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+ 団員服リニューアル!(その裏側編) +
某月某日。
サーカス団のテント内、集会場にて。
「忙しい忙しい、あー、もう時間がなぁい!」
サーカス団員の一人、柴樹 紗枝(シバキ サエ)は騒ぎながら手元にあるスケジュール表を確認する。その上部には「新団員服選考会スケジュール」という文字が手書きで書かれていた。
緻密に組み上げられたタイムスケジュールには赤ペンにてこれまた細かくチェックが入っている。紗枝はそれを見て溜息を吐いた。
先日サーカス団の団長が今までの衣装を一新すると団員全員に発表した。しかもデザインを団員の中から応募するという企画まで立てて。
お陰様で選考会の司会を押し付けられてしまった紗枝は此処数日、自分の分の仕事に加えてスケジュール調整に追われていた。
もう一人の女性団員と司会内容について打ち合わせ、あっちの団員と打ち合わせ、こっちの団員と打ち合わせ……。
「ああ、本当に、もうっ、誰か時間を頂戴ー!」
彼女の嘆きを聞きつつも巻き込まれたく無い団員達は唯笑うのみ。
■■■■
選考会前日。
口元に大きなマスクを付けてサーカス団団員の一人、桃 蓮花(とう れんふぁ)は街の路地裏にいた。
彼女の身体は時折痙攣し、喉の奥から詰まったような呼吸が――つまり、しゃっくりが零れる。
「っく、ひゃ、っく……それじゃ、頼む、アルよ」
「つまり、原因不明のしゃっくりに悩まされているユーの代わりに私がその選考会のステージとやらに立てばいいのね?」
「そ、ひぃ、っく、そう、アル!」
「ユーにはツケもあるし、…………はぁ、仕方ないわね」
「引き受けてくれるアルか! ひゃ、っく、ひっく……ぁー、そうと決まったら早速衣装の着合わせをするネ!」
「え、今から!?」
「選考会は明日あるヨ、明日! ――ひっく!」
「わ、分かったからユーは病院にでも行った方が良いんじゃないかしら?」
「そんな暇ないネ! 早速サーカス団に行くあるヨ!」
約束を取り付けると蓮花は約束を取り付けた相手――エヴァ・ペルマネントの手を掴み、そのまま自身が所属するサーカス団のテントへと強制的に引き連れていく。
ひっく、ひゃっく。
その間も蓮花のしゃっくりは止まらない。
―― そう言えば「しゃっくりを百回すると死ぬ」って言う話がこの国にはあったわね……。
エヴァの方はと言えばそんな事を呑気に考えながら蓮花の背中を見ながら歩いていた。
■■■■
場所は変わり、蓮花の部屋。
早速試着をという蓮花本人の意思を尊重しエヴァは選考会用の衣装を着合わせていたのだが……。
「うーん、エヴァはくの一って感じじゃないなぁ。チャイナ服もいまいちー!」
「ディーラー風制服も似合わないアルね、ひっく!」
「あ、セーラー服とかどうかな!」
「それじゃ、ひゃっく……さらにサーカス団から離れてしまうあるヨ」
「えー、じゃあ」
きゃあきゃあ。
わいわいわい。
蓮花ともう一人小柄な少女――猿渡 出雲(さわたり いずも)はモデルであるエヴァの身体に思い思いの衣装を当てたり、着せたりと選考会に出す衣装を必死に選ぶ。
だがどの衣装も何故かピンっと来ず、結局徹夜状態。
出雲も自分の所有する衣装を幾つか自室から持ってきてエヴァに着せてみるも小柄な出雲の服では根本的問題としてサイズが合わない。
一体何がエヴァには似合うのか。
一体何を着せれば選考会に出しても可笑しくないのか。
二人で首を捻りながら考えてみるもやはり、こう……ぴったりと来るものがない。
「ああ、もう面倒だよぅ! エヴァには何がいいのかあたし分かんないぃー!」
「試しに今までの団員服着るアルか? えーっと、これとこれと、これと……」
「エヴァ、コルセットの付け方分かる? あ、分からない? じゃああたしが付けてあげるよ!」
「ちょ、ちょっと待って、これ苦し……っ」
橙色の燕尾服、濃いグリーンの蝶ネクタイ、黒のコルセット。
黒のハイレグショーツが出てきた時には流石のエヴァも動揺を見せたが団員服の一つであると二人から説得されると渋々といったように着用し始める。
だが出雲がコルセットを付けるとエヴァの顔がやや歪む。普段からコルセットを付け慣れている二人とは違い、胸が圧迫され窮屈で堪らないのだ。
他に何か代わりになるもの、と三人で辺りを見渡してみればふと、目に入ったのは――白のブラウス。
改めてそのブラウスを着用してから燕尾服を着れば……。
「あれ、もしかして意外に」
「うん、似合うあるヨ。っと、忘れてたネ、ブーツも着用するあるヨ。ちなみに素足で履くのが基本ヨ」
「うんうん、あたし達いつも素足だもんね! わぁ、とても似合うよっ!!」
「ささ、こっちを向くある! ひっく!」
蓮花が何処からか取り出したデジタルカメラで着飾られたエヴァの姿を撮影し始めた。
露出度が高い衣装を身に纏い最初こそ頬を染めていたエヴァだが着慣れてきたのかやがてそのままの姿でも堂々と立っていられるようになった。
こんこん。
ふと部屋の扉がノックされる。
返事をすればぴょこっと紗枝が扉を開き顔を覗かせた。
「そろそろ選考会本番の時間よー」
「嘘!? もうそんな時間になっちゃった?!」
「仕方ないある、このまま選考会に行って……ひゃっく!」
「え、このままって……いいの、これで!?」
エヴァは戸惑う。
コルセットがブラウスに変わっただけの団員服の格好では蓮花の代理で選考会に出る意味がないのではないかと考えたからだ。
しかしその意見を口に出しても二人の意思は変わらない。むしろ本番の時間が刻々と迫ってきて追い詰められている。
「……では出てきて頂きましょう、最後の一人。エヴァ・ペルマネント嬢!」
紗枝ともう一人女性団員が司会を務めるステージにエヴァは立つ。
スポットライトを浴びる頃には心の底に残っていた羞恥心も消え、蓮花との約束を果たすために彼女は微笑を浮かべることにした。
「私が推薦するのはこの衣装よ。どうかしら?」
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後日談。
新調された衣装が団員達の元に届く。
蓮花には濃いピンク色の、出雲には濃いイエローの、紗枝には群青色の燕尾服と白ブラウス、それから新調されたブーツなど……そう、つまり、エヴァは見事に団員達――主に男性団員の「気まぐれ」をゲットしてしまったのだ。
「それにしても蓮花の代理のあのコ良く似合ってたな〜。特にロングブーツが……」
「あ、あれは……確かに似合ってたネ……」
「あのブーツ何処かで見たような気がしたんだけど、私の気のせいかな?」
「…………」
紗枝が薄い生地で作られた白ブラウスに腕を通しながら呟く。その言葉を聞いた瞬間、蓮花がぎくりと冷や汗を流した。
言えない。
言えるわけがない。
「言えるわけがないよね、実はあのブーツは紗枝が猛獣使いやってる時のSMちっくなブーツを黙って借りた、なぁんて」
「しっ!」
「んも、もごもごご」
こそっと出雲は蓮花に囁く。
蓮花は出雲の口を押さえる。
運良くか運悪くか、二人のやり取りに気付かない紗枝は選考会時のエヴァの姿に思いを馳せる。主にブーツに。
何だかんだいって上手く行った新団員服選考会。
蓮花はしゃっくりの止まった口元に手を当て安堵の息を吐いた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7317 / 桃・蓮花 (とう・れんふぁ) / 女性 / 17歳 / サーカスの団員/元最新型霊鬼兵】
【6788 / 柴樹・紗枝 (シバキ・サエ) / 女性 / 17歳 / 猛獣使い&奇術師【?】】
【7185 / 猿渡・出雲 (さわたり・いずも) / 女性 / 17歳 / 軽業師&くノ一/猿忍群頭領】
【NPCA017 / エヴァ・ペルマネント / 女性 / 不明 / 虚無の境界製・最新型霊鬼兵】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、裏側の発注有難う御座いました。
新たな事実に吃驚しつつ、こんな感じで仕上げさせて頂きましたが如何でしょうか? 新たな団員服に身を包んだ彼女達の姿、想像すると何故か白ブラウスに目が行きます(笑)
では気に入って頂ける事を祈りつつ。
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