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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


+ 未来への白地図 +



「地図によるとあたしの親友は此処にいるっぽいわ」


 そう言ってルナちゃんは「アフロディーテ」と綴られた看板を指差した。指し示されるがままあたしは視線を向ける。外から見る限りは店構えも立派で場所も駅からそう遠くないし伝わってくる雰囲気も良い。でもその店が『どういう店』かはすぐに気付いた。
 つまり、そう。
 これは、また、そういう風俗系のお店なわけで!
 察し、心の中で叫んだところで前回同様ルナちゃんに声を掛けてみるけれど。


「さあ、行きましょ」
「ちょ、ちょっと待ってー!」


 ルナちゃんはやっぱり此処がどういうお店か分かっていないよう。
 戸惑うあたしに気付いているのかいないのか、ルナちゃんはさっさとお店の中に入ってしまう。あたしは未成年で一緒について行けないとはいえ、風俗系のお店にルナちゃん一人行かせるのも不安。
 ――あぁ、もう開き直って中に入っちゃえ!


 追い掛けて店内に入れば受付カウンターに男性スタッフの姿が見えた。
 下方に取り付けられた橙色の仄かな照明を避けるためやや足元を見やりながらルナちゃんの影に隠れる。顔を隠したまま後を付いていこうとしたんだけど……。
 

「コンパニオン希望の方? 貴方はともかく後ろに隠れていらっしゃる方は高校を卒業してからいらして下さい」


 ……なぁんて言われちゃ、流石のあたしでも堂々とは入っていけない。
 コンパニオン希望じゃないと口に出そうとした瞬間、ルナちゃんがずいっと前に出た。


「コンパニオンが何かは知らないけど、あたしは人に逢いに来たの。此処にミネルバって子、いるかしら?」
「ミネルバ?」
「そう、ミネルバ・キャリントン。あたしの友人よ」


 ルナちゃんがそう告げれば男性スタッフがやや眉を寄せる。その反応を見てあたしは心の中でぐっと拳を作った。だって心当たりがありそうなんだもの。
 そこだ、押しちゃえ! と心中ルナちゃんを応援していればスタッフの後ろから別の誰かの視線を感じた。こちらをちろっと窺っては何か戸惑うかのように視線を外す。その人物はやがてカツカツとヒールの音を鳴らしながらカウンターへと出てきた。
 髪は適度に二束取りツインテール状にし残りの髪は前後に垂らし、黒……いえ、青い瞳がこちらを見る。ちなみに格好は赤いベビードール。……ただし透け透けの。


「何を揉めてるの。そんなんじゃ他のお客様にご迷惑……」
「ミネルバ! 貴方、ミネルバ・キャリントンでしょ! ああ、見つけたわ!」
「…………嘘、やっぱりルナ!? ルナよね?」


 ルナちゃんが現れた人物に両手を伸ばす。
 そのまま飛ぶように抱きつき甘えるかのように頬を寄せる。一連の様子を眺め見ていたあたしと男性スタッフは瞬きを繰り返すのみ。
 『見つけた』。
 そうか、この人がルナちゃんが探してた親友さんなのかぁ。その瞬間ほっとしたのか無性に可笑しさがこみ上げてきて思わずスタッフさんと視線合わせて笑っちゃった。



■■■■



 三万円。
 さんまんえん。
 何がって、入浴料が。


 たまたま開いていた個室に女三人で入るのはこういう店じゃ珍しいんだろうと思うの。実際すれ違った人達は不思議そうな目であたし達を見てたしね。部屋はプレイルームって言うんだって。んー、何をプレイするかは、あえて聞かなかった。


 ミネルバさんが結っていた髪を解く。
 その瞬間あたしは相手に向けて指先をびしっと――いや、それよりも先に購入した本を取り出してミネルバさんに突き付けた。
 どこかで見た覚えがあると思ったらあたしが買い続けている本の作者だったのよ! ミネルバさんは「秘密よ」と唇に指を乗せて小さく微笑む。うんうん、と大きく頭を振るように頷けば彼女はあたしの本の裏表紙にサインを書いてくれた。


「さて、入浴料で三万円も払っているんだから皆でお風呂でも入っちゃいましょうか」


 実は未成年のあたしが入れたり、警察に突き出されることもなく入浴料三万円で済んでいるのはミネルバさんの口添えのおかげ。
 あたしとルナちゃんはミネルバさんに背中を押されながら隣接しているバスルームへと移動した。素早く裸になりさっさと浴槽の方へと行ってしまう他の二人。あたしはあたふたしながら二人より着込んだ――といっても至って普通の私服――を脱ぎ備え付けのタオルを手に後を追った。


「わ、変な椅子! こっちにも変なものが置いてある。あ、動いた!!」
「これは何かしら? えーっと……ロー……ローション?」
「あらあら、二人共駄目よ。それは大人の玩具なんだから」
「大人のおも……」
「ふふ、SHIZUKUちゃんにはまだ早い玩具」


 …………なるほど。こんな場所にも色々あるのね。ルナちゃんはローションの入ったチューブを元の場所に仕舞う。あたしも遊んでいた怪しげな椅子を出来るだけ視界に入らないよう遠ざけてから湯の中に浸かった。はぁー……適温。


 ちら。
 ちらちら。
 視線が泳ぐ。


 二人ともプロポーションが良いので思わず、ね! そして、何より胸がでかい! 思わず自分の胸を見てしまう。小さくは無いはずなのに二人に比べたら、……小さいのかな。


「そうそう。ミネルバに逢う前に弟に逢ってきたわ」
「可愛くなったでしょ?」
「うん。まさかあそこまで可愛くなっちゃってるとは思わなかったけどね」
「ふふ。ところでルナ、貴方これからどうするの? 帰国?」
「まさか! 日本に来た目的は人探しと留学よ。折角自家用ヘリでイギリスから飛んで来たっていうのに、二人に逢ったら終わりだなんて燃料費が勿体ないわ」
「あらやだ、……また大胆なことをしたわね」


 呆れるミネルバさん。
 ああやっぱり呆れちゃうよね。うん、気持ちはよく分かる。普通ヘリで此処まで来ないもん。あたしだって最初聞いたときは何事かと思っちゃったんだから!


 それからのあたし達は沢山話をした。
 イギリスの話、日本の話、秋葉原での話、あたしの学校の話……――でもね、楽しい時間はあっという間に過ぎちゃう。女三人でじゃれるように遊んでいたけど退室時間を知らせるアラームが鳴った。


「これからは一緒だよ」


 最後にルナちゃんがそう宣言する。
 ミネルバさんは何も言わず、けれど心から嬉しそうに頷いた。


 着替えを済ませてカウンターへと行く。少し濡れた髪が首に触れて冷たかった。
 先に会計を済ませると言って出ていったルナちゃんを見つけると傍に支配人らしき人がいた。品の良いその男性は言葉巧みにルナちゃんをコンパニオンに誘っているみたい。そしてルナちゃんも満更でもなさそうに笑って会話を流してた。最後にあたしの方を見て「卒業したら貴方も是非」と言ってくれたけど、……ぶんぶんぶん! 首がもげるんじゃないかっていう程左右に振ってお断り。そんな風に「子供」な反応をするあたしを見て「大人」達は笑った。



■■■■



 店の外に出ればもう夕暮れ。
 出てきたあたし達を不思議そうな目で見る男性達の視線。まあそうでしょうとも、そうだろうと思う。でももう気にしないんだからね!


「有難う、SHIZUKU。貴方のお陰で迷うことなく事が進んだわ」
「あたしの方こそ貴重な体験させて貰って面白かったー!」
「今度是非あたしのヘリに乗ってくれない? 空からこの街を見せてあげる」
「本当!? 嬉しい!」
「さ、御飯を食べに行きましょう。もちろんあたしの奢りよ」


 良いながらルナちゃんがあたしの手を取る。
 あたしもルナちゃんの手を握り返して賑わいをみせる街へと歩き出した。
 空を見上げれば橙色。
 ――心は晴れやかだった。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【7844 / ミネルバ・キャリントン (みねるば・きゃりんとん) / 女性 / 27歳 / 作家/風俗嬢】
【7873 / ルナ・バレンタイン (るな・ばれんたいん) / 女性 / 27歳 / 元パイロット/留学生】

【NPCA004 / SHIZUKU(しずく) / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、三部作最終話を発注有難う御座いました!
 またもSHIZUKU視線で明るく話を進ませて頂きました。無事再会できてなによりですv
 そして大事な再会部分を任せて下さって有難う御座いました。嬉しかったです(笑)