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<東京怪談・PCゲームノベル>


佐吉の友達〜ナマイキなヤキモノ〜



「まったくあのヘタレめが、あんな簡単な案件でモタモタしおって。こんなことなら時間が空いているからといって手を貸すのではなかったな」


 少し路地裏に入った知る人ぞ知る美味い珈琲を出すというオープンカフェ。
 オフィス街とは思えないほどの静かなこのカフェは都内の喧騒を避けて、心落ち着くひと時を求める客が集まってくる。
 冥月も一人静かな時を過ごしたい時は、このカフェに足を運び、優雅なひと時をおくっている。
 今日も今日とて、(冥月曰く)ヘボ探偵草間が、彼女が手を貸すまでもない依頼で手間取ったせいで、心あれた冥月は、心落ち着かせようとやってきたのである。
いつもは静かに珈琲を飲み、落ち着いてきたところで帰路につく。今日もそんないつも通りに終わると思われた冥月のブレイクタイムは一匹の奇妙な物体によって邪魔されるのであった。



「こーひーの匂いばっかすんな、ここ。静か過ぎるし、俺つまんねー」
 先ほどから足元を何かとちょろちょろする気配はあったが、雀か何かの小鳥だろうと気にしなかったのは勘違いだったのだろうか。机下から幼い少年のような声がした。
 恐らく奇妙なものが迷い込んできたのであろうが、今日はもう静かな時の中で過ごしたい冥月はあえて足もとの物体を引き続き無視することにした。

 しかし―――

「なぁなぁ、今お前ひとりで暇だろ?他にしゃべる奴もいないし、相手しろよー」
 ぺちぺちと足を何やら固いもので軽く叩かれる。余程小さいもので叩いているのか、痛くも痒くもないのだが、鬱陶しいことは鬱陶しい。
 このまま無視を決め込みたいところではあるが、足への攻撃(?)がとても煩わしくて、冥月は早々に追っぱらってしまおうと、足もとの物体を逃げる隙を与えないうちにべアークローをかまして持ち上げた。
「なんだよー、乱暴するなよー」
 掴まれて抵抗をするそれを見ると、考古学的にスタンダードな焼き物で、どこにそんな柔軟性があるのか両手を見事なまでに上下にバタバタさせている。
「黙れ、ヤキモノ分際で私の静かなひと時を邪魔するなぞおこがましい。さっさと巣に帰れ」
 早く、この騒がしい焼き物をどうにかして、静かな時間を取り戻そうと、冥月は相当声色にも表情にも脅すような色を含ませたつもりなのだが、鈍いのか何なのか、小生意気な焼き物にはまったく通じていないようで、
「巣ってなんだー!俺は動物かなんかじゃなぇぞー!ちゃんと家もあるし、同居人だっているし、飯だって食うぞー!!」
と、意味のないことを大きな声で反論をしてきた。
「黙れと言っている……!」
 草間の件でストレスが溜まり、更に至福のひと時を邪魔され冥月も我慢の限界だったのであろう。焼き物を掴んでいる手に思わず渾身の力を込めてしまい、パリンっとその焼き物は無残にも割れてしまった。
「む、やってしまったか」
『やってしまったかじゃねぇやい!さっさと元に戻せよ!帰るに帰れねぇだろうに!』
「ほう、欠片になっても生命は存続したままなのか。少し興味がわいたぞ、ヤキモノ」
『ヤキモノヤキモノうるせぇ!俺には佐吉って名前があるんだよ!』
「私には関係がないな………ん?」
 このままでもうるさいようだし、暇つぶしにこの佐吉というらしい焼き物を修復してやるかと、声を発する度にふるっている欠片を拾い集めていた冥月は欠片の中におかしな物が混じっているのに気がついた。
「これは…草間の人形?ヤキモノ、草間と知り合いか?」
『くさま?知らないやつだぞー。ただ、お前の知り合いなんじゃないのかー?割ったやつの影響を受ける可能性があるって有人のやつが言ってたからそうなんじゃないかー?』
「自分の構造も知らんのか。まぁいい。さっきまでヤツにいらついていた私の影響を受けたということなのだったら、これは私がもらっておいて構わないのだな」
『おうよ、もってけドロボー』
「ありがたく、使わせてもらおう」
 サンドバック代りにはなるかもしれないな、と、佐吉から出てきたらしい草間ぬいぐるみを影に入れ、代わりに接着剤を出し、冥月は佐吉を器用に素早く修復していく。
「さきほどの人形の例と、壊した詫びに家に連れ帰ってやる」
『マジ?…あー、でも帰るのやだなー。ぜってぇ怒られるし』
「なんだ、家出ヤキモノか。いたずらでもしたのか?」
『ちげぇよ!あいつらが悪いの!』

 佐吉は修復されている最中、掘り起こされてからずっと霞谷という家から出してもらえないこと、同居人たちは外に友人知人がたくさんいるというのに自分は彼らしか知らないということ、ご近所のじい様が入れ歯を飛ばすとからかわれて腹が立ったことを冥月に興奮しながら説明した。


「なるほど、世間知らずの子供を外に出すのははばかられるといったところか」
『子供ってなんだよー。俺だってがくしゅうするぞー?』
「その同居人二人がどういった種族かは知らんが、それなりに人社会に溶け込める容姿をしているのだろう?それに比べ、お前はその形で、この能力だ。溶け込めないどころか、心ないものに連れ去られても知らんぞ。家からだしてもらないのはつらいかもしれないが、その方法でお前が守られているということがわからないのなら子供だろう。飛び出してきたことに関しても子供だとしか言えんな。子供であること否定したいのであれば、その二人ともう少し話し合え、先ほども言ったように送って行ってやるから。わかったな、ヤキモノ」
『わかった…仕方ねぇからあいつらと話してくる。ありがとな、お前さいしょは掴まれたり、割られたりしておっかない奴に声かけたなーとか思ってたけど、案外やさしいんだな。綺麗だし』
「きれい…か?」
『綺麗だぞー。こーひー飲んでる時なんて絵みたいだったしなー』
 ナンパのような台詞だが、子供心ながら知ってる言葉を並べた正直な感想なのだろう。
 大人の男にこんなことを言われようなら、瞬殺ものではあるが、子供の純粋な空気が伝わってくるこの状況下ではそんなことはできず、少々困ってしまう。
「無駄口は減らせ」
『なんでだよー、思ったことを言ったのによ』
「それがいかんと言うのだ、子供が」
 さっさと、こいつを直して帰してしまおうと修復の手を早めた冥月の顔は少し、赤かった。





「ここだー」
 きちんと修復し、鷲掴みにしつつも佐吉を運んでいった冥月が案内されたのは郊外に出たすぐにある街の少し大きな一軒家。近所には家々が建ち並び、とてもこのような珍妙な焼き物が住んでいるとは思えない普通の街の中の家であった。
「これでかすみや、と読むのか」
「おうよ、れっつぴんぽん」
 インターフォンの位置に持っていってもらい、ボタンを押すと中から出てきたのは冥月より幼なそうな少年。彼は冥月と、彼女の手の中の焼き物を見て、少しはにかんだ。
「お早いお帰りだね、佐吉。そちらの美人のおね−さんは初めましてですよね?僕はブレッシング=サーチャー、それの保護者その2ってとこです」
「黒冥月だ、この小うるさいヤキモノを届けにきた」
「それはどうもご迷惑おかけしました。お詫びにといってはなんですが、お茶でも飲んでいきませんか?佐吉が一人で泣きながら帰ってきたときのためにと庭でお茶の準備をしていたところなんです。まだ少々肌寒いですが、うちの自慢の花々が咲き乱される庭がおすすめです」
「おお!お茶!これは絶対ケーキあるぞ、冥月!なぁなぁ、飲んで行けよー」
 鷲掴みにしたり、割ったりと酷いことしかしていないのに自分を引き留めようと必死なヤキモノに、にこにこと人懐こい笑みを浮かべる目の前の少年。
 本来なら初対面の他人の家など警戒して入りたがらない冥月ではあるが、この珍妙なヤキモノの生態と自慢だという庭に興味がわいたのは事実なので、
「では、お言葉に甘えよう。珈琲はあるかな」
と、彼らのお誘いに乗ることにした。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2778 / 黒・冥月 / 女 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒 】



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■         ライター通信          ■
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黒 冥月様

この度は、受注ありがとうございました。
そして、多大な納品遅延をしてしまいましたことをお詫び申し上げます。


クールなお姉さまな感じを出そう、と台詞回し注意してみましたがいかがだったでしょうか?
こんな人が困るとしたらやっぱりべたなセリフだろうか、と佐吉の純粋さに任せて困らせてみました。
人なつこくて、人が大好きなヤキモノがいつでも待っていますので、よろしければまたこの霞谷家に足を御運びくだされば幸いです。