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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


激戦? 利きチョコレート大会!
●オープニング【0】
「みんなー! チョコレートは欲しいかーっ!!」
「「「おー!」」」
「どんなことをしても、チョコレート購入権を手に入れるぞーっ!!」
「「「おーっ!!」」」
「罰ゲームは怖くないかーっ!!!」
「「「おーーっ!!!」」」
「いえまあ、罰ゲームはないんですけどね」
 と司会者が言うと、大勢詰め掛けた会場からは笑いが起こった。

 さて、これがいったい何の模様か説明しなければならない。
 バレンタインデーが近いということもあり、いくつかの商店街やスーパーなどが組んで利きチョコレート大会なるものが開かれることとなって、その会場に大勢の女性が集まっていたという訳だ。
 ……女性? そう、この大会の参加資格は女性であることなのだ。まあ、女装した人が混じっている可能性もなきにしもあらずだが。
 ルールは簡単。公表されている20種類のチョコの中から事前に決められた12種類が出され、それらを食べてどのチョコかということを当ててゆくだけのことだ。もし上位が同点で並んだら、残り8種類で延長戦を行うという決まりになっている。もしそれでも同点になったら同順位という扱いだ。
 優勝者には30万円分の、準優勝には10万円分、3位には5万円分、10位以内に入れば1万円分の、各々チョコレート購入権が与えられることになる。これは今回の主催である商店街やスーパーなどにおいて使用可能である。なお、チョコケーキなども購入権には含まれる。
 参加費として3000円必要だが、参加賞としてチョコレートと自分の告白コメントを収録したDVDをくれるということだから、まあ悪くはないのではないだろうか。
 ちなみに告白コメントというのは、本命の相手(別にそうじゃなくても、普通に渡す相手に対するものでもよいが)への想いのコメントと、その相手が浮気している現場を見た時に言い放つであろうコメントのセットだ。

 そんな大会の会場に、草間零の姿があった。
(たくさんチョコを用意しないといけませんもんね)
 なるほど、30万円分のチョコレート購入権は大きいですからね、零さん。
 その零が何気なく会場を見回すと、何故かスタッフとして働いているアリアの姿があった。驚いた零はアリアを呼び止めて尋ねてみた。
「な、何をされてるんですか?」
「実は……お手伝いに行ってくるように、と」
 何でもこの大会の案を出したのが、アリアが居候しているアンティークショップ・レンの店主である碧摩蓮なのだという。主催者の中になかなかの(霊的な)アンティークを所持している者が居て、それを引き取るための材料としてこの案を出したのだそうだ。
「色々とあるんですねえ……」
 しみじみとつぶやく零。実際これだけ人が集まっているのだから、それは成功したのであろう。
 さあさあ、あなたも利きチョコレート大会に参加してみませんか?

●チョコを食べるまでに一苦労【1】
 会場となったのは、とあるグラウンドである。人数の読めないイベントゆえ、屋外を選んだのはまあ悪くない選択であったろう。例え寒空の下で震えることになったとしても。
 グラウンドに簡易のステージがあって、それからDVD撮影用のベニヤ板で作られたスペースが3つほどあって、後は受付やら利きチョコのためのテーブルや椅子が並べられているという感じだ。
 一応流れとしては、受付を済ませた後に告白コメントの収録をし、それから利きチョコに挑んだ後は発表を待つというものだ。結果発表のおおよその時刻は告知されているため、待っている間に商店街なりに行って買い物を済ませてきても何ら問題はない。というか、この手の商店街イベントにしては意外に考えられているのが意外である。
「こういう機会って……滅多にないわよね」
 受付の順番を待っている列の中、青い空を見上げてぼそりとつぶやいたのは赤城千里だった。ビターチョコレート色の髪が、不意に吹いた風に揺れた。
 晴れているのはイベント的にはよろしいのかもしれないが、冬場のこういう日は冷えるのが常である。それでもこうして受付に列が出来るくらいなのだからたいしたものだ。
 千里の今のつぶやきのように、滅多にない機会だからと参加している者が少なくないのだろう。もちろん、優勝賞品なども参加する要因となっているのは間違いないが。
 まあほとんどの参加者は、自分が優勝出来るだとは思ってもいないだろう。それよりも何よりも、だ。
(色々なチョコが食べれて、運がよければさらにチョコを買えるって、嬉しいわよね)
 そう千里が思っているように、『色々なチョコが食べられる』という部分が大きいと思われる。参加さえすれば、少なくとも12種類のチョコを食べることが出来るのだから。
「まだかな……」
 自分の受付の順番が来るのを千里はじっと待つ。その待っている姿も絵になっているのは、すらりとした手足とすっきりとした印象を持つ千里ゆえか。
 ――と、このように受付を待っている者も居る一方、当然ながら受付を終えて次のステップへ進んでいる者たちも居る訳で。
(列が終わったと思ったら、また列に並ぶのね)
 そんなことを思いながらついつい苦笑したのはシュライン・エマである。シュラインが今度並んでいるのは、DVD撮影用のスペースへ向かう列であった。受付よりも撮影用スペースの方が数が少ないので、どうしても列は伸びてしまう。
「零ちゃんはちょうど今、撮影に入るのかしら」
 自分の並んでいる列の前方にある撮影用スペースの1つに、ちょうど零が入ってゆく後ろ姿が見えた。
(けどいったい、零ちゃん何て言うつもり?)
 DVD撮影では2種類の告白コメントが必要となってくる。想定相手はシュラインもおおよその想像はついてるが、コメントの内容までは分からない。特に後者の方は。
 そんな疑問が浮かんだ時、別の列の方から声が聞こえてきた。
「2列になってお並びくださーい」
 女性スタッフがそう列に並ぶ参加者たちに呼びかける。その声に聞き覚えのあったシュラインがふとそちらに目を向けると、『2列になってお並びください』と書かれたプラカードを持ったアリアの姿があった。
「……出るのって普通のチョコだけよね?」
 眉をひそめ、ついつい碧摩蓮がその辺りに居ないか探してしまうのは、色んな事件に関わってきたがゆえであろうか。
(でも、食べ比べで12種類も口に出来るのが嬉しいわ)
 ああ、やっぱり同じ考えですか、シュラインさん。
(チョコレート……いいわよね。30万円分なんてすぐに食べ切れそうなくらい好きだもの)
 ちょっと待ってください、全部自分で食べる気ですか? いやまあ、女性は甘い物は別腹だって言いますけれども……。
(チョコ好きとして、自分の力を試すチャンス……!!)
 こっちはこっちで、何か秘めたる思いで熱くなってるし、千里さん。それが表面に出てこないのが、余計に静かな闘志という感じである意味怖いです、千里さん。
 えー……チョコには女性をどうにかする魔力があるんでしょうか?

●その美しき笑顔が怖い【2A】
 撮影待ちの列に並んでいたシュラインだったが、ようやく自分の順番が回ってきた。
「はい、どうぞこちらへ。撮影が始まりましたら最初にお名前をお願いしますね。2度ほど質問しますが、カメラの方を向いていてくださいね」
 などと女性スタッフに促されながら、撮影用のスペースへ入るシュライン。ベニヤ板で作られた狭いスペースだが、雰囲気を出すためか中は白一色に塗られていた。さすがに、もっとバレンタインらしくする所までは手が回らなかったようだが。
「じゃあさっそく撮影しますんで、よろしくお願いしますー」
「あ、はい」
 カメラ担当の男性スタッフに軽く会釈するシュライン。そしてカメラが回り始めると同時に、この男性スタッフが手を振ってシュラインに合図を送った。
「シュライン・エマです」
 言われた通りにシュラインが自分の名前を口にすると、先程の女性スタッフが最初の質問を投げかけた。
「それでは、お相手への想いが込められたコメントをどうぞ」
 シュラインは軽く息を吸うと、真顔でカメラのレンズを見据えた。そしてゆっくりと口を開く。
「武彦さん。某超有名高級チョコレート専門店の、期間限定のケーキが食べたいです」
 ……あのー、それってさぞかしお高いんじゃあ? いやまあ、懐に大きなダメージを受けるのは草間武彦さんだけですから別にいいんですがね。
「では、続いて、そのお相手の浮気現場を目撃した時に言ってしまうであろうコメントをどうぞ」
 2つ目の質問が女性スタッフから来た。シュラインは右手をすっと動かし、頬から顎にかけてのラインにそっと置くと、カメラを見据えたままにっこりと微笑んだ。
「よく分かりました」
 ……先生、何かとっても怖いんですが!
 極上に綺麗な笑顔、それも百合でも似合いそうな雰囲気があって、それが怖さを増幅させてます!!
 というか、この後の展開を考えるのが非常に恐ろしい……!!
「は……はいっ! おつ、お疲れさまでしたー!」
 男性スタッフがカメラを止め、シュラインに言った。……男性スタッフさん、気のせいか少し怯えてませんか?
 シュラインは大きく息を吐き出すと、すっと撮影用スペースから出てきた。
「んー……上手く伝えられたかしら」
 そんな心配をするシュライン。いやいや、そう心配せずとも伝わりますでしょう……特に後半は。

●難問! 利きチョコ【3】
 さて、長い道のり(というのも大袈裟かもしれないが)を経て、ようやく利きチョコに挑むことが出来た参加者たちは、並べられた12個のチョコの欠片を1個ずつ味わいながら、あれだろうかこれだろうかと頭を悩ませていた。
(これは罠ね……)
 12個のチョコの欠片を前に、シュラインは思案していた。前にあるのは受付時に配られた解答用紙と、その12個のチョコの欠片が入っている容器『だけ』。
 実は……ないのである。こういう『利き何とか』といったものの大半に付き物の、リセットをするためのアイテムがないのである!
「……後になればなるほど、先の味と香りが残っちゃうわね」
 口の中に残るチョコの味をリセット出来ないのはかなり大きい。そうなると、食べてゆく順番も重要になってくる。最初に妙な味のチョコを食べてしまったなら、それが最後まで影響してくるのだから……!
 シュライン自身、過去色々と食べてきて味は覚えているつもりだったが、公表されている20種類のチョコを見ると、食べたことのあるのは半分も含まれていない。新作を多く入れているのだろうか?
 それから、もう1つシュラインを悩ませるのが、この屋外という会場だ。
 チョコというものは、周囲の温度によって状態が左右される。冷え過ぎても融け過ぎても、歯ごたえや風味などが変わってくることがある訳で。そう考えると、この屋外というのは……。
(でも、新しい味に触れられるんだものね。香り付けのお酒のも、最近は日本酒や焼酎なんかもあって面白いし……楽しみだわ)
 20種類のチョコの中には、海外の物も2、3混じっている。いずれも未だ食べたことはなかったので、シュラインも楽しみであった。
「わあ、どれも美味しそう……」
 一方、千里は目の前に置かれた12個のチョコの欠片が入った容器を見て目を輝かせていた。どれから食べようか、本当に悩ましい。
「じゃあ……いただきます」
 両手を合わせ、食べる前の挨拶を行ってから、ゆっくりとチョコへと手を伸ばす千里。まずは一番手前の近くにあったチョコから食べることにした。
 大事そうに右手の親指と人差し指で摘んだチョコを、ゆっくりと自分の口元へと運び、唇にしばし当てた後で静かに口の中へと滑り込ませた。
 千里はチョコを口の中で転がしながら、融け出すチョコの味をじっくりと味わい始める。
「あぁ、美味しい……!」
 欠片なので量自体は本当に少ないが、だからといってチョコの美味しさが変わる訳ではない。美味しさにうっとりとしつつも、この味を出した作り手へ千里は感謝した。
 チョコを味わっている様子を見ていると、それまでのクールさはどこへやら、『とろける』といった表現がぴったりと来るような顔のほころばせ方を千里は見せている。が、時折先程までのクールさが表情などに戻ってくるのを見ると、冷静に考え分析する所はしているのだなと思わされる。
(この味は海外じゃなく日本よね……)
 十分に考え、解答用紙の今食べたチョコの欄に番号を記す千里。そしてまたいただきますと手を合わせてから、別のチョコへと手を伸ばしてゆく。
 こうして千里が1個ずつしっかり味わっている最中、シュラインの方はそろそろ終わりへと差しかかっていた。と、急にシュラインが両手で顔を覆った。
「……うあ……」
 何だか参ったといった様子のシュラインの声。その後に続いて出てきた言葉が――。
「何この甘さ……」
 それはもう、『だだ甘』という言葉がしっくり来る味であった。『チョコだから甘きゃいいんだろ!』とでも主張するような、そんな味。まあ、そういう味を出してくるのがどこかは容易に想像出来るけれども。
「はう……」
 あ、今度はそっちが顔を覆いましたか、千里さん。
 そんなこんながありながらも、参加者たちは解答用紙の空欄を全て埋めて提出したのであった。

●結果発表、そして蛇足【4】
 さあ、結果発表である。簡単に結論を言ってしまおう。千里も、シュラインも、零も、残念ながら入賞することは出来なかった。一応3人とも半分ほどは当てたのだが、やはり上には上が居る訳で。
 それも10個当てた最高得点者が4人も出て、まさかの延長戦が行われることとなった。その結果、3位こそ同順位となったが、無事に優勝と準優勝が決まったのだった。優勝者は女子高校生、準優勝にOLさん、3位にはホステスさんと女子小学生という結果である。
「残念。でも参加賞貰えたし、いいかな?」
 参加賞のチョコレートの箱を手に、ステージに並ぶ入賞者たちを見つめる千里。分からないチョコに対して、作り手のオーラが見えないかどうか凝視したりもしたが……今回は幸運の女神はステージ上に居る者たちへ微笑んだのであろう。
「欲しかったわね、購入権」
 ぽそっとつぶやくシュライン。そんなに食べたかったですか、30万円分?
 ともあれ、幸運な入賞者たちには大きな拍手が贈られ、無事に利きチョコ大会は終了したのであった……。

 …………。
 ……え、零の告白コメントはどうしたって?
 気になるから見せなさい、と?
 じゃあ……ちょっと見てみますか?

 2月14日の深夜、バレンタインデーのチョコと一緒に渡されたDVDを、草間はビールを飲みながら再生させてみた。
「草間零です」
 テレビ画面に、少し照れながら自分の名前を言う零の姿が映し出される。
「それでは、お相手への想いが込められたコメントをどうぞ」
 女性スタッフの声が聞こえた後、零がカメラの方を見ながらゆっくりと言った。
「あ……あの。ありがとうございます!」
 いきなりぺこんと頭を下げる零。
「普段改まって言える機会がないですけれど……本当に、感謝しているんです。これからも私……頑張りますから、よろしくお願いしますね!」
 そう言ってまたぺこりと零は頭を下げる。そんな様子の零が映し出されたテレビを見ながら、草間がふっと笑った。
「……別に気にしなくていいんだがな。ま、そういう性分か」
 そして草間はくいっとビールを喉へと流し込んだ。テレビの中では、続いての質問が行われていた。
「では、続いて、そのお相手の浮気現場を目撃した時に言ってしまうであろうコメントをどうぞ」
 少し困ったような表情で零が答える。
「そんなことしていると……この間見せてもらったドラマみたく、刺されちゃいますよ?」
 その瞬間、飲みかけのビールを草間が盛大に噴き出した。そして激しくむせる草間。
「だ……誰だーっ! 零に変なドラマ見せたのはーっ!!」
 深夜の室内に、草間の怒りの声が響き渡った……。

【激戦? 利きチョコレート大会! 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 7754 / 赤城・千里(あかぎ・ちさと)
                 / 女 / 27 / フリーター 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全5場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ここにバレンタイン絡みのイベントの顛末をお届けいたします。本当ならバレンタイン直後にお届け出来ればよかったのですが……。
・ええと、今回の判定方法について簡単に説明を。参加者の皆さんの推理の他、零や他の参加者数人の推理も用意しまして(高原の意志が入らないようダイスで完全ランダムに決めました)、ダイスで答えを決定させました。その結果、他の参加者分の中の4人の得点が参加者の皆さんや零より上回ってしまったという……。なので実は、本文中の正答個数は本来の結果に上方修正をかけたものとなっていたりします。
・この結果に高原は頭を抱えたりもしましたが……この通りとなりました。ともあれ、参加賞のチョコレートとDVDがアイテムとして配付されているはずですので、どうかご確認ください。
・一応余談ですが、女装した男性もその気になれば参加出来たりしたのですよね、この大会。オープニングに、それがやりよう次第で可能であるかもしれないということを混ぜていたりしますし。
・シュライン・エマさん、143度目のご参加ありがとうございます。えーと……本文でも触れてますが、2つ目の告白コメント怖いです。あの後に、百合が真っ赤に染まりそうで……!!
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。