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<東京怪談・PCゲームノベル>


 抜き打ちテスト

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 深夜0時。今日も今日とて、登校出勤。
 学生ではなく、ハンターとして動く『夜の活動』にも大分慣れてきた。
 重要なのは、自分のレベルに合った依頼を請け負うことだ。分相応なものを。
 自分の力量を客観的に見て、自分で判断せねばばらない。
 時々、教員から直接、名指し指名されることはあるけれど、それもまた分相応な内容。
 自分には不可能だと思わせるような依頼が飛んでくることはない。
 こうして夜の活動を続ける内に、自然と洞察力が身に付いていく。
 自分を客観的に見ることは勿論のこと、他人にも目を配れるようになる。
 そうすることが出来るようになったハンター達は、
 やがて『グループ』や『チーム』を結成し始める。
 同じくらいのレベル、その仲間を見分けることが出来る故の行動だ。
(グループかぁ……)
 同時期に入学した生徒も、殆どが、どこかしらのグループに所属した。
 確かに、グループに所属するメリットは大きい。
 大きな依頼も、協力してこなすことが可能になるし……。
 けれど、自分だけの時間というものが削られてしまうというデメリットもある。
 それを嫌い、延々と一人で活動している生徒も、それなりにはいるけれど。
 グループについて、どうしたものかと思案していた時のことだ。
「あ。見っけ」
 背後から声が。それは、聞き慣れたクラスメートの声だった。
 振り返ると、クラスメートはニコリと微笑んで提案した。
 迷っているなら、どこかに体験という形で所属してみたら? と。
 どうして、考えていたことが理解るのだろう。口になんぞ、出していなかったのに。
 疑問を抱いて首を傾げる自分へ、クラスメートは付け加えた。
「じゃあ、とりあえず。抜き打ちテストさせてね」

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「抜き打ちテストって……何するんですか〜?」
 キョトンとした表情で尋ねた霊祠。
 声を掛けてきたクラスメートの海斗は、懐から不思議な形の銃を取り出しながら質問に答える。
「悩んでるクラスメートを助けるのはトーゼンでしょー!」
 チームに所属するべきか否か、お前が悩んでたのは知ってる。
 入学して、それなりの時間が経過したけど、お前って、いつも一人でハントしてるからな。
 一人で動くのが好きなのかな〜とか、そういう性格なのかな〜とも思ったんだけどさ、
 チームメンバー同士でハントに出掛けて行く奴等を見てるときの、お前の目がね。
 何とな〜く寂しそうに見えたんだよね。気のせいかもしんないけど。
 絶対にチームを組むべきだとか、そーいうことを言う気はないんだ。
 ただ、お前ってさ〜優等生グループに入るじゃん。成績的にね。
 だから、勿体ないな〜と思ってる。
 チームを組めば、もっと大きな仕事とか出来るのに〜って。
 ま〜そんな感じで、おせっかいかもしんないけどさ。
 どこかに所属するにしても、このまま一人で活動してくにしても、
 自分の実力をさ、実践で確認するってのは、多分、損にはならないと思うんだ。
 というわけで、俺とショーブしてみよーぜー。
 あー別に、勝ち負けとか、そーいうのは関係ナシにね。
 戦ってみて理解ることってのもあると思うし。
 お前のチカラを把握できたらさ、
 それを参考に、良さげなチームを俺が探してやるってのもイイし。
 んじゃ、そーいうことで。ほれほれ、何ボーッとしてんの?
 来ないなら、こっちからいくぞー?
 楽しそうにケラケラ笑いながら言った海斗。
 あれこれと喋っている海斗だが、
 その最中、彼が手に持つ銃に異変が起きていた。
 異変というまでのことではないけれど……。
 銃口に、真っ赤な炎が灯っているのだ。
 海斗が身に宿している魔法、その属性は『炎』だ。
 何度か、授業で目にしたことがある。
 とても派手で、色鮮やかなスキル。
 海斗は、銃に炎の魔法を込めて発砲するという戦闘スタイルを確立している。
 身勝手な言動から、問題児として扱われているが、
 実力だけでいうなれば、間違いなく彼も優等生グループに入る。
 先生達の、扱いに困っているような態度を見れば、それは一目瞭然だ。
(勝負……)
 海斗くんと勝負するのは……どうでしょう。
 性格からして、手を抜くだとか、そういうことはしてこない人だと思うのです。
 そうなると、僕も全力で向かっていかないとならないわけで。
 そしたら、ボロが出そうなんですよね〜……。死霊術師だってことがバレてしまいそうです。
 バレたからといって、特に何か大きな問題が即座に発生するってわけでもないんですけど、
 後々、面倒なことになりそうな気がするのです。退学処分とかには、ならないと思いますけど。
 もしもバレたら、一層難しくなると思うんですよね。チームに所属するってことが……。
 あれこれと霊祠が考えている内、シビレを切らした海斗が先手を。
 ゴッ―
「っふわ!」
 真横を掠めた炎。目を丸くして見やれば、満面の笑みの海斗。銃口からは、細い煙が昇る。
 すぐさま、再び銃口に赤い炎を灯し直した海斗。まだまだ、これから。
「っははは! 次は、ちゃんと狙うからな! ボーッとしてたら、丸焦げになるぞー!」
 ケラケラと笑いながら言う海斗。笑っているけれど、冗談ではない。
 本当に戦うのだ、戦わねばならぬ雰囲気、逃げられぬ雰囲気なのだ。
 仕方ない……気は進みませんけれど、やってみましょう〜。
 お手柔らかに、御願いしますね。

 ペコリと御辞儀したのは、もはや癖のようなものか。
 毎日、剣道部で教えられている礼儀を忠実に。
 けれど、海斗に礼儀など不要である。
 御辞儀をし返すことなく、次々と発砲してくる海斗。
 乱れ撃ちのように思えるが、そうではない。
 放たれた炎は、的確に霊祠の急所を狙う。
 ギリギリのところで炎を避け、様子を窺う霊祠。
 う〜ん……。怪我したくはないです。させたくもないです。
 まぁ、僕は丈夫というか頑丈な身体なので大丈夫だと思いますけども……。
 それにしても、改めて見ると、凄いですね。
 海斗くんが放つ炎は、大胆で力強くて……何だか頼もしいです。
 それに、この動き。踊っているかのような動き。
 海斗くんが楽しいと、炎も楽しいのかなって思わせます。
 真っ黒焦げになるのは嫌なので〜……そうですねぇ、とりあえず……。
 ん〜と考えながら、霊祠はパンと両手を合わせた。
 合わせた手を離せば、スキル発動。
 霊祠の身体から、紫色の妙な煙がモクモクと上がる。
 死霊術師である霊祠の主砲は、無論、死霊を意のままに操り動かして戦わせることだが、
 その主砲攻撃と同じくらい、妨害スキルが充実している。
 身体から放たれた紫色の煙は、毒素を含んだ風となり、海斗に牙を剥く。
 相手の技の性質を見極めずに放置するなんて真似、海斗は絶対にしない。
 何度か、授業で目にしていることも強み。
 海斗はフッフッフッと笑いながら、炎を放って向かってくる煙を打ち消す。相殺だ。
 毒素を含んだ風、とても恐ろしいスキルだが、吸い込まなければ問題ない。
 飛んでくる炎を避けながら、依然、毒素の風を放つ霊祠へ、海斗は笑いながら言う。
「妨害するだけじゃ、勝てねーぞー!」
 確かに、お前の妨害スキルは凄いよ。既に限界まで極めてるしな。
 引っかかっちまったら最後。もう、どうすることも出来ないよ。
 でも、引っかからなければ、何の問題もないんだ。
 ザコモンスターとかなら、何もしなくても勝手に引っかかるだろーけどさ、
 高レベルなモンスターになると、今の俺みたいに打ち消してきたりするよ。
 せっかく凄いスキルを持ってるんだから、応用していかないとな。
 例えば、打消しをされた時に、カウンターで別のスキルを発動させるようにしておくとかさ。
 アイディア次第で、無限に広がってくと思うぞー。
 そしたら、もう、お前は『向かうところ敵なし』な奴になれるよ。
 まぁ、そーなったらチームを組む必要とか、まるっきりなくなっちゃうんだろーけど。
 ケラケラと笑い、アドバイスしながら炎を放つ海斗。
 余裕しゃくしゃくの海斗を見やり、霊祠はクスリと笑った。
 確かに、そうですね〜。応用を利かせていかないと通用しない敵とかも出てくるんだと思いますよぅ。
 海斗くん。僕って、魔術マニアっぽいところがあるのです。
 いろんなことを勉強して、追及していくことに幸せを感じるのです。
 だから、当然、応用術も勉強しているのですよ。多少、アレンジ入りますけども〜。
「―! ぐぁっ! な、何だっ!? ちょ、ちょっと待っ……」
 それまで余裕の笑みを浮かべていた海斗に異変。
 その場に膝をついてしまう。銃を持つ手にチカラが入らない。
 一体、何が起きているのか、どういうことなのか。必死に考える海斗。
 霊祠は、パンと両手を叩き、毒素を含んだ風の放出を停止して説明した。
 海斗くんは、僕の紫風を炎で打ち消しました。
 どういう性質か知っているからこそ、近寄らせまいと打ち消したのです。
 でもですね、打ち消されることは理解っていましたから。
 紫風に、ちょっとした仕掛けを組んでおいたのです。
 打ち消したと見せかけるだけで、実は消えてなかったのです。
 消えたフリをする。見事な演技を紫風はやってのけました。
 でも、演技だけではカウンターになりませんから。
 砕けたフリをして、目には見えないほどに細かに分裂するようにも仕掛けました。 
 その結果、海斗くんの回りは、細かい紫風で埋め尽くされていったのです。
 海斗くんの身体を包み込むようにして、紫風は、ずっと蝕んでいたのです。
 打ち消すことが出来たと思っているからこそ、生じる隙。
 大きな口で笑う度、そこから、紫風は、海斗くんの体内にオジャマしていたのです〜。
「……既にカウンターを仕掛けていたとはっ。やるな、お前っ。くそー」
 悔しそうに笑いながら言った海斗。
 毒素が体内に入り込んでいたのは事実だが、
 霊祠がパンと手を叩けば、毒素は綺麗さっぱり消えてなくなる。
 一時的に身体の自由を奪われただけで、海斗はいつもどおり元気いっぱいだ。
 笑いながら、海斗は続けた。
 まさか、ここまで完成してるとは思わなかった。
 ビックリしたのもあるけど、今、俺、ワクワクしてる。
 お前のスキルと、俺のスキルが合体したら、ものっすごいことになるんじゃねーかって。
 それこそ、応用次第で、ものっすごい技とか出来るんじゃねーかって。
 俺は、妨害系のスキルとか持ってないし、
 妨害スキルって覚えるの大変だから勉強しよーとも思わないからさ、
 お前のこと、凄いなーと思うんだ。フツーにね。
 どこか良さげなチームを斡旋してやろーかなーと思ってたけど、やっぱやめた。
 他のチームに取られる前に、今、ここで声を掛けとく。
 霊祠、お前、俺のチームに入んない?
 っつーか、入って欲しいな。 っつーか、入れ。
 チームっつっても、メンバーは俺と……梨乃だけだけど。
 三人でさ、でっかい仕事しよーぜ。先生たちもビックリするくらいの仕事。
 満面の笑みで、躊躇うことなく誘う海斗。
 まさかの御誘い。
 けれど、霊祠はクスクス笑い、海斗に手を差し伸べて、その御誘いを受けた。
 海斗くんのチームに入れたら、面白いかもしれないなぁとは思っていたんです。
 ただ、自分の能力が二人にとって迷惑なものになるかもしれないからって遠慮していて。
 でも、誘ってくれましたから。不安な気持ちも、どこかへ飛んでいってしまいました。
 海斗くんの炎の魔法も、梨乃さんの氷の魔法も、鮮やかで綺麗ですし。
 僕の能力は、地味というか……ちょっとカオスな感じですからね〜。
 一緒に活動できること、嬉しく思います。僕も、ワクワクしますよぅ。
 ただ……何か、こう、海斗くんと一緒に行動していると、
 トラブルに巻き込まれて酷い目に遭うんじゃないかって、
 その辺りの不安はありますけど、それもまた楽しいかもしれませんしね〜。
「よっしゃ! んじゃ、これからヨロシクー!」
「こちらこそですよ〜」
「とりあえず梨乃に報告しとこ。お前も来い」
「あ、はい」
「つか、腹減らね?」
「ん〜。そういえば、ちょっと」
「よし。食堂で話そう。俺が奢ってやるぞー」
「え。いいんですか〜」
「センパイだからな!」
「あはははは〜」
 
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 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / 海斗 / 19歳 / HAL在籍:生徒

 シナリオ『 抜き打ちテスト 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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