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<東京怪談・PCゲームノベル>


 ときめきフラグ

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 いや。特に意味はないんだ。
 ただ、ちょっと気になっただけっていうかね。
 そういえば、聞いたことなかったなぁって思って。
 何だかんだで長く一緒にいるのに、知らないなぁって思って。
 別にね、聞いて何かを仕掛けるとか、そういうことじゃないよ。
 純粋に気になっただけ。ちょっとだけね。
 あらら、何、その目。疑ってる?
 大丈夫だって。何もしないよ。
 だから、教えて?

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(…………)
 向けられる疑惑の眼差し。ヒヨリは、肩を竦めて笑う。
「だから、何もしないってば」
「…………」
 普段の行いからして、何もしないはずがない。
 何か企んでいるに違いない。ヒヨリは、そういう男だ。
 とは理解っていても、こうして二人きりになってしまっては逃げられない。
 書類整理を手伝ってくれと言われたから部屋に来たのだけれど、来て早々に気付いた。
 整理すべき書類なんて、なかったのだ。もう既に、キッチリと片付けられていて。
 要するに、この時点でいつもの悪戯。ただ単に、クレタとお話したいだけ。
 こういう些細な悪戯は、いつものこと。引っかかるのも、いつものこと。
 クレタは、微かに微笑みながら、ソファに腰を下ろして目を伏せた。
「信用してくれた?」
「……ううん。……諦めた」
「あっははっ! それでもいいや。はい、教えて?」
「……うーん、と……ね」
 ヒヨリに尋ねられた事柄。
 それは、どんな時、どんな仕草にドキッとするか。
 異性でも同性でも、お構いなしにドキッとさせられるようなこと。
 目を伏せたまま、クレタは思い返す。考えるのではなく、思い返す。
(……そういうの訊かれると、微妙に恥ずかしいんだけどな)
 ふっと、一番先に頭に浮かんだのはね……爪を彩る、その仕草。
 ネイルアートだとか、その類。指先に神経を集中して、爪を彩る、その仕草。
 何となくね……その所作が、色っぽく思えるんだ。
 普段から僕って、手指に目がいってしまうところがあってね……。
 細くて綺麗な指を見てると、それだけでドキドキするんだ。
 だから、彩られた爪はね……もう、反則に近いよ。
 まぁ……彩っている人は、そんな気、全然ないんだろうけど、ね……。
「ふ〜ん。なるほど。手フェチなのかな。あ、指フェチか。あれ? 爪フェチか?」
「……ふぇちって何」
「好きってことだよ。簡単に言えばね」
「……そうなんだ。うん、綺麗な手は……好きだよ」
「逆にさ、自分がやられる立場ってのは、どうなの?」
「爪を……?」
「そうそう」
「……それはそれで。……。……うん」
「ふ〜ん。なるほどね〜。他には?」
「……他? ……他には、そうだな……えぇと……」
 書類整理もそうなんだけど、デスクワークっていうのかな……そういうの全般。
 その仕草ってわけじゃなくてね、作業してるときに、さりげなく零れる溜息に、何となく……胸が苦しくなる。
 面倒くさいなぁって雰囲気じゃなくてね、もう少し頑張ろうって、そういう前向きな溜息。
 はぁ、じゃなくて……ふぅ、って感じの、あれ。
 一生懸命だなって思うからこそ、心がくすぐられるんだ。
 手伝えることある? 何か、差し入れしようか? って……声を掛けたくなる。
 っていうか、いつも掛けちゃう。お節介かもしれないけど、ジッとしていられなくなるんだ。
 あとね、言葉を聞き返して首を傾げる仕草も……好き。
 微笑なんかを浮かべながら「ん?」って首を傾げられると……もう。
 覗き込まれることも、照れ臭いし、ね……。
「……そのくらい、かな」
「なるほど、なるほど」
「……何やってるの? それ……」
「うん? あぁ、参考にメモをね」
「……ふぅん。……。……あ、そろそろお昼だね」
「あぁ、そうだな。お昼のメニューは何?」
「……まだ、決めてない」
「そっか。楽しみにしてるよ」
「うん……。じゃあ、僕、行くね」
「あいよ」
 立ち上がり、パタパタと部屋を出てキッチンへと向かって行くクレタ。
 その背中を見送って、すぐさまヒヨリは携帯を引き寄せた。
 口元には、淡い笑み。悪戯な笑みが、確かに浮かんでいた。


 先月末から実装された "料理当番" の制度。
 毎日毎回、ナナセやハルカに任せっきりにするのは良くない、
 みんなで協力して交替で担当していこうとクレタが提案したことで実装された。
 面倒臭がる者もいるが、何だかんだで当番制度は定着しつつある。
 当番は、三人一組。その日、一日の食事(朝・昼・晩)を全て担当する。
 今日の当番は、クレタ、斉賀、Jの三名。
 朝は、コーンスープとバケットを用意した。
 とはいえ、スープの仕込みも、バケットの切り分けも、全部クレタが一人でやった。
 斉賀とJがしたことといえば、味見だけだ。
 元々、この二人は料理が出来ない。まったく出来ない。
 手伝ってみようとはするものの、何をどうすれば良いのか理解らず、
 結局、ボーッとクレタを観察することしか出来ずにいる。いつもそうだ。
 その為、昼食の支度でも……。
「…………」
「…………」
 これだ。斉賀とJは、棒立ち状態。
 クレタだけが、テキパキと動いて調理を進めている。
 二人がしていることといえば、調味料を取って渡したり、皿を用意するぐらい。
 斉賀とJが、料理を苦手としていることは把握済み。
 だからこそ、クレタは動く。文句なんて言わない。
 二人が、少しでも料理に興味を持ってくれれば、それで良いと思っている。
 出来るようになれば、それが一番良いのだけれど。それはまぁ、追々。
 そんな思いを胸に、今日もクレタは、一生懸命料理した。
 作ったのは、カルボナーラ。
 簡単なサラダも添えて……目にも楽しい鮮やかな昼食が完成。

「料理の腕、どんどん上がっていくな」
「ふふ。良いオヨメさんになるね」
 昼食の時間まで、あと10分。
 仲間達が揃うまでの間、三人はソファに並んで座り談笑。
 今日も今日とてロクな手伝いが出来なかったことに引け目を感じているのか、
 斉賀とJは、微笑みながらクレタを褒めた。ヨイショってやつだ。
 二人に挟まれるようにして座るクレタは、照れ臭そうに笑う。
「……結構、簡単なんだよ。二人にも……。……あれっ」
 言い掛けて。その途中で、クレタの視線が釘付けになった。
 見やっているのは、指。もっと厳密に言えば、爪。
 斉賀とJの爪が、黒く彩られているではないか。
 Jの爪に関しては、何の違和感も無い。
 彼は、常日頃から自身の爪を飾って遊んでいる。
 妙なのは、斉賀だ。彼が爪を飾るだなんて……。
「……珍しいね、斉賀」
 ポツリと言ったクレタ。
 すると斉賀は、少し首を傾げた。
「何が?」
「……爪が」
「あぁ。さっき、やられたんだ。Jに」
「……ふぅん」
 言いながら、チラリとJを見やったクレタ。
 その眼差しに、Jは小首を傾げてクスクス笑うと、
 懐から小瓶を取り出して、それをクレタに見せながら言った。
「U-STの新色。ちょっと爪を拝借して試させてもらったんだ。綺麗でしょ?」
「……。……うん」
「クレタにも塗ってあげる。手、貸してごらん」
「……え? う、うん……」
 料理当番なのに、調理前に爪を飾るなんて非常識じゃないか。
 なんて、偉そうなことは言わない。というか、言えないし、言うつもりもない。
 クレタの視線は、真っ直ぐに。Jに彩られる、爪に釘付け。
 みるみる艶やかに黒く染められていく、爪に釘付け。


 ときめくか否か。
 結局それも、相手次第。
 気になる人や好きな人以外が、例え同じ所作をしても何とも思わない。
 ごく普通の、単なる日常の動きとして捉え、気にも留めない、留まらない。
 自分の気持ちに気付く、その材料としては使えるかもしれない。
 他の人がしても何とも思わないのに、あの人がすると何故か……そんな具合に。
「ぷくく……。斉賀、すっかり邪魔者みたくなってるなぁ」
 僅かに開いた扉の隙間からLDスペースを覗き込んで笑っているヒヨリ。
 そんなヒヨリの背中を叩いたナナセ。
「何やってるの。さっさと入りなさいよ」
 ナナセの後ろにも、お腹を空かせた仲間達がズラリ。
 ヒヨリはクスクス笑いながら、少し遠慮がちに扉を開けた。
 ゾロゾロとLDスペースに入り、それぞれの席へと速やかに着席する仲間達。
 用意された美味しそうな昼食に、仲間達は目をキラキラと輝かせた。
 クレタも少し慌ててソファから立ち上がり、自分の席へと移動する。
 ほんのりと耳が赤いクレタ。その指先に目を留め、ナナセは言った。
「あら。クレタくん、それ綺麗ね」
「……。……うん」
 そうして嬉しそうに微笑むクレタの後ろ、
 ソファには、ガックリしている様子の斉賀と、満足そうなJ。
 二人の背中をポンと励ますように叩き、ヒヨリは小声で言った。
「もうひとつ。溜息ってのもあるらしいんだけど。試してみない?」
 その言葉に、斉賀とJは、当然の如く真逆の反応を返す。
「ふふ。いいよ? 俺はね」
「……何の罰ゲームだよ、これ」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7707 / 宵待・クレタ / 16歳 / 無職
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / ナナセ / 17歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / 斉賀・尚 / 16歳 / 時守 -トキモリ-
 NPC / J(ジェイ) / ??歳 / 時狩 -トキガリ-

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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