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<東京怪談・PCゲームノベル>


佐吉の友達〜珍妙な出会い〜



 その日、人界では高校生として生きている天狗・天波慎霰はいつものように高校の友達と一緒に帰路の途中にあるファーストフード店で何か目的があるわけでなく、ただ何となしに放課後に暇だからと溜まってダラダラと過ごしていた。このまま、今日もなんとなく誰かが解散の意思を伝え、なんとなく帰るのだろうな、と思っていた矢先、慎霰は窓の外にあるものを発見して、眼を見開いた。
「な・・・なんつーアホな格好してんだ、アレ」
「天波、なんか言ったか?」
 ぽつりと慎霰の漏らした一言が聞き取れなかった友人が自分に言われたことかもしれないと聞き返してきたが、聞かれなくてこれ幸い、とばかりに慎霰はテスト前であったのか、少し出してあった勉強道具を鞄に適当に詰め込むと、
「悪ぃ、用事思い出した!」
と、脱兎の如く走って行った。
「なんだ、母ちゃんの用事でも忘れてたのかなぁ?」
「さぁ?まぁ、あれほど慌てて行くんだし、よっぽどの用事なんだろうよ」
 残された友人達はそんな風に納得しながら、慎霰が抜けてもだらだらとした時間を引き続き過ごしていた。





 一方、慎霰の方はと言うと、店外に見つけた『奇妙なもの』を探して大通りを走っていた。
(ったく、こんな人気の多い道を『あんな格好』でうろつくんじゃねぇよ。何処のやつか知んねぇけど、騒ぎになるようなことだけどはめんどくせぇからすんなよ)
 確かよく女の子が持っている着せ替え人形くらいのサイズだったので見つけるのは少し骨が折れるかもしれない。
 と、いうか『あの形』であれば見えなかった人間に蹴られて怪我をする可能性もある。
 なるべく早く保護して、説教をかました方がいい。
「見つけたぁ!」
 大通りから裏道に入る『それ』を見つけた慎霰は加速し、ちょうど『それ』が裏道に入ったと同時に後ろから鷲掴みにした。
「うおぉ!?誰だ!?何だ!?」
「何だ、はこっちの台詞だ!何処の狐か狸か知らねぇけど、人界に出るときはもっとまともな格好をしろってな・ら・わ・な・かっ・たのかよ!よく教科書に出てくる焼き物なんかに化けやがって・・・見つかったら博物館か研究所行きだぞ、お前」
 『その焼き物に化けた何か』を自分の方に向き直らせて、そう説教をしてやると、『何か』は目を白黒させて、
「何言ってんだぁ?」
と、言葉を返してきた。
「化けるって何だ?俺は掘り返された時から埴輪だぞ?ぽんぽこでもおいなりでもねーぞー!」
「埴輪・・・?まじもんの?へぇ、そりゃ失礼・・・つーかさぁ」
 慎霰は本物の埴輪だと言うことに感心もしたのだが、それ以上に感じたことが一つ。
 いや、多分この埴輪相手には狐狸の類と間違えたこと以上に失礼なのかもしれないが、堪えられない。
 悪いな、と少し思いつつも慎霰はぷるぷるとしばらく肩を震わせた後、ぶっ、と吹き出し大笑いし始めた。
「な、なんだよ!」
「いや、悪いんだろうけどさ。ぽんぽこって狸のことか?お稲荷はまだ許容内だけど、ぽんぽこって・・・めっちゃうけるんだけど!」
 ガキくせー、と、大笑いし続ける慎霰に当たり前だが腹を立てた埴輪はぴちぴちと、小さなその手で己を掴んでいる慎霰の手を叩いて抗議した。
「笑いすぎだぞ」
「あー、悪ぃ悪ぃ。不機嫌だな、お前・・・って当たり前か。よし、侘びとしてなんか奢ってやるよ。お前、腹へってないか?」
「昼ごはん前に飛び出してきたからぺこぺこだぞー」
「そうか、じゃあ飯だな。何食うかな」
 自分はついさっきまでファーストフード店にいたのでこってりとした物はご免なので、あっさりとしたものがいい。
 そばか何かだったらまだ腹に入るだろう。
「そばでも食うか。おい、お前そば食えるか?」
「食うぞー」
「そりゃ良かった。じゃあ行くか、身を乗り出しすぎるなよ」
 慎霰はそういうと、鞄の中に今まで掴んでいた埴輪を入れ、黒い翼を広げると、大空たかく舞い上がった。


「おお!すげぇ!たけぇ!」
「身を乗り出しすぎるな、っつただろ!このガキ!」
「ガキ言うな!佐吉だ!」
「佐吉?お前の名前か?」
「そうだ!さっきからお前、とかガキとかしか言われてないからむかついたー。名前で呼べ、つかお前の名前、聞いてない」
「あ、俺?俺も言ってなかったか。俺は慎霰、天波慎霰だ。人界で高校通ってるけど、天狗だ」
「てんぐー・・・ピノキオみたいな鼻してないぞ?」
「お前、絵本の読みすぎだろ・・・・」
 やっぱりガキだ、と、口に出したらまた暴れて落ちそうになりそうなので心の中に留めておいて、慎霰は近くにある古い寺を目指して翼をすすめた。








 慎霰の通っている高校からほんの数分の所にある古い木々が立ち並ぶ古い寺。
 ここは、住職はいるにはいるがあまりにも古いため、ここには住んでおらず、近所で家を建て、毎朝と夜のお勤めだけにくると言う寺であるため、慎霰のように人界で住む人外の者たちはここからよく自分たちの生来の場所である異界へと帰っていく、慎霰たちにとっては都合のいい場所なのである。
 中でも本堂の裏手の更に木々の奥にある最も大きな御神木は大きな穴ができており、団体でも通れるし、人目につかないことで人気の門で、慎霰も今日は佐吉という珍妙な客人を小脇に抱えているのでそこから異界へと行くことにした。


「へぇ、こっから皆行くのかー」
「お前は普段どこから行くんだ?家、遠いのか?」
「んー、家はこっから近いけど異界はいったことないなー」
「ってことはお前、ずっと人界にいるのか?」
「ん?うん、そかなー。うん、多分そだなー」
 地面におろしてやるなり、真っ黒で広いなーと、異界への空洞を覗き込んでいる佐吉を見て、慎霰は首をかしげる。
 魑魅魍魎の類はたとえ付喪神であろうと、元が人間や動物であろうと、他の同類に導かれたり、それこそ慎霰たち―天狗のように人界と異界を監視するような存在に紹介されたり、と一回は異界に足を運んでいるはずである。
 それでも一回も行ったことがないとは、本当に精神通り子供で生まれたばかりなので行ったことがないのか、それとも――
「なんか強いモンが側にいて、その必要がないか、だな」
「しんざーん、いかないのかー?」
「あー、行く行く」
 未知の空間に子供の好奇心が疼くのだろう。
 はしゃいで急かす佐吉を再び抱え込むと、異界へと続くその空洞に、慎霰は下りて行った。





「うおぅ!お祭りみたいだ!」
「ここは屋台通りの手前で、なお且つ住宅街の方に続く十字路も近いからな。入口が一目につかないってことだけじゃなく、そういう理由でここを使うやつも多いんだ」
「ほー」


 慎霰と佐吉が出た先には、少し離れた正面には提灯明りの列が、左右には仄かな明かりのある道が続いており、慎霰の言ったように恐らく妖たちの生活圏につながっているのだろう。
 慎霰たちが目指すわ、正面の屋台通り。
 縁日のようなたこ焼きやリンゴ飴の売っている屋台もあれば、人界でいう九州等のような麺類、居酒屋などの座って食べられる屋台もあり、お祭り好きなお子様埴輪としてはあっちもこっちも目移りしてしまう、まさに夢の国である。


「慎霰、行くおそば屋さんは何処にあるんだぁ?」
「すぐ近くだ。若い狐夫婦のやってるそば屋なんだけど、そばに付いてくる手鞠稲荷がめちゃくちゃウマいんだぜ」
「おいなりー!てまりさいずだと俺も食いやすくて好きー!」
「そっか、その口じゃでかいの食えないよな」
 少し歩くと、慎霰行きつけのそば屋に着いた。
 鉢巻をまいた男気のある若者狐と、その若妻である着物に和エプロンをつけた可愛らしい女性狐が経営しているその屋台は、昼ご飯とも夕ごはんとも言えないこの時間帯は人気があまりいなかった。
「兄さん、姐さん、今大丈夫?」
「おう、慎霰くん。学校帰りかい?こちとらいつでも開店よ」
「そらよかった。俺はさっきちょっと食ったからいつもより少し少なめで、んで、こっちには子ども用の量で頼んだ」
 慎霰がどん、と佐吉を屋台のカウンターにおくと、狐の夫婦は「可愛らしいお客さんだ」と、目を細め、すぐにこしらえるから待っててほしい、と佐吉の頭を撫でた。
「待ち遠しいな!」
「そうだな。なぁ、佐吉」
「んー?なんだぁ?」
「お前、そばとか稲荷寿司とか食えるみたいだけど、その他のもんでも食えるの?土とか特殊なもんは食わないわけ?」
「土を食うほど俺はあくじきってやつじゃねぇぞ?」
「何が好き?」
「ケーキとか、饅頭とか、オムライスとか」
「自分で作るわけじゃないよな」
「ブレスか有人が作るぞー」
 やっぱり同居人がいるのか、と納得する慎霰の正面で佐吉の出した名前に反応する人物が。
「あー、有人ってもしかして郊外に住んでる『霞谷有人』かい?」
「兄さん知ってんの?」
 茹でたてのそばを受け取りながら慎霰が若者狐に尋ねると、若者狐はうなづいて、
「なんでも天から堕とされた御仁で、選択しなった自分の過去を見せてくれるっちゅー噂でな。人間だけじゃなく、妖怪連中も行くことがあるらしい。腕も立つらしく、人間の若いやつを弟子にして、奇妙なちびこいもんと住んでいるって話だが、さっきっちゃんがそのちびこいもんか」
「有人、ゆーめーじーん」
「へぇ、堕ちた御仁ね」
 

 手鞠稲荷を嬉しそうに頬張っている佐吉を可愛いらしいと撫でている嫁狐を横目で見て、慎霰は考える。
 だから今まで異界に来たことがなかったのか、と。
 天から堕ちたものであると、本来その者が纏っていた清浄な気に当てられては困ると、異界の者が長い間近寄らないケースがある。その霞谷とかいう者も、そのパターンで異界の者に触れ合うことがなかったのかもしれない。
 だから、一緒に暮らしている佐吉もここの存在をしらかったと考えれば合点がいく。
(一応、その保護者っぽいのにもこっちを案内すべきかな)
 あんまり年上だったら好かないが、人界で騒ぎを起こされても面倒なので佐吉を送りがてら会ってみるのも仕事のうちだろう。

 あんまり、したくないけど。



「佐吉」
「おう?」
「送って行ってやるからお前の保護者、紹介しろよ」
「おう!お客さんくると、あいつらはりきりぜ!」
 そうかいそうかい、と米粒を頬らしきところにつけてはしゃぐ佐吉をあやしながら、慎霰は伸びないうちにとそばをすすった。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1928/ 天波・慎霰 / 男 / 15 / 天狗・高校生】



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■         ライター通信          ■
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天波慎霰様


ご依頼ありがとうざいます!
そして、遅れて申し訳ありません。

他の妖怪との交流とありましたので、屋台の狐夫婦を出してみました。
なぜか、屋台というと狐という発想が出まして、まだ若い天波さんと佐吉にはお兄さん、お姉さん感覚で接してくれたらなぁ、という感じになりましたがいかがでしたでしょうか?
また、調停者というイメージから新しく生まれたものを異界へ導く役目もしているのかな、と想像させていただきました。
そちらのイメージにそぐわなかったら、申し訳ありません。その際は時間をいただくかもしれませんが、リテイクを受け付けております。


佐吉も新しい友達ができてうれしそうなので、よろしければまた霞谷家に足をお運びくださいませ。