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<東京怪談・PCゲームノベル>


 スタッカートと口封じ

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 深夜0時を過ぎた瞬間。HALの本質は、明らかになる。
 真夜中でも、校内は大賑わい。生徒たちは『ハンター』へと肩書きを変え、
 美味しい仕事はないかと、目をギラギラさせながら獲物を捜し求める。
 入学・在籍して数日が経過。いよいよ、自分もハンターとして本格的に活動。
 自分の意思で、というよりは、学校の方針というか雰囲気に流された感じだけれど。
(スタッカート、ね……)
 中庭にあるボードに貼られたフライヤーを一枚、手に取って見やる。
 ハンターとして、捕獲・討伐せねばならぬ存在、スタッカート。
 イラストを見る限り、妖怪というよりは……魔物?
 絵本や神話で『害』として登場する悪魔のような風貌だ。
 どうして、こんなものが出現するのか。いつから出現したのか。
 わからないことは、山ほどある。てんこもりだ。
 教員に尋ねてもみたけれど、曖昧な返答しか返ってこない。
 遠回しに『自分で理解しろ』と言っているような感じだった。
 まぁ、何せよ、動かなければ何も始まらない……か。
 何事もそうだ。ただジッと動かず待っていても、何も起こらない。
 知りたいことがあるのなら、未来を変えたいと思うのなら、先ず動かねば。
 うん、と頷き、中庭を後にする。手には、剥がしたフライヤー。
 スタッカート討伐。やってみようじゃありませんか。初陣、いきますよ。

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 STACC.HUNT // NOID−BR00383
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 スタッカートレベル:C / 出現確認:赤坂サカス付近
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 報酬:30000 / ソロ遂行・グループ遂行 両可
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「初仕事っ! 楽しみだね〜♪」
「そうね。でも、ちょっと……落ち着かないかも」
「夏ちゃん、緊張してるの?」
「そうかも……?」
「冗談ばっか〜♪」
「う〜ん……?」
「ね、ね、三人で仕事しない?」
「三人?」
「梨乃姉も誘おうよ〜」
「うん。いいわよ」
「よ〜し、んじゃ、早く声掛けなきゃ!」
「あ、待って。雪ちゃん」
 ピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねながら先を行く雪穂を追う夏穂。
 二人は今宵、ハンターとしての活動を開始する。
 初陣だからと、様子見も兼ねて、レベルはC。
 スタッカートレベルは5段階で、SSが難易度最高。
 次いで、S・A・B・Cとなっている。
 現在時刻は、0時8分。クラスメートの梨乃を誘うのならば急がねばならない。
 何故なら、他の誰かに取られてしまうからだ。
 梨乃の体術は校内でも評判。その為、彼女には毎夜、誘いの声が掛かる。
 彼女が正式なチームに属せずにいるのは、これが理由のようだ。
 一目散に雪穂が向かったのは図書室。
 読書好きな梨乃は、ここにいる可能性が極端に高い。
 今日も今日とて、梨乃は本棚と格闘していた。
 取りたい本が高い位置にあるが故、手が届かない状況。
 すぐ傍に台があることには気付いているはずだ。ムキになっているのか。
 クスクス笑いながら歩み寄り、雪穂は梨乃を誘う。
「梨乃姉〜」
「んっ。あ、雪穂ちゃん。夏穂ちゃんも。どうしたの?」
「一緒に、お仕事行こうよ〜」
「え? あぁ、今日からだったね、確か」
「うん。ね〜。一緒に行こうよ〜」
「ふふふ。うん、いいよ。ターゲットは決めた?」
「バッチリだよ! これっ」
 ボードから剥いできたフライヤーを見せてニコニコと微笑む雪穂。
 記された情報を見やり、無理がないかを確認する梨乃。
 フライヤーを見ながら、作戦会議のような会話をする二人の傍で、夏穂は目を伏せて微笑む。
 雪ちゃん……梨乃さんに懐いてるのよね。すごく。
 優しくて面倒見が良くて、素敵な人だと思うわ、私も。
 でも、ちょっとだけ……ヤキモチみたいな感覚があったりもするの。
 取られちゃったみたいで悲しいな、とか。言わないけど……。ふふ。

 ターゲットの出現が確認されたのは、この辺り。
 時間が時間なだけに人通りは少ないが、無数の街頭が周囲を照らし、見通しは良い。
 標的を定めれど、出現してくれないことには、どうすることも出来ない。
 三人はビルの屋上で、標的の出現を待った。
 見上げれば、空には綺麗な三日月が浮かんでいる。
「綺麗だね〜。夏ちゃんの持ってる弓と同じ形のお月様だ〜」
「弓張り月とも言うらしいわよ」
「へぇ〜。何か、かっこいいかも!」
 空を見上げながら微笑み、楽しそうに御話している雪穂と夏穂。
 月明かりをスポットライトに踊る妖精のようだ。
 お揃いの黒い着物を纏っていることも、そう思わせる要因の一つ。
 二人が動く度、着物に描かれた蝶と華も嬉しそうに舞い踊る。
 ここ、現場へ来るまでは緊張していた様子の夏穂も、すっかりリラックスしているようだ。
 二人の可愛らしい姿に微笑みながら、懐から携帯を取り出して時刻を確認する梨乃。
 時刻は、深夜1時。レベルCのスタッカートならば、そろそろ湧くはず……。
 梨乃の、その読みは的中。突如、冷たい風が吹きすさぶ。
 風を頬に感じ、すぐさま異変を感じ取った雪穂と夏穂。
 動き回ることを止め、二人は梨乃の傍へと駆け寄る。
 ピンと張り詰めるような雰囲気。
 三人が揃って空を見上げると……。
 まるで、月から出てきたかのように、標的が湧いた。
 スタッカートなる存在を初めて目の当たりにする雪穂と夏穂。
 その姿は、ドラキュラによく似ている。
 フライヤーに記されていたイラストは竜のようだったけれど。
 色々なタイプが存在するのだろうか。他には、どんなタイプが存在するのだろうか。
 というか……どこから湧いてきたのだろう。本当に、月から出てきたかのように見えたけれど、気のせい?
 二人があれこれと考えていると、スタッカートが大きな翼をバサリと揺らして…… "言った" ―
「ふん。女3人か。ナメられたものだな、俺様も」
 スタッカートが発した言葉に、目を丸くしている夏穂。
 見た目からして、御話することは不可能なのではないかと思っていたんだけれど。
 あなた、人語を扱うことが出来るのね。御話することが、出来るのね。
 目をキラキラと輝かせ、一人で勝手に踏み出し、スタッカートの真下へと移動した夏穂。
「夏穂ちゃん、待っ……」
「あ〜。無駄だよ〜。いつもあ〜だからね〜」
「そんな……」
 悪い癖というか何というか。短所であり長所でもある、それ。
 夏穂は、人外なる生物が大好きだ。動物も然り。
 それらと会話することが出来るだなんて、これ以上の歓びはない。
 梨乃が必死に引き戻そうとするものの、夏穂は聞く耳持たず。
 あなたの御名前は何ていうの? あなたは、どこから来たの?
 目を輝かせながら、上空を漂うスタッカートに、あれこれと話し掛ける夏穂。
 だが、会話が成立することはない。スタッカートは夏穂に目もくれず。
 身構え、臨戦態勢となった梨乃と雪穂に意識を集中してニヤリと笑う。
「雪穂ちゃん。頑張ってね」
「梨乃姉もねっ」
 アイコンタクトに微笑み。梨乃は、高く舞い上がる。
 牙を剥く、その姿に覚える少しばかりの興奮。
 スタッカートは、ヒャハハと笑い、翼を大きく揺らして梨乃の蹴りを避けた。
 翼など持っていないのに、脅威の滞空時間。
 初撃を避けられたものの、梨乃は、クルッと身を捩り、お次は回し蹴りを。
 見事な身の捌きに感心し、ピュウと口笛を鳴らして嬉しそうに笑うスタッカート。
 これは、面白いことになりそうだ……とワクワクしたのだろうけれど。
 満喫する時間なんぞ与えてもらえるものか。ご愁傷様。
 スタッと、梨乃が着地すると同時に。スタッカートの背中に、ゾワッと走る『予感』
 振り返れば、月明かりの逆光に照らされる影。
 スペルカード【大鎌】発動 ―
 ヒラヒラと着物を揺らしながら、夜空を漂う雪穂。
 その手に携えているのは、巨大な鎌。雪穂はニヤリと口元に笑みを浮かべると、
 ブンブンと鎌を振り回しながら、驚きを隠せずにいるスタッカートへ牙を剥く。
 空を跳ねるように移動し、翻弄の暁。
 咄嗟に鎌を受け止めたものの、強靭な翼は、ボロリと綻んだ。
(こいつ……)
 只者ではない。そう把握し、手抜きすることなく戦りあうことを決めたスタッカート。
 だが、決意したところでどうにもならない。何故って……?
「手遅れってやつだ。残念だったな」
 クッと笑い、地上にいる夏穂を見やった雪穂。
 その眼差しに頷き、夏穂は懐から銃を取り出し、スタッカートの翼めがけて発砲。
 両手、赤と青の二丁拳銃。放たれた二つの弾は、的確に翼を捉える。
「っ……くそ!」
 翼を貫通し、月に向かって飛んでいく二つの弾を見やりながら悔しそうに舌打ったスタッカート。
 そんなスタッカートの耳元で、雪穂がクスクス笑いながら囁いた。
「余所見か。随分と余裕だな?」
「くっ……」
 バッと顔を戻すものの。まさに、手遅れ。
 雪穂と目が合った瞬間、スタッカートの身体は、真っ二つに斬り裂かれた。
 上半身と下半身。バラバラになって夜空を舞う己の身体。
 敗因は油断か……。まだまだ、だな。俺も。
 夜空を舞いながら消えていくスタッカート。
 最期に見たのは、月明かり、その逆光に照らされる雪穂の冷笑。 

「ミッションクリア……だな。お疲れさん」
「ミッションクリア……お疲れ様」
 声を揃えて、完了と労いの言葉を吐き落とした雪穂と夏穂。
「…………」
 地上にて、二人の動きを見ていた梨乃は目を丸くしていた。
 まさか、ここまでだなんて。思いもしなかった。
 あちこちで噂は耳にしていたけれど。この二人……もしかすると……。
 そこでハッと我に返れば、騒然とする街の声が届く。
 深夜の騒動。何事かと、ビルの下に人が集まってきているようだ。
 大事にならぬよう、事情を説明せねばならない。
 まぁ、スタッカートのことは伏せ、適当に、はぐらかして。
 何故なら、HALに関与していない人物には、スタッカートを視認することが出来ないから。
「私が説明してくるわ。二人は、先に学校に戻ってて」
 雪穂と夏穂に、そう告げて、パタパタと駆けて行った梨乃。
「じゃあ、戻るか」
「そうね」
 顔を見合わせ、微笑み合いながら一歩を踏み出した二人。
 その時だ。
「―!」
 背中に刺さる視線。ネットリと絡みつくような……嫌な眼差し。
 パッと振り返った二人の目に映ったのは、意外な人物だった。
 拍手で二人を称えながら、物陰から姿を表した人物。
 それは、HALに在籍している……保健医だった。
 直接話したことはない。ただ、良くない噂だけは耳にしている。
 気に入った生徒を好き勝手に玩具のように扱っているだとか、
 保健室で、いかがわしい行為を繰り返しているだとか。
 ひとつだけ、褒められる点があるとするなれば、治癒能力。
 保健医、Jの治癒能力は、並外れたものだということくらい。
 いつから、そこにいたのか。どうして、そこにいたのか。
 疑惑の眼差しでJを見やる雪穂と夏穂。
 その冷たい視線に、Jはクックッと笑う。
「お見事だったよ。二人共。見に来た甲斐があったね」
「……あなた、ここで何してるの」
 睨みつけながら尋ねた夏穂。
 Jは、肩を竦めて笑いながら二人に歩み寄ると、
 二人の綺麗な白い肌、その頬にそっと触れて耳打った。
「俺がここにいたことは秘密。出来るね? 二人共」
 口元に笑みを浮かべながら警告したのだが。
 すぐさま、Jは表情を強張らせて二人から身を引いた。
 その理由は、至って簡素なものだ。
「夏に触るな。クソガキ」
「お前……。雪に触れるな」
 声を揃えて警告返しをしてきた二人の眼差しが、光を失っていたから。
 スペルカード【大鎌】の詠唱により、人格が変わっている雪穂の口調は頷けるが、
 夏穂の口調までもが冷めきっているのは、どういうことか。
 月明かりに照らされる、幼き双子。
 光を失った目で見やる、その姿は異様であり異形。
 なるほど。そういうことか。どういうことなのかと疑問に思っていたんだけれど。
 ありがとう。これで、ハッキリしたよ。改めて、来て良かったと思う。
 口封じの必要は、なさそうだ。何故って、キミ達は俺を拒んでいるから。
 興味がない、というべきかな。それもまた、切なかったりするけれど。
 封ずる手間が省けたのだとプラスに考えることにしよう。
 あぁ、そんな冷たい目で見ないでおくれ。
 我慢できなくなってしまうじゃないか。
 我を失ってしまう前に、退散するとしよう。
 えぇと。名前は、何て言ったかな。
 あぁ、そうだ。雪穂と夏穂。
 今度、保健室においで。ゆっくり、話がしたい。
 知りたくない? 自分の知らない、本当の自分。
 ふふ。何言ってるんだ、って目だね。いいよ、構わないさ。
 いつか知りたくなる時が、必ず、やって来るから。
 その可愛い顔の裏に隠された、残忍な素顔。
 キミたちが、全てを知る時。それは、俺が果てる時。
 またね、雪穂、夏穂。あぁ、そうだ。お仕事、お疲れ様。
 フッと煙となって消えたJ。月へと昇っていく、その煙を見上げながら雪穂と夏穂は、険しい表情。
 事情説明を終えて戻ってきた梨乃は、二人の異様な雰囲気に首を傾げざるを得ない。
「どうしたの、二人共。何か、あった……?」
 聞き慣れた綺麗な声でハッと我に返る雪穂と夏穂。
 我に返ると同時に、二人が発動したスキルの有効時間も過ぎる。
「何でもないよ〜。ねっ、夏ちゃん♪」
「うん。月が綺麗だなって。ね、雪ちゃん」
 何事もなかったかのように振舞った理由? そんなものは、ない。
 隠しているつもりでもない。ただ単に、言う必要がないと思っただけ。
 真夜中、浮かぶ銀の月。
 あぁ、戸惑いの三日月よ。

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 7192 / 白樺・雪穂 / 学生・専門魔術師
 7182 / 白樺・夏穂 / 学生・スナイパー
 NPC / 梨乃 / HAL在籍:生徒
 NPC / J / HAL在籍:保健医

 シナリオ『 スタッカートと口封じ 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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