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+ 闇スカウト +
「……ふぅ、満足した」
明姫 リサ(あけひめ りさ)は自分の仕事を終え一息吐く。
仕事着であるチャイナドレスから素肌にライダースーツという特異な格好へと着替える。ちなみに格好自体は彼女の趣味であり、しかも自身の豊満なバストのせいで首までチャックが上がりきらず大部分胸を露出させていた。
彼女は母方がサキュバスの血筋で精気を吸う為ソープランドで週に二、三回働いている。今日も美味しい精気を吸引し満足したところで彼女が属する吉原の最高級ソープランド『アフロディーテ』から外へと出てバイクを置いている駐車場へと移動する。
人気の無いその駐輪場でバイクに乗りさっさと帰ろうとしたところで何やら男性が声を掛けてきた。
リサには彼が同業者であることがすぐに分かった。
男は彼女の肉体を褒め称え、加えて自分の店がどのように良いか語る。だがリサにとって金銭はソープで働く理由ではない。
更に『アフロディーテ』はコンパニオン、男性従業員の質は高く経営も健全。従業員の待遇も良い。警察との関係も良く風俗業には珍しく問題点が少ない。
「私は今の店が気に入っているの。もう良いでしょう」
「それじゃあ困る。困るんですよ! ぜひ我が店には貴方の様な女性に移籍して頂きたいのです。給与は今の二倍はお約束致しますよ!」
「興味ないわ。じゃあね」
「そうですか……じゃあ仕方ありませんね」
言うや否や男が指を鳴らす。
すると待ち構えていたのか後ろからはヤクザの男が数名現れた。これ見よがしに拳を鳴らす男達。リサは呆れた息を吐いた。
何故なら彼女には男が出してきた店名には心当たりがあったからだ。仕事仲間の女性から「ヤクザと深い繋がりがあるから関わらないようにね」と忠告された覚えのある。それが真実だと彼女は今実感した。
乗っていたバイクから降り、構えを取る。
彼らは最初からリサを誘拐するつもりだったのだろう。無理やり連れて行こうとするのは明白だ。
飛び掛ってくる男達。
だがリサもただ黙ってやられる女ではない。中国武術を駆使し男達をのしていく。
「きゃあぁっ……! ん、っぐ!」
「大人しくしろ! ほら、お前達こいつを連れて行け!」
だが油断をしていた。
最初に声を掛けてきた男がリサの後ろに回りテイザーを使い彼女を感電させたのだ。動きが鈍くなったところで彼女の口に何か布が当てられる。思わぬその行動にリサは目を見開き身体を捻るように抵抗するも、痺れた身体は言うことが聞かない。
やがて意識は沈み、完全に彼女の意識は夢に落ちた。
男達は車を回し彼女を後部座席に放り込む。
その様はまるで荷物でも扱っているかのように粗暴だった。撤退の合図と共に男達が車で走り去る。誰にも見られず、事は迅速に済んだはすだ。男達はそう信じていた。
だが一人だけ彼らの奇行に気付いた人物がいる。
その人物は銜えていた煙草をアスファルトの上に落とすと靴の底で踏み煙を消した。
「はぁ……見過ごせたら楽なんだろうけどな」
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従業員の態度が悪い。
待遇が悪いのかコンパニオンの出入りが激しい。店自体の創りは悪くないが其処にいる従業員達のランクが悪くて最低。
これがリサが目覚めた時の一番の感想だった。
後ろ手に縛られ動きの取れないリサを見下ろしているのはスカウトしてきた男だ。彼はニヤニヤと意地汚い笑みを見せる。その後ろではヤクザと思しき男達が撮影器具を準備していた。
ぞくりとリサの背筋に悪寒が走る。彼らがこれから何をしようとしているのかは容易に想像がついた。
「さぁて、お楽しみはこれからだ。何をされるかは分かるんだろう?」
「っ……最低!」
「最低で結構。俺は最初にちゃんと優しく勧誘したんだぜ? 乗ってこなかったお姉さんがわりーんだよ。つーかよ、んな身体してたら俺らじゃなくてもいずれこうなってたって」
「本当に頭悪いわ。私が誘いに乗らなかったのは今の店が気に入っているからだってちゃんと言ったでしょう。……まあ、理解出来なかったようだけど」
「そうそう、俺ら頭悪いからな。だから口で言っても伝わらなかった場合は――――力付くで言うこと聞かすんだよ。おい、準備は出来たか!」
男はリサの顎を掴み舌舐めずりした様を見せ付けてくる。後ろからまた別の男が一人何か尖ったものを取り出す。それは注射器だった。それも合法のものではないと察する。
片手でライダースーツのチャックを一番下まで下げ、もう一方の手で注射器を持つ。零れた胸元に男達がひゅぅ、と口笛を吹いた。
「あんたの一番敏感そうなとこに針を刺してやるよ」
「なっ……止めなさいよ!」
「強がっていられるのも今のうちってね。薬が効いてきたら抗えなくなるんだからさ」
針が迫ってくる。
リサはぎゅっと瞼を閉じ痛みを覚悟した――。
しかし、その瞬間は訪れなかった。
代わりに耳に聞こえてきたのは何かが壁にぶつかる音、男達の叫び声、悲鳴、暴力的な……『何か』。
リサはゆっくりと瞼を持ち上げる。何が今起こっているのか確認したかったのだ。
――彼女の目に入ってきたのは一人の男性がヤクザを一網打尽していく姿だった。
彼に殴られ蹴られ壁へと叩き付けられる男達。その度に部屋に鈍い音が響く。『彼』が何者なのかリサには検討が付かなかった。けれど明らかに今まで場に居た男達とは違う雰囲気に彼女は飲まれる。
やがて全てが終わり彼がリサを拘束している縄を外した。
その瞬間、彼女は心から感激し相手へと抱き付く。露出した胸を恥ずかしいと思うことなくただ彼に感謝の意を伝えたくてしがみ付いた。その目の端には少しだけ涙が滲んでいる。
対して抱きつかれた相手は一度息を吐いた。
煙草の香り漂う彼は自分の羽織っていたコートを脱ぐとそれをリサに掛けた。
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男の名は「草間 武彦」(くさま たけひこ)と言った。
彼が警察に通報し、そしてヤクザ達が逮捕されるまで割と速かった。
警察に言われ店の外で待機していたリサはライダースーツをいつも通り着込み愛用のバックから名刺とペンを取り出す。客に渡す業務用の名刺だが、ペンで私用のメールアドレスと電話番号を書き込んだ。
「今日は本当に有難う御座いました。あの、宜しければ一度店に来て下さいね!」
感謝の意を述べながら名刺を両手で手渡す。
武彦は一度あー、だかうーだか唸り困ったかのように空を見上げる。けれど突き返すことなく指先で摘んで名刺を受取り懐に突っ込んだ。
返してもらったコートを羽織り直すと「じゃあ」と片手をあげて武彦は去っていく。
リサはその後姿が視界から消えるまでずっと見ていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7847 / 明姫・リサ (あけひめ・りさ) / 女性 / 20歳 / 大学生/ソープ嬢】
【NPCA001 / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、またの発注有難う御座いました。
今回はリサ様が誘拐されてしまうということで(自分の中では)珍しく真面目にハードボイルド風に仕上げさせて頂きました。如何でしょうか?
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