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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


土人形の騎士

物には心が宿るのだと言う。
大事にされたもの、粗末に扱われたもの、宿る心は違えども心が宿った瞬間にソレは『イキモノ』となるのだ。
「また帰ってきちまったのかい」
アンティークショップ・レンの店主『碧摩 蓮』はため息混じりに『ソレ』を見た。
彼女の視線の先にある物、それは大昔に作られた土人形だった。
いわくつきでなければ、それなりに価値のある物だっただろう。
しかし、その土人形は長い時を生き、様々な持ち主の影響で『心』が宿ってしまったのだ。
「お前も持ち主に影響を及ぼさなければ返される事もなかっただろうにねぇ」
碧摩・蓮は苦笑交じりに呟き土人形を見ると、まるで返事をするかのように土人形はカタカタと震えている。
「さて、次のお前の持ち主はどんな奴かねぇ」
碧摩・蓮が呟いた瞬間、アンティークショップ・レンの扉が開かれる音が店内に響いたのだった。

視点→藤田・あやこ

「また騒がしいのが来たねぇ」
 碧摩・蓮は携帯電話を片手に『アンティークショップ・レン』に入ってきた女性を見やる。
「騒がしいとは失礼ね、私はお客でしょ」
 藤田は呟きながら店内の商品を見渡す。あからさまに呪われていそうな品や、こんな所に置いておくには惜しい銀細工の品など様々な物が藤田の視界に入る。
 その中で彼女が目に留めた物が一つだけ存在した。
「ふーん、いい感じねー」
 藤田が土人形の騎士を手に取りながら、小さく呟いた。
 その様子を碧摩・蓮は何も言葉を発さずに眺めている。
「土人形は型に填めて量産するモンでしょ? 子供の玩具か縁起物に違いない」
 藤田は土人形の騎士の後ろを見たりなどしながら一人言葉を続けていく。
「どちらにせよ、そんな物が作れる社会は平和で繁栄していたはず、これの持ち主は勝利の笑みと共に用済みになったこれを手放したと思われるわ」
 藤田は前の持ち主の事を推測しながら、土人形の騎士を気に入ったのか満足気に笑んでいる。
「どうして、そう思うんだい? もしかしたら縁起物でも役に立たなかったとは考えないのかい?」
 碧摩・蓮が問いかけると「それはないわ」と藤田はきっぱりと言い切る。
「この土人形は状態がいいもの、もし役に立たなかったのなら腹癒せとしてとっくに破壊されていたはず」
 確かに藤田の言葉の方がつじつまは合うだろう。
「どうやら『勝利』に拘っているようだけれど、何か勝たなければならない理由があるのかい?」
 碧摩・蓮が問いかけると、藤田は盛大なため息を漏らしながら事情を説明した。彼女・藤田は漢のブランド・モスカジを経営する企業家なのだと自己紹介をしてきた。
 しかしテレビ番組の企画で、彼女の会社と敵対するライバル会社のA社と褌男だらけの初泳ぎ対決をする事になったのだとか。
「現在はそのロケ中なんだけど、私は少し抜け出してきたのよね」
 藤田が苦笑しながら呟いて説明を続ける。現在行っているロケでは彼女の部下の男性社員が泳ぎの練習を行っているらしい。
 しかしライバル会社のA社が用意した男性社員に惨敗している最中なのだと言う。
「まぁ、鰓のある私が参加すれば勝利は確実なんだけどね」
 藤田がボソッと小さな声で呟くと「え? 何か言ったかい?」と碧摩・蓮が問いかけてきて、慌てて藤田は「何でもない」と言葉を返した。
「女の私が参加するのはルール違反だし、水着姿の応援で華を添えたいと考えていたんだけど、どうもインパクトに欠けるのよね」
 それで何か珍しい物でも持って応援をしよう、という結論に至ったらしい。
「ねぇ、君、勝ち組のオーラを頂戴」
 藤田は土人形の騎士を高く持ち上げてお願いするとカタカタと土人形の騎士が震えているように思えて「?」と藤田は首を傾げた。
「言っておくけど、何があっても店は責任を持ちかねるよ。それでいいのなら、それを譲ってあげるけど」
 碧摩・蓮の言葉に「もちろんOKよ」と赤いビキニに褌の代わりになるようにパレオを巻いて土人形の騎士を担いで『アンティークショップ・レン』から藤田は出て行ったのだった‥‥。

※※

 そして辿りついたのはロケを行っている現場。テレビ局のスタッフや両者の褌姿で疲れた顔を見せている両者の男性社員で賑わっている。
「状況はどうなの?」
 藤田がモスカジの男性社員に問いかけると「惨敗記録更新中です」とうな垂れながら男性社員は言葉を返してきた。
「それは?」
 男性社員が首を傾げながら指差したのは、藤田が担いでいる土人形の騎士。
「我が社に勝利をもたらしてくれるものよ」
 自信有り気に言葉を返す藤田だったが「‥‥俺らが不甲斐ないばかりにこんなものに頼らせてしまった」と男性社員は罪悪感で胸が一杯になる。
「ちょっとコレ持ってて、荷物を置いてくるから」
 藤田はバッグなどを控え室に置いてくる為に、男性社員へと土人形の騎士を押し付ける。
「え! いや‥‥あの、僕の出番は次なんですけど‥‥」
 男性社員は藤田に言葉を返そうとするが、既に藤田は建物の中に入っていて、男性社員の言葉は誰の耳にも届く事はなかった。
 結局、男性社員は土人形の騎士を持ったままプールサイドまで足を運び、祈るように『勝てますように』と心の中で呟いた。
 男性社員がプールに飛び込む間際、カタカタと土人形の騎士が震えた事に気づく者は誰もいない。

※※

「さて、どうなっているかな――え!」
 藤田がバッグを置き、飲み物を飲んだ後にプールへと足を向けると‥‥そこには逆転している自分の会社の姿があった。
「ど、どうなってるの‥‥」
 藤田が目をきょとんとさせていると、自分の会社の社員がプールサイドに置かれた土人形の騎士に祈ってから泳いでいる事に気づく。
 そして祈られるたびに土人形の騎士はカタカタと震え、社員達は驚異的な速さで泳いでいる。
「やっぱり、あの土人形は勝利の人形なんだ‥‥」
 藤田は不敵に笑むと「我が社が勝つのよ!」と大きな声で声援を送り始めた。結局初泳ぎ対決は藤田の会社の勝利に終わった‥‥のだが。

※※

「‥‥もっと、もっと大きな勝ちが欲しい」
 対決が終わった後、一人の男性社員がポツリと呟く。その言葉に続くように他の社員達も口々に「勝利‥‥」などと不気味に呟いている。
 その様子が普通ではないことに気づき、テレビ局のスタッフ、そしてA社の人間達も怪訝な表情でモスカジの社員達を見ている。
「‥‥そう、よね。我が社にはもっと‥‥大きな勝利が、必要なのよ」
 藤田もぶつぶつと呟き、土人形の騎士もがたがたと激しく揺れ始める。
 藤田は土人形の騎士を『勝利を呼ぶ土人形』だと解釈したが、逆に『欲望を増幅させる人形』とも言える。
 次から次へと勝利に導かれ、全ての生き物は貪欲なものだ。願いが叶えば、更に大きな願いを見つける。
「‥‥やっぱり、こうなっちまったかい」
 ロケ現場へと赴いてきた碧摩・蓮は残念そうに、そして何処か悲しそうにため息を吐く。
 そして正気を失いつつある藤田の頬を軽く叩き「しっかりするんだよ」と言葉を投げかける。
「あれはアンタの持ち物だ。一度手にした人間が処分しなくちゃ効果は治まらない。あそこまで暴走をしていたら、壊す以外に方法は無いだろうねぇ」
 碧摩・蓮の言葉に藤田が周りを見渡せば、彼女の会社の男性社員だけが土人形の能力に巻き込まれている。
 恐らくは藤田の『我が社が勝ちたい』という思いに巻き込まれているのだろう。
「‥‥壊すも、壊さないも――あんたの自由だ」
 後は自分でどうにかしな、と言葉を残して碧摩・蓮は去っていく。藤田は碧摩・蓮が去った後、激しく揺れ続けている土人形の騎士を持ってジッと見つめる。
「私だけだったらいいけど」
 呟いた後、ちらりと社員達を見る。このまま放置しておけば犯罪に手を染める者も出てくるだろう。
 己の欲望に忠実となって――。
 藤田は土人形の騎士を振り上げ、勢いよく地面へと叩きつける。バリン、と大きな音が割れると同時に煙のようなものがあがって、それはやがて空へと消えていった。
「‥‥あれ?」
 それと同時に正気をなくしていた社員達が元に戻っていく。
「‥‥あんたは確かに勝利を導いてくれたけど――大きな勝利過ぎたね」
 土人形の騎士の破片を拾い上げながら呟く。
「でもとりあえずはお礼を言うよ、初泳ぎ対決に勝たせてくれたんだからね」
 藤田は呟き「さて、次はもっと完璧に勝ってみせるわよ」と男性社員たちに言葉をかけたのだった。


END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名   / 性別 / 年齢 / 職業】

 7061 / 藤田・あやこ/ 女性 / 24歳/IO2オカルティックサイエンティスト

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■         ライター通信          ■
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藤田・あやこ様>

お久しぶりです。
今回は発注をありがとうございました。
内容はいかがだったでしょうか?
少しでもおきに召して頂ければ幸いです。
それでは、またお会いできることを心よりお祈りしております。

―水貴透子