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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ヨパパ星人のお願い

●オープニング
 客となるべき人間を、自らの意思で選ぶ謎の店『幽玄堂』。
 毎日、何かしらの香が漂うその店の前で、突然爆発音がした。
「一体、何事ですか?」
『幽玄堂』店主、香月・那智と居候の夢現、化け猫の鈴童が様子を見に行くと、店の前には「いかにも円盤です」と言わんばかりのレトロデザインのUFOだった。
 そこからイソギンチャクのようなものがウネウネと動いているが、怖いもの知らずの鈴童は脚らしきものを掴むと一気に引っこ抜いた。
「うにゃっ!」
「ムギュッ!」
 鈴童に折り重なってジタバタしていたのは……タコのような頭でっかちの宇宙人だった。
「宇宙人というものは、本当にいたのだな」
 その様子を見て、珍しいものを見たと関心する夢現。
「そんな暢気なことを言っていないで、この方を助けましょう」
 那智が触れたところ、外見タコの宇宙人の感触はゴムに近かった。

 布団に寝かされたタコの宇宙人は、目が覚めるとのっそりと起き出した。
「気がつきましたか?」
 宇宙人が地球人の食事を食べられるかどうか悩んだが、汁物系なら大丈夫かもしれないと那智はけんちん汁を持ってきて振る舞った。
「ドモ、アリガトゴザイマス。イタダキマス」
 けんちん汁を食べている宇宙人のその様は、大きなストローで一気にジュースを飲んでいるように思える。
「なあ、なんでうちの前に落ちてきたんだ?」
 身を乗り出し、食事を終えた宇宙人に鈴童が尋ねた。
「ナゼ、ココニオチタノカ、ミーニモケントウツキマセン」
 宇宙人のくせして、1人称「ミー」ですか。
「どうやら、この店が困っているあなたを呼び寄せたようですね。差しつかえなければ、事情を話していただけませんか?」

 宇宙人は『ヨパパ星』といい、地球からかな〜り離れた星からやってきたとのこと。語学万能なので、どの星の言葉も理解できるという頭の良い種族だとか。
 ヨパパ星人は地球研究のため訪れたのだが、その途中で隕石にぶつかり、ここに落ちたのだという。
「修理は、破損部分を直せば良いみたいですが……燃料が漏れてますね。この円盤の燃料は灯油かガソリン、あるいは石油ですか?」
 ヨパパ星人は、タコのような頭をブンブン振った。
「チキュウデイウ『アルコール』トイウモノデス。チキュウニハ『サケ』トイウノミモノガアルトキキマシタ。ソノセイブンガ『アルコール』ナノデショウ?」
 たしかに、それはそうだが……。
 問題はひとつだけ。
 この店が見えるのは、店に選ばれた人物のみである。酒を持ってくるのはその人物にしかできない。
 成人だったら問題ないが、未成年や動物の類だったら……。

 考えても埒が明かない。
 那智達とヨパパ星人は、店に選ばれた人物を待つことにした。

●店に選ばれし人物
 幽玄堂が『アルコール探しに相応しい』と選んだのは、スポーツドクター目指して大学の医学部で勉強中の青年、来生・千万来(きすぎ・ちまき)。
 彼自身、自分の意思で入店したのか何かに誘われるかのうように入店したのかわかっていない状況。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「待っていたって……お、俺をですか!?」
 はい、と物腰柔らかく言う店員らしき男性を瞳をくりっとさせて見る千万来は、どうして自分がここに来ることがわかったんだろうと考えていた。
「あの……どういうことか、事情を話してくれませんか?」
「これは失礼しました。今、お茶を淹れますのでそこの椅子に腰掛けておまちください」
 男性、いや、この店の主人である香月・那智はそういうと奥に引っ込んでしまったのと入れ替わりに、千万来の側にタコらしき生物が接近。
(「この店、タコを飼っているんでしょうか? それにしては、やけに人間味あるような……」)
 たとえるならば、仔犬のような人懐っこさ。
 自分に近いカンジがするそんなタコに、何故か親近感を抱く千万来だった。
「タコ宇宙人、那智がいないのに人前に出ちゃ駄目だろ!」
 タコの次に登場したのは、着物姿のネコミミ+ネコ尻尾少年。
「スミマセン。コノカタガ、アルコールヲモッテキテクレタカトオモウト……」
 アルコールという単語を聞き、ますます目を丸くする千万来だった。
「ヨパパ星人さん、お待ちしてましたという気持ちはわかりますがいきなりのご登場ではお客様が驚いてしまいますよ? 気をつけていただかないと」
 その様子を見た那智が「どうぞ」と千万来に差し出したのは、淹れたてのハーブティーが注がれたティーカップ。
 今回のハーブティーは、リラックス効果があるラベンダー。幽玄堂の中庭で丹精こめて育てたものを使用しているので効き目はバツグン。
 一口飲んだ千万来は、ようやく落ち着きを取り戻した。

●アルコールがいる事情
「へえ、ヨパパ星というところから来た宇宙人ですか……」
 自分達も大まかに分類すれば宇宙人の一種であると考えた千万来は、「ご近所さん同士、困った時はお互い様です」とヨパパ星人に協力することに。
 問題は、千万来が未成年なので酒類の調達ができないことだ。
「お酒は無理ですが、アルコールが含まれていれば何でもいいんでしょうか?」
「ア、アルコールデアレバ……」
「だったら、この消毒用アルコールは使えませんか?」
 デイパックから常日頃持ち歩いている応急手当用の消毒液を取り出してこれを薄めて使ってみようと提案した千万来の意見に、那智は消毒用アルコールは酒より度数が高いため、精製水等で薄めて代用することがすぐわかった。
「成程。そのまま直に使えば、引火の危険性がありますからね。薄めて使用したほうが良いでしょう。ヨパパ星人さん、それで宜しいですか?」
 コクコク、とタコ頭を縦に振るヨパパ星人は感涙中。
「アリガトゴザイマス! アリガトゴザイマス! コレデヨウヤク、コキョウニカエレマス!」
「では。さっそく作成しますね。一応、水もアルコールも試しに2本ずつ持っていますので。使えなかったら言って下さいね? 知り合いに連絡して、お酒を持ってきてもらえないか頼んでみますから」
 携帯を取り出し、いつでも連絡できるよう千万来はいつでもスタンバイ。
 那智と協力して、千万来は消毒液を薄めての燃料作りに励んだ。

●出発の時
 燃料だが、千万来が持ってきた消毒液を薄めたもので何とか足りたが、問題はUFOの破損状態だった。
「ところで、破損した部分はどうやって直すんですか? もし良かったら、修理、お手伝いしますよ。UFOの内部構造とか、動力とか推進部分とか見てみたいですし。駄目……ですか?」
「ト、トンデモナイ! キョウリョクシテクダサルノデスカラ。エンリョナクミテクダサイ」
 大恩人である千万来の頼みとあらば、断るわけにもいかないだろう。
「それでは、拝見させていただきます」
「あー、おいらも見たーい!」
 興味津々の鈴童と共に、千万来は内部構造をじっくりと見た。複雑な構想と思いきや、多少の知識があれば直せるようなものだった。
「これでしたら、俺でも何とかできるかもしれません。直してみます。ネコミミくん、工具を借りてきてくれませんか?」
 おいらは鈴童だ! と怒られたので「ごめん、鈴童くん」と謝る千万来。

「あの……大丈夫ですか?」
 修理している千万来の様子を窺いつつ、那智が声をかける。
「大丈夫です。あともう少しで……終わりました!」
「ホントデスカ?」
 慣れない工具を長時間使ったため、体勢に無理な負担がかかった千万来は背伸びをして「はい、終わりましたよ」とニッコリ笑って再報告。
「ヨカッタ……アリガトゴザイマス!」
 今度は、足で千万来の両手をとりブンブンと握手……しているヨパパ星人。

 その数十分後。いよいよヨパパ星人帰還の時が。
「アリガトゴザイマシタ。チキュウノミナサンノゴオンハワスレマセン」
 地面に頭を叩きつけながら、何度も感謝の言葉を述べてお辞儀するヨパパ星人。
 早速UFOに乗り込み、エンジンをかけて発射カウントをヨパパ星人を不安そうに見守る千万来、那智、鈴童。
 少しずつ浮くと、3人は手を振って別れの挨拶を。
「気をつけてお帰りくださいね」
「またなータコー!」
「無事、星にたどり着けることを祈っていますよ」
 千万来達に見守られながら、次第に空の彼方に消えたヨパパ星人のUFO。

「ヨパパ星人さん、無事、故郷に帰れるといいですね……」
 見えなくなるまで、夜空を見上げる千万来。

 その頃のヨパパ星人はというと……。
「ナ……! ド、ドウナッテイルノデスカ!?」
 燃料が足りなかったらしく、どこかの惑星に不時着した模様。
「アアア……チマキサマ……ゴメンナサイ……!」
 それに相当ショックを受けたヨパパ星人は、突っ伏して泣き出してしまった。
 ああ、不運なヨパパ星人が無事故郷に帰れるのはいつになるだろう?

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0743 /来生・千万来(きすぎ・ちまき) / 男性 / 18歳 / 城東大学医学部1回生】

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■         ライター通信          ■
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>来生・千万来様

はじめまして、ライターの氷邑 凍矢です。
体調不良により、納品が大幅に遅れてしまい申し訳ございませんでした。
このたびは「ヨパパ星人のお願い」にご参加くださりありがとうございました。
千万来様の素直さ、優しさはヨパパ星人に伝わりましたが…
不運にも他の星に不時着という結果となってしまいました。

不幸なヨパパ星人が、無事に母なる星に帰れることを祈ってあげてください。

いつかまた、お会いできることを楽しみにしております。
本当にありがとうございました。

氷邑 凍矢 拝