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<東京怪談・PCゲームノベル>


【決戦・合戦。戦場、和妖折衷】


 
 昼にしては暗い。
 枝が落とされていない、スギ林だ。
 長く人の手がないらしく、シダ類の厚い葉が一面に繁茂している。
 その下の、黒い土はみえない。
 風も無いのに、一固まりの茂みがかさかさとうごめいて、止まる。
 葉の固まり、もといR−98J。
 さらにいうならばその集合意識の一人は、ゆっくりと顔だけをあげて周囲を見渡した。
 瞬間、彼女の顔のそばの木の幹が、裂けて弾けた。
 素早く身を伏せなおす。
(狙撃兵が……潜んでいる)
 量産躯体とはいえ、かりにもR−98Jは退魔兵器だ。
 個々の索敵能力は低くない。
 その彼女に探知できない位置と距離からの狙撃をこれほどの精度で行える。
 しかもそれが。先の大戦の戦前の戦前も戦前、中世の火縄銃でやってのけているのだからたまらない。
 戦術的にたまらないのではなく、常識的にちょっとたまらない。
 R−98Jは小さくため息をつく。
 既存の戦闘データは通用しないようだ。
 森林での遭遇戦に備えて携行したウージーでは対処できそうにない。とはいえ別の自分自身でやればいいだけの話。
 無謀にも彼女は立ち上がり、駆ける。
 すぐに銃弾が空を裂く音が続いて響き、痛みが頬を裂き、さらに左肩を衝撃が襲った。
 弾を喰らった――。
 そう思いながらもR−98Jは突出をやめない。
 十数メートル走ったとき、左脇腹にさらに大きな衝撃を喰らった。
 横へ吹き飛ぶように彼女は倒れる。
 さすがにそのまま葉の中を転がり、手ごろな幹を盾にして座る。
「損傷、セルフチェック、駆動回路スキャン、兵装可動チェック、オプションチェック……」
 頬は、かすっただけ、左肩は動かないがまだ右腕がある。
 脇腹を見る。小柄な少女の肌には痛々しすぎるほどの銃創が、迷彩服を撃ちぬいていた。
 セルフチェック。左足は動く。
 全スタビライザ、問題なし。
 遅くとも、動ける。
 OK。
「継戦に、支障なし……」
 そう呟いたころ、先行した彼女が文字通り身を張って受けた射撃から、彼女自身は敵位置をわりだした。
 はるか後方。
 スナイパーユニットの6人の少女が、一斉に長い銃身を構える。
「敵狙撃手……捕捉しました。ファイア」
 六本全てのライフルが、全く同時に火を噴いた。
 銃声がこだまする。
 つかの間の静寂。
 数秒後、小枝を折りながら。どさり、と目標が地面に落ちた。
 樹上に潜んでいた、敵狙撃手だ。
 その男のいでたちも古いが中身は、ある意味もっと古い。
 うごく腐乱体、いわゆるゾンビだった。
「山間部へ侵攻した全てのターゲットを排除――。周辺村落への被害拡大、ゼロ・パーセント。これより敵拠点の制圧、及び、敵の殲滅へ引き続き参戦します」
 と、異様な光景が現出する。
 あちこちの草むら一面が、いっせいに、立ち上がる。
 数え切れないほどの、森緑迷彩の少女達。
 むろん全員が、R−98Jである。
 そして、駆ける。草原そのものが走っているような光景だ。





 その怪異が観測されたのは、半日とたたぬ前のことだった。
 古城跡から湧き出、そこを占拠するおびただしい亡者、ゾンビの群れ。
 戦術をある程度理解し、しかも旧時代の火砲を近代のそれのごとく扱う彼ら。
 R−98Jたちはそれに対処すべく。
 精神的には、単独で――しかし物質的には、大量に出撃した。
 数には数。
 まず。
 付近の山林へ散ろうとする亡者を狩るべく、遭遇戦、森林戦闘装備の一団が降下。
 被害拡大を防ぐ。
 その掃討後、彼女らは敵の根城である、古城へ侵攻すべく、わらわらと降下。
 連戦を強いられる近接戦隊を援護すべく狙撃戦闘ユニット、測距観測戦闘ユニットのR−98Jが。
 ついで、砲撃、偵察、通信、をそれぞれ主装備とするユニットが雨のように衛星軌道上から降下する。
 さて、――古城前では、戦国時代さながらの接近戦が展開されていた。
 土煙。
 鮮血。
 やまぬ銃声。
 喚声。
 ゾンビ達の砲手が次々に撃ちだす砲火が、戦術展開を試みるR−98J達の進軍を妨げる。
 陣地構築にかかる彼女らの一隊。
 その中心に次々に榴弾が炸裂し、銃と肢体が空を飛ぶ。
「戦国時代の砲弾など焼き玉ぐらいと想定しましたが――予想外です」
 その怒涛の砲撃の中、突撃銃をかかえ短機関銃を腰に帯びたR−98Jがひた走る。
 めざすは、虎口。
 城を制圧するならば、これを突破するが定石。
 しかし当然、虎口までの道、城の銃眼からは激しい十字砲火が浴びせられる。
「突撃! 虎口を制圧します!」
 叫んだきわから、死者の中でも決死隊であろう。白刃をきらめかせるゾンビの数十が、剣を振り上げR−98Jの先鋒へ突撃してきた。
 両軍、足を緩めない。
「退けない……! 突破口をこじ開けます」
 疾走する勢いのまま、双方の人波が激突。
 R−98Jは、ある物は銃剣で、あるものはブッシュナイフ、アーミーナイフを抜き、ゾンビ武者の振るう白刃を相手に、火花散る剣戟を演じ始めた。





 埒があかない。
「私が――ただ、数だけと思われては困ります」
 戦術データ、リンク。
 最前線のR−98J、一斉にバックステップで退く。
 一挙に距離をとった彼女らに戸惑う白兵ゾンビら。そこに後方から狙撃ユニットの弾丸があられと襲う。
「ひるみました。今ですっ」
 古代の重装歩兵のごとく。銃を構え連射しつつ、密集隊形でゾンビの群れを掻き分け、前へ進む。
 しかし敵もさるもの、背後を襲い、また弓で狙い撃ち、虎口へ突進する彼女らもまた一体、一体と倒れる。
 それでも押し寄せるR−98Jの津波を押し留めるにいたらない。
 包囲を破り、門へ殺到する。
「ハッ、ハァ……よし、つきました。ここから一気に――あっと!」
 銃撃を免れて虎口前の角へ到達した彼女は、あわてて銃を掲げた。
 伏していた古武士が、大きく刀を振りかぶっている。
 頭上からの一閃を、かろうじてストックで受け止める。
 火花。
 金属のきしむ音が響く。
 つばぜり合いよろしく、R−98Jとゾンビは押し合う。
 敵は、彼女の体格から、くみし易しとみたか。
 そのまま上から押し斬ろうと刀に力をこめる。
「こ……の!」
 右のみ、ローラーブレード、ON。
 猛烈な土煙を上げ、右足が、唸る。
 その勢いに任せ彼女は飛んだ。
「えいっ!」
 加速するつま先を、亡者の顎に叩きつける。
 見事な曲線を描くサマーソルトで宙に弧を描き、着地を待たずにR−98Jはコルトを抜いた。
 ひるんだ敵の口元へ銃口を突っ込む。
「止まれぇ!」
 そして撃つ。
 撃つ。また撃つ。まだ撃つ。
 武者の喉から、激しく屍肉が散る。
 いかなゾンビとはいえ崩れ落ちたところを、一斉に周囲から細い光条が飛び交った。
 周囲のR−98Jからの一斉射撃。
 数一〇発の同時射撃を食い、亡者はしおれる様に崩れ落ちる。
「まったく……疲れます」
 右手を上げて、おおきく振る。それに呼応して、戦塵の中。
 一挙に彼女らは突進を開始した。
 ある者は銃弾に倒れる。
 ある者は不意にあらわれた凶刃に不覚をとる。
 それでも、やまぬ泉のように、R−98Jはあとからあとから現れ、撃ち倒し薙ぎ倒して進んだ。
 脚をやられてその場にもがくR−98J。
 しかし後を続くものがその手から武器を譲り受け、さらに撃ち進む。
 そこで空から、影が、走った。
 ふいに、一体のR−98Jが忽然と消えた。
 ように見えた。
 なんだ。どこだ?
「違う! 上、です」
 そこには、黒い翼をはためかす小龍の爪に捉えられて、宙をかくR−98Jがいた。
「有翼妖魔、しかも……!」
 しかも、単数ではない。
 鴉の群を思わせる死飛龍が、上空を旋回していた。





 有翼妖魔、死飛龍の群が、R−98Jらの頭上を旋回しつつ炎の塊を吐く。
 まずい。
「散開、散開っ」
 上空からふりそそぐ脅威に、さしもの彼女らも密集していては危ないと周囲の遮蔽物へ。
 火柱が次々と立ち上り、巻き込まれるものもある。
 この危機をうけて。
 三式退魔高射砲を積んだコンテナが、降下を開始する。
 だが。
 間に合わない。
 突撃隊の前進隊形はことごとく散らされた。
 なんとか、しなければ。
 周囲で轟く爆音と業火に伏せながら彼女は考える。
「データ・リンク……別ルートからの侵入を開始します」
 その思考を受けて、狙撃、測距、偵察にまわっていた遊撃隊が突出する。
 走る。
 その先には、藻の緑に染まった堀と、そして石垣。
「デルタ・チーム、城の石垣から登攀を開始します!」
 銃撃砲撃を縫って堀をおよぎきり、城の石垣にとりついたものたちから。
 はしごをかけ、あるいは両手足で。
 防弾シールドをかかげつつじりじりと石垣を登る。
 だが、ゾンビどももさるもの、その彼女らめがけ、銃を撃ち、巨石をなげ、丸太を投げる。
 幾人かがその重い衝撃に耐えられず、ばらばらと登りかけた石垣から落ち、堀へ沈む。
 健在するR−98Jたちは、落ちてゆく自己に眼もくれずひたすら石垣を登る。
 だが、その無謀さは明白だった。
 彼女たち以上にゾンビたちは数がいる上、銃眼からの射撃、投石は熾烈をきわめている。
「もう少し――支援要請、時刻まで、もう少し」
 呟きながら残り数えるほどとなったR−98Jはシールドを構えつつ石垣中腹で耐える。
 衝撃に耐えつつ石垣にへばりつき耐える。
「カウント、5、4、3……近接支援、くる!」
 瞬間、白い影が上空を横切った。
 一瞬遅れて襲い来る轟音と爆音。
「きましたか」
 R−98Jは、軽く息をついて空を見上げた。
 白鳥の、しかし猛禽の群れのように、逆光の中を無数の戦闘機が上空を疾駆しはじめた。





「テスト、テスト。遅れた。こちらTSIAF機、アルファ・リーダー。R−98Jへ。これより近接支援攻撃を開始する。すぐにリアタックCEP計測開始、データはリアルタイムで送る。まきこまれるな。グッドラック」
 やっときた。
「こちらR−98J、東京防霊空軍隊へ。ご協力、感謝します――現在、石壁を登っての侵攻と、虎口を突破する二部隊を主に展開中。有翼妖魔多数あり、警戒せよ。CAPを頼みます」
「TSIAF・リーダー了解。――全機、了解。しかし、龍か、ええい、なんて数だ」
 上空で、死飛龍と対霊戦闘機イズナ編隊の、激しいドッグ・ファイトが行われ始めた。
 その分、R−98Jらへ打ち込まれる妖魔の爆撃はなりをひそめる。
 チャンス。
「今です。あれを、あの門を破り、城内へ!」
 隠れていた虎口前のR−98Jたちは再び結集し、門へ突き進む。
 石垣を登る隊も息を吹き返し、一度落ちた堀の水面からも続々とR−98Jがあらわれ登りはじめる。
「アルファスリー、後方、上だ。後方に飛龍、ブレイク、ブレイク! ポート、ポート!」
「どこだ、見えない、敵は――」
 防霊空軍戦闘機の一機が、後方から主翼を食い破られきりもみになって落ちる。
「アルファスリー、墜落! アルファ・フォー、誘導弾に追われてるぞ、かわせ」
「編隊を組みなおせ。やつらを釘付けにすればいい、R−98Jを支援しろ」
「かわしてみせる、空を抑えてさえいれば、彼女らが、やってくれる」
「2時上方に有翼妖魔、3! 左右からアタック、ひきつけろ。ツー、フォー、いけ。俺とスリーは城郭に土産をぶちこむ」
 その間に、城壁を登っていたR−98Jの一人が白壁を越えた。
 跳ぶ。
 そしてゾンビの群の中心に重い音を立てて降りたった。
「城内、到達です……て」
 獲物を振り上げ襲い来るゾンビ達を右前転でかわし、R−98Jはグレネードを四方にぶちこんだ。





 轟音、業火、炎上。
「一番乗りですから!」
 灼熱にもがくゾンビ達を尻目に、さらに城壁を登り切ったR−98Jが続々と塀の中へ飛び込んだ。
 虎口前の部隊も、負けてはいない。
 データリンクから、城内へ侵入した別の自分を知り、虎口門へ殺到する。
「トリニトロトルエンを設置します! 援護を」
「了解」と周囲のR−98Jはフルオートで凶弾をばらまき、さらにマチェットを振りかぶりゾンビ群へ斬りかかる。
 さらにダイヴしてきた戦闘機が、工兵ユニットへの敵進路を断たんと波状に機銃掃射をかける。
 ぶ厚い刃とゾンビの白刃、妖魔の爪とガンの駆動音がめまぐるしく空を裂き合い肉を裂きあいする間に、準備は整った。
「点火、伏せっ!」
 爆音とともに、古城の堅牢な門は、燃える木片を散らし、吹き飛んだ。
 その黒煙は、上空からも容易に視認できた。
「こちらエコー・リーダー。見たか。R−98Jがやった! 門は敗れた。あとはあいつらがなだれ込むだけだ」
 東京防霊空軍は、この瞬間から敵の有翼妖魔をひきつければいい。
 時さえ稼げれば、生か死かのドッグファイトにつきあい続けなくていい。
 防霊空軍機、全機加速。旋回半径を縮め延ばしして、敵飛龍を足どめする。
 死飛龍との格闘戦の間合いをはずし、大旋回を開始。大きなループを描き、陽動。一撃離脱に徹する。
「よし、今です、TSIAF機が妖魔をひきつけている合間に!」
 R−98Jの先鋒たちは、本丸周辺の敵へ、腰だめにグレネイドを構え襲い掛かった。
 発射、放物線の先が亡者達のど真ん中に炸裂する。
 数で優位に立ち始めたR−98Jはその真髄を出し始める。
 空で攻撃を受け、墜ちた飛龍に接近、手榴弾をその牙の間に3,4個放り込んでは退避。
「きましたです」
 城の奥から怒涛に湧き出したゾンビ達。
 それが一斉に、防御を突破したR−98Jたちへ武器を振り上げてくる。
「この期に、及んで――」
 R−98Jは、暗闇からの刃をかろうじてかわし座り込んだ。





 戦略的には、もう掃討戦にはいるというのに――
「空軍の飛行機だけにまかせられますかって、です!」
 左。ローラーブレードON。フルパワー。
「そこっ」
 水平旋回蹴り。右足を軸に、群がるゾンビをなぎ倒す。
 ふみこみ、手近なゾンビの首根っこに、彼女は渾身の右拳をたたきこむ。そして。
 そのまま喉を貫く、ロケット・パンチ発火。
 肩から上を失ったゾンビは倒れる。
 左足が火花を吹き敵を蹴り上げるや、また右足が黒煙を噴き、さらに蹴り上げる。
 まさに連舞。
 左右のローラーブレードで蹴上げた。
 振り下ろす右足でさらに頭蓋をくだく。ソレを軸に左の回し蹴りを二回、三回。さらにそのまま、足を挙げカカトおとし。
「これで、どうです」
 もなにも、彼女の前にはだかった亡者は急所を粉砕された、物いわぬ骸があるのみ。
「仕上げ……掃討開始」
 虎口から、城壁からぞくぞくと侵入したR−98Jは、を揺らしながら城内をくまなくまわった。
 それも数十機でチームをくみつつ、くまなくまわるのである。
 暗闇から奇襲するゾンビにダメージをうける個体があっても、同時に周囲が蜂の巣にし、おのおのの武器を叩き込んで戦闘不能に至らしめる。
 そうして。
 城の全てが彼女らの制圧下にまわるころ。
 上空では死飛龍がにげまどい、落とされ、生き残りは彼方へ去った。
 防霊空軍機は謳うように天守閣上空をゆっくりと旋回。
 空が赤く染まり始める中。
 R−98Jは天守閣に登る、そして、旗はなくともその銃を天心に高く掲げる。
 ひらめき始めた星と沈む太陽。
 その双方に照らされて。
 黒い銃は虹色の輝きを天守閣に誇示していた。
 白い空軍機が白いトレイルを描き背景を飾る。
 天守閣へ上ったR−98Jは、思い切り銃を掲げる。
 あわせて城内外の彼女らも一斉にエモノを天へ掲げる。
 静かな、それでいてたしかな勝利の鬨を。




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○登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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6691/人型退魔兵器・R−98J/退魔支援戦闘ロボ/女性/8歳

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☆ライター通信          
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続々湧き出ずる亡者と続々降り立つロボ群の一大乱戦決戦場。
見所全てを表現するには拙筆時間字数に足りないながらも
本当に楽しく書かせていただきました

R−98J様ですと、情報・感覚・意識のフラクタルリンクによって
連携セリフがまったく発生しないのが本当なのかもしれませんが(筆者解釈ですが)
脚色と思って許して頂ければ幸いです


あきしまいさむ 拝