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<東京怪談ノベル(シングル)>


 奪われた朱雀

 どんな事でも始まってしまえば、簡単に『それ』からは抜け出せない。
 流れ落ちた水が元に戻らないように
 切れた糸が決して最初の状態のように繋がる事がないように
 始まってしまえば『結末』を知るまで――決して抜け出すことは出来ないのだ。

「こんな事‥‥してる場合じゃないのに〜っ」
 赤羽根は牢屋の格子を軽く蹴りながらぼやくように呟く。
「何で私はこんな所に居るんだろう‥‥」
 彼女が目を覚ましたのは数十分前、石の天井から滴り落ちる水の音、そして肌を掠める冷たい風によって意識が急浮上させられて現在に至る。
「クリスマスにはお母さんも遊びに来るし、バイトのシフトもある――勝手に休んでたらバイト、クビになっちゃうよ」
 考えるだけでも恐ろしい状況に「だから、こんな所でこんな事してる場合じゃないってば」と何とかして牢屋から抜け出そうと策を練る。
「鍵を確りしてるからって見張りはいないのね‥‥」
 赤羽根は暫く大きな声を出したりして様子を伺っていたが、看守のような人物が来る事はなかった。
 つまり、見張りどころかこの付近には誰もいないと考えてもいいのだろう。
(「油断は出来ないけど、だからって此処でジッとしてるわけにもいかないもの」)
 赤羽根は大きく息を吸い込むと『朱雀の力』を解放して、牢屋の格子を吹き飛ばす。鉄製の格子はがらんと大きな音を響かせたが、先ほどの赤羽根の声と同様に誰かが様子を見に来るわけでもなかった。
「このまま逃げさせてもらっちゃうからね」
 赤羽根は牢屋から出ると、気が遠くなりそうな程に続く階段を駆け上がっていく。そしてやがて暗かった場所に光が差し込むと――‥‥そこはモンスターの巣だった。
「この小娘、どうやって牢屋から!?」
「逃がしたとなれば黒崎様に何て言われるか‥‥」
「さっさと捕まえて牢屋にブチ込め!」
 様々なモンスターが口々に言い、そして赤羽根に襲い掛かる。
「ちょ、ちょっと‥‥私は家に帰りたいだけなんだから――近寄らないでってばっ!」
 赤羽根は朱雀の力を振るいながら襲ってくるモンスター達を次々になぎ倒していく。この世界に慣れたのか、それとも気が高ぶっているだけなのか、はたまた母親の事やバイトの事が気がかりなのか、理由は色々と考えられるけれど今の赤羽根にとっては都合がいい。
 その証拠に襲い掛かるモンスター達は誰一人として彼女に敵う者がおらず、冷たい床に突っ伏しているのだから。
「‥‥はぁ、はぁ‥‥もう出てこないわよね」
 大きなフロアから出口らしき方向へと赤羽根は駆けていく。
 しかし、城の中は何処も似たような作りになっていて簡単に抜け出す事は難しかった。
「あれ? さっき、此処は通ったから――あっちかな?」
 赤羽根が独り言を呟きながら曲がり角を曲がろうとした時、モンスターの姿が見えて彼女は慌てて近くの部屋に入って隠れる。
「そういえば黒崎様が捕えた娘が逃げ出したらしいぞ。早く捕まえろだとさ」
(「やだ、もう知れ渡ってるの? 流石に暴れすぎたのかな?」)
 城中に自分の脱獄が知れ渡っている事に、先ほどの暴れっぷりを少しだけ後悔した赤羽根だったが、あの場合はああしなければ自分がやられていたのだから仕方ないのだ。
「黒崎様も現在、あの小娘を探す為に城内を見回っているらしい、お前もさっさと探し出せ」
「はっ、分かりました」
 その言葉を最後に扉の前にいた気配は足音と共に消えて行った。
「ふー‥‥流石に今すぐに出て行けば捕まっちゃうかもしれないなぁ‥‥暫くはここで大人しくしてるかな」
 赤羽根はため息混じりに呟くと、そのまま近くにあった椅子に腰を下ろす。どうやら彼女がいる部屋は宝物庫のようで、悪趣味な宝石に飾られた剣や、気持ちの悪い置物などが所狭しと置かれていた。
「‥‥気持ち悪い、こんなのの何がいいのかな」
 目をぎょろりと剥いた石の置物を見て、大きなため息を吐きながら赤羽根は呟く。そして立ち上がり、扉に耳をつけて敵の気配がないかを確認する。
「‥‥よし、今なら誰もいないね。今のうちに出ちゃおう」
 赤羽根はそろりと扉を開けて、足音を立てないように歩き出す。そして左側へと走り出し出口を探し始める。
「ん、何となく出口っぽい?」
 どんどん広い場所に出て行く中、赤羽根が呟くと大広間のような場所に出て、その奥にある大きな扉――いかにも外に続いています、と言うような雰囲気の扉があり「外に出られる」と赤羽根は喜んで扉へと近づいた――――のだが。
「僕の断りなく出て行く事は許されない」
 剣の切っ先を赤羽根に向けて、短く、だけど有無を言わせない口調で話しかけてくる。
「‥‥私はここに望んでいるワケじゃないもの、勝手に出て行こうと勝手でしょ」
 赤羽根は言葉を返すと朱雀の力を解放して、攻撃態勢を取る。
「僕に敵わなかったのを意識を無くしたからって記憶まで無くしているわけじゃないだろ」
 威嚇するように「ひゅん」と風を切る鋭い音が赤羽根の耳に響く。
「だからって、大人しく牢屋に戻るほど素直じゃないのよね、私も!」
 赤羽根は大きな声で叫びながら攻撃を仕掛ける。
「それなら料理も与えよう、服も綺麗なものを与えよう、それなら満足か?」
 黒崎の問いに「私が帰るって言葉、キミは聞いていたのかな!」と攻撃を仕掛けながら言葉を返すと、黒崎はいきなり剣をガランと捨てて、赤羽根の髪を乱暴に引っ張り、顔を近づけさせる。
 そして――――強引に赤羽根の唇を奪った。
「んんぅっ!?」
 突然の事で赤羽根は顔を赤くするが、直ぐに自分の体の異変に気がつく。
(「‥‥朱雀の力が‥‥奪われてる‥‥?」)
 体の中から薄れていく朱雀の力に赤羽根は黒崎を強く睨みつける。
「なにを‥‥したの‥‥?」
 漸く離された唇を乱暴に拭いながら赤羽根が黒崎に問いかける。
「邪竜の力を流し込んで、朱雀の力を封じさせてもらったよ――本当は別に方法があったけど、それをさせてくれるほどあんたが大人しくしてくれるとも思わないからね」
 だから少し強硬手段に出た、黒崎は言葉を付け足しながら不敵に笑む。
「で‥‥も?」
 言葉と同時にガクンと膝が折れて、地面に倒れこむ。
「朱雀の力を奪われる程、一気に邪竜の力を流し込まれたんだ。意識がなくなるのは当然だろ」
 薄れいく意識の中、赤羽根は最後の力を振り絞って小さな火の鳥を作り出す。
「‥‥行って‥‥」
 赤羽根の言葉と同時に火の鳥は外へと飛んでいく。
「‥‥無駄な足掻きを‥‥まぁ、いい」
 黒崎は呟くと倒れている赤羽根を抱き上げて、城内の部屋へと歩き出す。
(「お願い‥‥誰かに、この事を伝えて――‥‥」)
 意識がなくなっていく赤羽根は、自分の最後の希望を弱々しく飛んでいく火の鳥へと託したのだった。

TO BE‥‥?


――出演者――

5251/赤羽根・灯/女性/16歳/女子高生&朱雀の巫女

―――――――

赤羽根・灯様>
こんにちは、シチュノベのご依頼ありがとうございました!
前作の続きと言う事で執筆させていただきましたが
内容の方はいかがだったでしょうか?
ご満足いく物に仕上がっていれば幸いです。

それでは、また機会がありましたらご用命くださいませ。
今回は書かせていただき、ありがとうございました

2009/2/18