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<東京怪談・PCゲームノベル>


 初恋 -ウイレン-

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 何となく、様子がおかしいような気はしていた。
 普段からポーッとしているところはあるけれど、最近は余計に。
 ご飯の時も、みんなで談笑している時も、きみの心は何処か遠く。
 ペアで仕事をした一昨日は、かなり危なかったね。
 ごめんねって、きみは何度も謝ったけれど。
 仕事でミスをしたことだけに対する謝罪じゃないような気がしてた。
 もっと他の……大きな悩みがあるんじゃないかって思わせた。
 隠し事が下手なのは自分と一緒。
 一人で解決出来るのなら口を挟む必要もないけれど。
 きみの顔を見るからに、自力での解決は難しそう。
 余計なお世話かもしれないけれど、聞かせてくれないかな。
 オネ。きみは、何を考えてる?

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 外界:ランツォーロにある時の回廊。
 クロノクロイツとランツォーロを繋ぐ、唯一の扉。
 そこに駐在している番人が、オネの意中の御相手。
 何度も仕事で赴き、顔を合わせる内に、大きくなっていく気持ちに気付いた。
 番人の名前はユウト。年齢は20歳。
 お人形さんのように整った、女性顔負けの綺麗な顔立ち。
 ただ、ユウトの性格が、ちょっと難解というか……掴みにくい。
 クールといえばそれまでだけれど、何事にも無関心というか。
 ただ黙々と仕事をする、その姿は機械のように思えるほどで。
 でも、そんなところも可愛いと、素敵だと思えてしまうから、どうしようもない。
 自分の想いに気づいてからは、余計に動きがぎこちなくなった。
 それまでは普通に御話することが出来たのに、
 気付いてからは、そればかりを考えて意識してしまって。
 それまで普通に話せていたのに、急に態度がおかしくなったって、不気味がられているかもしれない。
 それを思うと、怖くなって……会いに行くことも出来なくなっちゃうんだ。
 どこが好きなのかって、そんなことを訊かれても答えることなんて出来ないよ。
 ただ、素敵だなって思うんだ。見ているだけで、ドキドキして満たされる。
 ……でもね。見ているだけじゃ物足りなくなってしまうんだ。
 想いを伝えて、願わくば、その想いを受け取ってくれて。
 二人、寄り添って御話が出来れば……って夢を描く。
 欲張りになってるのかな、僕……。
 伝えることなく、ただ想っているだけのほうが良いのかな。
 伝えることで、ユウトが迷惑に思うのなら、やめておくべきなのかな。
 必死に自分の想いを吐露するオネ。
 最初は躊躇いがちに、照れ臭そうに。
 けれど、次第に言葉に熱が篭って……。
 本人は気付いていないだろうけれど、耳まで真っ赤だ。
 そんなオネの姿を見つつ、クレタはクスクスと微笑む。
 ……一生懸命、好きな人の話をするオネの姿。
 心から、可愛いなって思うよ……。
 何を悩んでいるんだろうって心配していたんだけれど、そういうことだったんだね……。
 欲張りなんかじゃないよ。普通のことだよ。自然なことだよ。
 好きな人が出来たら、その人と一緒にいたいって想うのは当然のことだもの。
 ユウトさんのことは、僕も知ってる。僕も、仕事で何度もランツォーロに行ってるから。
 確かに、ユウトさんは掴みにくい性格かもしれないね。笑っているところとか見たことないし……。
 でもね、昨日、僕が仕事でランツォーロに行ったとき、ユウトさん言ってたよ。
 オネは元気なのか? って。
 しばらく顔を見てないから少し気になっただけって言ってたけれど……。
 何とも思ってなかったら、心配なんてしないと思うんだ。
 だからといって、絶対に成功するよとは言えないけれど。
 期待は……しても良いんじゃないかなって、僕は思うんだ。
 悩んで塞ぎ込んでるオネの顔なんて見たくないから。
 笑顔になれるように、幸せになれるように。協力するよ。
 怖いかもしれないけど、言葉にしないと、声にしないと伝わらないことだから。
 頑張ろう、オネ。僕も、精一杯協力するから……。
「オネが……一番気にしてるのは、年齢差かな……?」
「……う、うん」
 オネとユウトの年齢差は7歳。
 大したことないようにも思えるけれど、13歳と20歳では……その差は大きく感じる。
 子供だと思われているんじゃないかって、恋愛対象には入らないんじゃないかって、
 オネは、そこを気にしてるんだね……。でも、関係ないと思うよ。
 僕とJだって……かなり歳が離れてる。
 Jの正確な年齢は理解らないけれど、間違いなく、あの人は僕より大人だから。色々な意味で。
 それでも平気だよ。お互いが想いあっていれば、年齢なんて関係ないんだ。
 それにね、僕は……オネのことを尊敬してる。
 僕よりも年下だけど、すごくしっかりしてるし。
 落ち着いてるっていうのかな。内面は、僕よりずっと年上だと思う。
 大切なのは気持ち。それを伝えない限り、相手には何も伝わらないよ。
 雰囲気で察するとか、そういう例もあるだろうけれど……。
 そういうのって、大抵、くっつく前に相思相愛なことをお互いに理解ってる特殊なパターンだと思う。
 あと……重要なことといえば、相手の好みかな。
 好みを知って、それに合わせろってことじゃないよ。
 相手の好き嫌いを理解しておいて、付き合いに生かすんだ。
 こうされたら、この人は嬉しい。
 こういうことは、この人は嫌う。
 そうやって考えてね、言葉を選んだりするんだ。
 無理にやるようなことでもないんだよ。自然と……相手を思えば出来ること。
 でも、相手の好みについては、仲良くなってみないと理解らないから。
 少しずつ仲良くなって、お互いの好みを把握していくのが良いと思う。
 何にせよ……気持ちを伝えないことには、何も始まらない。
 好きでいるだけで満足だなんて、そんなの、ありえないことなんだから。
 好きなら好きで。欲しくなるのは……当然の成り行きだよ。
 わからないことだらけのまま、煙みたいに消えてしまうのは悲しいでしょう?
 思い切って、一歩を踏み出さなきゃ。
 別にね、じっくり考えて言葉を選ぶ必要はないんだよ。
 簡単なこと。
 非番になる日を聞いて、デートに誘ってみるんだ。
 お話したいから、付き合ってくれませんかって。それだけでいい。
 僕等の立場も、ユウトさんは職業柄、全部把握しているから、
 最初に『仕事は一切無関係』だってことも伝えたほうが良いかもね……。
 真面目なユウトさんだと、仕事の一環として捉えたりしそうだから……。
「ち、ちゃんと……言えるかな……」
 声を震わせ、やたらとキョロキョロしながら言ったオネ。
 クレタは、オネの頭を優しく撫でて言う。
「……心細いなら、僕も付いて行くから」

 *
 *

 無理なことかもしれないけれど、そんなに緊張しないで。
 強張った顔で声を掛けたら、ユウトさんも気構えてしまうよ。
 そうしたら、余計に緊張する雰囲気になってしまうから。
 笑って。笑顔で。ね? 頑張って、オネ。
 カッチカチに強張ったオネの顔。
 クレタは、ほっぺをムニッと摘んで笑い、背中をポンと叩いた。
 真っ直ぐに、ユウトへ向かって歩いているつもりのオネ。
 ガクガククネクネと、遠回りしていることに本人は気付いていない。
 ロボットのようなオネの動きを、柱の影から見守り微笑むクレタ。
 誰かを想う気持ち。時守にとって、いいや、ヒトとして必要不可欠な気持ち。
 淡い初恋は、実るのだろうか。
 ユウトの目の前で立ち止まり、真っ赤な顔で声を掛けるオネ。
「お、お久しぶりなのです」
「……。あぁ、久しぶり。元気か?」
「はい。元気でございます」
「……。何かあったのか?」
「ほぇっ!?」
「……。喋り方が変だから」
「えっ、えーとね。えーと、その〜……」
 久しぶりに聞く、好きな人の声。
 低い、その声が全身に響き渡って脳もを揺らす。
 ユウトのところへ辿り着くまでの間、頑張ろうと意気込んでいたはずなのに。
 こうして、本人を目の前にしてしまうと、何も考えられなくなってしまう。
 久しぶりだからというのもあるのか、やたらとカッコ良く見える。
 首を傾げる仕草も、瞬きも、何もかもがキラキラと輝いているかのように。
 まるで少女マンガに出てくる王子様のようではないか。
 必死に別のことを考えて、パニックから立ち直ろうとするのだが逆効果。
 逃れようとすればするほどに、ユウトがキラキラと輝いてしまう。
(ま、眩しい……ぁぅぅ……)
 眩しいだなんて。そんなことはないのだが。
 スポットライトを浴びてるわけでもなし、本当に華を背負っているわけでもなし。
 耳まで真っ赤に染めて、どうすることもできずに俯いてしまうオネ。
「おい。どうした。大丈夫か?」
 心配して顔を覗き込んでくれるのだが、余計に困惑してしまう。
 だからといってパッと顔を背けるのは失礼だ。でも、顔を上げることは出来ない。
 ボンッと爆発してしまいそうなほど、オネの頭は沸騰していた。
 見かねたクレタが、クスクス笑いながら二人の元へ。
 途中までは良い感じだったんだけど……オーバーヒートしちゃったね、オネ。
 でも、仕方ないかな……。久しぶりに会うと、会えなかった分、気持ちが膨れ上がってしまうから。
 俯いたまま微動だにしないオネの頭を撫でつつ、クレタはユウトへ事情を説明した。
 一番重要な、オネの『気持ち』については語らない。
 それは、オネ自身が、自分で伝えねば意味がないから。
 お休みの日に、オネとどこかでお話してあげてくれませんか。
 クレタが発した言葉に、ユウトはキョトンとしていたけれど。
「別にいいけど……。特に話すことないよ、俺は」
 そう返して、ポリポリと頬を掻いた。
 脈アリか脈ナシかでいうなれば、あきらかに後者だ。
 でも、断られたわけじゃない。オーケーしてくれた。
 ここから先は、オネの頑張り次第。
 無関心で鈍感なユウトに、理解らせてやれ。
 ぎこちなくても構わないから、全身でぶつかれ。

「クレタ……。あ、ありがと……」
 クロノクロイツへと戻る、その途中。
 オネは俯いたまま御礼を述べた。耳は、まだ赤々と火照っている。
 クレタは微笑み「どういたしまして」と返し、オネの手を取って並んで歩く。
 何だろう。この気持ち。懐かしいような、切ないような不思議な気持ち。
 人を想うこと。それを覚えたオネ。
 喜ばしいことなんだけれど、寂しくもあるよ。
 まるで……妹が、遠くへいってしまったような気がして。
 お兄ちゃんって……こんな感じなのかなぁ……。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / オネ / 13歳 / 時守(トキモリ)

 シナリオ『 初恋 -ウイレン- 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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