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<東京怪談・PCゲームノベル>


見えない手

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「……!」
「うぉっ。何だ。どうした?」
「あ。いえ、何でもないです」
 嘘だ。何でもないだなんて、そんなの嘘。
 ガタンと突然席を立っておいて、何でもないだなんて。
 でも、何でもないって言うしかない。そうすることしか出来ない。
 見えないんだから。

 一体、何なんだろう。この感覚。
 この妙な感覚は、今朝から。起きた瞬間から。
 頬を、首を、耳を、腰を、背中を。
 誰かに触られているような感覚。
 気のせいなのかと思っていたんだけれど……。
 どんどん、あからさまになってきているような気がする。
 始めの内は、そっと……探るような感じだったのに。
 今は、隠そうとせずに、躊躇なく触れてくる。
 気持ち悪い、この感覚。
 見えない手。
 誰……?
 触れてくるのは……。

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 彼女は、触れられることを嫌う。
 中には特例として、触れられても嫌悪感を抱かせぬ人物もいるけれど。
 特例を除き、他は全てアウト。嫌悪感から吐き気までをも覚える。
 エリーは、イライラしていた。
 誰の目から見ても、それは明らかだ。
 笑顔こそ絶やさぬものの、不愉快は露わになっている。
 目だ。目を見れば一目瞭然。
 今朝から、エリーの片目、薄紫色の片目が忙しなくチカチカと銀色に点滅している。
 放っておけば、飽きるだろうかと思っていたのだけれど、そうでもないようだ。
 見えぬ誰ぞの手は、執拗に触れてくる。
 頭、耳、背中、胸、腹、太股……。
 その触れ具合は、明らかにエスカレートしている。
 我慢の限界。いつかは飽きるとしても、それまで待っていられない。
「…………」
 無言のまま、再びソファに腰を下ろしてエリーは目を伏せた。
 意識を集中して探る。見えぬ誰ぞの手を捕まえんと。
 その姿を見やり、ヒヨリも口を噤んだ。
 異様なまでの迫力に気圧されたというのが正しい。

 あなたが誰なのか。
 そんなことは、どうでも良いんです。
 興味もないですし、知る必要もないですし。
 ただ、怒りのやり場に困り果てているだけなんですよ。
 このまま放置すれば、我慢できなくなって爆発してしまう。
 そうなっては手遅れ。仲間に迷惑をかけてしまいかねませんから。
 今更、人を傷付けたくないだなんて言える立場じゃないのは承知していますけど。
 それでも、大切に思うんですよ。いま、この環境を、そのすべてを。
 あぁ、もしかして、それが狙いなのでしょうか?
 私を使って、破壊しようと目論んでいるのでしょうか。
 それならば、なおさら不愉快なのですけれど。
 どうなんですか? そこだけでも答えて頂けませんでしょうか。
 意識の中、見えぬ手の持ち主に問い掛けたエリー。
 その質問に返ってきた答えは、笑いだった。
 クスクスと、はぐらかすような、誤魔化すような曖昧な微笑み。
 どこからか聞こえてくる笑い声に、エリーはクスリと笑い返す。
 馬鹿な質問をしたと、自分に対する呆れの笑み。
 意識の中、エリーは身構えた。
 ふわふわと、蝶のように漂う白い手を見据えて。
 低脳な質問をしてしまいました。悔いています。
 どうやら、怒りの所為で興奮しているようで。
 無意味ですね。あなたと会話をしようだなんて無理な話。
 何を訊いても応えはせぬのでしょう。
 それならば、私に出来ることは、ひとつだけ。
 それを実行するには、あなたが必要なんです。
 目の前にいてくれねば、触れることが出来ねば、その実行は叶いません。
 だから、姿を見せてもらいます。
 逃げるんですか?
 無駄ですよ。
 あなたを捕まえるなんて、容易いことですから。
 失礼します。
 クスリと笑い、意識の中で腕を伸ばしたエリー。
 伸ばした腕の先、左手で犯人の手首を掴む。
 まだ、姿は見えない。けれど、犯人はジタバタと暴れた。
 その最中、犯人の手が、エリーの首に触れる。
 エリーは躊躇うことなく、掴んだ手首をグッと引き寄せた。
 意識の外へ、犯人を引きずり出した。

 ドサッ―

『っちょ……。痛ぁっ』
 ようやく姿を見せた犯人。
 エリーは、ゆっくりと目を開けながら言った。
「往生際が悪いですね」
 エリーの瞳は、完全に銀色へと変色していた。
 それを確認したヒヨリは、沈黙したまま事態を見守る。
 捕まえて引き摺り出した犯人の顔を拝んでやろうと身を屈めたエリー。
 次の瞬間、エリーはキョトンと目を丸くする。
「……どういうことでしょう」
 首を傾げながらヒヨリに尋ねたエリー。
 ヒヨリは苦笑しながら返す。
「さぁ……。俺にもわからないなぁ」
「いつもの悪戯……ではなさそうですね」
「うん。違う。これは、クオリティ高すぎて無理だよ。さすがに」
「…………」
 エリーとヒヨリが驚いている、その理由は犯人の姿形だ。
 どういうわけか、犯人はヒヨリにそっくり。
 体系も服装も雰囲気も同じ。
 唯一異なるところといえば、声。
 ノイズの混じった妙な声だけが異なる。
 最近、クロノクロイツに部外者が出入りする問題が発生している。
 おそらく、これもそのひとつ。侵入者が仕掛けている悪戯だろう。
 何故にここまでそっくりなのか、どうやって意識内にまで侵入したのか。
 疑問はいくつもある。示唆すべきポイントも、いくつかある。
 けれど、そんなことはどうでもいい。
 とりあえず、怒りを治めたい。
 チラリとヒヨリを見やったエリー。
 その視線に、ヒヨリは肩を竦めて頷いた。許可の合図だ。
 ありがとうございますと御礼を述べるように微笑み、エリーは掴んだ。
 引き摺り出されて困惑している犯人の肩をグッと掴んだ。
 ほんの数分前のことですけれど。覚えていますか?
 どこに触れたか覚えていますか?
 そう、首です。あなたは、私の首に触れた。
 ワザとじゃないだなんて、そんな言い訳は通用しないんです。
 触れた。それは紛れもなき事実ですから。……というわけで。
「フルボッコ決定だ、この野郎。……ですよ」
 慌てて丁寧な言葉で隠そうとしたものの、無理があった。
 エリーはクスクス笑いながら全身から黒いオーラを放ち、
 犯人の首根っこをガッと掴み、立ち上がらせて言った。
「大丈夫。3分の2くらいで勘弁してやるよ♪」
 もはや、その口調に丁寧さは皆無だ。
『ちょっと待った! あれはワザとじゃ―』
 苦笑を浮かべながら言い訳しようとした犯人。
 だが聞く耳持たずで。エリーは躊躇うことなく発散した。
 楽しそうに笑いながら、無抵抗な犯人へ制裁を。
 まだまだ。もっと。まだまだ足りないぜ。
 おい、まだヘバんなよ。ここからが本番なんだから。

 *

「……調査したほうが良さそうですね、色々と」
 ポツリと呟いたエリー。
 ヒヨリは苦笑を浮かべつつ、机に頬杖をついて頷いた。
 エリーの足元には、ボロボロの犯人。
 どうやら、バーチャルダミーのようだ。
 どこからか、誰かが遠隔操作で操っていたらしい。
 確かに、調査せねばなぁとは思わされた。
 こんなものを作れるくらいだ。真犯人……侵入者のスキルは、かなりのもの。
 なるべく早く調べ上げて対処せねば、後々面倒なことになりそうだ。
 もちろん、するよ。調査はするよ。しないわけにはいかないから。するけどさ……。
「ボッコボコだなぁ……。一応、イイ男なのに。台無し」
 自分にそっくりなバーチャルダミーを見やって、苦笑しながら言ったヒヨリ。
 エリーは、申し訳なさそうに俯いた。
「すみません。彼等が出てしまうと、どうにも抑制が……」
「いや、うん。いいよ。気に……しなくていいよ」
 そうは言うものの、ショックを隠しきれていないヒヨリ。
 何だか切ない気持ちになると同時に、ヒヨリは肝に銘じた。
 今、この瞬間から、エリーへの悪戯は自重しよう。と。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7849 / エリー・ナイトメア / 15歳 / 何でも屋、情報屋「幻龍」
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / 時守 -トキモリ-

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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