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<東京怪談・PCゲームノベル>


 スベテを知る人

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 失敗したな……。
 とりあえず、何よりも先に思うのは、それ。
 いけるかなと思った。問題ないだろうと思った。
 けれど、それは過信以外の何物でもなかった。
 目の前で牙を剥くスタッカート。
 その身体から垂れ流れている魔力は、途方もない。
 現状、自分の魔力では太刀打ちできないだろう。
 高レベルのスタッカートが、ここまで強敵だとは。
 自らが招いた災難。誰かに助けを求めるなんぞ許されまい。
 まさか、こんなカタチで解き放つことになるだなんて……思いもしなかった。
 全ては自分の責任。尻拭いは、自分で。

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 敵の強さや弱点を探る。その余裕が、ない。
 こんなことになるだなんて思いもしなかったから、余計に。
 自分の経験やレベルに不釣合いな討伐。
 それを請け負ってしまったのには、理由があった。
 ツラーフェストの書。
 そう呼ばれる古書がある。
 死霊術に関する歴史が事細かに記載された書物で、ネクロマンサー専用の魔法書である。
 掲載されている歴史や事柄は、どれもグロくエグい。
 偽りがない内容故に、評判としては、すこぶる悪い。
 禁書扱いとして登録されるか否か、そのギリギリのライン。
 著者不明のこの書物を、霊祠は入手したいと考えていた。
 だが、これだけの条件が揃ってしまうと、自然と値段は跳ね上がる。
 噂が先行して、それに伴い値段は、どんどん上昇。
 そこいらの魔術師には、手も足も出ないほどの値段まで高騰している。
 お忘れの方もいらっしゃるかもしれないが、霊祠は良家のお坊ちゃまだ。
 自分のものではなく、家の、そして親のものではあるが、金なら腐るほどある。
 それこそ、金銭感覚はマヒ状態に近い。更に、その自覚は、ない。
 だが、世間知らずというわけでもない。
 こうしてHALに通うようになってから、一般常識というものが身に付いた。
 屋敷に篭って研究を続ける毎日の中では得ることが出来なかったであろう一般常識。
 友達、生徒、先生と接するうち、自然とそれらは身についていった。
 その結果として、霊祠は『自分で買う』という決断を下す。
 親に御願いすれば、いとも容易く入手することが出来るだろう。
 溺愛して育ててきた為、文句も言わず、叱ることもなく、笑ってくれることだろう。
 でも、それでは意味がない。欲しいものは、自分で買わねば。
 こう思えるようになったのは、大きな変化であり成長である。
 まぁ、それが普通だと苦笑いを浮かべる人もいるだろうけれど。
(不本意ですけど、ゴリ押ししかなさそうですねぃ……)
 物陰に隠れ、夜空を徘徊しながら自分を探すスタッカートを見上げる霊祠。
 幸いなことに、ここは公園。時間も時間なだけに、誰もいない。
 街外れにある小さな公園だというのも好都合だ。
 うん、と頷いて、霊祠はパチンパチンと連続で指を二回鳴らした。
 呼び出されて出現するのは、二体のワイト。
 ぼんやりとした黄色の光を纏ってユラリと姿を見せる彼等は、霊祠の護衛も兼ねている。
 普段から傍に実体でいるわけではないが、いつでも彼等は霊祠の傍にいる。
 時折、霊祠の身体が黄色く発光しているかのように見えることがあるが、
 それこそが、彼等ワイトが霊祠の身体を護っている証だ。
 自慢の二体を召喚した霊祠は、躊躇うことなく指示。
 標的は、夜空を徘徊するスタッカート。
 遠慮なんていらない。
 なるべく早く、けれど時間が時間なので五月蝿くならないように。
 霊祠から、そう指示を受けた二体のワイトは、
 零れ落ちてしまいそうなほどに剥き出た目玉グリンッと動かし、標的を視界に捉える。
 日増しに伸びていく、ワイトの長い爪。
 その爪の手入れは、霊祠の日課。……まぁ、そんなことは今はどうでもいいか。
 ワイトたちが臨戦態勢になったことで、スタッカートのテンションも最高潮に。
 不気味な鳴き声を上げながら、ものすごいスピードで効果してくる。
 まるで、手足の生えた鳥のような風貌だ。
 ワイトたちに全てを任せっきりにすることはない。
 それまでというか、普段は抑制している魔力を解放し、霊祠は瘴気を張る。
 それだけには留まらず、後方から援護。
 毒を帯びた風でワイトたちを包み込めば、ワイトたちの攻撃力はグンと跳ね上がる。
 もはや、この時点でスタッカートに勝機はないのだが。
 綺麗な満月の灯りの所為か、それとも抑制魔力を久々に解放したからか、
 霊祠は軽い興奮状態にあるようで、クスクス笑いながら猛攻を続ける。
 トリップ状態の霊祠が、スタッカートの絶命に気付いたのは、しばらくしてから。
 何だ、もう終わりか、張り合いないなぁと残念そうに思いながら、
 霊祠は両手を合わせて、とっておきの呪文を詠唱。
 エノク語で唄う、その呪文は魂送スペル。
 迷える魂を、在るべき場所へ? まさか。
 霊祠はネクロマンサーだ。
 魂を送り届けるというよりは、魂を死界へ引きずり込むような感じである。
 シンと静まり返る公園。
 それまでの熱気や興奮が、まるで夢だったかのような感覚に陥る。
 ふぅ……と息を吐き、服についた埃や毒素を払い落とす霊祠。
 久しぶりに全魔力を解放した。こういっては不謹慎だが、楽しかった。
 すぐに終わってしまったのが惜しいところではあるけれど。
 大活躍してくれたワイトたちに御礼を言いながら微笑む霊祠。
 こうやって楽しい思いが出来るならば、
 分不相応な仕事を請け負うのも楽しいかもしれませんねぇ。
 などと、これまた危険なことを考えていた時だ。
 ガサリと茂みが揺れる。
「!」
 まさか、仲間がいたのか。
 霊祠は、サッと身構えて呪文を詠唱しようと両手を合わせた。
 が、目に飛び込んできたのは、以外な人物だった。


「魔血の治療は、あんまり得意じゃないのですよ」
「そうなの……」
「すみません。時間が掛かってしまいまして」
「ううん。大丈夫よ。ありがとう……」
 茂みから現れたのは、千華だった。Cクラスの担任教員だ。
 モデルとして仕事していることもあり、スタイル抜群。
 男子生徒が噂しているのを何度も耳にしている。
 まぁ、霊祠はオトナの女性にというか、女の子自体にまだ興味がないので、
 だから何だということもないのだけれど。
 自らの血液と魔力を混ぜ合わせて傷を治療する、魔血の治療。
 腕に傷を負っていた千華の為、苦手ではあれど、霊祠は必死に治療した。
 どうして千華は傷を負っていたのか。その理由は簡単だ。
 分不相応な仕事を請け負い、現場へ向かった霊祠。
 それを見ていた千華は、彼の身を案じて、こっそりとついてきていた。
 まぁ、加勢する必要もなく、すぐさま片付いてしまったわけだが。
 久々に全魔力を解放した為、霊祠本人も気付かぬところで、魔力は暴走していた。
 その、とばっちりを受けて千華は腕を負傷してしまったのだ。
 それは即ち、千華が『全て』を見ていたことを意味する。
 隠しようもない。現にこうして、ワイト二体が霊祠の背後にいるのだから。
 誤魔化せない状況だということぐらい、理解る。
 霊祠は苦笑しながら、千華に白状した。
「ん〜……。その〜。彼等は、僕のボディガードをしてくださっているワイトさんですねぃ」
「そ、そう……」
「大丈夫ですよぅ。すごくおとなしくて良い子ですから」
「そ、そうね……」
「何か、巻き添え食らわせてしまって申し訳ないです」
「い、いえ。大丈夫よ」
「ごめんなさいです。はい、ワイトさんたちも一緒に謝りましょうね」
 霊祠の言葉に頷き、一緒になってペコリと頭を下げたワイト。
 その拍子に、ポロリポロリと目玉が零れ落ちて転がった。
 落ちた目玉は、千華の足元へ。
「ひっ……」
「あらら。落ちましたよ。ワイトさん。どうにも落ちやすいですねぃ」
 転がった目玉を拾い上げ、ワイトたちへ返してあげる霊祠。
 ワイトたちは、恐縮です! といわんばかりに霊祠にペコリと綺麗な角度で頭を下げた。
 何とも微笑ましい光景、なのだが。
「…………」
 千華の膝がガクガクと震えている。
 そういえば、さっきからやたらと、どもっているような。
 ハッと気付いて、霊祠は確認してみた。
「先生、もしかしてオバケとか怖いですか?」
「そ、そうね……」
「あっはは。大丈夫ですよぅ。ほら、可愛いんですから」
「か、可愛いかしらね……」
「可愛いですよ。ほらほら、ちゃんと見てあげてください。この腐敗した耳とか、キュートですよぅ」
「ちょっ……こ、こっち向けないで……」
「ワイトさんたちも照れてるみたいです。あはは」
「だっ、だから、こっち向けないで……」
「先生、綺麗ですもんねぃ。あ、握手したいそうですよ〜」
「え、遠慮しておくわ……」
「えぇ〜。そんなこと言わずに。仲良くしてあげて下さい。ほらほら」
「いっ、いやぁぁぁぁ……!」
 逸材なる生徒。そのチカラの全て。そのチカラの源。
 教員として、それらを知ることができたのは有難いし喜ばしいこと。
 でも、千華にとっては、恐怖以外の何物でもなかった。

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 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / 千華 / 27歳 / HAL在籍:教員

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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