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<東京怪談・PCゲームノベル>


 Dear

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 あなたの目は、いつもどこか虚ろだ。
 見つめ合って話していても、どこか遠くを。
 自分ではなく、遠くを見据えて話しているように思える。
 心ここに在らずといえば切ないけれど、あなたの眼差しに不満を抱いたことはない。
 無理なのだと理解っているから。その眼差しまでも手に入れることは出来ないのだと。
 ……そう、言い聞かせていただけだ。本音は違う。
 どうすれば、あなたと真に視線を交えることが出来るだろうかと、思案していた。
 容易いことではなかった。あなたはまるで、雲のような人だ。
 こんなにも傍で、時を共有して生きてきたのに、まだ、あなたを掴みきれずにいる。
 だからこそ、あなたは魅力的で。魅了されてしまうのかもしれないけれど。
 欲して止まなかった、いいえ、止まずにいる、あなたの視線。
 どんなに求めても、手に入れることが出来なかったのに。
 あなたは本当に……雲のような人だ。
 けれど、あなたと同じくらい、自分も珍妙な類。
 翻弄されているというのに、幸を覚えているのだから。

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「ねぇ……」
 見上げ、小さく放ち、長らく続いた沈黙を破る。
 クレタの声と眼差しに応じてソファの背もたれに預けていた首を、ゆっくりと起こすJ。
「何?」
 虚ろな目。潤んだ、虚ろな目。
 声も、いつもと違う。掠れたような、聞き取りにくい声になってる。
 そりゃあ、そうだよね……。こんなに飲んだら、喉を潰すのも仕方のないこと。
 呼ばれ招かれて、言われるがまま、Jの部屋へと足を運んだクレタ。
 早々に、クレタの鼻は嗅ぎ取った。部屋に充満しているワインの香り。
 飲んでいなくても匂いだけで、こちらまで酔ってしまいそうになる。
 僕は……お酒、好きじゃないんだ。何ていうのかな……怖くなるっていうか。
 意識が朦朧とする感覚にトラウマのようなものを覚えてしまうのかもしれない。
 美味しいとも思えない。ただ、苦いだけ。……だからこそ、重なって怖くなるのかな。
 ねぇ、の後に続く言葉はね……あなたの身を案ずる言葉。
 どうして、こんなに飲んだの?
 あなたが、お酒を飲むことは日常茶飯事だけれど、
 意識が朦朧とするまで飲むだなんて。
 あなたの、そんな顔、初めて見るよ。
 あなたの、そんな声、初めて聞くよ。
 いつか、あなたは僕に言った。
 お酒を飲みすぎると心が麻痺するから嫌なんだ、って。
 心が麻痺するって、どういうことなのかなって……僕はずっと考えていたけれど。
 今、こうして酔いに溺れるあなたを見て、どういうことなのか理解したよ。
 普段は絶対に見せない顔。弱々しく、消えてしまいそうな表情。
 そうやって、弱い部分が露わになることを、あなたは嫌っていたんだね。
 ねぇ、もう一度だけ尋ねさせて。
 どうして? どうして、自ら望んで酔い溺れたの……?
 何か、辛いこと、悲しいことでもあった……?
 逃げたくなるようなこと……あったの……?
 あなたが語りたくないのなら、話さなくていいよ。
 無理に聞き出そうだなんて、そんなこと絶対にしないから。
 語らぬのなら、ただ傍に。こうして身を寄せておくから。
 目を伏せて肩に頭を預けたクレタを見やり、長い睫毛が揺れる様に暫し見惚れる。
 数秒の沈黙の後、Jはクスクス笑いながら、クレタの髪を指に絡めた。
 そうだね。キミの言うとおり。弱くなることが嫌だった。
 いや、違うな。弱いことがバレてしまうのが嫌だった。
 何か特別に悲しいことがあったわけじゃない。
 俺はね、一人でいるとき、いつもこんな感じ。
 傍に誰もいなければ、こんなにも脆く弱い男になる。
 キミや仲間の前では淡々と、何事にも動じないクールな男でいるけれど。
 いつか、バレてしまうんじゃないかと不安で堪らないんだ。
 クールな男だなんて、そんなものは程遠い。
 少し触れただけで粉々に砕けてしまうくらいに脆い男だってことが。
 具体的に述べることは出来ないんだ。
 何がどう怖いのかと尋ねられても、理解らない。
 ただ漠然と、不安になるんだ。
 まるで、世界に自分だけ、一人っきりになったような気がして。
 おかしいよね。一人じゃないのに。
 こうして呼べば、キミはいつだって傍に来てくれるのに。
 何よりもキミを求めている、そんな一人の夜。
 今まで一度もキミを呼ばなかったのも、怖かったからかな。
 キミに見られてしまうのが、怖かったからかな。
 こんなに弱い俺を目の当たりにしたら、幻滅するんじゃないかって。
 クスクス笑い続けながら髪を指に絡め、スルリと解いて、また絡める。
 呟くように心の中を打ち明けていくJの声に耳を傾け、クレタも淡く微笑んだ。
 こんなことを言ったら、あなたは怒るかもしれないけれど。
 今更だよ。
 どれだけ、あなたと僕が時間を共有したか覚えてる?
 あなたが、どこか儚く物憂げで、とても弱い人なんじゃないかって。
 僕は、ずっと、ずっと前から気付いてた。
 気付いたからこそ、求めて願ったよ。
 あなたが、全てを脱ぎ捨ててくれやしないかと。
 幻滅なんて……そんなこと、あるわけないじゃないか……。
 ありえないよ。だって僕は、そんなあなたを求め続けてきたんだから。
 普段の勝気で高慢で、何もかもを理解っているかのような、あなたの言動も大好きだけれど。
 脆く弱い、そんなあなたをも、僕は愛しく思うんだ。
 もっと理解りやすく、本音を打ち明けるとするなら、
 隙が欲しかった。
 僕が、あなたを捕まえられるように、隙を作って欲しかったんだよ。

 ふと顔を上げれば、交わる視線。
 今にも消えてしまいそうな、儚く虚ろな眼差し。
 ずっと欲しかったのは、その眼差し、その瞳。
 奥深くにある、あなたの弱く脆い部分。
 いいですか? あなたの瞳を……あなたを捕まえても、いいですか?
 様子を窺うようにして、そっと頬に触れれば冷たい感触。
 淡く微笑み目を伏せたJ。言葉はなくとも、何よりの返事。
 いつもと逆だね……。今日は、僕が、めいっぱい、あなたを求める。
 もう、あげられるものなんて持っていないよって、
 いつも僕が言うように、今日は、あなたが降参するまで。
 ねぇ、ただ黙っているだけじゃなくて、足掻いてみせて。
 いつも、僕がしているように。身を捩って拒むフリをしてよ。
 そうしたら……きっと僕は、もっともっと貪欲になるから。
 奪われるだけじゃなくて、奪い返してみせて。
 互いの心と体を奪い合う……幸せな時間に酔いしれよう。
 重なり合う肌も吐息も、乱れる鼓動も。
 何もかもが愛しく思える、幸せな時間。
 願わくば……僕の全てが、あなたで埋まりますように。
 願わくば……あなたの全てが、僕で埋まりますように。
 ぎこちなくも懸命に乱れ、求める姿。
 全身を駆け巡る甘い快楽に、気が遠のいてしまいそうになる。
 余計な心配だったんだね。キミに幻滅されてしまうかもだなんて。
 もっと早く、こうして自分を曝け出すことが出来ていたなら。
 喪失感に沈む夜が、少なくなっていたのかな。
 可愛い人。大切な、かけがえのない、俺の愛しい人。
 キミを奪い返すことが出来ぬのなら、いっそのこと、キミを無きものにしてしまえばと。
 どうして、あんなことを思ってしまったんだろう。
 どうして、あんなことを考えてしまったんだろう。
 過去のことだと割り切ることなんて出来ないさ。
 実際、この手でキミの全てを奪い去ろうとしていたんだから。
 全てを曝け出すことが出来るようになったとしても、
 心の奥、ずっと奥深くにある恐怖と不安は拭いされやしないよ。
 愛しいと思うがあまり、キミの呼吸さえも―
 無意識の内に、いつか、キミを消してしまいそうで。
 ねぇ、クレタ。
 もしも、俺がこのまま、キミの首に手を添えて……次第にチカラを込めていったなら。
 キミは、どうする?
 淡く微笑み、クレタの首元へ、そっと両手を添えたJ。
 クレタは目を伏せクスクスと笑いながら、Jの心へ返事を返す。
 何、言ってるの? 今更……。
 そんなの嫌だって、僕が拒むと思う……?
 そんな理解りきったこと……聞かないでよ。
 まだ……。まだ、足りないんだね。
 そうやって、くだらないことを尋ねられるくらい……あなたには余裕があるんだ。
 どうすればいいのかな。どうすれば、あなたの、その余裕を奪い去ることが出来ますか?
 必死になるが余り、想定外の乱れよう。
 健気に、それでいて貪欲に求める姿。
 思いに耽る余裕を、ジワリジワリと削って。
 限界は、もう、すぐそこまで。
 本音さえも、受け入れ抱きとめ抱きしめる。
 気付いて下さい。
 あなたが思うよりも、ずっとずっと、僕の想いが深いことに。
 親愛なる、あなたへ。
 言葉では言い表せぬ愛を、この身を持って。
 互いが互いに、果てるまで。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ『 Dear 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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