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<東京怪談・PCゲームノベル>


 フライングライフ

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 外界:東京にて、大人気のホラーパーク 『フライング・ライフ』
 まぁ、わかりやすくいうなれば、巨大なお化け屋敷だ。
 完成度の高さに惹かれ、各所から人が集まってきているらしい。
 その噂は、クロノクロイツにも届いた。
 いや。ヒヨリが持ち帰って来たと言うべきか。
 楽しそうに詳細を話すヒヨリ。
 まったりと御茶を楽しんでいたところなのに……。
 騒々しくなったのは勿論だけれど、それよりも微妙な心境にさせる状況が、これだ。
(…………)
 突き刺さるような視線。
 気付いているけれど、紅茶を飲みながら、はぐらかしてみる。
 視線が意味するもの? そんなの、わかりきってるじゃないか……。
 面白そうだから、一緒に行ってみない? って、そういうことでしょう……?

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 お化け屋敷とか……好きなんだね……。
 突き刺さるJの視線に、クスクスと笑うクレタ。
 ううん、違うかな。好きっていうよりは、興味があるって感じかな……。
 あなたは、意外と世間知らずなところがあるから……楽しそうだって興味津々なんだ、きっと……。
 何度か……研究施設にいたころ、本当に数える程度だけれど、連れて行って貰ったことがある。
 どんな感じだったか、具体的にハッキリと思い出せるわけじゃないけれど……。
 記憶にあるのは、ビックリしすぎて疲れた……って感じかな……。
 あれから、長い年月が過ぎた。僕も、成長した。
 怖いだなんて怯えることは……もう、ないよ。
 だからといって、行きたい! ってわけでもないけれど……。
 1人では行く気なんてしないけど……あなたと一緒なら、雰囲気を楽しむことが出来そうな気がするから。
 それにね、そんな……子供みたいな目で見られたら、断ることなんで出来ないよ。
「……うん。いいよ」
 クスクス笑いながら、Jの御誘いを受けたクレタ。
 お茶会が終わって、間髪入れずに飛んできた御誘いの言葉。
 その早さと、キラキラと目を輝かせるJの姿に、負けた。

 *

 さすがに……評判なだけあって、立派なものだ。
 どのくらい費用を投じているんだろうとか、そんな余計なことを考えさせられてしまう。
 外界:東京へと赴き、フライングライフを目の前にして、目を丸くしているクレタ。
 予想以上の出来栄えのようだ。中からは、絶えず悲鳴が聞こえてくる。
 地獄から聞こえてくるような、凄まじい悲鳴……。
 順番が回ってくる最中、クレタは無意識の内にJの手を掴んだ。
 怖いの? と笑うJ。クレタは俯き、苦笑しながら返す。
 別に怖くないよ。僕、怖いのは平気だから、もう、多分。
 ただ、暗闇ではぐれたら大変だろうから、手は離さないで握っておくべきだと思うんだ。
「まだ中に入ってもいないのに?」
「…………」

 ひんやりと冷たい……まるで、氷で出来た館のよう。
 中へ入って、先ず一番に抱く感想は、そんなところ。
 暗闇の中を、ゆっくりと一歩ずつ進んでいく。
 お化け屋敷の本質は、入場者を驚かせ怖がらせることだ。
 派手に驚いてくれれば、お化け屋敷冥利に尽きる。
 フライングライフ内部には、スタッフというものが存在していない。
 要するに、お金を貰ってお客さんを怖がらせるアルバイトがいないということだ。
 内部は、CGを駆使したトリックトラップや、見事な出来栄えのアイテムで満ちている。
「へぇ。凄いね、よく出来てる」
「そうだね……。これとか、ちょっと綺麗かも」
 ガシッとクレタが捕まえたのは、そこらを浮遊していた作り物の火の玉。
 クレタが言ったとおり、怖いというよりは感心させられるほど精巧で綺麗な火の玉だ。
 淡く青白く光る火の玉。部屋に持ち帰って飾っても良いくらいに。
 驚く様子もなく、ただ感心するばかりのクレタ。
 そんなクレタを、Jは微笑みながら見やる。
 ちょっとだけ、残念な気持ちもあるようだ。
 女の子のように驚いて怖がってくれるんじゃないかと、
 そういう姿を見れるんじゃないかと期待していたが故に。
 グロテスクな造形とか、作り物の恐怖の象徴とか……こういうものには心を動かされないんだ、僕……。
 怖いとか、そういうことを思う前に、凄いなぁって感心しちゃうから……。
 人が作ったものっていう現実的な見解が、どうしても勝ってしまうんだよね。
 だから、ビックリしたりすることはない……。怖いとも思わないし。
 ただ……。ただね、J。
「ん?」
 首を傾げて、話を聞く体勢を取ったJ。
 クレタが何かを伝えようとした、その瞬間。
 ガシャァンッ―
「わぁっ!!」
 ガラスが割れるような音と共に、空から何かが降ってきた。
 降ってきたのは何のことはない、蜘蛛の玩具だ。
 咄嗟にササッとJの背中に隠れたクレタ。
 服を掴む手に、やたらとチカラが篭っている。
「あれ? どうしたのかな、クレタ?」
 クスクス笑いながらクレタの頭を撫でて尋ねるJ。
 クレタは、恥ずかしさから顔を上げることが出来ない。
 ただね……こういう、予測できない仕掛けだけは、駄目なんだ……僕。
 どこから来るのか理解らないっていうのが、どうしてもね……。
 もうビックリしないぞって意気込んでも、急に来るから……どうしてもね。
 こういうのが、お化け屋敷の醍醐味なんだろうけど……。
 ただね、の後に続く予定だった言葉を口にしながら、辺りをキョロキョロと窺っているクレタ。
 怯えることなく、平然と歩いていられたのは序盤だけ。
 ここから本番、とばかりに各所に散りばめられた仕掛けに怯える時間が始まる。
「これも人が作ったものだよ?」
「そうなんだけど……。急に来るもん……」
 言い訳をする子供のように、小さな声で言ったクレタ。
 そこへ、追い打ちをかけるように……。
 ヌッと、突然、目の前に不気味な血塗れの怪物が現れた。
「―……ひっ! ……ヤだっ!」
 一瞬止まった呼吸。
 クレタは、Jの手をギューッと握って固く目を瞑った。
 あまりにも強く握るものだから、ちょっと痛い。
 でも、これ。これこれ、こういうのを待ってたんだ、俺は。
 よし、クレタ。どんどん行こう。進まないと、出られないからね。
 ニコニコと満面の笑みを浮かべて、クレタの手を引き歩き出すJ。
 やや、引き摺られるような形で、クレタはJに付いて行く。
 突如、何の前触れもなくガクンとヘコむ床。
「うぁぁぁぁ!」
「クレタ。落ち着け。ちょっと、ヘコんだだけだよ」
「…………。……うん」
 突如、何の前触れもなくブシュウッと噴出する煙。
「わぁぁぁぁ!」
「クレタ。ただの煙だよ」
「…………。……うん」
 突如、何の前触れもなく動き出す人形。
「あぁぁぁぁ!」
「ん〜。踊ってるね。可愛いね」
「…………。……う、うん?」
 次々と襲い掛かってくる『突然』仕様の仕掛け。
 その一つ一つにクレタは大袈裟に驚き、大きな悲鳴を上げる。
 面白そうに笑いながら、Jが冷静に説明してくれるので、すぐに平常心を取り戻すことが出来るのだが、
 休みなく仕掛けが襲ってくる為、平常心を保っていられる時間は極端に短い。
 仕掛けから仕掛けへ、その僅かな隙間の時間に、クレタはJに何度も御願いした。
 絶対に、手を離さないでね、離したら、もう二度と口聞かないからね、とささやかな脅迫も込めて。
 Jは怖くないのかな……。怖く……ないんだろうなぁ……。ずっと笑ってるし……。
 仕掛けが面白いっていうのもあるんだろうけれど、
 あなたが何よりも楽しんでいるのは、僕の反応だよね……。
 自分でも思うよ、どうして、こんなにも大袈裟に驚くんだろうって。
 次は冷静に対処しようってね、思うんだ、思いはするんだよ。
 でも、駄目なんだ。どうしても、大きな声が出ちゃう……。
 口を塞いでも、結局ビックリして手を離しちゃうから意味ないしね……。
 せっかく、こうして、あなたと一緒に来たんだし、
 あなたが楽しんでいるのに、僕はビクビクしてるだけだなんて嫌だよ。
 一緒に楽しみたい。一緒に笑いたい。
 だから、僕も……このスリルを楽しんでや―
 せっかく意気込んだのに。いや、意気込みかけたのに。
 その気持ちをバキッと折るように、またも突然の仕掛けが牙を剥く。
「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
 フライングライフ。その内部から外まで響き渡るクレタの悲鳴。
 その悲鳴は、他のどんな悲鳴よりも凄まじいものだった。


 出口に到着し、お日様の光を全身に受けた直後、クレタは、その場にペタリと座り込んでしまう。
 心臓は、未だにバクバクと激しく波打っている。
 呼吸も乱れたまま。整えようと必死になれば、余計に荒がる。
 ゴクリと唾を飲んで、必死に呼吸を整えようとしているクレタ。
 そんなクレタの目の前にしゃがみ、Jは嬉しそうに微笑んでいた。
 ベッドの上以外で、キミがそんなに息苦しそうにしてるのを見るのって初めてだよ。
 うん。いいね。何だか、得した気分。嬉しくなっちゃうね。
 ねぇ、また、見たい。もう1回、いや、出来れば何度でも。
 というわけで、もう1回入ろうか、クレタ。
「も、もう……やだ……」
 途切れ途切れに、クレタは言った。
 それは、紛れもなく心から放った本心。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)

 シナリオ『 フライングライフ 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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