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<東京怪談・PCゲームノベル>


 禁術

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 資料室にある本棚、その中でも一番古い本棚に、その本はあった。
 一冊だけ、やたらと古びていて……妙に気になって。
 手に取れば、ボロボロと崩れてしまいそうな程に、その本は朽ちていた。
 ドキドキしながらページを捲れば、そこには……恐ろしい『術』が記されていた。
 見なかったことにして、本棚に戻すべきだっただろうに。
 どうしてだろう。どうして、試してしまったのだろう。
 後悔すると、理解っていたはずなのに。

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(ん〜〜……。これは〜……)
 苦笑を浮かべながら、自身の指を見つめる霊祠。
 意思とは裏腹に、好き勝手に動く指。
 人差し指から垂れる血液で床に描くのは、何やら妙な形の魔方陣。
 途中で止めようにも、抑制がきかない。まるで手指が、誰かに操られているかのよう。
 この感じ……よろしくないですよねぇ〜。吸い寄せられるような……変な感じ。
 う〜ん? ちょっと待って下さいよぅ。この魔方陣……どこかで見たことあるのです。
 パッと見た瞬間、懐かしいような気持ちになったのです。
 どこで見たんでしょう……。図書室……は、最近行ってないですし〜。
 となると、僕の家。地下にある倉庫でしょうか〜……。
 あぁ、そうですそうです。地下倉庫。地下倉庫で見たのです。
 この書物とは違うものでしたけれど、同じ魔方陣が描かれてました。
 確か〜……本のタイトルは―
「あっ。アルケイマス。アルケイマスですね」
 思い出したタイトルを、口にした霊祠。
 ちょっとスッキリしたようで、霊祠はニコリと微笑んだ。
 そうこうしている内に、魔方陣の描発が完了。
 描き終えると同時に、霊祠の手指は元通り、意思のままに動くようになった。
 掌を何度かグーパーして確認するも、異変は……なさそうだ。
 霊祠の身体に異変はなさそうだが、魔方陣には異変が起きている。
 描かれた魔方陣が、ボンヤリと青い光を放つ。
(…………)
 キョトンとしながら見やれば、やがて青い光の中に不気味な影が。
 支配神『アルケイマス』
 異世界で猛威を振るうとされる、邪神の一人。
 現世、東京でも、その名は知られている。
 特に、神話の類を好む者ならば、知っていて当然と言われるくらい有名な邪神だ。
 たかが逸話。されど逸話。実在しないなんて、誰が言えるものか。
 こうして目の前に、邪神は姿を現しているではないか。
 ほほぅ、なるほど。そなたが我を召んだのか。
 やたらと小さく頼りない手指だとは思っていたが……まさか、このような子供とは驚きだな。
 だが、こうして我が姿を見せるということは、術が成功したということ。
 すなわち、そなたの内には、我をも召び起こせるほどの魔力が備わっているということだ。
 何の能力もない無能な者ならば、我を召ぶ前に息絶えてしまうからな。
 その点では、合格というべきか。称えてやろうではないか。
 して、幼き男よ。そなたの欲とは何ぞや?
「…………」
 ポカーンと口を開けたまま、何の反応もしない霊祠。
 驚いてる? いいや。 怖い? いいや、違う。嬉しいのだ。
 アルケイマスに関する文献は、何度も何度も読んでます。
 それこそ、最初から最後まで、ここで復唱することも出来るくらい。
 カッコ良いなぁって思っていたのですよ。その思想だとか、外観だとか。
 ほへぇ、本物は、こんな姿形をしているのですねぇ。
 文献に掲載されていたイラストとは全然違います。
 まぁ、あれは見たこともない学者が想像で描いたものでしょうしね〜。
 うんうん、本物のほうがカッコ良いです。圧倒的に。
 その王冠についてるのは、髑髏ですか? その杖の紅は、生贄となった者の血ですか?
 あなたは、支配神と呼ばれる存在ですよね?
 支配神アルケイマス。またの名を、強欲のアルケイマス。
 欲しいと思ったものは何でも、どんな手段を用いても手に入れる。
 それから〜……。美しい女性も大好きなんですよね?
 確か、同時に83人もの女性と関係を持ったとか。
 でも結局、誰か1人に絞ることはしなかったんですよね〜?
 あなたにとって、たった1人の特別な女性になりたいと皆が願ったものだから、
 頭にきて、全員を林檎に変えて食べてしまったんですよね〜?
 まぁ、気持ちは理解ります。強欲のアルケイマスに対して、最大の侮辱ですもんね〜。
 欲張って良いのは自分だけ。他人が欲張ることは、絶対に許さない。
 う〜ん。カッコ良いです。僕には、そんなこと絶対に言えませんから。
 いいですね〜。あなたの、その生き方。本当、カッコ良いですよぅ。
 もう何ていうか、ここまでくると尊敬ですね。憧れてしまいますよ〜。
 邪神を目の前にして、この余裕。
 取り乱す様子は皆無。 そればかりか、嬉しそうなことこの上ない。
 キラキラと目を輝かせながら見つめる霊祠に、邪神は沈黙している。
 そなた……。変わっておるな。恐怖心というものがないのか。
 我のことを知っておるのならば、もっと畏れるであろうに。
 ……。ふむ、なるほど。そういうことか。
 おぬしの中身を少し覗かせてもらった。
 そういうことならば、納得は出来るな。
 死霊と心を通わせることが出来るとは……。
 おぬし、齢はいくつなのだ。
「ほぇ。えっとですね、13です〜」
 ……。13? 130の間違いではないのか?
「あっはは。そこまで長生きだと微妙ですよぅ」
 ……。そうか。まことに13だと申すか。これはまた驚いた。
 その若さで、死霊を従えることが出来るとは……。
 もしや、おぬしも……『人』ではない存在と申すか?
「へ? ん〜。どうなんでしょうねぇ。死に損ないだとは思いますけど〜」
 ……。ふむ。家系のどこかで、何か別種の血が混ざったのだろうか。
 それとも、完全なる変異なのか。何にせよ、興味深い身体と魂だ。
 どうだ、幼き子よ。その身体、我に預けてみぬか。
 おぬしのチカラを、もっと大きなものへと変えてやるぞ。
 そもそも、妙だとは思ったのだ。我を召べるほどの魔力を携えているにも関わらず、
 おぬしからは『欲』というものが感じられぬ。隠しておるのかと思ったが、実に皆無のようだ。
 死霊と関わる者は、欲深くあるべきだ。主としての格が問われるからな。
 幼さ故に、欲というものを、どうやって外に出せば良いのか理解らぬのであろう。
 我に身を預けてみぬか。さすれば、おぬしは、死霊達に更に慕われるであろうぞ。
 邪神の提案。
 だが、霊祠はキョトンとして首を傾げた。
「慕われるっていうのは〜。尊敬されるってことですよね?」
 あぁ、そうだ。そういうことだな。主に対する忠誠心は、大きく向上するだろう。
「あははは」
 何だ。何が可笑しいのだ。
「尊敬なんてされたくないですよぅ」
 ……。何故だ?
「グルちゃんも、コーくんも、フラシスさんも、み〜んな僕の "お友達" ですから」
 一緒に遊んで仲良く暮らすことが出来れば、僕はそれで幸せなのです。
 たまに喧嘩しちゃうこともありますけど、それも仲良しの印なのです。
 だから、尊敬なんてされたくないんですよ〜。その必要もないですしね。
 そうだ、邪神さん。よければ、あなたとも御友達になりたいです。
 カッコ良いですし、みんなも喜ぶと思うのです。
 物知りみたいですし、色々と教えてくれると嬉しいです。
「どうですか〜?」
 ニコニコと微笑みながら言った霊祠。
 恐怖から逃れようと、必死に笑っているのかもしれないとも思った。
 けれど、霊祠の言葉に偽りはない。どこにも偽りはない。全てが本音。
 邪神は沈黙したまま、ジッと霊祠の瞳を見つめた。
 我と友になりたいと申すか。
 何という強欲な幼き魂よ。
 我がどのような存在か知って尚、そう願うと申すか。
 面白い。実に面白いぞ、幼き男よ。いいだろう。その欲、叶えてやろうではないか。
「わ〜。本当ですか〜。嬉しいです〜!」
 我と接することで、おぬしの中で目覚めることだろう。
 欲というもの、その感情が、沸々と湧いてくることだろう。
 そうなれば、おぬしの身体は我のもの。欲に乗じて奪ってやるぞ。身体も魂も。
「あはは。怖いこと言いますねぇ〜。アルくん」
 ……。……。……待て。
「はい?」
 ……。何だ、そのアルくんというのは。
 まさか、おぬし、我をそのように呼ぶつもりではなかろうな。
「だって言い難いじゃないですか。アルケイマスくんって。長いですし。だから、アルくんなのです」
 ……。おぬし、我がどのような存在か、本当に理解っておるのか?
 我は支配神。おぬしの身体をも支配しようと目論む邪神なるぞ。
「知ってますよぅ。あ、そうだ。ハント行かなきゃ駄目なのです」
 いや、待て。おぬし、絶対に理解っておらぬだろう。
 よいか、我はな……。
「アルくん、行きますよぅ」
 待て待て。おぬし、ふざけておるのか。我の話を聞け。
 そもそも、ハントとは何なのだ。おぬし、何をやっておるのだ。
「実際に見てもらったほうが早いです〜。あ、そっちじゃないです。アルくん、こっちですよ〜」
 待て待て。ちょっと待て。話はまだ終わっておらぬぞ。
 しかし何なのだ。ここは。やたらと入り組んでおるな。動きにくいこと、この上ないぞ。
 前を走る霊祠を追いかけ、邪神は後を追う。
 資料室を後に、邪神と共にハントへ出発。


「……んぁ? あれ?」
「どうしたの?」
「いや、ほら。あそこ。霊祠が走ってったんだけど」
「だから何よ」
「や。何か、後ろに変なのが、くっついてたよーな……」
「何言ってんのよ。ふざけてないで、さっさと運んで。あんたの所為で私まで巻き添えなんだから」
「あ〜。あ〜? あ〜。うん」
 目をゴシゴシと擦りながら首を傾げる海斗。
 そんな海斗の背中をパシンと叩いて梨乃は頬を膨らませる。
 気のせいだったのかなー? いや、でもなー。何かいたよ? 絶対いたよ?
「ちょっと、どこ行くのよ。職員室は、そっちじゃないわ」
「や。ちょっと気になるから」
「馬鹿っ。いいから、早く。私まで怒られるのよ?」
「……。へいへい、わーったよ」
 聞こえないだろうけれど、ハッキリと申し上げておきましょう。
 海斗、それ。見間違いじゃないです。

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 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / 海斗 / 19歳 / HAL在籍:生徒
 NPC / 梨乃 / 19歳 / HAL在籍:生徒

 シナリオ『 禁術 』への御参加、ありがとうございます。
 ちょっと、色々弄りすぎたかもしれませんが…。
 邪神まで従えてしもた!(;゚Д゚) さすがですね(笑)
 っていうか、コーくんって誰だよ。ってツッこみはナシで御願いします。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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