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<東京怪談・PCゲームノベル>


 上手な拗ね方

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 何ていうか……もう、見慣れたところはある。
 Jに言い寄り、いつでも彼の周りをウロチョロしている女の子、フウカ。
 彼女は『人間』ではなく、人間の形をした『時の歪み』
 まぁ、そんなことはどうでもいい。その点には、何の問題もない。
 フウカとJが一緒にいるところは、もう数え切れぬほど目にしている。
 いつでも、Jは適当にあしらって相手にしていない。
 迷惑そうに見えるが故、不憫だなと思うと同時に微妙な心境になる。
 拒絶しきれないのは、優しいからか。
 それとも "都合の良い女" が欲しいからか。
 真相は定かではないけれど……。
 所構わず絡むが故に、見ているこっちは良い気分ではない。
 まぁ……自分に、とやかく言う権利なんてないのかもしれないけれど。
 無意識の内に肩を竦め、扉の前で溜息を落とす。
 Jの部屋、その扉の前。自分の手元には、一枚の書類。
 ヒヨリから、渡して来てくれと頼まれた。
 何となく、会うのが気まずい状況が、しばらく続いているけれど。
 書類を渡すだけだ。何のことはないだろう。
 顔を上げ、扉を二回、コツコツと叩く。
(……。……?)
 返答はない。もしかして、まだ寝ているのだろうか。
 少し考えた後、躊躇いながら扉を開けた。
「……J?」
 そっと覗き込む部屋の中。鼻をくすぐる、いつもの甘い香り。
 ゆっくりと扉を開けつつ、様子を窺う。

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 Jの部屋に踏み入るのに、遠慮はいらない。
 でも、状況が状況なだけに入り難い。
 フウカの所為で、ここ数日、クレタとJは、ロクに会話できていない。
 一時は治まったのに……最近になって、フウカのアプローチが再発している。
 以前よりも堂々としているのは、開き直ったからなのか。
 それとも、勝てる自信に繋がる『何か』を得たからなのか。
 何にせよ、JもJだ。好きなようにさせすぎる感がある。
 放任主義というか……ほったらかすと厄介なことになる場合もあるのに。
 まぁ、らしいといえばらしい対応だとは思うけれど……。
 ヒヨリから預かってきた書類を机の上に置き、フゥと息を吐き落とす。
 視線はベッドへ。どうやら、ぐっすりと眠っている御様子。
 いつもなら、すぐに目を覚ますのに……ピクリとも動かない。
 疲れてるのかな……。大丈夫かな……。
 不安に思ったクレタは、そーっとベッドへ近寄る。
 もしかしたら、僕が来たことに気付いていて、タヌキ寝入りしてるかもしれない。
 覗き込んだら、パチッと目を開けて……笑ってくれるかもしれない。
 頭の中で描いたのは、そんな『願望』
 だが、その願望が現実になることはなかった。
 そればかりか、逆に『絶望』を味わうことになる。
 クレタの視線はベッドに釘付けとなった。
「…………」
 言葉を失うとは、まさにこのことなのだと。
 その瞬間、気味が悪いほどに理解した。
 ベッドで眠るJの隣。寄り添うように眠る……フウカ。
 しかも、二人は生まれたままの姿。一糸纏わぬ姿で眠っている。
 そんな姿を目の当たりにして『落ち着け』だなんて無理な話。
 クレタは無意識の内に、ボスボスと布団を叩いた。
 その衝撃に、ふっとJとフウカが目を覚ます。
「あぁ……クレタ。おはよう」
「…………」
「ん……。どうした……?」
「……それは、こっちの台詞だよ」
 チラリとフウカを見やり、淡々と冷たい口調で言ったクレタ。
 言い訳するのか、素直に謝罪するのか、そのどちらかだろうと思いきや。
「何が?」
 Jはクスクス笑って、そう言った。
 何がって……。ふざけてるの? もしもそうなら、あなたの性格を疑うよ。
 いくら信じてたって、二人が裸で寝てたらムッとするんだよ……?
 何か理由があるにしても、ムカムカするのは当然なんだよ……?
 言い訳しても、謝っても、そうなんだってすぐに認めることはしないけど……。
 そんな、あっけらかんと「何が?」なんて言われたら……余計にイライラするよ。
「……ねぇ、J」
「ん?」
「これから先、どうするの……」
「何を?」
「フウカを。この子を、ずっと傍に、はべらせておくつもり……?」
「はべらせるって―」
「ちょっと何よ、その言い方。失礼じゃない」
 Jの言葉を遮って、フウカが不快を露わにした。
 まぁ、いつものパターンだ。フウカの言い分というか。
 Jは、自分のことを大切に想っていて、だからこそ傍に置いてくれている。
 Jに愛されているのが、自分だけだなんて思わないで。
 私だって、あなたと同じ。Jが生んだ、想いの塊なんだから。
 あなたばかり愛されるだなんて不公平じゃない。独り占めしないでよ。
「…………」
 フウカの言い分を聞いて、クレタはひとつ、溜息を落とした。
 言いたいことは理解る。そして、それが間違いではないことも理解る。
 フウカの気持ちは、すごく理解る。好きな人とは、いつでも一緒にいたい。
 でも、それなら仕方ないね。僕が悪かった、怒ってゴメン。だなんて言えない。
 欲張りかもしれないけれど、独り占めしたいんだ。
 きみの気持ちを理解することが出来るからこそ、傍にいて欲しくない。
 ねぇ、J。こんな遣り取りも、もう何度目になるかな……。
 正直なところ、ゲンナリしてきてる。同じことの繰り返しで。
 僕の気持ち、わかってる? わかっててやってる……?
 ねぇ、もしも。僕が他の誰かの隣に寝ていたら、どう思う?
 ……あれ。あ、そうか。
 一緒に寝てるだけなら、触れ合ったりしてるわけじゃないのか。
 それなら、別に気にすることもないのかな。
 もしかして、それを理解らせる為に、こうやってフウカと一緒に寝て……。
 って、いやいや。違うよ。違うよね……。それは、違う。
 一緒に寝てるってだけで、おかしなことを想像するものだよ、普通は。
 二人で一緒に、裸で寝てる。それって、十分に、おかしなことなんじゃないのかな。
 ただでさえ、最近、あなたと御話することが出来ていないのに。こんなの見せられちゃ……。
「僕にも……限界ってあるよ……」
 Jを、じーっと睨みつけながら小さな声で言ったクレタ。
 限界すなわち、我慢の限界。
 もしもこのまま、構ってくれずにいるのなら、どうなるか理解らない。
 もしかしたら、他に安らげる腕を求めて、あなたの傍から離れてしまうかもしれない。
 例え、そうなったとしても。あなたには、文句を言う権利なんてないはずだ。
 寂しい想いをさせた。それだけで……あなたの罪は確定するから。
 ポツリポツリと呟くクレタの声には、どこか……迫力のようなものがあった。
 脅迫まがいの拗ねっぷり。
 クレタの横顔を暫し見つめ、Jはクスクス笑う。
 脅してるつもりなんだろうけど。演技、下手だね。
 唇が震えてる。怖いの? それなら、そんなこと言わなきゃいいのに。
 他の誰かを求めるだなんて。そんなこと、出来るの?
 やってごらんよ。文句なんて言わないから。
 出来るもんなら、やってごらん。
 返ってきたのは、そんな冷たい言葉。
 いいよ、もう。そんなこと言うなら、本当にもう知らないから。
 そう言って、部屋を飛び出すことが出来たら……良いのに。
 クレタはキュッと下唇を噛み締めた。瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
 想ってもいないことを口にしてまで拗ねてみせたのに、僅かな動揺すらしてくれない。
 そればかりか、出来るもんならやってみろとまで言われた。
 悔しいけれど、今、ここで部屋を飛び出すわけにはいかない。
 だって、そうしてしまったら、拗ねた意味さえなくなってしまうから。
「おいで、クレタ。一緒に寝よ」
 ニコリと微笑んで言ったJ。
 クレタは小さな声で「ばか」と言いながらも、Jの右サイドにコロンと寝転んだ。
 左腕にフウカ。右腕にクレタを抱いて、Jは満足そうに微笑む。


 思うが侭。何をどうしても、あなたの思うが侭にしかならない。
 独り占めしたいって思ってるのに。それを許してくれない、意地悪な人。
 それでも、こうして傍にいることが出来れば安心できてしまうんだから。
 僕も、フウカも、どうしようもない……。
 いつまでも、フウカを傍においておくのは、楽しいから。
 そうやって、キミ達が争ったり、自分の気持ちをぶつけあう様を見るのが楽しいから。
 もっともっと、我侭になればいい。どうしたいのか、口にすればいい。
 遠慮なんていらない。抑制もいらない。もっともっと、貪欲になれ。
 俺から生まれた存在なら、謙虚さなんて持ち合わせないで欲しいな。
 気が狂うくらい、貪欲になって欲しいな。
 そんなキミ達を見て、俺は楽しむから。
 もっともっと、楽しませて。
 思うが侭。何をどうしても、この人の思うが侭にしかならない。
 満足そうに微笑むJを見つめ、クレタとフウカは両サイドで同時に溜息を落とした。
 どうしようもないと呆れる。その対象は、Jではなくて。自分自身だ。
 僕達は、いつまでも。
 我侭な王様の腕を求め、我侭な王様の腕に安らぎ、我侭な王様の腕で眠る。
 いつまでも、いつまでも、いつまでも。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / J / ??歳 / 時狩(トキガリ)
 NPC / フウカ / 18歳 / 人型歪曲体(コーダ)

 シナリオ『 上手な拗ね方 』への御参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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