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<東京怪談・PCゲームノベル>


 マジカルボックス

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 // マジカルボックス(まじかるぼっくす)
 // 製作難易度:B(難 S・A・B・C・D 易)
 // 作り方と概要:
 // クリスタル製の箱に、自身の魔力を注いで封じ込める。
 // 魔力を注ぎ込む際は、出来る限り無心でいること。
 // 注ぎ込んだ後は、迅速に封をすること。

 要するに、キミ達の魔力制御能力が試される代物ってことだ。
 魔力は、ちゃんと封じるように。漏れた場合は、漏れた度合いによって減点するからな。
 封じるところまで出来た人は、そのまま待機してなさい。箱を勝手に開けないように。
 全員が出来たら、一人ずつ前に出て箱を開けてもらう。
 さぁて、何が出てくるかな?
 よし。じゃあ、始め! 集中しろよ〜。

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 本日最後の授業は、藤二による魔道具学のお勉強。
 このマジカルボックスという代物は、
 魔力制御能力を試す為に、藤二自らが発明したものだ。
 だが、応用次第では、かなり便利な道具にもなる。
 魔物そのものを封じ込めたりすることも可能なのだ。
 まぁ、そのような用途で使う場合には、それなりのチカラを要するだろうけれど。
 一人につき、一つ与えられたマジカルボックス。
 生徒達は、藤二の指示通り、目を伏せて両手をボックスの上に乗せる。
 意識を集中して、魔力を注ぎ込む……。
 簡単なようで、とても繊細な作業だ。
 少しでも気が乱れてしまえば、漏れた魔力が暴走してしまう。
「きゃー!」
「うおぁぁぁ!」
 巧く魔力を注ぎ込むことが出来ぬ生徒が次から次へと。
 暴走した魔力は、縦横無尽に教室内を駆け巡り、机や壁を壊してしまう。
 パニック状態になっている教室。
 藤二は平然と、動じる様子もなく、
 クックッと笑いながら、壊れた壁や机に触れて、魔法で瞬時に元に戻していく。
 あ〜。やっぱり、今年もこんな感じになっちまうのか。
 毎年恒例なんだよな。でも、やらないわけにもいかないからなぁ、これ。
 新入生たちの基礎能力値を把握しておくのは、俺達の役目なわけだし。
 笑いながら、壊れる壁や机、椅子の修繕を続けている藤二。
 藤二が言っているとおりだ。
 現に、うまく魔力を注ぎ込むことが出来ずにパニック状態になっているのは、
 つい最近、HALに入学した新入生のみ。
 該当しない生徒は、皆、あっさりとこなしている。
 パニック状態で騒がしい教室だが、
 既に作業を終えた生徒達も、藤二同様に落ち着いている。
 壊れたものが飛んできて、それによる被害を受けぬように、
 全員が自身に魔法結界を張った状態で談笑。
 さぁて。今回は、どのくらいかかるだろうな。
 前回は……確か、このクラスは全新入生が作業を終えるまで、15分くらいかかったかな。
 授業終了の鐘が鳴るまで、あと30分ってとこか……。
 それまでに落ち着けば、まぁ良い感じだな。
(……ん?)
 修繕を続ける藤二の目に、ふと意外な光景が飛び込む。
 一番後ろの席に座っている生徒。霊祠が……優雅に読書を楽しんでいるではないか。
 何だ。もしかして、くだらなくて付き合ってらんないや……とか、そういう感じか?
 毎年、こういうのも何人かいるんだよなぁ。何をやらせても、つまんなそうにしてる奴。
 子供なんだから、素直に色々やってみりゃあいいのに。まったく……。
 ヤレヤレ、と肩を竦めながら、霊祠の手元を見やった藤二。
(あれ?)
 目に飛び込んできたのは、意外な光景。
 霊祠の手元にあるマジカルボックスは、淡く桃色に輝いていた。
 それは即ち、魔力の注入が完了したことを意味する現象である。
 言うこときいて、真面目に授業を受けなさいと叱ってやるつもりだったのに肩透かしだ。
 鼻歌しながら、楽しそうに『ネクロマンサーズ』という小説を読んでいる霊祠。
 この小説は、今大人気の作品だ。
 無名の作家が執筆したもので……。まぁ、小説に関してはどうでもいいか。
 なるほど……。あの子が、例の優等生か。
 具体的に、どんな能力を使うのか、誰も把握できないっていう……。
 ふぅん。まぁ、何となく、どういう感じが得意かは理解るけどなぁ。
 でもなぁ、年齢がな……ちょっと若すぎるような気がする。
 もしも、俺の予想が的中していたとしたら……末恐ろしいにも程があるな。
 あの歳で、悪霊を自在に操れるなんて、金の卵どころじゃねぇぞ。

 *
 *

「よし。全員、終わったな。んじゃ、一人ずつ前に出てきて箱を開けて」
 ペシペシと教壇をタクトで叩きながら言った藤二。
 マジカルボックスに注入した魔力は、少し時間を置くと、
 その封入精度によって、あらゆるものへと形を変える。
 ボックス内で、どんなものへと変化したのか。
 それは、蓋を開けてみるまで本人にも理解らない。
 上手に封入することが出来ていれば、
 その分、蓋を開けた時に驚く可能性が大きい。
 ちなみに、マジカルボックスを発明した藤二の場合、
 彼が蓋を開けると、中から、とても色っぽいオネエサンが出てきた。
 いかに、彼の魔力が『やましさ』で満ちているかが理解る。
 一人ずつ、順番に前へ出て蓋を開けていく生徒達。
 今日、初めてマジカルボックスの授業を受けた新入生のボックスの中からは、
 物とはいえぬ、謎の物体ばかりが飛び出す。
 これは即ち、ボックス内で魔力が物質化できなかったということ。
 注入が荒く、十分でないと、このような結果になってしまう。
 逆に、過去にもマジカルボックスの授業を受けている生徒達は、
 皆、揃って見事な腕前を発揮している。
 中には、箱からダイヤモンドを出して拍手喝采を浴びる生徒も。
 そうこうしている内に、霊祠の出番が回ってくる。
 マジカルボックスを持ち、トコトコと前へ出て行く霊祠。
 何が出てくるかと、生徒たちは勿論のこと、藤二も期待しているようだ。
「…………」
 沈黙し、ジッと手に持つマジカルボックスを見つめる霊祠。
 彼の頭に蘇るのは、辛くも充実していた修行の日々。
 懐かしいですねぇ、魔力制御の練習なんて……久しぶりにやりました。
 自分のチカラがどういうものか理解してから、延々と練習してきたんですよね。
 僕が続けていたのは、箱じゃなくて、壷に魔力を注ぐタイプでしたけど。
 まぁ、だからといってやり方が変わるわけでもないですし、何も難しいことはなかったです。
 加減は身体が覚えていました。何も考えずに注ぎ込むだけで良いんです。
 余計なことは一切考えずに、ただ自分の魔力を感じながら……。
 その感覚を覚えるまで、かなり時間が掛かりましたねぇ。
 自分には出来ないんじゃないかって、弱音を吐いたこともありました。
 でも……みんなが励ましてくれたから、僕は逃げずに立ち向かうことが出来た。
 いつになれば出来るようになるのか、全然先が見えなかったですけれど……。
 懐かしいですね、本当に。初めて成功した日、とても嬉しかった、あの日のことを思い出します。
 ……とはいえ、蓋を外すのが怖いのは、昔と一緒なんですよね……。
 だって、どんなものが出てくるか、何となく想像できますし。
 大変なことになったら、どうしましょう。
 ……まぁ、開けるしかないんですけどね。うん。そうするしかないんですもんね。
 何が起こるか……ソワソワしますけど。開けましょう。
 出来れば、面倒なことになりませんように……。
 伏せ目がちに、霊祠が、そっと蓋を開けると……。
 サラサラと音を立てながら、そよ風が放たれた。
 何だか甘い香りがして……思わず目を伏せて酔いしれてしまうような……心地良い、そよ風。
 ウットリしているクラスメートを見て、霊祠はホッと一安心。
(良かった。問題はなさそうです。……ん? でも、これだけっていうのも……)
 物足りないような気はした。けれど、物足りすぎる状況になるのも、どうかと思う。
「げふっ、げふっ!」
「な、何これっ……。の、喉が、痛っ……」
「うぁぁぁぁぁぁ。足っ! 足が痛ぇぇぇぇぇぇ!」
 酔いしれていたクラスメート達が、次々と苦しそうな表情に。
 霊祠のマジカルボックスから放たれた、そよ風を吸い込んだことにより、襲い来る体調不良。
 苦しそうに、やたらと咳き込むクラスメート。
 頭が痛いと、床を転げ回るクラスメート。
 堪えきれなくなり、その場で嘔吐してしまうクラスメート。
 とめどなく溢れてくる涙と鼻水に戸惑っているクラスメート。
 目に映るクラスメートの体調不良に、霊祠は慌て、
 マジカルボックスを教壇に置くと、バタバタと教室内を駆け回る。
 不思議なことに、霊祠が触れると元通り。
 クラスメート達は、何が起きていたのか理解らずキョトンとしている。
 具合が悪かった、ほんの少し前の自分の状態すらも忘却している感じだ。
 手早く教室内を巡回して、全クラスメートの体調不良を取り除いた霊祠。
(……ふぅ)
 息を吐き落として、何事もなかったかのように自分の席へと着席した霊祠。
 クラスメートたちの記憶は、良い匂いのする風が出た、というところで途切れている。
 その結果からして、成功だろうとクラスメート達は霊祠に拍手を送った。
 新入生なのに、いきなり成功するなんて凄い! と感心するクラスメート達。
 お褒めの言葉を次々とかけられ、霊祠は照れ臭そうに笑った。
 ……多分、あれですね。病原体とかが含まれた有害な風だったんでしょうね。
 だって、僕は何ともないですから。僕は、そういうのに耐性がありますから……。
 でも、危ないところだったんじゃないかな、地味に……。
 あのまま放っていたら、みんなバタバタと倒れてしまってただろうし。
 はぁ、びっくりした〜……。慌てたのも久しぶりでしたよぅ……。
 微笑んではいるものの、霊祠は緊張が解けきっておらず、微妙に表情が強張っている。
 クラスメートに囲まれて笑う霊祠を見やりながら、藤二は書類に何かを書き込んだ。
(なるほど。やっぱり、そっち系の能力か。いや〜……。おっかない新入生が来たもんだなぁ。勿論、満点あげるけども)
 霊祠のマジカルボックスから放たれた、甘い香りの、そよ風。
 その実態に気付き把握しているのは、ただ一人。藤二だけ。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / 藤二 / 28歳 / HAL在籍:教員

 シナリオ『 マジカルボックス 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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