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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ 再会の白地図 +



「ようっし、今日はこれで用事はお終いっと!」


 あたし――SHIZUKUは袋詰めされた本を抱えながら秋葉原に来ていた。やっぱりちょっとオタク的にマイナーな雑誌やコミックスは此処でそろえるのが一番手っ取り早いわ。はー、心がほこほこする。


「さて用事も済んだしさっさと家に帰って収穫物を堪能しよう〜……ん?」


 改札に向かって歩き出せば何やら人がざわついているような……。うーん、何だろう?
 疑問を浮かべながら人混みを避けてぴょこっと覗き込めば其処には一人の外国人さん。――ああ、成程。銀色の髪、青い瞳……はいいけど、大きな胸と露出した格好が目立っちゃってるのね。この季節にあんな格好で寒くないのかしら?


 興味を抱きながら見ていればふと相手が広げていた地図らしきものから顔を上げて――あ、視線が合った。でもすぐにまた紙を見て……あ、もしかして何処か行きたい場所があるのかな? 外国の人なら此処らへんはちょっと分かりにくいかもしれないわね。よぉーっし……!


「ねえ、そこのお姉さん。もしかして道に迷ってるのかな?」
「え……あ、そうなの。実は弟と親友を探しに日本に来たんだけど、この街には初めて来たものだから何処に行ったらいいのか分からなくて。……えぇっと、此処。此処にあたしの弟がいるはずなんだけど」
「ふんふん。ああ、此処なら分かるよ。あたしで良ければ一緒に行こうか?」
「本当?! それなら助かるわっ。あたしの名はルナ。ルナ・バレンタインよ」
「ふふ、あたしはSHIZUKU。宜しくね! っと、ルナちゃんって呼んでもいい?」
「ええ、良いわよ」


 二人で秋葉原周辺の地図を覗き込み場所を確認する。
 ルナちゃんが指し示したのは偶然にも其処はあたしの良く遊びに行く通りの近くのビル。これなら案内出来る、良かったぁ。
 二人並んでてこてこと駅から出て行けばやっぱり人の目が集まってくる。うーん、他にも外国人観光客は沢山いるけれど、やっぱりおっきな胸は目立つかぁ。露出度も高いし、女のあたしでも思わず目がいっちゃうくらいだからね!


「弟の名前はソールって言うの。この写真を見てくれる?」
「へー、ルナちゃんの弟さんは可愛い系なんだぁ」
「あの子はお母様似なのよ。あたしとお姉様はお父様似だけど」
「ふんふんふん、それでそれで?」
「日本のアニメやマンガがとても好きな子だったから此処、えっと、アキハバラ? にいても驚かなかったけど……しかし不思議な雰囲気を感じるわ」
「あはは、それは多分ルナちゃんの服装が目立――ああ、写真は無断で取らないで下さい! これコスプレじゃないからー!」


 ルナちゃんをコスプレイヤーだと勘違いした何人かの観光客がカメラを向ける。あたしは慌てて違う違うと頭の上でバツの形を作り首を振った。――はぁー、本人は多分無自覚なんだろうなぁ。寒さに強いみたいだし、服装は多分唯の趣味なんだろうと思う。がっくり。


 あたしは弟さんだという写真を受取りまじまじと観察する。それはもう視線で穴が開くんじゃないかっていうくらい。ルナちゃんと見比べてみるとやっぱり姉弟、細かなところが似てるものね。こう纏う雰囲気とか、笑顔とか。
 そう告げればルナちゃんはほんの少しだけ、ほんっとうーに少しだけだけど、嬉しそうに笑った。


「さてっと、此処が地図が指し示したビルの場所なんだけど………………あの、もう一度確認してもいい? 弟さん、本当に此処にいるのかな?」
「いると思うんだけど、どうして?」
「どうしてって、だって此処……」


―― どう見てもこのビルに入ってる店ってちょっと妖しい系っていうかまさに風俗系! 水商売関係のお店ばっかり!
 ……いえいえいえいえ、偏見はいけないわSHIZUKU。
 もしかしたら何か理由があって此処にいるのかもしれないし、客として遊びに来てるだけなのかもしれないし、ああ、でも地図を見てるって事は仕事ってことよね?!
 でもルナちゃん此処がどういう場所なのか分かっていないみたいだし……ああー、どう伝えればいいのー!?
 無難に「お客様に心の癒しを与えてるお店」だっていえばいいのかな!


 ぐるぐるぐるぐる。
 あたしが一人で思い悩んでいるとルナちゃんはもう一度別の紙を取り出しそれを今まで見ていた地図に重ね合わせて確認し始めた。うん、と頷いたって事は、やっぱり此処なんだ。
 多分此処あたしみたいな学生は入れないし……ああ、でも何も分かっていないだろうルナちゃんを一人行かせる訳にはいけない! そうよ、ただ人探しに来てるだけなんだから堂々と入って「ソールさんいらっしゃいますか?」って聞くだけ聞いて、居ればラッキー、居なかったらさようなら、ってそれだけの話。
 よし決めた。行くわよ、SHIZUKU。


 あたしはぐっと拳を作り、決断し。


「あのね、ルナちゃ――――」
「ソール!」
「へ?」
「見つけたわよ、ソール!」


 ルナちゃんが急に声をあげる。
 その視線の先には一組の男女が居た、けど……あれ、男の人の方どう見ても日本人よね? っていうかむしろ写真の男の子と似ても似つかないし年齢もルナちゃんより高いように見えるから……。
 でもルナちゃん今弟さんの名前を呼んで。
 え?
 っていうことは、……。


「え、嘘……姉さん!?」


 ルナちゃんの声に反応したのは男性ではなく。
 とてもとても可愛らしい金髪碧眼の美少女の方、で。


「えええええええええ!!? そっちが『弟』なのー!?」


 思わず、絶叫。



■■■■



 こほん。
 場所は一先ずメイド喫茶に変わりまして。
 只今あたしの目の前では感動の姉弟の再会が行われております。
 まあ、あの場所じゃ話をしようにも悪目立ちしちゃうもんね!


「しかし日本のメイドって喫茶店にもいるのね。あら、あっちの方じゃ男性とメイドが写真を撮ってるわ。何が珍しいのかしら?」
「えっと、此処のメイドさん達はある意味特殊なメイドさんでして」


 ミニスカメイド姿のお姉さんが飲み物を運んできてくれる。
 あたしは自分が頼んだジュースを啜り飲みながら二人を交互にちらちらと観察していた。どうやらルナちゃんは日本のメイドに興味を持ったよう。……いえいえ、此処の人達はオタク向けのメイドさんなのよ。


「あの、姉さん。その、父さんの事なんだけど……元気にしてるかな? ほら、僕、ニューハーフになった時、反対した父さんのこと思いっきりカウンターでKOして出て来ちゃったから……」


 気まずそうに弟さん――一見美少女にしか見えないソールちゃんがルナちゃんに尋ねる。一方ルナちゃんは頼んだ紅茶のカップに唇を付け一口飲んだ後微笑んだ。


「お父様は元気にしているわよ。今は社長の座をお姉様に渡し、会長になられたしね。私達のお姉様も社長の任を頑張ってるわ。二人とも表には出さないけど、ずっとあなたのことを気にかけていたわ。もちろん、あたしもね」
「そう、皆元気で……」
「あなたも元気にしてた?」
「うん。僕は大きな怪我や病気もしてないし、割と元気にしてたよ」
「そう、良かった」


 『会長』に『社長』、かぁ。
なんだか大きな話を目の前で繰り広げられているような気がするけれど、今は突っ込みは駄目駄目。
 ずずず、ジュースを啜り飲みながら何処かしんみりとした雰囲気に浸る。ああ、感動の再会ってこういうことなのね。


「お父様から伝言があるの。――『お前の好きに生きろ』、ですって」
「え……」
「お父様だって貴方が居なくなった後色々考えていたの。だからこそあなたも今までみたいに消息不明を貫くんじゃなくってせめて手紙くらい出すようになさい」
「う、……ぅん、うんっ……!」


 ルナちゃんが伝え終えた瞬間、ソールちゃんの目にじわり、と涙が。
 この家族の間に何があったのかあたしは詳しくは知らないけど、どうやら上手くいきそうな予感。ぽろぽろと両の目から零れだした涙が頬を伝い顎の方へと流れていく。
 あたしは紙ナフキンを一枚摘み出しソールちゃんへと差し出す。彼――彼女?――は一度お礼を言うように頷いた後其れを使い顔を拭った。


「さてと、今日はこの辺で帰ろうかな。ヘリの整備の様子も聞かなきゃなんないし、留学の手続きもあるしね」
「え、ヘリってまさか姉さん……いや、まさか」
「自家用ヘリで此処まで来たわよ? 留学と人探し目的でね」
「うそー!」


 ルナちゃんのとんでもない発言にソールちゃんは叫ぶ。
 驚き呆れたせいか涙はぴたっと止まっていた。そして時計を見やると慌ててテーブルの端に置いてあったアンケート用紙とペンを掴み其処に何やら文字を書き出した。


「姉さん僕もう行かなきゃ! これ、僕の住所と携帯番号だから! 次はちゃんと時間を作って逢うから、ちゃんと逢うから!」
「分かったわ。仕事があるんでしょう? いってらっしゃい」
「うん、絶対に連絡してね。絶対だからね!」


 半ば押し付けるように紙をルナちゃんの渡すとソールちゃんはばたばたとこの場を後にする。
 はぁ……なんだか部外者ゆえに緊張しちゃったなぁ。
 ルナちゃんが受取ったばかりの紙を大事そうに財布の中に入れ、それからあたしの方へと顔を向けた。


「SHIZUKU、此処まで付き合ってくれて有難う。感謝するわ」
「あ、いえ、役に立てたならいいの!」
「貴方にも何かお礼をしなきゃいけないわね。何が良いかしら?」
「お礼って、ただ道案内しただけなのに……そうだ、そういえば親友も探してるって言ってたよね?」
「ええ、弟と親友を探してるの。もっとも弟は今貴方のお陰で再会出来たんだけど」
「じゃあ親友さん探し、手伝っちゃおうかな。日本に来たばかりっていうことは他の土地も分かんないでしょう?」
「本当? 貴方が居てくれると心強いわ」
「あはは、あたしも学生だから出来ることは限られているけど、此処らへんなら案内出来るよ!」


 だからどんと任せて!
 そう言って胸を拳で叩く。そんなあたしが可笑しかったのかルナちゃんは笑った。それはさっきまでとは違う何処か安堵感漂う笑顔。やっぱり緊張していたんだなぁ、って思っちゃう。
 外を見れば空は青い。清々しい気分を胸にあたし達は立ち上がった。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7833 / ソール・バレンタイン (そーる・ばれんたいん) / 男性 / 24歳 / ニューハーフ・魔法少女?】
【7873 / ルナ・バレンタイン (るな・ばれんたいん) / 女性 / 27歳 / 元パイロット/留学生】

【NPCA004 / SHIZUKU(しずく) / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、第二部発注有難う御座いました!
 SHIZUKU視線で、ということでしたので弟さんとの再会はこのような形となりましたが如何でしょうか?
 コメディ、けれどしんみりと、そういう雰囲気がお伝え出来ていれば幸いです。