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<東京怪談・PCゲームノベル>


カラートリック

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「あぁ、ごめんね。急に呼び出したりして」
「いえ。構いませんけれど。用事っていうのは……?」
「ちょっとした実験に付き合って貰おうと思ってね」
「実験ですか……」
「うん。じゃあ、選んで。この中から、好きな色を」
「…………」
 テーブルに並べられた小瓶。
 中に入っている液体が異なる、三本の小瓶。
 この中からひとつを選んでくれと、J先生は言う。
 いや、別に構わないのだけれど。選ぶくらい。
 でも何だろう。その目を見ていると……嫌な予感がする。
 首を傾げて含み笑いする、その姿。う〜ん……嫌な予感。
 選ぶだけで終わり……ってことは、ないんだろうなぁ。

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「じゃあ、これを……」
 千早が示したのは、真ん中に置かれた青い小瓶。
 Jは、微笑み頷きながら、その小瓶を手に取った。
 念の為、保健室に行ってくるからとクラスメートには告げておいた。
 すぐ戻るとも付け加えておいた。迎えに来てくれだなんて、
 そんな直接的な御願いは出来ない。性格上。
 だから告げただけ。念の為、告げただけ。
 遅くなるようであれば、様子を見に来てくれないか。
 こっそりと、そんな願いを込めて告げてみた。
 小瓶の蓋を開けながら、Jは千早に尋ねる。
「どうして青を選んだの?」
「……特に理由は。何となくです」
「ふふ。本当に?」
「? どういうことですか」
「本当に、何となくなのかな?」
「…………」
「ごめんごめん。そんな怖い顔しないで」
「……あぁ、いえ、すみません」
「本当は理解ってるくせに。どうして、この色を選んだのか」
「……はい?」
 キョトンとしながら顔を上げた時だった。
 バシャッ―
「っ……」
 呆ける千早の顔に、青い液体をブッかけたJ。
 突然の出来事に戸惑い、千早はゴシゴシと目を擦る。
 何するんですか、と文句を言う間もなく。遠のいていく意識。
 ドサッとベッドに倒れ込んでしまう千早。無意識に閉じていく目。
 幕が下りる、その僅かな隙間、千早は聞いた。
 氷のように冷たい声を。温度のない、無機質な言葉を。
「理解ってるくせに」

 *
 *
 *

 あなたは、花のような人だ。
 愛情を注げば注ぐほど、それに応えてくれる。
 愛情を注げば注ぐほど、綺麗に微笑んでくれる。
 いつからでしょうか。その笑顔を独占したいと思ったのは。
 あなたの、その笑顔を。自分だけのものにしたいと思ったのは。
「どうしたの、千早。今日は甘えん坊なのね?」
 クスクス笑いながら、僕の頭を撫でる。
 拒むことはしない。あなたはいつも、僕を受け入れてくれる。
 ありのままの僕を、僕という存在を受け入れてくれる。
 あなたの、その手。その温度。どうして、こんなにも心地良いのか。
 もっと触れて。もっと撫でて。口にはしなくとも、伝わりますか?
「千早。私のこと、好き?」
 何を今更。訊かねば理解らぬことですか?
 それとも、声にして告げてもらいたい……乙女心というやつですか?
 構いませんよ。何度でも、何度でも応えましょう。あなたの望む言葉を。
 愛していますよ。誰よりも、何よりも、大切だと心から思っています。
 あなたがいなくては、僕はもう……僕でいられる自信がない。
 僕にとって、あなたは、なくてはならぬ存在なんですよ。
 いつから? そんなの……もう、忘れました。
 生まれる前から、ひとりの存在としてあることを許された、その瞬間から。
 あなたに出会うことは、決まっていたのではないかと思います。
 いえ、寧ろ……。あなたに会う為、僕は生まれたのでは。
「ふふ。そうかもしれないわね」
 笑わないで下さい。本気なんですよ。少し照れ臭いですけど。
 笑わないで下さい。本気なんですよ。はぐらかさないで受け入れて下さい。
 いつしか僕は、あなたに生かされている。
 不安になるんです。あなたが傍にいないと。
 こうして触れていないと、怖くてたまらなくなるんです。
 消えてしまうんじゃないかって。自分の存在が、ひどく曖昧に思えて。
 だから、御願いです。これからもずっと、触れていて下さい。
 僕の頬に、僕の髪に、僕の手に、僕の体に、触れていて下さい。
 不安にならぬよう、怯えることのないよう、ずっと、ずっと。
「どうしたの。今日は、たくさん喋るのね?」
 ……そうですね。自分でも驚いています。
 こんなにも、僕の口は達者だっただろうかと。
 でもね、決めていたんです。
 今日、あなたに全てを告げようと。
 心の中にある想いを、全て告げようと決めていたんです。
 どうしてか理解りますか?
 ……堪えられなくなったんです。
 もう、僕は自分を抑えることが出来ない。
 あなたを愛しいと想う、この気持ちを抑えることが出来ない。
 母子以上に歳の離れた……不思議な関係。
 あなたは大人で、僕は子供。いつまでも、いつまでも。
 その変わらぬ事実がもどかしくて、悔しくて仕方ないんです。

 あなたのすべてが欲しい。

 子供の我侭だなんて、そんなこと言わないで下さい。
 僕は本気です。心から、あなたを求めてる。あなたの全てを求めてる。
 理解っていましたよ。あなたが笑うであろうことは。
 何言ってるのって、ちょっと呆れて笑うであろうことは。
 そう、理解っていたんです。僕は、理解っていた。
 あなたが僕に寄せる想いは、愛ではないのだと。
 あなたは、僕を愛してくれない。
 どう足掻いても、愛する一人の男、その対象にはならない。
 歳が離れているからですか? 僕が、曖昧な存在だからですか?
 いいや、いいんです。そんなことは、どうでもいい。
 我侭だと呆れられても、愛想を尽かされても構わない。
 僕は、もう、自分を抑えられない。
 あなたが欲しいんです。あなたの、すべてが。
「千早? どうしたの?」
 僕の手。この右手に宿る能力。お話しましたよね?
 覚えていますか? 出会って間もない頃に、お話したんです。
 この手で触れれば、その対象が持つ能力は僕のものになる。
 吸収するんです。吸収して、自分のものにしてしまう。
 強く念じれば、どんなものでも。吸収できてしまうんですよ。
「千早……。ちょっと待って、あなた……」
 恥じることなく全てを打ち明けた、その理由……ようやく理解りましたか?
 そんな顔しないで下さい。あなたの怯えた顔なんて、見たくないんです。
 僕が見たいのは、花のような……美しい笑顔。
 笑って下さい。いつものように。笑って下さい、愛しい人よ。
「や、やめて。千早っ」
 止めません。止められないんですよ。もう、逃がさない。
 言ったでしょう? 僕は、あなたを愛してる。
 でも、あなたは、僕を愛してくれない。
 だから奪うんです。あなたの全てを、この右手で。
 他の誰かのものになってしまう前に、この右手で。
 声も、仕草も。……呼吸も。何もかも。
「千早、やめっ―」
 愛しています。
 あなたを、愛しています。
 今までも、これかもずっと、愛しています。
 僕の中で、あなたは生きる。一緒に脈を打って……。
 ずっと一緒です。ずっと、ずっと一緒ですよ。永遠に。
 あなたの笑顔に、花のような笑顔に。
 僕は……母親という存在を重ねていたのかもしれませんね。
 おやすみなさい、愛しい人よ。
 ようこそ、愛しい人よ。
 あなたと永遠に。幸せに思います。この上なく。
 愛しています。
 あなたを、愛しています。

 *
 *
 *

「…………」
 ふっと目を開けば、鼻をくすぐる消毒液の香り。
 目を覚ました千早に手を差し伸べて、Jは言った。
「おかえり」
 その手を取り、千早は、ゆっくりと身体を起こす。
 夢を見ていたのか。いつの間に眠ってしまったのか。
 思い出せない。どうして、保健室にいるのかも理解らない。
 ズキズキと後頭部を走る痛みに千早は眉を寄せた。
 そこへ、クラスメートが迎えに来る。
 大丈夫か? 立てるか? 心配そうに顔を覗き込むクラスメート。
 千早は微笑み、大丈夫だよと返しながらクラスメートの傍へ。
 遠ざかっていく千早の背中に向けて、Jは言った。
「おだいじに」
 保健室を出て教室へと戻る。その最中。
 クラスメートは、千早の前髪を指差しながら言った。
 何か青いの付いてるけど……それ、何? と。
 その言葉を耳にしたJは、煙草に火をつけながら、一人クスクス笑う。
「あぁ、しまった。拭き残し。……くくっ」

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7888 / 桂・千早 / 11歳 / 何でも屋
 NPC / J / ??歳 / HAL:保健医

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 捏造しまくりで…思いっきり遊ばせて頂きました。
 奪う右手、という設定に心を惹かれ、その辺りで弄くり回しました。
 気に入って頂けましたら幸いです(∀`*ゞ)
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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