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<東京怪談・PCゲームノベル>


 100人に1人の逸材

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 しつこい。いい加減にして、と張っ倒したくなる位、しつこい。
 今日が初めてというわけでもないから、余計にイライラ。
 登校して早々に、今日もまた、金魚のフンの如く付きまとって来る人物。
 その人物は、執拗に繰り返す。
「キミこそまさに、100人に1人の逸材!」
 胡散臭い口説き文句。嬉しくないといえば嘘になるけれど。
 でも、どうも気乗りしないのだ。有難いとは思うけれど。
 他の、例えば趣味とか、そっちに時間を投じたいと思っているから。
 何度言われても、応じる気はない。応じる気は……ないんだけれど。
 一度だけ。そう言われると、仕方ないなぁと思ってしまうではないか。

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 連れられて、やって来ましたプレイホール。
 まぁ、普通の学校で言う体育館のようなところでしょうか。
 今日も皆さん、元気に頑張ってますね〜。若いっていいですね〜。
 僕は、身体を動かすの、あんまり好きじゃないですから。
 面倒っていうか、ダルくなっちゃうんですよねぇ。
 大嫌い! ってわけでもないんですけど。
 バスケットとか、サッカーとか絶対無理ですね〜。
 ボールに遊ばれちゃう感じになると思うんですよ。
 っていうか、そうなんですよ、いつも。
 お友達のアンデッドくんたちと、そういうことして遊んでみることもあるんですけどね。
 いっつも僕が負けちゃって〜。まぁ、アンデッドくん達は嬉しそうなので良いんですけども。
 足も遅いですしね、僕。50メートル走のタイム聞いたらビックリしますよ。
 どうやったら、そんなタイムを叩きだせるんだ!? ってビックリしますよ。
 僕は一生懸命走ってるんですけどねぇ。
 思いのほか進んでないっていうか、全然進んでないんですよね。ふふふ。
 とまぁ、そういうことなんですよ。
 要するに、僕に運動神経ってものは皆無なのです。
 何度説明すれば理解ってくれるでしょうか〜。
「運動神経とか、そんなのはどうでも良いんだ! 大事なのは気合!」
 霊祠の背中をパシンと叩いて言った生徒。
 袴と防具を着用している、その生徒は剣道部員だ。
 新入生がドカッと入ってきた、この時期。
 各部活では、新入部員獲得のキャッチ・スカウトが熱い。
 廊下をテケテケ歩いていたところ、霊祠も捕まってしまったというわけだ。
 一体なぜ、どうして自分に声が掛かったのか、さっぱり理解らない。
 運動が苦手で好きでもないことを伝えても、聞き入れてくれない。
 好きじゃないことに気合なんぞ入れられるものか。
(ん〜。困りました。どうしましょう……)
 しつこい勧誘に苦笑を浮かべて首を傾げている霊祠。
 と、そこへ、見慣れた姿と聞きなれた声が。
「ちょっと、何やってるの。みんな揃ってサボるなんて良い度胸ね」
「ふぉっ!! ぶ、部長! お疲れさまですっ」
「部長、新入部員ですよ」
「あら。本当? ……って。千石くんじゃない」
 一瞬で、場の雰囲気を緊張感あるものに変えた女生徒。
 それは、麻深だった。
 あぁ、そういえば聞いたことありますねぇ。
 木ノ下さんは、剣道部の部長をしてるんでしたねぇ。
 噂が本当なら、かなりの腕前だとか……。
 へぇ〜。なるほど。何となくわかるような気がします。
 僕、剣道なんて、さっぱり理解りませんけど。
 何となく、あなたの立ち振る舞いからして凄そうな印象を受けます。
 袴も似合いますね。女の人に言うべきことではないかもですけど、カッコ良いです。
「こんにちはです〜。この間は、協力どうもでした〜」
 ペコリと頭を下げて挨拶した霊祠。
 そんな霊祠を見やり、麻深は、すぐに理解と把握。
 霊祠が自ら望んで剣道部に入部を志願するとは思えない。
 彼は、どこから見ても文系だ。元気いっぱいに身体を動かすイメージは……ない。
 とはいえ、部員を獲得したいと思うのは部長としては当然の思い。
 麻深は、ちょっとの期待と賭けで、霊祠に提案してみる。
「見学だけでもどうかしら。もしかしたら興味が湧くかもしれないわ」
「ん〜。見学ですか〜。いいですよぅ」
 別に見るだけなら。お金を取られるわけでもないし構わないだろう。
 霊祠は、何の気なしに提案を飲んだ。


 女の子をカッコ良いと思ったのは久しぶりのことだった。
 それゆえに、本人も気付いていないところで好奇心が芽生える。
 スパァンッ―
「一本!」
「はい、次」
「よろしく御願いしゃーす!」
「言葉遣いがなってないわ。やり直し」
「す、すんませんっ。宜しく御願いします!」
「はい。いつでもどうぞ」
「はいっ!」
 次から次へと挑んでくる部員を、瞬殺してしまう麻深。
 心地良い音がプレイホールに響き渡る度に、
 剣道部とは無縁の生徒の視線さえも麻深へと一斉に向かう。
 ルールは理解らない。何も理解らない。
 それ故に、霊祠は『良い音を鳴らせば勝ち』なのだと勘違いしている。
 まぁ、間違ってはいないのかもしれないけれど……。
 見学中の霊祠には、抹茶が振舞われた。
 だが、美味しそうな抹茶には見向きもせず。
 霊祠は、見学に夢中である。
 いつしか、ウズウズソワソワと動いてしまう身体。
 遂に我慢できなくなってしまい、霊祠は立ち上がって駆け出した。
 ふぅ、と息を吐き落とした麻深の前に立ちはだかり、ペコリと頭を下げる霊祠。
 いつの間に、どこから誰から借りたのか……袴と防具も着用済みだ。
 礼儀作法にしても、姿勢にしても、竹刀の持ち方にしても、全てがデタラメ。
 それでも霊祠は真剣な表情だ。是非、自分と手合わせを。その気持ちが宿った目。
 勝てるはずもないのに挑む。それは、興味がある証拠。
 例え負けても構わない。やってみたい。そう思っている証拠。
 麻深は淡く微笑み、ペコリと御辞儀を返すと姿勢を整えた。
 僅かな隙さえも見当たらぬ完璧な構え。
 経験者ならば、どうしたものかと退きつつ様子を窺うところだが。
 霊祠は剣道未経験。失うプライドも何もない。
「と〜〜〜〜!」
 ドタバタと駆け出して、闇雲に麻深の胴を狙う霊祠。
 当然、射止められるはずもなく。
「あわぁぁ〜〜〜」
 軽々と避けられ、霊祠はゴロゴロと転がってしまう。
 だが、すぐさま立ち上がって、再びペコリと御辞儀。
 作法なんて一切無視の、滅茶苦茶な試合だ。
 けれど、麻深はクスクス笑いながら御辞儀を返した。
 何度挑もうとも、敵わない。
 逆に見事な一本を取られてしまう。
 これ以上やっても無駄だと笑いながら、剣道部員が霊祠から、やや強引に防具を外す。
 ぷはぁ、と息を吐き、汗まみれになりながら霊祠が発した第一声。
「剣道! 凄いですね! カッコいいですね!」
 目をキラキラと輝かせながら、拍手で御満悦の霊祠坊ちゃま。
 負けたことを悔しいと思うことはない。
 そもそも、負けたという感覚が彼にはない。
 ただ、純粋に面白いと思えた。
 次々と良い音を響かせる、麻深を心から凄い、カッコいい! と思った。
 とても満ち足りた表情をしている霊祠。
 麻深は防具を外し、うん、と頷いて決意。
「千石くん。うちに、入ってみない?」
 楽しいと思えている、もっと楽しくなりそうな予感もしている。
 それならば、返すべき返事は理解りきっているではないか。
「宜しく御願いします〜」
 躊躇うことなく、霊祠はニコリと微笑んで告げた。
 楽しいか楽しくないか。決断材料となるのは、その感覚だけ。


 晴れて新入部員を獲得した剣道部。それからどうなったのかというと……。
「霊祠ー! モップがけやっとけよー!」
「はい〜〜〜〜」
 あれから毎日、放課後、部活を満喫している霊祠の姿が確認できる。
 とはいえ、しばらくは竹刀を持つことを許されず、掃除ばかりのようだが……。
 それでも霊祠は楽しそうにニコニコと微笑んでいる。
 嫌がる様子もなく、どんなに面倒な作業でも自ら進んでやってのけるほど。
 モップ片手に、頭の中で思い描くのは、
 見事な剣捌きで皆を圧倒させる自分の姿。
 イメージトレーニングのような、妄想である。
(ふふふ……。カッコいいですよね〜……。ふふふ……)
 一人、肩を揺らしてムフムフと笑っている霊祠。
 その背中を見て、剣道部員達は一歩退いた。
「何か笑ってるし……」
「あいつ、何か怖ぇんだけど、俺」
「俺も、俺も。って、連れてきたの俺だけど」
「部長〜。何で、あんな意味わかんないヤツ入れたんすかぁ〜」
「ん? そんなの決まってるじゃない。将来有望だからよ。あなた達と違ってね」
「……(毒舌だ)」
「……(今日は機嫌悪いな)」
 あなたたちには、理解らないでしょうね。
 私が、どうして、彼を将来有望だと言うのか、理解できないでしょうね。
 久しぶりに見たわ。あんなにキラキラした目で、剣道を楽しいっていう子。
 もしかすると、本当に……彼は、100人に1人の逸材かも……。
 ガシャァンッ―
「うわぁぁ〜」
「あー! 霊祠、何やってんだお前! またゴミだらけになっただろうがー!」
「すみません〜〜」
 困り笑顔を浮かべながら、ひっくり返したゴミ箱を元に戻す霊祠。
 そのヘニョヘニョっとした霊祠の動きを見つめ、麻深は腕を組んだ。
(…………)
 即戦力になるだなんて、私は一言も言ってないわ。
 まぁ、長い目で見ればってことよ。うん。そういうことよ。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / 木ノ下・麻深 / 16歳 / HAL在籍:生徒

 シナリオ『 100人に1人の逸材 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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