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□団員服リニューアル!(採用編)□
某月某日。
サーカス団テント内の集会場にて、全団員召集。
そこには当然団員であるアレーヌ・ルシフェルやミリーシャ・ゾルレグスキーの姿も在る。彼女達は一体何が告げられるのか疑問を胸に抱きながら団長が現れるのを待った。
「よし、皆集まったな。では本日の召集の目的を伝える!」
奇妙なピエロの仮面を着けた人物が集まった団員の前に立つ。サーカス団団長・Mだ。
だが彼の実体はその肩に乗った雄のメガネザルで、今日も小さな身体で胸を張って団員達に召集の目的を告げた。
「こほん。実はこの度団員達の服を一新しようと思っております。そこで、折角の良い機会です。団員達の中から新しい服のデザインを募集してみることに致しました。各々自分の着てみたい団員服を三日後までにデザインし提出すること! ―――― 以上、解散!」
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「シルクハットはまだいいですわ。蝶ネクタイも、白手袋も、燕尾服なジャケットもまだ許せる範囲ですわ。でも! 胸元をただ強調するような黒のコルセット、下半身を強調する黒のハイレグショーツ、脚線美を強調する黒のロングブーツ、此処だけは以前から不満を覚えていたんですのっ」
団員の一人であるアレーヌは自室でぐっと拳を作る。
ペンを握り、未だ白いのままの紙を前に彼女は今燃えていた。露出の多さに対して愚痴を零しながらカツッとペン先を下ろす。自分の求める、自分のための、まさに理想の団員服をデザインするために。
「わたくしの魅力を一層引き立たせる麗しい団員服をデザインしてみせますわよぉー! ほーっほっほっほ!」
燃えたアリーヌを止める者など当然いない。
―― 一方その頃のミリーシャ。
「……、…………ん、……」
顔にこそ出さないが彼女もまた新しい団員服に期待を膨らませていた。
その証拠に彼女の手元にはすでに何枚かのデザインされた紙があり、更に今もまだペンを握る手は止まらない。
今の衣装よりもより自分好みに。
自分を引き立たせる魅力的なコスチュームを。
そんな夢と希望を胸に団員達は三日間新団員服に思いを馳せた。
―― そして三日後、サーカステント内にある団員専用の掲示板に張り出されたのは団員達が描いた数々のデザイン画。
後日そこから幾つかデザインを絞ってから新団員服の試作品を作り、更にそれを実際デザインした団員に着せ発表し、そこから選考させるという。
各々自信作が第一選考に通りますようにと祈りながら、掲示板を眺める。どれも個性に満ち溢れ、夢も希望も詰まっているものばかり。
そして、再び時間は流れた。
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最終選考当日。
デザイン案が見事に通ったもの達は自分の思い描いた団員服の試作品を着てステージに並んでいた。デザインの時点で選ばれなかった他の団員達は今回は選考側に回る。主に男性団員達だ。
女性団員がビエロ姿の団長の隣でマイクを握り、そして手をあげた。
「はーい、では只今よりノミネートされた衣装を紹介いたしまぁーす。まずはトップバッター、アレーヌ・ルシフェル!」
「さあ、皆様、この美しいわたくしを見なさい!」
高らかな声をあげスポットライトに照らされて最初に現れたのは中世フランス貴族風の衣装を纏ったアレーヌ。その綺麗に巻き上げられた金髪のツインテールを揺らしながら舞台の真ん中に立つ。
「わたくしの衣装は煌びやかなベルベットの赤布を貴重とし金糸が縫いこまれたジャケット、脚線美を損なわない茶のスラックス、それに茶皮のロングブーツですのよ! そして仕上げとばかりにシルクハットを被って見せればどこかミステリアスな雰囲気も付加されますの! ―― どう。こんな団員服、着てみたいと思いませんこと?」
団員達の間から感嘆の息が漏れ、時に声もあがった。
その好調な反応にアレーヌはふふ、とその唇を持ち上げて微笑む。それはもう他の団員達の心を他の者に移してなるものかと言わんばかりの美しい笑顔で。
そして次にステージへと出てきたのはミリーシャ。
彼女はミリタリー風の衣装を身に纏い、カツカツと軍用ブーツを鳴らしながら前へと出てきた。
「……迷彩…………、と迷ったけど、……、緑基調で、サーカス団の……イメージ一掃……、とか」
ぽそぽそとマイクに向かって説明を始める。
だが元々が無口な彼女、やがて口を動かすことに疲れたのか説明を諦め、ずいっとより前へと足を進めた。もはや説明は要らない、自分を見て判断してくれと彼女は左横に結われた銀色の髪をふわりとゆらしながらゆっくり回転し背中を見せる。全体的にはだぼっとしたデザインではあるものの腰ベルトによってきゅっと絞り込まれた腰のラインに思わず団員達は唾を飲み込んだ。
彼女が舞台から去った後も次々と自信作を身に纏った団員達がステージへとあがる。
ゴシックアンドロリータ風の衣装。
どこかのアジア人民服。
SFのオペレーターっぽい身体のラインぴったりのボディスーツ。
一部版権に引っ掛かってしまいそうな衣装も中にはあり、時々ブーイングもあがった。
「はい、では最後の衣装となりましたー。皆様。そろそろ選考の準備をお願い致しまーす!」
「皆の者ボールの用意は宜しいでしょうか? それを各々気に入った団員服を着た者の前に置かれているバケツの中に入れて下さい。それで審査完了致します。……では出てきて頂きましょう、最後の一人。エヴァ・ペルマネント嬢!」
司会を務めていた女性団員の隣で団長がばっと手をあげた。
その瞬間今まで控え室などで姿を見かけた覚えのない一人の女性がステージに出現する。アレーヌに劣らない煌びやかな金髪をベルトで一つにしっかりと括り上げサイドの髪の毛もまた華麗にカールさせた美しい少女。
しかし彼女が身に纏うのは、橙色の燕尾服、その下に白のブラウス、黒のハイレグショーツ、ベルトのついたロングブーツ……とどこか今までの見たことのある服装で。
団員達は思わず首を捻った。
そんな彼らを前に現れた少女はにっこりと笑む。
「私が推薦するのはこの衣装よ。どうかしら?」
「どうって言われましても、今までの服装と何が違うっておっしゃるの? ミリー、貴方もそう思いますでしょう?」
「…………ちょっと、違う……」
「何処がどう違うとおっしゃいますの。唯一違うと言ったらコルセットが白ブラウスに変わったことくらいじゃありませんの。こんなの認められるわけありませんわ。ふふ、やはり私の衣装が一番ですわ。この選考、勝ったも同じ!」
自信満々に言い切るアレーヌに対してミリーシャはんー、と首を傾げる。
するとピエロの仮面を付けた団長が、いや、その肩に乗っているメガネザルがエヴァに向かってマイクを差し出した。
「この白ブラウスはコルセットとは違って締め付け感がないの。コルセットも着せてもらったけどあっちはちょっと窮屈だったわ。でもこっちは凄く楽」
「ほうほう、それで他には?」
「そうね……ちょっと気に掛かることがあるけれど、言っても良いかしら?」
「遠慮なくどうぞ」
「この白ブラウス……ちょっと生地が薄いのかしら? 肌が透けちゃってる気がするの、ほら」
エヴァがほんの少しだけ前に屈み胸元のブラウスの様子を見せる。
今までのようにただ胸を露出させるのではなく、さり気なく、けれどどこか煽るような肌の透け具合。
その瞬間、ごくりと唾を飲む音が響く。それも一人ではなく、大勢のもの。
―― 男性団員たちの心が一つになった瞬間の音だ。
「な、ま、まさか、まさかそんなことありませんわよね!? そんな誘惑に負けるなんてことありませんわよね!?」
「……あーあ……」
エヴァが身を下げた後は当然審査の時間。
殆どの男性団員達が自分のボールをエヴァの前に置かれているバケツに入れ始める。
アレーヌやミリーシャのバケツにもボールは入ったがそれでもエヴァのものには及ばない。
「ふむ。文句なしにエヴァ・ペルマネント嬢の着たこの団員服に決定ですね」
「いやぁあああ! わたくしは、わたくしは、絶対に認めたくありませんわぁぁ!」
「…………はぁ」
団長の満足する声。
それに対してアレーヌの悲痛な叫び。
ミリーシャはやれやれと小さく首を振った。
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「うう、結局わたくし達はあの団長に振り回されただけじゃありませんこと!?」
「……胸元、冷えなくて……いい、かも?」
「ブラウスに変わった程度で団員服がリニューアルしたなんて思えませんのよー!!」
「あ……本当に生地、……薄い」
新しく配布された団員服を着ながらアレーヌは自身の境遇に嘆く。
主に自分のデザインが採用されなかったことと団長の掌の上で踊らされたかのような悔しさから、だ。
ミリーシャも着替え終えると白ブラウスを指先でくいくい引っ張り遊ぶ。やはりその生地は薄く、彼女の白い肌の色すらも透かしていた。
―― 一方その頃の団長室。
「それではこれは今回のバイト代です」
「遠慮なく頂いておきますわ」
「貴方のお陰で無事なんの問題なく団員服が決定出来ました。有難う御座います。……その分、礼ははずんでありますので」
「まあ、嬉しいですわ」
こんな密談が交わされていたなどと、当然団員達は知る由もない。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【6813 / アレーヌ・ルシフェル / 女性 / 17歳 / サーカスの団員/退魔剣士【?】】
【6814 / ミリーシャ・ゾルレグスキー / 女性 / 17歳 / サーカスの団員/元特殊工作員】
【6873 / 団長・M (だんちょう・えむ) / 男性 / 20歳 / サーカスの団長】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、発注有難う御座いました。
今回はピエロな団長ということで紳士口調っぽく。そしてやっぱり団長らしくを心がけてみました。
新しい団員服と作る、ということですのでそれに対する各々の反応を書くのが楽しかったです。少しでも期待に添えていれば幸い!
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