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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ バリ式マッサージ!? +



 思えばこれがあの事件のきっかけだった。


「『真に申し訳御座いませんが本日臨時休業させて頂きます』……かぁ」


 私が自分の商売道具でもある身体をケアするためにいつも通っている渋谷のエステサロンに訪問すると、扉には臨時休業の文字が書かれた紙が張られていた。此処はランクとしては中の上程度のお店だけどスタッフの腕も確かだし値段もリーズナブルで重宝している。
 だけどそこは本日お休み。
 仕方なくその店を後にして歩き出す。


「んー、どうしようかしら。このまま買い物とか映画とか……食事の時間にはちょっと早いし」


 素肌にライダースーツ姿は自分の趣味。
 ちなみにチャックが上がらないため仕方なく胸を晒し出しているものの私に露出趣味はない。多分。
 この大きすぎる胸のどこに魅力があるのか私自身には理解出来ない。むしろ鬱陶しく思う。だけど今の仕事――ソープ嬢を始めてからはこの胸も仕事を掴む武器になっているみたい。


 渋谷の町には多くの若者が集い様々なファッションに身を包んでいる。
 だから私の格好くらい別に大したものじゃないと思う。でもやっぱり自分では気付いてないけれど目立っているみたいで妖しい商売の勧誘やナンパが耐えない。中には芸能界という言葉を使ってくる変な人達もいるけれど全部お断り。そんなものに興味は無いわ。
 今の私の興味はエステサロンに行けなかった代わりに何処で暇を潰そうかということ。


 そんな事を考えていたら何人目か分らないけどまたしても勧誘の男が私の目の前に現れた。日本人っぽくない彼は笑顔で手に持っていたメニュー看板を私の方へと突き出し、そして言う。


「ココ、エステサロン。オ試シニ、バリ式マッサージ、イカガ?」
「バリ式?」
「気持チイイヨ、値段、オ手頃」


 今度は呼び込みか、と内心厭きれていたけれどマッサージという言葉に少しだけ反応を示す。エステに行けなかった私の心にマッサージという言葉は魅力的に聞こえたのだ。男の言う通りメニュー表を見れば値段も高くない。
 顎の指先当てて暫しその場で考えるもやがて私は彼ににっこりと微笑を送る。そして言った。


「じゃあ、試しにバリ式マッサージをお願いするわ」



■■■■



 ……。
 …………。
 選択を、誤ったかもしれない。
 まさかバリ式マッサージを受けるのに全裸にならなきゃならないなんてっ!!
 断固として全裸は拒絶する私に対しマッサージ師と名乗る男は一瞬困ったように眉を寄せ、けれどすぐに優しく接客スマイルを浮かべてくる。


「仕方ありませんね。では下半身はタオルで隠しておいても良いですよ」
「はい……あの、女性はいないんですか?」
「申し訳ありませんが、今日は女性マッサージ師は店にいないんです。さ、このベットに寝転んで下さい。楽にしてて下さいね。リラックスです、リラックス」
「……はい」


 此処まで言われてしまっては仕方ない。
 ライダスーツを脱ぎ下半身はタオルで隠しながら私はベットの上にうつ伏せに寝転がる。豊満過ぎる胸が肺を圧迫するがそれはもはや慣れたもの。ただ胸が押し潰された瞬間、男がひゅう、と口笛を吹いた気がした。


「それではオイルマッサージをさせて頂きます。これは先程も説明させて頂きましたがオイルによって全身の血行を良くし老廃物を体外に出やすくするマッサージです。……どうですか? 力の加減は強すぎたり逆に弱すぎたりしませんか?」
「……あ、……丁度良いです」
「お客さんはあれですね。肩凝りとか凄いんじゃないですか?」
「ええ、確かに肩凝りします……」
「でしょうね。それだけ胸が大きいとなると、やはり支えるのに筋肉を使うでしょうから」


 人肌まで温められたオイルを垂らされた瞬間、くすぐったさが走るもそれが引き伸ばされ肌に刷り込まれればほぅ、っと思わず息を吐き出してしまう。
 やっぱり私の身体は疲れていたんだって自覚しちゃう。このままぐりぐりと的確に筋を解していく男性の手に身体を委ねるのも良いかもしれない。
 そんな風に腕を組みその上に顎を乗せ瞼を下ろして心地良さに浸っていると、ふとマッサージ師の手が止まった。
 なんだろう。


「お客さん、筋肉の凝りが凄いですね。腰も綺麗に括れているのにこれじゃ勿体無い」
「そんなにも凝ってますか?」
「ええ、これじゃ普通のマッサージじゃ満足出来ないんじゃないですか? ……そうですね、もっと全体的に筋肉を揉み解してみましょうか」
「え、え?」
「さ、仰向けになって下さい」
「あ、仰向け、ってっ」


 なんか変。
 今まで通っていたエステサロンでは此処まで言われたことないのに。そんなにも今日は筋肉が凝っているんだろうかと内心自分が心配になってしまう。確かに人より大き過ぎる胸のせいで時々「牛」って言われてしまうけど……。
 でも仰向けはちょっと恥ずかしい。……これはマッサージ、そう、ただのマッサージなのだから恥ずかしがる必要はないのよ!


 自分で自分に言い聞かせながら仰向けになれば男性の手が身体を解し始める。
 ふよふよと柔らかい肉が男性の指の隙間から盛り上がるのを見ると……、ソープじゃ私が奉仕する側だから余計に、なんていうんだろう、こう、えっと……。


「ああ、やっぱり此処も凝ってますね。ああ、こっちも」
「ふぁ、こ、凝ってますか?」
「ええ、凄く硬くなってますよ。本来ならばお客さんの筋肉はもっと柔らかいんじゃないですかね」
「そ。そうですか……? んぁ、……じゃあ、しっかりマッサージをお願いします」
「もちろんですよ。ああ、あと腹部の方もマッサージしますのでタオルは外させてもらいますね」
「え、……ええ!?」


 そんなの約束と違う!
 そう口に出しそうになった瞬間、ふと男性の向こうに何か違和感を覚えた。其れが何であるか気付くのに数秒要したけれど、正体が分ると私は私に触れている男性の肩を掴み、そして力一杯押しのけた。
 突然の私の行動に不意を突かれた男性はよろめきながら壁に背をつける。その隙に私は「其れ」を――針葉樹に隠されたカメラに近付き、持ち上げて思い切り叩き壊した。


 置かれていたバスタオルを身体に巻きつけた頃には物音に気付いた他の男性スタッフ達がやってくる。
 口々に飛ぶのは「失敗」「何をやってる」「女を捕まえろ」というような言葉ばかり。
 どうやら店全体が犯罪の巣窟のよう。それを瞬時に理解すると私はすっと身構える。ほぼ同時に頭に血が上った男達が襲い掛かってきた。


「ただの胸がでかいだけの女だと思ってなめないで欲しいわ」



■■■■



 やってきた警察によると彼らは客に高い化粧品を売りつけたり、若い女性に猥褻な行為を働いたりしていたらしい。
 店内には至るところに隠しカメラが設置されており、撮影したものを裏に流したり脅迫の材料にしたりする、とか。ご丁寧にもというか間抜けにもと言うか脅迫材料であり犯罪の証拠でもあるテープなどは店に全部置いてあったらしく全員逮捕となった。


「……はぁ」


 私は警察を後にしながら溜息を吐く。
 後日また事情聴取で呼び出すかもしれないと言われたせいじゃない。それはそれで面倒くさいとは思うけれど、熱の篭った息の正体はそれじゃない。


 私は左手をそっと頬に添える。
 ほぅ……。
 また吐息が漏れた。


「火照っちゃった……」


 体に残るむず痒いその感覚に私はまた息を吐き出すことにした。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7847 / 明姫・リサ (あけひめ・りさ) / 女性 / 20歳 / 大学生/ソープ嬢】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました。
 豊満な胸ということで胸を中心に描写させて頂きました。お色気コメディ、実現出来ていますでしょうか?
 バリ式マッサージ、実は途中の工程を描写の都合でやや飛ばしておりますが、気にせずメインである部分に注目して頂けたら嬉しいです(笑)