コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


 スタッカートと口封じ

-----------------------------------------------------------------------------------------

 深夜0時を過ぎた瞬間。HALの本質は、明らかになる。
 真夜中でも、校内は大賑わい。生徒たちは『ハンター』へと肩書きを変え、
 美味しい仕事はないかと、目をギラギラさせながら獲物を捜し求める。
 入学・在籍して2日目の夜。いよいよ、自分もハンターとして本格的に活動。
 自分の意思で、というよりは、学校の方針というか雰囲気に流された感じだけれど。
(スタッカート、ね……)
 中庭にあるボードに貼られたフライヤーを一枚、手に取って見やる。
 ハンターとして、捕獲・討伐せねばならぬ存在、スタッカート。
 イラストを見る限り、妖怪というよりは……魔物?
 絵本や神話で『害』として登場する悪魔のような風貌だ。
 どうして、こんなものが出現するのか。いつから出現したのか。
 わからないことは、山ほどある。てんこもりだ。
 教員に尋ねてもみたけれど、曖昧な返答しか返ってこない。
 遠回しに『自分で理解しろ』と言っているような感じだった。
 まぁ、何せよ、動かなければ何も始まらない……か。
 何事もそうだ。ただジッと動かず待っていても、何も起こらない。
 知りたいことがあるのなら、未来を変えたいと思うのなら、先ず動かねば。
 うん、と頷き、中庭を後にする。手には、剥がしたフライヤー。
 スタッカート討伐。やってみようじゃありませんか。初陣、いきますよ。

 =============================================================
 STACC.HUNT // NOID−BR00383
 ------------------------------------------------------
 スタッカートレベル:C / 出現確認:赤坂サカス付近
 ------------------------------------------------------
 報酬:30000 / ソロ遂行・グループ遂行 両可
 =============================================================

-----------------------------------------------------------------------------------------

 自分の意思で動くってわけじゃないんですよねぇ。今回は。
 入学して2日目の夜に、こうしてハンター活動ってものをやるのは学校の決まりみたいですけど。
 ロクな説明もないまま、行って来いだなんて、ちょっと納得いかないですよぅ。
 何か……ポーンと、こう、戦場に投げられたみたいな感覚です……。
 まぁ、この書類を見る限り、危険はあまりなさそうですけど。
 でも、一人で行くのは、ちょっと抵抗があったんです。
 怖かったのかって? ん〜。それも、あるかもしれませんね。
 だって、何が何なのか理解らないでしょうから。
 スタッカートという魔物を僕は見たことないですし。
 どんな風に対処すれば良いのか判断しかねますから。
 サクッと退治しちゃう人もいるんでしょうけど……。
 僕、この学校のこと、正直なところ信頼してませんから。
 だって、わからないことばっかりなんですもん……。
 自分で紐解いていけって、そういうスタンスなんでしょうけど……。
 僕って、そういうの苦手なんですよねぇ。
 全部はっきりと教えてもらわないと、思うように動けないのですよ。
 融通が利かない? そうかもしれませんねぇ……。
 でも、そういう風に育てられましたから。
 環境っていうのは、成長に大きく関与するんだと思うんですよ。僕は。はい〜。
「千石くん」
「ん〜。とはいえ、まず、どうするべきなんでしょうかねぇ〜」
「千石くん」
「ん〜。……あっ、はい。はいはい?」
「大丈夫?」
「はい? 何がですか?」
「……ううん。何でもないわ。もうすぐ現場よ」
「あ、了解です〜」
 キュッと帽子のズレを整えて微笑み返した霊祠。
 そんな霊祠を見やりつつ、苦笑しているのは、麻深だ。
 HALに在籍している生徒だが、霊祠とは所属クラスが異なる。
 今日の昼、食堂で相席して、二人は早々に仲良くなった。
 霊祠の読んでいた本が、麻深のお気に入りだったという偶然から会話が弾み、
 そのまま二人は昼休みが終わるまで、本についてあれこれと話した。
 その途中で、霊祠は、麻深に同行を依頼。
 今日、自分が初ハントをせねばならぬことと、
 どうすればいいのか理解らないから、サポートを御願いできないかと伝えた。
 麻深は、あっさりとオーケーを返す。
 面倒見が良い彼女の性格も、関与していることだろう。
 まぁ、こうして新入生の初ハントに、誰かがサポートでつくことは珍しくない。
 というか、大抵、誰か彼かのサポートを連れて新入生は初ハントを遂行する。
 そうせねばならぬという決まりはないが、自然とそうなることが多いようだ。
 クラス担任の藤二から、霊祠が貰った書類。
 そこには、初ハントの標的について記されている。
 5段階あるレベルの内、最低レベルであることから、危険性は低い。
 初仕事ということで、様子見も兼ねて、藤二は、この標的を霊祠に充てたのではなかろうか。
 麻深と共に向かった、現場。
 そこは、昼間は人通りの多い賑やかな場所。
 現在時刻は0時40分。
 人は、まばらにしか確認できない。
 現場に到着して待機する最中、霊祠は尋ねた。
「木ノ下さん」
「うん?」
「僕は、どうすればいいんでしょうか」
「え? どう動けばいいかってことかしら?」
「はい。このスタッカートっていう生物は、どういう生態でしょうか」
「えぇと、そうね……。今回はレベルCだから……ドラキュラってわかるかしら」
「あぁ、はい。わかります。あの子たちも可愛いですよね」
「え?」
「あ、いえ。何でもないです。それで?」
「……えぇとね、レベルCの場合、標的の弱点は翼になるの」
「へぇ。決まってるんですね」
「そうね。要するに、レベルCのスタッカートは、全て翼を持っているということになるわ」
「鳥とか、そういう感じのもいるってことです?」
「そうね。そういうタイプもいるわ。今回は、この参考資料を見る限りドラキュラタイプね」
「翼を攻めれば良いってことですね、要するに」
「そういうことね。私が敵の注意を引きつけるから、頑張って」
「はい〜。ありがとうございます」
 物陰に隠れ、標的の出現を待つ二人。
 霊祠は、複雑な表情を浮かべている。
 少しジャンルというか、庭は違うものの、
 広い目で見れば、ドラキュラも、友達の域である。霊祠にとっては……。
 直接お話したことは、数回しかないですけど……ちょっと心が痛みますねぇ。
 でもまぁ、退治されるってことは悪い子ってことですから。
 それに、お仕事ですし。割り切っていかないと駄目なところですよね〜。きっと。
 霊祠が一人、ウンウンと頷いた時だった。
 麻深が空を見上げて指差す。
 指し示された空を見上げてみれば、そこには綺麗な三日月。
 その三日月から、ニュッと飛び出してきたかのように、標的が姿を見せる。
 夜空をフワフワと漂いながら、何やら独り言を言っている標的、スタッカート。
 人語を扱えるようだが……会話の成立は難しそうだ。
 スタッカートを見て、早々に悟った霊祠。
 きちんと話せるようならば、説得も検討できたんですけどね。
 あの目は駄目です。完全に悪い子の目です、あれは。
 何を言ってもきかない、わがままな子の目です。駄目ですねぇ。
 肩を竦めてクスクス笑う霊祠。
 一足先に、麻深が物陰から飛び出してスタッカートを挑発する。
 汚い言葉を連発して挑発する麻深。
 普段は大人しく清楚な雰囲気の彼女だが……ちょっとビックリである。
 挑発に、まんまと引っかかって襲い掛かってくるスタッカート。
 だが、最弱レベルなだけあって、その攻撃は非常に拙い。
 軽々と攻撃を避けながら、チラチラと霊祠を見やる麻深。
 それは、アイコンタクト。
 霊祠は、懐からナイフを取り出して、刃に口付けてから、そのナイフを投げやる。
 混沌の口付けをすることで、ナイフには霊や精霊が宿る。
 具体的に、名指しするように宿すことも可能だが、
 今回は、そこまでする必要がなさそうなので、
 適当に、そこらへんを漂っている浮遊霊や精霊を拝借。
 投げられたナイフは、的確にスタッカートの翼を捉える。
 躊躇うことなく、次々とナイフを投げていく霊祠。
 反撃する間もなく、スタッカートの翼はナイフで埋め尽くされてしまった。
 悔しそうな声で鳴きつつ、煙となって消えていくスタッカート。
(あれぇ……。もう終わりですか。張り合いないですねぇ)
 あまりにも、あっさりと終了してしまったことに少し残念そうな霊祠。
 微笑む霊祠を見やる麻深は、疑問に首を傾げる。
 ……確かに、あっさりと終わりすぎだわ。
 私が初ハントしたときは、30分くらいかかったんだけど……。
 というか、早く終わった理由は、ハッキリしてるのよね。
 千石くんの腕が良すぎたのよ……。
 何の腕って、そりゃあ、投げナイフの腕よ。
 でも、何かおかしかったのよね……。
 見当違いの方向に投げたと思ったら、ぐにゃっと曲がって標的の翼に命中するんだもの。
 それが一度や二度なら、偶然かしらとも思えるけれど……全部だったのよね……。
 どういうことかしら。まるで、ナイフに何かが乗り移ってたみたいな……。


「ありゃ〜。報酬って、これだけなんですかぁ」
 討伐完了の報告を済ませると同時に受け取った報酬を見てビックリ気味の霊祠。
 書類には【報酬:30000】と記載されていた。
 3万円? まさか……それじゃあ、ちょっと安すぎますよね。
 きっと、3万ドルとか。外国通貨に置き換える感じなんでしょう。
 それか……換金できる物の数かもしれません。きっと、そんな感じでしょう。うん。
 そう思っていた。だが、残念なことに受け取った報酬は3万円。
 ハント活動は、毎夜実施できるものだ。
 即ち、毎晩頑張れば、その分儲けることが出来る。
 今回、霊祠が遂行した最低レベルの報酬3万で計算しても、
 休みなくハント活動を遂行すれば、月に90万を稼ぐことが出来てしまう。
 更に上のレベルをこなすことが出来るようになれば、稼ぎはかなりの額になる。
 だが、一応、昼の肩書きが『学生』である以上、学校側は一定のラインを引いているようだ。
 お金に目が眩み、ロクでもないオトナになってしまわぬようにと。
 しかしまぁ、正真正銘の、お坊ちゃまである霊祠からすれば、それも微々たるもの。
 これが、人生初の稼ぎだということもあり、余計に肩透かしを食らう結果となった。
 まぁ、良いんですけどね。僕の目的は報酬じゃないですし。
 楽しければイイかなって考えるんで。僕は、何よりも。
「というわけで、これは、麻深さんにあげます」
「えっ?」
「協力してくれて、ありがとうでした。また、よろしく御願いします。では〜」
「ちょ、ちょっと、千石くん」
「はい?」
「これ、貰うわけにはいかないわ」
「いいんですよ。御礼です。受け取ってくれないと、僕、困ります」
「そ、そう言われても……」
 頑なに拒む麻深。霊祠はクスクス笑い、ヒラリと手を振って去って行く。
 待って、という言葉に振り返ることはしない。絶対に、しない。
 何故って? 報酬をつき返されるから? いいえ、違いますよ。
 あれ以上、一緒にいたら、あの人は気付いてしまうんじゃないかと思うんです。
 それに、色々と質問もしてきそうです。そうなったら面倒ですから。
 僕がどういう存在か、どんな能力を隠し持っているか、
 バレてしまうと、ややこしいことになってしまいそうですからねぇ。
(…………)
 ニコニコと微笑みながらも、背後を警戒している霊祠。
 背中に感じる妙な視線。今さっき気付いたわけじゃない。
 学校を出る時も、討伐の最中も、戻ってくる途中も。
 ずっと、妙な視線を背中に感じていた。
 肩を竦めて霊祠は笑う。
 ね、こういうことになるから嫌なんですよ〜。
 それにしても、気配を消すのが下手ですね。
 もしかして、消す気がないんでしょうか。
 だとしたら、余計に厄介な人ですね〜。
 あの人、誰でしたっけ。
 あぁ、そうだ。確か、保健室の先生、でしたね。
 何の用でしょう? って、理解ってますけども。
 理解ってるからこそ、逃げます。僕は逃げるのです。
 面倒なのは、嫌なんですよ〜。
 タタタタタと駆けて、人混みの中へ飛び込み逃げていく霊祠。
(いつまで隠し通せるか、微妙なところですねぇ〜。どうしましょうかね〜)
 困っているはずなのに、何だか面白いのは、どうしてでしょうね? はて?

-----------------------------------------------------------------------------------------

 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / 木ノ下・麻深 / 16歳 / HAL在籍:生徒

 シナリオ『 スタッカートと口封じ 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
-----------------------------------------------------------------------------------------
 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
-----------------------------------------------------------------------------------------