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<東京怪談ノベル(シングル)>


+ 始まりの白地図 +



 アリアンロッド・セキュリティ日本支社の屋上。
 ヘリポートが設置されているこの場所に今支社長を筆頭に多くの社員とヘリの整備士が集っていた。真冬の空の下でスーツ姿は寒く時折震える社員もいるが支社長に睨まれれ慌てて背筋を伸ばす。


 彼らは待っていた。
 空より訪れる訪問者――会長令嬢、ルナ・バレンタインの到着を。


 やがて一機のシルバーのボディを有する自家用ヘリが彼らの方へと降りてくる。
 右サイドにイギリスの国旗、左サイドにウェールズの国旗、正面にバレンタイン家の家柄を表すロングボウとヤドリギの剣が交差した紋章が描かれている。間違いないと、社員は察した。
 其れが近付けば舞い上がる風。それを身体全体で受けながら彼らは迎える。
 着陸し姿を現す人影。
 彼女は片手を上げた。それはそれは気さくな笑顔で。


「皆、ご苦労様。大袈裟な出迎えは不要って伝えたのに」
「はっ。ですがルナ様が訪問されるとあっては社員一同集うのが礼儀かと。ところで、あの、操縦士等の姿が見えませんがもしかしてお一人で此処まで?」
「80日間世界一周の時代に比べれば楽になったわよ。給油と整備が出来る場所が世界中にあるんですからね。はい、これ降りた土地で買った御土産。社員皆で分けてちょうだい」
「あ、……有難う御座います。ところでこの度の日本訪問の目的をお聞きしても宜しいでしょうか?」


 ルナは後頭部で高く結い上げた銀色の髪を風に流し、驚き呆れ返ったような社員達をその青い瞳に映す。
 支社長が土産を受取り他の社員に渡した後恐る恐るといったかのように訊ね聞けば彼女は腰に手をあて、一言回答した。


「留学と人に会う為よ」



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 日本中心地である東京。
 ロンドンに匹敵する大都市である。まだ土地感のないルナを気遣い道案内を、と進言してきた社員達の言葉を断り彼女は会社から出た。
 人を探す目的は変わらず、けれどアテはなくただ歩く。
 近代化されているとは言え此処は彼女が知るロンドンではない。見知らぬ土地に来たのだと言う事を肌に感じながら彼女は進んだ。


 そんな彼女とすれ違う通行人達は好奇の目を向ける。
 上半身はブラとほぼ同形状の青の衣服、下半身もショートパンツという冬場には似合わないルナの外見に興味と不審を抱いたからだ。
 だが彼女自身はそのような視線などこれっぽっちも気にしていない。


「あら?」


 何かに導かれるように。
 何かに誘われるかのように。


 彼女はただ道を進む。
 其処は選ばれた人間しか見つけられない。
 だからこそ彼女は今、選ばれたのだろう ―― アンティークショップ・レンへと。


 カラン。
 ルナが惹かれるがままにその店の扉に手をかければ、取り付けられていた鈴が訪問者を知らす。


「いらっしゃい。あんたは何をお求めだい?」


 カウンターの奥から店の店主、碧摩 蓮(へきま れん)が顔を覗かせる。彼女はチャイナドレスから組んだ脚を覗かせながら愛用の煙管を口元にあてた。そして煙を吸い上げ吐き出しながら来客者であるルナに妖艶な笑みを浮かべる。
 ルナは店内を見渡す。古い品物に埋もれた店の独特の雰囲気に興味を抱き置かれていたアンティークドールの頭部を指先で撫でてみる。――瞳が動いた気がした。


「ああ、あんまり触らない方が良いよ。此処にあるのはどれもこれも曰く付きのものばかりでねぇ。危なくて仕方がない。まあ、其れゆえに品物が客を呼びつけることも多いんだけどねぇ。――……とまあ、長々と説明しても仕方がない。あんたは今どういったものが必要なんだい?」
「曰くつきのものばかりを売っているの?」
「『曰くつき』と一言で言っても不運を呼び寄せるものばかりじゃないからね。多くの人間が商品に呼ばれて購入し幸せになった、不幸になった。最終的に購入をするかどうかは客次第」
「……面白い話ね」


 人形から指を話しルナは蓮の方へと真っ直ぐ歩み出る。
 カウンターに肘と豊満な胸を置くようにして店主、蓮を覗く。対して蓮はただふぅ……と煙を吹いた。


「人を探しているの。弟と親友。二人ともあたしにとって大切な存在なの。居場所がわかるような物はない?」
「とても大切かい?」
「ええ、とっても」
「じゃあ、今日入ったばかりの此れなんかどうだい。『白地図』さ」
「地図って言っても言葉の通り真っ白じゃない。それにちょっと薄くない? 向こう側が透けて見えるわ」
「これは適当な地図を下に置き透かして使うものさ。探し人を脳裏に思い浮かべながらあんたの血を一滴垂らせば血の筋が目的の場所まで伸びていくよ。ただし下に置いた地図の外に目的物が在る場合、血は止まらず端から滴り落ちるから下に置く地図の種類は選んだ方が良いかもしれないね。まあ、使い捨てだが機能性は良い方だ」


 カウンターの奥から蓮が取り出してきたのは一枚の薄っぺらい白紙。B4サイズ程のそれを広げ使い方を説明すればルナはふぅん、と頷いた。


「じゃあそれにするわ。カードは使える? まだこの国の現金は持ってないの」


 財布からカードを取り出し人差し指と中指で挟みながら蓮に差し出す。
 蓮は赤く艶やかなその唇を持ち上げてカードを摘み上げた。


「お買い上げ有難う御座います」





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7873 / ルナ・バレンタイン (るな・ばれんたいん) / 女性 / 27歳 / 元パイロット/留学生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。
 アンティークショップ・レンに辿り着くまでの軌跡、書かせて頂きまして有難う御座いました。
 これから先、弟さんと友人さんをどうやって探していくのかこっそり楽しみにさせて頂きます(笑)