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<東京怪談・PCゲームノベル>


 魔圧空間からの脱出

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 はい、みんな黒板に注目して下さい。そこ、お喋りは後で。あぁ、俺も混ぜてね。
 いいかな。今日、みんなに実行してもらうのは『魔圧空間からの脱出』です。
 う〜ん。イメージ的には、手品とか、そういうのに近いかな。
 ただ、ちょっとでも油断すると全身バラバラになっちゃうけど。
 はい、これね。今、俺が出した、この青い風船みたいなもの。
 この中には、俺の魔力がギッシリと詰まってます。
 みんなには、一人ずつ、この中に入ってもらって……。
 自力で脱出してきてもらいたいと思います。
 脱出までのタイムリミットは5分。
 5分を過ぎた場合は、1分毎に減点していくよ。
 赤点にならないように、頑張って脱出してね。
 この風船の中……魔圧空間内ではスキル発動が可能だから、
 有効的なスキルがあれば、どんどん使ってみましょう。
 但し、さっきも言ったけれど、この中には俺の魔力が詰まっているからね。
 低レベルなスキルじゃあ、押し潰されて無効化してしまいます。
 俺の魔力と相性が悪いスキルだったりすると、跳ね返ってくることもあるかも。
 あはははは。怖がる必要はないよ。多分、大丈夫だと思うから。
 よし。それじゃあ、順番に中に入ってもらおうかな。
 名前を呼ばれたら前に来てね。
 待機中は静かに見物していること。いいね?

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「多分って……大丈夫かしら」
 ポツリと呟いた夏穂。不安に思うのも無理はない。
 多分、大丈夫! だなんて……ワザと不安にさせるような発言だ。
 いや、ワザと言ってるんだろう。ヒヨリとは、そういう男だ。
 魔圧空間からの脱出、脱出までの速さがカギになるテスト。
 ヒヨリが黒板に書き出した採点表では、1分以内に脱出できれば満点が貰えることになっている。
 絶対に満点を取らせないだなんて、そんな意地悪な先生ではないから、
 1分以内の脱出は不可能ではない……はずだ。
 要は、ヒヨリの魔力を弾き返すような、そんなイメージか。
 あの風船の中は、ヒヨリの魔力で満ちているということだから……。
 確か……ヒヨリ先生の属性は『闇』だったわね。
 相性が悪いと大変らしいけれど……私は、どうなのかしら。
 私の身体に宿っている属性は『氷』と『水』
 一般的には、風属性と相性が良くて、炎属性と相性が悪い感じだけど……。
 闇属性って、特殊なのよね……。 あまり、目にしたこともないし。
 どうなのか、実際に見てみないと、どうしようもなさそう。
 この授業、今回初めて実施されるものじゃ……なさそうよね。
 だって、新入生以外の生徒は、凄く落ち着いてるもの。
 過去に経験しているというのは、強みだと思うわ。
 まぁ、何も知らない状態で初体験させるっていうのが、先生の思惑なんだろうけれど。
 順番に名前を呼ばれ、前へ出て、ヒヨリが生成した魔圧空間の中へと入っていく生徒。
 空間の中で、何が起きているのか、空間の中が、どうなっているのか。
 外から見ている限りでは、何も理解らない。
 ただ、無事に見事に脱出できた生徒でも、全員がゼェハァと息を乱している。
 新入生に至っては、赤点突入の5分が経過しても、中々出てこられずに、
 最終的にヒヨリが魔圧空間を消して助けてあげるという展開にもなっている。
 脱出できず、ヒヨリに助けてもらった生徒は、そのまま保健室へと搬送。
 気を失っている状態のようだ。
(…………)
 どのへんが大丈夫なのだろう。大丈夫だと言えた根拠は何なんだろう。
 保健室へと運ばれていく生徒を見やり、夏穂は苦笑した。
 そうして、不安を拭い去ることが出来ぬまま、順番が回ってきてしまう。
 はい、と返事をして立ち上がり、前へと出て行くものの、心境は微妙だ。
 不安そうな顔をしている夏穂へ、応援の声が掛かる。
「夏穂、がんば〜」
 机に頬杖をつき、ニコニコと微笑みながら応援したのは、クラスメートの海斗。
 海斗は、一番最初に名前を呼ばれて前へ出て、38秒で脱出した。
 彼のタイムが、今のところ一番速い。
 脱出する時には、ポーズまでキメていた。
 初体験じゃないにしても、かなりのものだ。
 彼が脱出した際、自然と拍手が沸き起こった程。
 どうすれば良いのかな、なんてアドバイスを求めるのは反則だ。
 きっと、大丈夫。海斗にも、出来たんだから、私だって……。
 ささやかなライバル意識を胸に、魔圧空間の前で頷いた夏穂。
「じゃあ、頑張ってね。いつでもどうぞ、君のタイミングで」
 ストップウォッチを片手に、微笑んで言ったヒヨリ先生。
 夏穂は、スッと目を伏せて意識を集中し、暫しの沈黙の後、
 左足から……魔圧空間へと入っていった。

 *

 ふわふわと……浮いているような不思議な感覚。
 きちんと立っているはずなのに、体が傾いているような……違和感。
 魔圧空間の中は、真っ暗だった。無限に広がる、漆黒の闇。
 何も見えない空間の中、夏穂は不用意に動くことはせず、耳を澄ませた。
 どこからか……呻き声のようなものが聞こえる、ような気がする。
 その音に対する警戒を解くことなく、早速、脱出にチャレンジ。
 ヒヨリは言っていた。この空間は、自分の魔力が詰まった風船のようなものだと。
 ということは、だ。風船の性質を考慮して……。
 サッと手袋を外し、手元に無数の氷を出現させた夏穂。
 出現させた氷は、まるで生きているかのように蠢き、矢のような形へと変わっていく。
 それらを手に取って、構える夏穂。
 グッと踏ん張って、全力で投げやれば、氷の矢は……ガシャンと砕けた。
 パラパラと降ってくる氷の粒。身体を振って、それらを払い落としながら夏穂は微笑む。
 やっぱり、外壁があるんだわ。砕けたのが何よりの証拠。
 どこまでも飛んでいくようなら、また別の方法を考えなくちゃならなかっただろうけれど、
 『当たって砕けた』のなら、やるべきことは一つね。
 クスクス笑いながら、懐から魔扇子を取り出してバッと開く。
 ふわりふわりと、優雅に舞う蝶のように魔扇子を踊らせれば、辺りに吹きすさぶ猛烈な吹雪。
 万が一、跳ね返ってこられた時の為、自分の身体を氷の防護魔法で包み込んでおけば、準備オーケー。
 闇の中を吹き荒ぶ吹雪。それは、一種の風だ。
 吹雪が大きく激しくなっていけば、それに応じて……。
「おー。すげー! でかっ!」
「せ、先生。大丈夫ですか、これ」
「うん? 何が?」
「非難とかした方が良くないですか」
「大丈夫だよ。結界張ってるからね」
 夏穂がいる魔圧空間の外、教室は騒然としていた。
 何故って? そりゃあ……魔圧空間が、どんどん大きくなっていくから。
 中で大量の風が吹き荒いでいることで、魔圧空間は、みるみる大きく膨らんでいく。
 次々と風を送り込まれる風船のように。
 投げやる氷の矢。当たって砕けるまでの時間が長くなっていく。
 それは即ち、空間が膨張している証拠。
 夏穂は躊躇うことなく、氷の矢を投げ続けた。
 大きく膨らみ、限界まで達した時、一般的な風船に起こる現象。
 それと同じ現象が、魔圧空間に起こる。
 膨らむにつれて、薄くなっていく外壁。
 その薄い外壁に、氷の矢が突き刺さる。
 砕けることなく『突き刺さった』 その結果と瞬間。
 パァンッ―
「きゃー!!」
「うおおおー!!」
 魔圧空間は、これまでにない高らかな音で鳴きながら、弾け飛んだ。
 結界が張られていることを知っていても、顔を背けてしまった生徒達。
 クラスメートが顔を背けたことは、夏穂にとっては好都合であった。
 みんなが顔を背けている隙に、夏穂は素早く手袋を着用し、元通り。
 脱出までに掛かった時間は38秒。
 最高タイムの海斗と同じである。
 弾け飛んだ魔圧空間、その欠片が床に落ちる音を耳にしつつ、
 そろ〜りと顔を上げて確認する生徒達。
 ニコリと微笑んで、御辞儀をする夏穂の姿を視界に捉えると同時に、
 クラスメート達は、夏穂へ拍手を送る。
 浴びる拍手喝采に、少々照れ臭そうに笑いながら自分の席へと戻っていく夏穂。
 途中、海斗は嬉しそうに笑いながら言った。
「さすが〜! お疲れっ」
「ふふ」

 弾け飛んだ魔圧空間。
 まだ、テストを受けていない生徒もいる為、再び生成せねばならない。
 ヒヨリは無言のまま、口元に笑みを浮かべて手早く魔圧空間を再生成した。
 新入生で38秒ってタイムを出したのは……あの子以来だなぁ。
 期待できる半面、不安に思うところもあるね。
 同じ道を歩んでしまうんじゃないかって。
 まぁ、そうならないように、俺達が助けてあげれば良いだけの話なんだけれど。
 それよりも気になるのは、あの子の中に感じる『異形』なるものの呼吸……。
 チラッと見えた。いや、見えてしまった、手袋の下の『秘密』
 可憐な姿に、酷く不釣合いな『それ』に、ヒヨリは一抹の不安を覚えた。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 海斗 / 19歳 / HAL在籍:生徒
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / HAL在籍:教員

 シナリオ『 魔圧空間からの脱出 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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