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<東京怪談・PCゲームノベル>


スタッカートと口封じ

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 深夜0時を過ぎた瞬間。HALの本質は、明らかになる。
 真夜中でも、校内は大賑わい。生徒たちは『ハンター』へと肩書きを変え、
 美味しい仕事はないかと、目をギラギラさせながら獲物を捜し求める。
 入学・在籍して2日目の夜。いよいよ、自分もハンターとして本格的に活動。
 自分の意思で、というよりは、学校の方針というか雰囲気に流された感じだけれど。
(スタッカート、ね……)
 中庭にあるボードに貼られたフライヤーを一枚、手に取って見やる。
 ハンターとして、捕獲・討伐せねばならぬ存在、スタッカート。
 イラストを見る限り、妖怪というよりは……魔物?
 絵本や神話で『害』として登場する悪魔のような風貌だ。
 どうして、こんなものが出現するのか。いつから出現したのか。
 わからないことは、山ほどある。てんこもりだ。
 教員に尋ねてもみたけれど、曖昧な返答しか返ってこない。
 遠回しに『自分で理解しろ』と言っているような感じだった。
 まぁ、何せよ、動かなければ何も始まらない……か。
 何事もそうだ。ただジッと動かず待っていても、何も起こらない。
 知りたいことがあるのなら、未来を変えたいと思うのなら、先ず動かねば。
 うん、と頷き、中庭を後にする。手には、剥がしたフライヤー。
 スタッカート討伐。やってみようじゃありませんか。初陣、いきますよ。

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 STACC.HUNT // NOID−BR00383
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 スタッカートレベル:C / 出現確認:赤坂サカス付近
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 報酬:30000 / ソロ遂行・グループ遂行 両可
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 ハント活動が可能となる、深夜0時。
 風冷たし初春の宵、慎は初ハントへと赴いた。
 とりあえずの順序やルールは把握している。
 昼間の授業で、先生が理解りやすく教授してくれた。
 まぁ、やり方は覚えれど、真意は定かになっていない。
 どうして、この学校が率先して魔物の討伐にあたっているのか、その辺りは不明のままだ。
 スタッカートに関しての噂は、HAL入学前にも、あちこちで耳にしていた。
 猫のような姿形をしているらしいだとか、人語を理解するらしいだとか、
 誰かが操っているんじゃないかだとか……耳にした噂の数は数え切れないほど。
 けれど、所詮は噂。そんなわけあるかい、とツッこみたくなるような噂も多い。
 実際に、この目で見て確かめないことには、真相は明らかに出来ない。
 噂を鵜呑みにするなんて、何だかミーハーでカッコ悪い気がするし。
 こうして、実際に自分の目で確認できるだなんて嬉しい限りだ。
 これだけでも、入学した意味があるとさえ思える。
 いついかなる時も飄々と、微笑みこそ浮かべるものの、
 慎は、何事にも動じず、あっさりと何でもこなしてしまう。
 いや、こなせてしまうというべきか。
 その為、努力とは無縁の天才肌なのだと思われがち。
 まぁ、そう言っても過言ではないのだけれど。
 実際は少し違う。
 初ハントとなる今宵に備え、事前にあれこれ情報を収集していた。
 クラスメートや先生に躊躇うことなく質問し、疑問点を削いでいく。
 いきあたりばったりで、その場のノリで行動するわけじゃなく、
 こうして情報を得て、順序良く進めている。それが、慎の実態、スタイルだ。
 周りに悟らせない辺り、カゲの努力とでも言おうか。
 本人に努力しているという感覚はなく、
 いかに効率良く楽しむか、それが筆頭になっているようだけれども。

 今宵は満月。

 真夜中、ビルの屋上で空を見上げて微笑む慎。
 目は既に、不気味なシルエットを捉えている。
 月灯りを逆光に浴び、背負いながらこちらへ向かってくる魔物。
 その姿は、ゲームや漫画に出てくる "ドラキュラ" 一般的なその姿に酷似していた。
 なるほど。あれがスタッカートか。確かに、気持ち悪いなぁ。
 でもまぁ、イイ男と言えなくもないような。それなりのルックスかも。
 ただ、鳴き声がねぇ、猛獣みたいなのがいただけないよね。台無しだよ。
 人語を理解するだとか、そういう噂もあったけど……所詮は噂だね。
 まぁ、会話が成立したところで説得したりだとか、そういうことをする気はナイんだけど。
 共演者がイマイチなのは残念なところだけれど、まぁ、主演の引き立て役には最適かな?
 満月の灯りをスポットライトに、深夜のステージで。
 まあまあ、良い舞台になるんじゃない?
 微笑み、慎はジャケットのポケットから片手を出した。
「う〜ん……。スタイリストに相談するべきだったなぁ」
 そう言ってクスクス笑いながら、
 慎は、ジャケットの首元を彩っている白いファーを掴む。
 お気に入りのジャケットを着てきてしまったことに対する後悔。
 初舞台ということで、少し気合を入れすぎてしまったかな?
 肩を竦めて笑いながら、慎は、ファーの毛をいくつか毟り取った。
 そして、毟ったそれらにフッと息を吹きかけ、辺りにバラ撒く。
 ふわりふわりと舞い、白い毛が地面に落ちる。
 その全てが地が着く頃、スタッカートは目前に。
 バラ巻かれた白い毛、吹きかけた息は、結界性質の付加。
 慎を囲むようにして範囲取られた、不可視の結界。
 部外者がその空間に触れた瞬間、結界は発動し眩い光を放つ。
 バチッ―
 電気が走るような音が響き、スタッカートが吹っ飛ぶ。
 何が起きたのか把握できていないのだろう。
 スタッカートは空に浮かんだまま、不愉快そうに首を傾げた。
 そんなスタッカートを見上げ、慎は溜息を吐き落とす。
「ん〜……」
 ありがちっていうか何ていうか。
 最近多い、顔だけイケてるタレント……略して "だけタレ"
 きみも、そのタイプっぽいね〜。馬鹿っぽいもん、その表情。
 駄目なんだよ? 顔だけ良くてもさ。わかる? わかんないよね〜。
 わかんないのが "だけタレ" なんだもん。ね?
 クスッと笑い、またファーの毛を掴んで毟る慎。
 吹き飛ばす白い毛。次に付加するのは "縫い付け" の性質。
 ピタリと身体に張り付いた毛は、まるで強靭な糸。
 這い蹲る虫のように、ベタッと地に縫い付けられたスタッカート。
 不気味な声で鳴けども、ジタバタ足掻こうとも、逃れられやしない。
 蜘蛛の糸に絡め取られた獲物のように、不憫な姿。
「ん〜。何か、土下座させてるみたいだね。これ」
 笑いながらスタッカートを見下ろした慎。
 勘違いしないで。俺に、そういう趣味はないから。
 不憫だなって思ってるよ。その格好……醜いもん。
 俺だったら堪えられないなぁ、そんな格好。
 きみもね、嫌だと思うから。さっさと終わらせてあげるね。
 見ていられないし。可哀相すぎて。本当、ごめんね?
「ばいばい」
 ニコッと笑い、慎は、左手でスタッカートの頭を撫でた。
 その瞬間、発動する闇のスキル。
 掌から放たれた黒い煙が、スタッカートを包み込んでいく。
 遥か彼方へ。闇の世界へ、いってらっしゃい。
 きっと、幸せになれるよ。
 きみを受け入れてくれる、唯一の世界だと思うから。
 感謝してよね。なんて。えへっ。

 *
 *

 初ハントを難なく終え、フゥと息を吐き落とした慎。
 少々、物足りないような気もする。まぁ、ハントでの欲張りは厳禁なんだけれど。
 討伐を終えた証となる、スタッカートが残していった爪を拾い上げる。
 後は、これを学校に持ち帰って報告して、それから報酬を受け取って……。
 頭の中でルールを思い返していた慎。そこへ、突き刺さるような視線。
「ん?」
 警戒することなく振り返ったのは、身構える必要がなかったから。
 背中に刺さっていた視線に、悪意の類は微塵も感じられなかったから。
「あれっ……? あなたは確か……」
 キョトンとしたまま首を傾げた慎。
 振り返った先にいたのは、HALに在籍している保健医、Jだった。
 どうしてこんなところにいるんですか、
 あ、もしかして、俺のこと心配して様子を見に来てくれたとか?
 そうだったら嬉しいですっ。けど、問題なく討伐は終わりましたよ。
 ニコニコと微笑みながら言った慎。
 Jは、そんな慎に、ゆっくりと歩み寄った。
 そして、何やら妖しげな笑みを浮かべると、
 少しだけ身を屈めて、慎の右頬に、そっと手をあてた。
 ひんやりとした、氷のような感触。嫌な感じはしない。寧ろ、心地良いような気もした。
 うん? と首を傾げている慎へ、Jは小さな声で耳打つ。
「お疲れ様。……ねぇ。俺が、ここにいたことは秘密にしてね」
「ん? どうしてですか?」
「……内緒」
 クスクス笑うだけのJ。
 普段から、この調子で読めない男。
 Jに関しての噂も、またあれこれ飛び交っているけれど。
 慎の、Jに対する印象は悪くない。寧ろ、興味をそそるというか。
 男女問わず、ミステリアスな人というのは魅力的な存在として映る。慎には。
「わかりました。二人だけの秘密、ですね」
 楽しそうに笑いながら言った慎。
 二人は、一緒に学校へと戻って行く。
 揃って校門をくぐるのはマズイから、と時間差での帰還を提案したJ。
 慎は疑問を抱くことなく、素直にその提案に乗った。
 じゃあ、先に戻りますねと告げ、ペコリと頭を下げた慎。
 一歩踏み出す、その瞬間、Jは慎の腕を掴んで引き寄せた。
 驚く暇もないくらい、一瞬の出来事。
 刹那の口付け。
 慎は目を丸くしキョトンとしたが、すぐに笑う。
「これが噂のセクハラ? 保健室の先生」
「……ふふ。さぁ、どうかな」
「あははっ。じゃあ、お先に失礼しまーす」
「お疲れさま。……またね」

 気付いていないかもしれないけれど。
 キミには、二面性がある。
 無邪気に振舞う表の顔と、あれこれ企てて動く裏の顔。
 最終的に、キミは、そのどちらに転ぶかな。
 まぁ、どちらに転んでも構わない。俺はね。
 時に生意気で、時に従順で。そんなサンプルも面白いんじゃないか?
 って、俺は思うんだけど。……キミは、どう思う?
 軽やかな足取りで戻っていく慎の背中を見つめ、
 微笑みながら、Jはメールを送信した。
 送信先は、不明―

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 6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント
 NPC / J / ??歳 / HAL:保健医

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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