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<東京怪談・PCゲームノベル>


――LOST・失世界――

『ログイン・キーを入手せよ』
 それがLOSTを始めて、ギルドから与えられるクエストだった。
 そのクエストをクリアして『ログイン・キー』を入手しないと他のクエストを受ける事が出来ないというものだった。
 クエストにカーソルを合わせてクリックすると、案内役の女性キャラクターが『このクエストを受けますか?』と念押しのように問いかけてくる。
「YES‥‥っと」
 その途端に画面がぐにゃりと歪んでいき、周りには海に囲まれた社がぽつんとあった。
「あの社には大切な宝物があるんだよ、だけどモンスターがいて‥‥お願いだから宝が奪われる前にモンスターを退治しておくれよ」
 社に渡る桟橋の所に少年キャラが立っていて、桟橋に近寄ると強制的に話しかけてくるようになっているようだ。
「ふぅん、まずはモンスターを退治するだけの簡単なクエストか」
 小さく呟き、少年キャラが指差す社へと渡っていく。
 そこで目にしたのは、緑色の気持ち悪いモンスターと社の中できらきらと輝く鍵のようなアイテムだった。

――樋口 真帆の場合――

「これが『LOST』かぁ、楽しいゲームだといいな♪」
 樋口は学校帰りに購入した『LOST』のソフトをパソコンで起動させ、少しワクワクする気持ちを抑えながら画面に表示されるのを待つ。
 最初にする事は、ゲームの中での自分となる分身‥‥つまりキャラクター作成から始まる。
「えっと、職業‥‥? う〜ん、剣士とか無理っぽいかなぁ」
 樋口はパソコンの画面を覗き込み、表示されている職業の説明を見ながら独り言のように呟く。
「うーん、剣士とか無理かなぁ」
 最初に樋口の目を引いた職業は光と闇の剣士、しかし自分で扱えるかを考えると少しだけ無理のような気がしたので剣士は候補から外した。
「舞踏家もかっこいいけど、やっぱり魔術師かな」
 樋口はあまり深く考えずに『決定』にカーソルを合わせてクリックする。職業を決定した後は最初に分配されるポイントをステータスに振り分ける。
 此方も樋口はあまり深く考えずに分配を行って、偏りの少ないオールマイティキャラに仕上がった。

『これより先はLOSTの領域です。貴方は後悔しませんか?』

 キャラクターを作成した途端、画面が真っ暗になってカタカタとキーボードを打つ音が響きながら白い文字が表示されていく。
「うん、後悔しない――っと」
 する、しないの二つの選択肢のうち『しない』を樋口は選んでクリックする。

「‥‥‥‥忠告はしたのに、後悔しても知らないよ」

「え!」
 少女特有の甲高い声が耳元で響き、樋口は椅子から立ち上がって周りを見渡す。
「‥‥気のせい?」
 樋口は首を傾げながら呟き、再び椅子に腰を下ろしてゲームの続きを始める。
「あ、ここが最初の町なんだ」
 パソコンの画面に視線を移すと、先ほどの真っ暗な画面とは違って遠くに海が見え、中央にはぽつんと社がある町へと変わっていた。
「先ずは町で情報収集、ゲームの基本だよね」
 樋口は呟くと、人で賑わうマーケットへと向かって歩き出す。田舎を思い出させる町並みをしているが、それなりに商業を行っている人が多いらしく『いらっしゃい』という文字が次々に画面へと表示されてくる。
「今日は薬草が沢山取れたからいつもの半額でいいよ!」
「先ずは武器を揃えるべきだろう、戦いは良い武器を持ってこそ敵を退治出来るってモンだ」
「何を言っているんだい、強い敵の攻撃も耐えられる防具を揃えてこそだろう」
 商人達は樋口に物を買わせようと次々に話しかけてくる。まだ始めたばかりであまり値段の事は分からないが、よく値段を見てみれば、商人達が言うほど安くは感じられない。
「ん〜、でも装備出来る武器や防具を調べておくのは必要だよね」
 樋口は呟きながら『魔術師』が装備できる武器や防具のチェックを始める。魔術師は思い武器や防具で無い限り、ほとんどのものを装備出来るようで樋口は早速自分のキャラクターのカスタマイズを始める。
「あ、竪琴がある♪ これなら最初から持っているお金でぎりぎり買えるかな♪」
 竪琴を購入して、代わりに初期装備の杖を売却する。初期装備と言うだけあってあまりお金にはならないが、薬草ともう一つくらいは何か買えるお金は手に入った。
「白のローブはこのままでいいかな、あと横笛も買っちゃおう。これで吟遊詩人の出来上がり」
 樋口は満足そうに呟くと道具屋で薬草を幾つか購入して、町の住人達に話を聞く為にうろうろと歩き出す。
 その時、ぴこんという音と共に画面の右上に『♪』のマークが出現する。
「これは〜‥‥近くに受けられるクエストがある時のみ出現する――そうなんだ」
 樋口は簡易説明書を見ながら『♪』の意味を理解し、樋口は納得したように呟く。誰が『♪』を浮かべさせているのか画面をよく見ながら探すと桟橋の近くにいる少年の頭の上に『♪』がぷかぷかと浮かんでいた。
「お姉ちゃん、武器を持っているから戦えるんだろう? あの中には町の宝があるんだ! モンスターに取られちゃうよ!」
 少年の言葉と同時にウインドウが表示されて『ログイン・キーを入手せよ』というタイトルとクエスト内容が画面に表示される。
「モンスターも欲しがる宝物って、いったい何なんだろう」
 う〜ん、と首を傾げながら樋口は呟き、他の住人の頭の上にも『♪』が浮かんでいる野を見つけて樋口は話しかけたのだが‥‥。
「アンタはまだ初心者さんだね。初心者さんにはアタシの依頼は任せられないねぇ」
 どの住人も同じこと言って他のクエストを受けさせてくれない。よく『♪』を見れば少年の頭の上にある『♪』と違って色の無いものだった。
 つまり色の無い『♪』は今はまだ受けられないクエストという事なのだろう。
「あんまり気負いせず、お散歩感覚で行ってみよう」
 樋口は呟き、桟橋の所に立っている少年に話しかけて『クエストを受ける』事を伝える、すると少年は「社の鍵だよ」と言ってずしりと重い真鍮製の鍵を渡してきた。
「それじゃ、行ってきま〜す」
 桟橋を渡り、社の鍵を使用して扉を開け、社の内部へと入る。
「う‥‥わぁ」
 外から見た分には小さな社だった筈のこの場所が「大迷宮か」と言いたくなるほどに内部だけが巨大化している。
「さてと、あんまり敵に遭わないように気をつけながら進んでいこう♪」
 樋口は呟きながら迷宮の中を慎重に進んでいく。何度かモンスターと遭遇したが、樋口は『魔法』を使用して緑色のモンスター・ゴブリンを退治していく。
 しかし選んだ職業が『魔術師』という事だけあって、魔物を退治する為、そして足止めを行うたびに魔法力が下がってくる。
「回復は薬草を買ってるから問題ないんだけど‥‥あんまり敵が現れてもらっちゃ、こっちの魔法力が無くなっちゃうなぁ」
 樋口が呟き、再び現れたゴブリンを足止め魔法をかけて、次の部屋へと進んでいく。
「あれ? 何だろ、これ」
 進んだ先には大きな扉があって、その隣には青い色のパネルが存在した。
「コレ デ  タイリョク ト マホウリョク ヲ カイフク シテクダサイ」
 機械的な声が響いたかと思うと、樋口の体力と魔法力が完全に回復する。パターン的にこの後にゴブリンの親玉達のようなボスモンスターが待ち構えているのだろう。
 ギギ、と言う音と共に大きな扉が開き、中は玉座の間のように広く少し歩いた場所に大きな椅子があって、そこに先ほどまでの緑色のモンスター・ゴブリンを数倍大きくしたような魔物が座って下品な笑い声を響かせている。
「おのれ! これは誰にも渡さんぞ! 全てを統率出来ると言われる『ログイン・キー』をお前なんぞに渡してなるものか!」
 流石は最初のクエスト、ボスが『ログイン・キー』の説明まで確りとしてくれている。ボスの後ろには青い光に包まれた鍵のようなものが浮かんでおり、少年の言う宝物とはきっとあれの事なのだろう。
「勝てるかな‥‥でも頑張ろう」
 樋口は最初に足止め魔法を使用してボスの動きを封じようと試みるが、やはりボスにはこういった補助的な魔法は効果ないらしく、樋口が足止め魔法を失敗したと同時に大きな斧を振り上げて攻撃を仕掛けてくる。
「そんな魔法なんぞ効かんわあああっ!」
 ボスは叫びながら樋口に攻撃を仕掛けてくる。咄嗟に避けたお陰で致命傷にはならなかったが、腕に掠りHPが減少する。
「ふぅ‥‥少し過激なお散歩」
 薬草を使用しながら樋口が呟き、炎の魔法、氷の魔法などを連続で使用していく。連撃を受けた事でボスの動きが止まり、最後に雷の魔法を仕掛けて樋口は何とか最初のクエストを攻略したのだった。
「これを持って帰ればクエスト完了かな」
 地面に倒れたボスの隣を歩き、ぷかぷかと浮いていた鍵に手を伸ばし――樋口が鍵に触れる刹那――バチンと弾かれる。
「‥‥えっ!」
 何故かキーボードを叩く自分の手にも衝撃が響き、樋口はパソコンの画面と自分の手とを交互に見比べる。
「貴方は失う覚悟がありますか?」
 ふわりと鍵の上に一人の少女が降り立つ。赤いフリルと黒いフリルがふんだんに使われたドレスを身に纏い、緑の髪を持つ何処となく不気味な少女。
「貴方は失う覚悟がありますか?」
 伏せていた瞳を開きながらもう一度、確認を取るように樋口へと問いかけてくる。
「こういうイベントなのかな‥‥?」
 樋口は呟きながら自分の手を見る、痛みは既に治まり、先ほどのは単なる偶然なんだろうと思う事にした。
「覚悟はあります、と」
 文字を打ち込み、自分のキャラから少女へと言葉を返す。
「‥‥分かりました‥‥それではこれを‥‥これは貴方を至福へと導くと同時に‥‥貴方を破滅に導くものでもあります」
 少女は光の中から鍵を取り、樋口へと渡す。
「貴方に神のご加護があらんことを‥‥樋口・真帆さん」
 え? と呟き樋口は顔を上げるが既にその少女はいなかった。
「‥‥キャラクターの名前『樋口・真帆』にしたかな‥‥?」
 樋口は首を傾げながら社の少年へとクエスト完了の報告を行い、ログアウトをした。
 彼女がバッグの中で明滅する『ログイン・キー』に気がつくのはもう少し後の事‥‥。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名   / 性別 / 年齢 / 職業】

6458 / 樋口・真帆 / 女性 /17歳  /高校生/見習い魔女

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■         ライター通信          ■
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樋口・真帆様>
はじめまして、今回はご発注をありがとうございます。
今回『LOST』の執筆をさせていただきました水貴透子です。
内容の方はいかがだったでしょうか?
ご満足いただけるものに仕上がっていれば幸いです。
それでは、またお会いできる事を祈りつつ、失礼します。

―水貴透子