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<LEW・PC迎春挿話ノベル>


謹賀新年・屋台村だもぅ

□Opening
 いらっしゃいいらっしゃい。さぁさ、新春屋台村はこちらです。え? ここですか? はい、ここは、見ての通りの屋台村ですもぅ。
 昨日まではなかった?
 その通り、イベント商売でね、ここは正月のみの営業だもぅ。
 ちょっと覗いてみてください。色んな屋台をご用意しています。おでん、綿菓子、林檎飴、ラーメン、射的、金魚すくいにヨーヨー釣り。大人はゆっくり温まり、子供は楽しく遊んだら良い。勿論、その逆もしかり。
 年始のご挨拶に顔合わせ。パーティーなどにご利用ください。
 え? 去年は鍋? ははは。毎年持ち回りでしてね。今年は、私が店主だもぅ。だから、屋台村にしたんですよ。え? ははは。今年はヘルシー路線だからね。肉料理はないよ。ヘルシー路線だからね!!
 ささ、私の事などどうでも良い。
 どんな遊びを楽しみますか?

□01
 どーんと言う鐘の音が辺りに響く。後ろを振り返ると、まだまだ除夜の鐘つきの列が続いていた。
 シュライン・エマは、既に鐘をつき終えた二人の元へ小走りに駆け寄る。
 今年も、去年と同じく除夜の鐘つきに訪れた。
 草間零が大きく手を振っている。隣では、草間武彦が退屈そうに腕組みをしていた。退屈そうにしている割に、出かける時にはいそいそとコートを羽織っていた。わくわくしながら鐘をついた姿も見た。いわば、この不機嫌さは、完璧にポーズなのだ。そう思うと、可愛いと感じてしまうのだから仕方が無い。
 三人並んで夜の道を歩く。
 やがて、どこかで見た事のあるような小道に出た。
 武彦もそれを感じたのか、ぴたりと足を止める。
「どうしたの、武彦さん?」
 シュラインは、先を促すように小首を傾げた。
「いや、この先に、……あれ?」
 何かが引っかかっているのだろうが、すぐにピースがかみ合わなかったようだ。
 武彦が迷っている間に、大きな手拍子が聞こえた。
「いらっしゃいいらっしゃい。さぁさ、新春屋台村はこちらです」
 突然現われた男が、大きな声でそう叫ぶ。男は白黒の模様が入ったエプロンを着用していた。
 出た……。そう言って、嫌そうに呟いた武彦。
 しかし、
「あら、今年は屋台村なの」
「屋台村ですかー」
 シュラインと零は、顔を見合わせにっこりと笑いあった。去年の鍋料理は本当に幸せだった。だから、こっそりと、実は今回もあったら良いのにと期待していたのだ。
「そうだもぅ。屋台村、いかがです?」
 特徴のあるエプロンを付けた男は、去年聞いたような説明を早口でまくし立てる。
 期間限定のイベント商売だと言う事。様々な屋台を用意しているという事。そして、ヘルシー路線のため、肉料理はないと言う事。
「ふぅん……ヘルシー路線かぁ。そうよねぇ、肉はアレだものねぇ」
 肉料理がないと言う事を聞いて、シュラインは目を細める。
 含みのある笑いで顔を近づけると、店主は脂汗を垂らしながらぶんぶんと首を縦に振った。
「そ、そうだもぅ、アレだもぅ……って、違う! な、な、何のことだかさっぱりだもぅ」
「ふふふ」
 正月だから甘酒もあるかもしれないし、骨酒を出してくれる店もあるかもしれない。
 にこにこと期待膨らむ零とやれやれと肩を落とす武彦。二人に挟まれて、シュラインは屋台村へ入店した。

□02
 入口は、確かに小さかった。去年の鍋料理屋と同じような広さを想像していた。
 けれども。
「広いですねー」
 零が額に手をやり遠くを眺める。入口を抜けた瞬間、目の前には何十件と立ち並ぶ屋台の風景が広がったのだ。客も大勢居る。射的や金魚すくいなど、遊べる屋台では人だかりもできていた。
「もしもの時の集合場所を決めておこっか?」
 周りを見て、シュラインはそう提案する。かなりの人なので、はぐれてしまわないか少し心配だ。
「そうだな、適当に……」
 同じ考えだったらしく、武彦は目印になりそうな物をきょろきょろと探した。
「はい。あのお面が良いと思います」
 すると、珍しく、零が主張する。彼女がびしりと指差す先には、色とりどりのお面が一面に飾られた屋台があった。
 その店は、可愛いアニメのキャラクターのお面、特撮ヒーローのお面、ファンシーな動物、加えて、狐や七福神などリアルなお面も取り扱っているようだ。子供向けの商品なのだろうけれど、やけにリアルな福禄寿などは夢に出てきそうだった。悪い意味で……。
「お面て……。まぁ、確かにインパクトはあるが……」
 首を傾げながら、並ぶお面を覗き込む武彦。
 その隣で、シュラインは気がついた。熱心にお面に視線を向ける零に話しかける。
「リスのお面、可愛いわね。プレゼントしよっか?」
「え?!」
 零は驚いたようにシュラインを見上げた。期待と不安の入り混じったような視線。良いのかな? でも、欲しいな。そんな気持ちが伝わってくる。
 シュラインは控え目な主張に応えるため財布を取り出した。
 入口で呼び込みを行っていた店主とお揃いのエプロンを身に付けた男がひょいと顔を出す。お面屋台の販売員だろう。男に硬貨を手渡しリスのお面を受け取った。
「はい」
「あ、有難うございます!」
 お面を手渡すと、零の顔がぱっと輝く。よっぽど嬉しかったのか、何度も何度も角度を変えて眺めている。
 シュラインは、お面を零の頭に、斜めに付けてあげた。
「えへへ。似合いますか?」
「うん」
 とっても可愛いわよ、と、しっかりと頷いて見せると、零はもう一度、嬉しそうにお面を撫でた。

□03
 とりあえず、一通り見てまわろうと三人は屋台を冷やかしながら歩いた。
 綿菓子、たこ焼き、スティックポテトなどなどお馴染み縁日の屋台に並んでいるような食べ物屋台。
 金魚すくい、ヨーヨー釣りはお約束か。
 その他、ラーメンやおでんなど落ち着いて話ができる場所もある。
 シュラインと武彦は後で休憩で着る場所を探しながら並んであるいていた。
 零はと言うと、屋台村を満喫していた。手に入れたヨーヨーをばしゃばしゃと飛ばしながら、にこにこと二人の後ろを歩いている。
 相変わらず、人込みは凄い。
「……」
 シュラインは、ふっと、視線を泳がせた。
 自分でもどうしてだか分からないのだけれど、目の端に見えた鮮やかな赤い色が気になったのだ。
 ああ、林檎飴か。丸ごと一つの林檎に飴をたっぷりと塗ってあるお菓子だ。ぼんやりと考えていると、武彦が林檎飴の屋台の前で立ち止まる。
 そんなに見つめていたわけではないと思うけれども……。
 シュラインが武彦を見ると、彼はにっこりと笑顔を作った。
「林檎飴、甘そうだわね。プレゼントしよっか?」
 それは、精一杯、先ほどのシュラインを真似してみせた武彦の声。全然似てない。
「え?! 有難うございます。気持ち悪いから、二度としないで?」
 シュラインは、これ以上無いような最高の笑顔で切り返した。
 我慢できなくなったのか、武彦は肩を揺らして笑い始める。シュラインも、可笑しくなって笑ってしまった。ありえないような広い屋台村で、武彦は少しだけ緊張を解き興信所で留守番をしている時のような表情を見せる。
 ひとしきり笑うと、武彦は本当に林檎飴を買ってきた。こんな大きな林檎をどうしろと言うのだろう。ご丁寧に、セロファンも剥がして貰ったようで、今から食べる他無い。
 けれどもせっかくのプレゼントなので、恭しく林檎飴を受け取った。
 本当に食べ切れなくなったら、助けてくれるだろう。
 飴の部分は意外と薄かったので、一口かじった。甘い飴と林檎の酸味が口の中で溶け出して、それはとっても美味しい。屋台の醍醐味のような味わいだった。
「ふふふ。有難う。美味しい……、あら?」
 そんなに林檎飴に集中していたのだろうか。シュラインが振り向くと、いつの間にか武彦や零の姿がなかった。
 どうやら、リラックスしていたのは武彦だけではなかったらしい。
 先ほどまであんなに近くに居たのに、人込みの中で彼らを見失うなんて。シュラインは、我ながらその事にびっくりしてしまった。耳を澄まして二人の足音を探るが、こう人が多くては正確に把握できない。
 さて、どうしようか。
 屋台の前で待とうかとも思ったけれど、営業の邪魔になってはいけない。
 はぐれたら入口付近のお面屋台で待ち合わせているし……。
 まぁ、何とかなるだろう。
 シュラインは、一人で歩き出した。もしかしたら、休憩に良い屋台に出会えるかもしれない。林檎飴片手に、先に進む。
 しばらく呼び込みをする屋台などを見ながら歩いた。
 広い屋台村もそろそろ終わりに近づいている。
 さて、そろそろ戻ろうかと検討を始めた、その時。
 ぐい、と、空いている腕を引っ張られた。
 すれ違う人の何かに引っかかったのか。いや、違う、これは人間が引っ張る力だ。まさか、こんな所で物騒な事にはなるまいと思うのだが、シュラインは咄嗟に身体に力を込めた。
「あ……!」
 けれど、すぐにそれも間違いと分かる。
 見上げると、肩で息をする武彦の焦った顔があった。
「悪い。大丈夫だったか?」
 後ろを歩いていたはずの零の姿がなかったので探しに戻っていたのだと言う。
 全く武彦は悪く無いのだけれど、真剣に謝罪する姿が心に残る。一応、女性二人を引率していると言う自覚があったらしい。
「平気。こちらこそ、勝手に進んでごめんなさい」
 静かに首を振って見せると、ほっと安堵の息を漏らした。
「行くか。そろそろ、一休みしたい」
「ええ」
 零には先に集合場所へ行くよう指示したそうだ。
 人込みの中、今度ははぐれないよう、手を繋いで歩いた。

□Ending
「あっ。シュラインさーん」
 約束のお面屋台の前で、零が大きく手を振っている。その腕には、大きく膨らんだ綿菓子の袋とピンクのビニール人形。はぐれた時よりも、更に増えている。
「ごめんなさい。大丈夫だった?」
「そんな! こちらこそ、ごめんなさい。つい、はしゃいでしまいました」
 しょぼんと零が頭を下げると、可愛いリスのお面も一緒に沈んだ。
「まぁ、再開できたからいいさ」
 武彦はシュラインが食べ切れなかった林檎飴をバリバリ食べながら辺りを見回す。
「今日は、日本酒だな。どうだ?」
「そうね。温まって行きましょうか」
 三人で落ち着ける屋台に入る。
 きっと、心も身体も温かくなれる。今年一年が、そうでありますように。
<End>


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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シュライン・エマ様

 明けましておめでとうございます。いつも、ご参加有難うございます。
 お任せをいただいた部分は、いかがでしたでしょう。書いていて、自分も屋台で色々食べている気分になっていました。とても楽しく書かせていただきました。
 それでは、今年もよろしくお願いします。