワと動き出す。
「動くな。脱がし難い」
「……はい」
 どうして、病人なのに、こんなにも偉そうなのか。
 普通ながらムカッとしてしまうような展開だけれど、クレタは笑う。
 脱がせたシャツをポイッと放り、Jは尋ねた。
「何で笑う?」
「……可愛いな、と思って」
「…………」
「怒った……?」
「別に」
 目を伏せ、一言だけ返して、Jはギュッとクレタを抱きしめた。
 腕の中にスッポリと収まった状態で、クレタは、またクスクスと笑う。
 堪えながら笑っているのだが、小刻みに揺れる肩が逆効果だ。
 Jは溜息のようなものを漏らして、柔らかなクレタの髪に顎を埋めた。
 添い寝するだけで良くなるとは思えないけれど、あなたが望むのならお好きなように。
 もしも出来うることならば、頂戴。
 あなたの熱を、僕に頂戴。


 鼻をくすぐる香り。
 この匂いは……コーンスープの匂いだ。甘い香り……。
 ふっと目を開いたクレタ。そこでようやく、眠っていた事実に気付く。
 隣にはJ。Jは、枕に肘をついた状態で微笑んで言った。
「おはよう」
「……お、はよ……。ごめん……僕、いつの間にか寝ちゃった……」
「うん。気持ち良さそうに寝てたね」
「……いつから起きてるの」
「多分、1時間くらい前からかな」
「……。具合は……どうかな……」
 コツンと、Jの額に自身の額を宛がうクレタ。
 熱は下がったようだ。いつもの、ひんやりとした感触が額から伝わってくる。
 良かった……と安堵の息を漏らして微笑むクレタ。
 Jは、わしゃわしゃとクレタの頭を撫でつつ起き上がると、
 ソファ裏に放り投げたシャツを拾い、クレタの肩に掛けて言った。
「夕食出来てるらしいから、行こう」
「……うん。あれ? ……誰か、来たの?」
「うん。オネとナナセが呼びに来たよ」
「…………」
 何となく恥ずかしい気分だ。看病しに来たのに、ぐっすり眠ってしまうなんて。
 でも、まぁ……治ったなら良かった。お出かけの約束はなくなってしまったけれど、
 また、いつでも一緒に出掛けることが出来る。それこそ、時間は有り余る程にあるんだから。
 シャツを纏いながら、クレタは鼻をくすぐる甘いコーンスープの香りに目を伏せた。
 ハルカの作るコーンスープは絶品だ。
 どうして、あんなに美味しく作ることが出来るのか不思議で仕方ない。
 美味しいと約束された夕食にワクワクしながら、クレタは差し伸べられた手を取り立ち上がる。
 手を繋ぎ、みんなが待つ食堂へ。並んで歩くクレタとJ。
 その途中。
「くしゅん」
 小さなクシャミをクレタは零した。
 もしかして、伝染ったかな? と笑うJ。
 伝染して欲しいと願ったことは内緒にしたままクレタは微笑んだ。
 まさか、本当に伝染っていただなんて、この時は思いもせずに。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / ♂ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ♂ / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ『 ご奉仕 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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