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<東京怪談・PCゲームノベル>


 キミ色に染めて

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 たまには装いを変えてみるのも良いかなって思ったんだ。
 いつでも黒装束だからね。変わりばえしなくて退屈でしょう?
 そんなに難しく考えなくて良いよ。
 俺の身体で遊ぶような感じで。ね?
 何だか言い方が微妙だったかもしれないけど。
 お好きなように。キミ色に染めてごらん。
 俺も、キミと一緒に楽しむから。
 さぁ、どうぞ。召し上がれ。っていうのも変かな?

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 ……ちょっとだけ。ちょっとだけ、驚いた。
 だって、あなたが、あんまりにも嬉しそうにしているから。
 その格好、気に入っているんだと思ってた。いつもの黒装束。
 歩くたびにヒラヒラ揺れて、蝶々みたいで……僕は好きだけど。
 装いを変えてみたいと、あなたが言うのなら。
 僕も一緒に楽しむよ。あなたの変化を楽しむよ。
 上手に出来るかは……自信、ないけど……。
 いつもの黒装束を脱ぎ捨てて生まれたままの姿になったJ。
 二人きりだ。ここは、Jの自室。他に誰が見ているわけでもない。
 けれど、どうしてだろう。見慣れているはずなのに、妙に恥ずかしい。
 って、どうして僕が恥ずかしがるんだろう……。
 俯き、少々目を泳がせながら戸惑うクレタにJは笑う。
 まぁ、見惚れるのも理解るけどね。
 せっかく脱いだんだから、早く染めてよ。
 何でもいいよ。キミの思うがまま、好きに染め上げて。
 文句なんて言わず、おとなしく染まってあげるから。
 こんなこと、滅多に出来ないよ。ほら、早く。
 急かされて、クレタはキョロキョロと辺りを見回す。
 どこから仕入れたのか、部屋中に様々な服が用意されている。
 中には、ヒヨリが着ているのを見たことがあるような服も……。
 貰ったのかな……。ううん、それは、ないよね……。
 きっと、よこせって言って無理矢理奪い取ったんだろうな……。
 あれこれと考えながら、次々と服を手に取り、Jに宛がっていくクレタ。
 似合いそうな服を選ぶけど……僕の好みも入るよ。
 そうだなぁ……いつも真っ黒だから、たまには白なんてどうだろう。
 全身真っ白ってわけじゃなくて、ポイント的に……プラスする感じで。
「とりあえず……これ……」
「うんうん、いいね」
 渡されたのは黒の細身のパンツ。
 シンプルながらも、どこかセクシーな雰囲気。
 普段は拝めぬ脚のラインが露わになることで、意外性とトキメキを。……トキメキ?
 フルフルと首を振りながら、クレタが次に差し出したのは、
 細い黒ストライプが入っている開襟シャツ。メインカラーは白。
 言われるがままにシャツを身に着けていくJだが、その途中でクレタが注文を飛ばす。
「あ……。そこまで……外してて、二つくらい……」
「うん? なかなか、凝るね」
「……。これ、着けて」
 開いた胸元にアクセントとして沿えるのは銀のネックレス。
 黒いチョーカーに重ね置くように、トップモチーフの羽を飾って。
 ついでに、手元にもアクセントを。銀の指輪……。
 僕が着けているものは少しゴテゴテしてるけれど、これはもっとスマート。
 女の人が好んで着けそうなデザインのを持ってくると、うん……いいね……。
 アクセサリーと反発しあわぬように、ベルトも銀のバックル付きのものを。
 腰元を固定する為だけにあるわけじゃないから……ベルトは……。
 こうやって、少し斜めにかけてあげれば……グッとお洒落な感じになる……。
 上着はね、これ……。カジュアル生地の黒いジャケット。
 所々にピンズを着けて、ちょっとポップな感じにするの……。
 靴はね、黒皮のショートブーツ。季節に合わせて……。
「ねぇ……」
「うん? 完成?」
「あのね……。髪も……少し弄っていいかな……」
「いいよ」
 サラサラで綺麗な黒い髪。肩に掛かるか、掛からないか微妙な長さ。
 あなたは普段、特に何をしているわけでもなさそうだから……。
 ワックスで動きを出してみるのは、どうだろう。
 指先で摘んで、捻るようにクルクルして……。
 パッと離せば、ほらね……まるで、踊っているみたい。
 こうして見ると……あなたって、本当に綺麗な顔をしてるね。
 整った顔立ちっていうか、整いすぎてて逆に怖くもあるような……。
 もっともっと、変身するんじゃないかな……。
 ヒヨリとかに弄らせたら、凄いことになりそう……。
 かっこよくなるのは確かなんだろうけれど、複雑な心境だね。
 だって、今、こうして自分の手で染め上げていっているのにも関わらず、
 心境は複雑だもの……。あまりにも、綺麗に染まっていくから。
「出来た……」
「ごくろうさま。鏡、鏡、見せて」
 嬉しそうに微笑むJを鏡の前へと移動させる。
 これは……何というか、見事な出来栄えではなかろうか。
 セクシーな要素もあり、可愛げな要素もあり、ワイルドな要素もあり。
 普通ならばゴチャゴチャになってしまいそうなのだが、見事にハマっている。
 全ての要素が巧く絡み合って……普通に、かっこいいではないか。
「いいね。うん、いいよ。ね、どう?」
「……うん」
 どうして直視出来ないのか。目を逸らして頷いたクレタ。
 Jはクスクス笑い、せっかくだから、このまま出掛けようかと言った。
「どこか、行きたいところはある?」
「……えとね」
 白のロングダウンコートを羽織りながらクレタは思い返す。
 この間、ナナセとオネと、三人で御話してたんだ。
 キャンドルの火を、雪と氷で作られた台座に乗せ灯すお祭りをしてる世界があるんだって。
 雪を照らす、たくさんの灯火……綺麗なんだろうなぁって……思うんだ。

 *

「寒くない?」
「大丈夫……」
 吐く息白し、外界:リスキーマイル。
 仰せのままに、クレタが御所望の場所へと連れて来てくれた。
 揺れるキャンドルの灯。台座を持ち、ゆっくりと行進する綺麗な女の人達。
 まるで別世界。……ううん、うん、実際に別世界なんだけど。
 何ていうのかな、幻想的すぎて……現実じゃないみたいだ。
 ポーッと見惚れ、美しい雰囲気に酔いしれているクレタ。
 その横顔を見やりながら、Jはクスクス笑う。
「楽しい?」
「……うん。綺麗だね……」
「そうだね」
「…………」
 何も考えず、このままずっと見惚れていることが出来れば楽なんだけれど。
 そうもいかないんだ。ねぇ、J、気付いてる……?
 さっきから、擦れ違う人たちが、あなたを見て目を丸くするんだ。
 ギョッとしてるわけじゃないんだよ、ハッとしてるんだ。
 あなたが、あまりにも綺麗だから。芸術品みたいに……っていうのは言い過ぎかな。
 でも、あなたのことだから。全部、理解ってるんだろうね。
 自分に向けられている視線も、コソコソ話の内容も。
 理解った上で、そうやって満足気に笑ってるんでしょう……?
 それでね、帰り際、あなたは絶対に言うんだ。
 俺を独占できて嬉しい? って。
 理解ってるくせに聞くんだよ。いつも、そうだよ。
 聞こえないフリをしても逃げられないんだ。
 僕が「うん」って返すまで、何度も何度も尋ねるから。
 何だかな……あなたを染め上げたのは僕なのに。
 結局、あなたの掌の上で転がされてしまう、この事実。
 それでも幸せだと思えてしまうから、困ったものだね。
 Jの横顔を見やりながら小さく溜息を落としたクレタ。
 呆れているのに、繋ぐ手にはギュッとチカラが篭って。
 ちぐはぐ。うん……本当に……何だろうね、この気持ち……。
 何を考えてるか、すぐに理解る。
 キミって、本当に理解りやすいね。
 俺の前だけなのかな。そうやって、感情を露わにするのは。
 そうであるように願ってやまないけれど。他の誰にも見せたくないから。
 考えてることは理解るよ。全部、何もかも。
 だからこそ、訊くんだ。確かめる? いや、違うね。
 声に出して欲しいと思うだけ。その想いを、聞かせて欲しいと思うだけ。
「ねぇ、クレタ。俺を独占できて嬉しい?」
 耳元で囁くような問い掛け。
(フライング……)
 クレタはフィッと顔を背けて、はぐらかす。
 そうだ。帰りに、皆にキャンドルのお土産を買って行こう。
 ねぇ、お土産。皆、喜ぶよね? どこに売ってるのかな。
 あ、向こうにありそう。ほら、人がたくさん集まってる、あそこ。
 行ってみようよ。綺麗なキャンドル、見つかるといいね。
 ねぇ、御願いだから。あんまり、見ないで―


 *
 *
 *
 

「…………」
 ふと目を覚ませば、見慣れた天井。嗅ぎ慣れた自室の香り。
 ゆっくりと瞬きすれば、頬を伝い枕を涙が濡らす。
 何度目になるだろう。こうして、目覚めて泣くのも何度目になるだろう。
 どこか遠くにいる、愛しいあなたへ。
 今日も、あなたは僕の夢に出演したよ。
 せめて、夢の中だけでも?
 そんなこと想うはずがないじゃないか。
 逢いたいよ。早く逢いたい。声が聞きたい、触りたい。
 いつになれば、戻って来てくれるの……。J……。
 何度目になるだろう。こうして、枕に顔を埋めて。
 声を殺して大声で泣き散らすのも。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ『 キミ色に染めて 』への御参加、ありがとうございます。
 J失踪中です。納品順が少しズレておりますが、切なさ募らせの為の仕様です(…?)
 戻ってくるまで、悶々として頂きたく思います(……)
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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