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<東京怪談・PCゲームノベル>


ハーモナイズ

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 異なる二つの属性が混ざり合う。
 その成功例は、極端に少ない。
 互いの魔力が同じくらいでないとならぬのに加えて、
 互いのことを誰よりも理解している必要がある。
 とはいえ、親子や兄弟ですら成功するのは稀だ。
 重要なのは、シンクロできる存在か否か。
 非常に難しく、これまでに成功した生徒は一組のみ。
 その変わらぬ事実に、教員たちは焦りを覚え始めていた。
 このままではマズイ。
 必要になってくるのだ、この先。
 ハーモナイズ。
 それを可能とする対なる生徒が。

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「あ〜。メンドくせぇ……」
「我慢しなさい。これも仕事のひとつよ」
「大体、何だって俺、センセイなんてやってんだか」
「ふふふ。今更、何言ってるのよ」
「なりたくてなったわけじゃねぇからな。俺は。アンタと違って」
「とか何とか言っておいて、きっちり纏めてるじゃない」
「……まぁ、一応なぁ」
「ふふふ。見せて」
「勝手に見れば。ちょい煙草吸うわ」
「どうぞ」
 応接室にて話す、千華とベルーダ。
 机の上には、無数の書類が散乱している。
 その一枚を手に取り、千華は目を通す。
 書類に記載されているのは、HAL在籍生徒 "桂・千早" の情報。
 ふぅん。なるほどね。あなたが選んだ "候補" は、この子なのね。
 うん、まぁ……。私も、彼の能力には注目しているわ。
 掴み難い性格だから、なかなか腰を据えて話すことは出来ないけれど。
 それにしても……かなりの高評価ね。
 あなたが、ここまでの点数をつけるなんて珍しいんじゃない?
 過大評価? いいえ、そんなこと、これっぽっちも思わないわ。
 的確な評価だと思うわよ。寧ろ、もう少し高くても良いんじゃないかって思うくらい。
「っくく。それこそ過大評価じゃねぇか」
「あら。……そうかもしれないわね。ふふ」
「で、アンタは? これか。見るぞ」
「どうぞ」
 煙草を咥えたまま、千華の目の前にあった書類を引き寄せて見やるベルーダ。
 書類に記載されているのは、HAL在籍生徒 "月代・慎" の情報。
 あぁ、こいつか。知ってる知ってる。色んな意味で目立つからな、こいつは。
 う〜ん。ちょっと意外だな。アンタが、こいつを "候補" に選ぶとは。
 まぁ、能力的には問題ないけどよ。メンタルっつぅか……そっちがな。
 ムラがあるだろ、あいつ。 ……あぁ、そこを可能性として捉えたのか。
 それにしても……評価、高ぇな。
 いや、やり過ぎだとは思わない。思わないけどよ。
 俺から見ると……そうだな、ちょっと贔屓目な気はする。
 まぁ、アンタが選んだ候補に文句をつけるつもりはないけど。
 いまいちなぁ。俺、あいつ、苦手っつうか。嫌いっつうか……。
「公私混同は駄目よ。ベルーダ先生」
「わ〜ってるよ。んで、こいつらに連絡は?」
「さっき、入れておいたわ。そろそろ現場に着く頃ね」
「んじゃあ、俺達も移動か」
「そうね。続きは……結果を見てからにしましょうか」
「あぁ、はいはい」
 灰皿に煙草を押しやって消したベルーダ。
 散乱する書類はそのままに、二人は応接室を出て向かう。
 現場へ―

 *
 *

「ん。何か……ヘンな感じだけど。よろしくっ」
「……うん。よろしく御願いします」
 妙な雰囲気の中、握手を交わした慎と千早。
 二人は、千華から受け取ったメールの指示に従って現場へと赴いた。
 届いたメールは、スタッカート討伐のダイレクト要請。
 普段、生徒は中庭にあるリクエストボードに貼られている討伐依頼書を確認し、
 自分で討伐対象を選んでハント活動を行う。
 たが、ごく稀に、こうして先生からダイレクトに依頼されることもある。
 それは即ち、実力を認められている証拠。嬉しい依頼である。
 けれど、今回は少し異質というか何というか。
 二人に届いたメールには、協力討伐の指示があった。
 パートナーとなる生徒とは現場で合流するようにとも記されていた。
 一体、誰と組んで討伐することになるのか。
 わからなかったからこそ、ちょっとワクワクした。
 でも、結果はアッサリとしたもので。期待外れ……とまではいかないけれど。
 慎と千早は、既に面識がある。
 さほど親しい間柄というわけでもないが、それなりに仲は良い。
 どうしても超えられない、妙な一線はあるけれど。
 お互いの性格は勿論のこと、能力も把握している。
 だからこそ、作戦会議はスンナリと何の問題もなく完了した。
 あまりにもスンナリすぎて、見ているこっちが不安になるくらいだ。
「お。きたきた。アレだね。う〜わ〜……今日のは一段と気持ち悪いなぁっ」
「……。蟻に似てますね」
「いやっ。デカすぎだって。うっわぁ、キモ〜い」
「……。そうですか?」
「うん。きみのセンス、やっぱちょっとオカシイんだよ」
「……。そうですかね」
 出現したスタッカートは蟻タイプ。全長1メートルほど。
 もはや、ここまで大きいと蟻でも何でもない。ただただ、気持ち悪い。
 慎と千早には告げられていないが、このスタッカートのレベルは【S】だ。
 レベルは、SS(ダブルエス)からD(ディー)まであり、
 SSが最高レベル、次がS、次がA、次がB、次がC、最低レベルはDとなる。
 Sレベルともなると、物凄い額の報酬が手に入る。
 だが、それに伴って危険も大幅に増える。
 基本的に、Sレベル以上は、ソロでの討伐遂行が非推奨とされている。
 大切な生徒を守るため、学校側が制定しているルールだ。
 ほとんどの生徒は、Sレベル以上のスタッカート討伐にあたる際、
 仲の良いクラスメートを誘って、チームを組んで遂行する。
 中には、恋人同士で、或いは兄弟や親子でチームを組む生徒もいる。
 慎と千早が、Sレベル討伐を遂行するのは今日が初めてだ。
 しかも、自分で誘ったわけじゃない相手とチームを組む。
 まるっきり知らない人というわけじゃないのが救いだけれど。
 大丈夫なのかなぁ、という思いは、双方あるようだ。
 だが、心配している余裕なんてありはしない。
 既にスタッカートは牙を剥き、こちらに向かってきているのだから。
「じゃ、作戦通りに行こ。とりあえず抑えるから捕獲よろしくっ」
「……うん。了解です」
 目に映るもの、見つめた対象の動きを抑制する能力。
 慎は、向かってくるスタッカートを睨み付けた。
 ただ睨み付けるだけじゃ芸がないから、ウィンクなんぞも添えてみたりして。
 その眼差しに打たれたスタッカートの動きが鈍る。
 とはいえ、高レベルのスタッカートだ。
 低レベルなら、数分間動きを完全に止めることも出来るけれど、今回は鈍らせるので精一杯。
 思うように動けないことがストレスとなり、
 スタッカートは、ギャァギャァと気味の悪い鳴き声を上げた。先制攻撃にご立腹の様子。
 そこへ、追い打ちをかけるように千早が動く。
 闇を照らす、眩い光の鞭を操り、それでスタッカートを捕縛。
 抑制と捕縛が重なり、スタッカートの動きは、更にガクンと鈍くなった。
 先ほどまでの勢いはどこへやら。
 ほとんど動けぬ状態になってしまったスタッカート。
 身体に巻き付いた光の鞭を払おうと、スタッカートは鋭い爪で奮闘した。
 そう容易く解かせるはずもない。
 千早は、光のスキルを乗せて、更にギュッと縛り上げる。
「よぅし。んじゃあ、痛いけど、ごめんね♪」
 クスッと笑い、慎も追い打ちを掛ける。
 生まれ持った身体能力、独学で極めた技の数々。
 それらに闇のスキルを乗せて放つ。
 的確に力を抜きながら放つのは、タレントとしてのプロ意識がさせる配慮。
 怪我なんてしちゃ、シャレにならない。何よりも、ファンが悲しむから。
 まさに、袋叩き。その状況だ。
 慎の攻撃と、千早のサポートが見事に噛み合っている。
 光と闇は、本来は相反する属性だ。相容れぬ属性。
 それが、ここまで見事に噛み合うのは実に珍しい。
 二人共、互いの属性を理解しているがこそだ。
 相殺現象が起こらぬよう、交互にスキルを発動している。
 その合間、僅かにできる隙間で、スタッカートは反撃を試みるのだが、
 次第に、その隙間さえも埋まっていく。
 そればかりか、互いのスキルが重なり合う瞬間まで出てくる。
 相殺されることなく、重なり合う。
 一部分だけが重なるだけならまだしも、やがて、全てが重なり合う。
 非常に稀有な現象だ。ありえないことはないのだが、成功例は極端に少ない。
 これぞまさに "融合スキル" の発動。その現象である。
 異なる属性が重なる、その様は、パートナーソングそのもの。
 まったく別の歌なのに、見事に重なり合う。不思議な歌。
「う〜わわわ。何だろこの感じ。やばっ、楽しい! 楽しくない?」
「……。うん。僕も、楽しい」
 討伐中、仕事中であるにも関わらず、こんなことを言うのは不謹慎だけれど。
 先生達に見られたら、真面目にやりなさいって怒られてしまうだろうけれど。
 楽しくて仕方ない。身体が綿のように軽い。何でも出来そうな気がする。
 今なら、どんなことでも出来そうな気がする。何だろう、この高揚感。


 ヤメラレナイ? トマラナイ? モット? モット?


「……気付いてねぇな、あいつら」
「でしょうね。トリップだわ」
「融発までこなすとは。意外だった」
「ふふ。私もよ。じゃあ、戻りましょうか」
「いいのか? あいつら放置で」
「無駄よ。ああなったら、何をしても」
「あぁ、まぁ、そうか」
 予想外っつうか何つぅか……正直、微妙な心境だな。
 理解るわよ、その気持ち。立場がないような感覚よね。
 校長の言ってたとおりだな。今期は豊作だ〜って、あれ。
 そうね。豊作すぎて、怖いくらいよ。私としては。
 同感。素直に喜べないのが、もどかしいとこだな。
 ふふふっ。センセイの鏡ね。その発言。
 あぁ? やめてくれ。虫唾が走る。
 目を伏せ微笑みながら、ベルーダの隣を歩く千華。
 頭をガシガシ掻きながら、千華の隣を歩くベルーダ。
 二人は学校へ、応接室へ戻り、作業の続きを。
 ハーモナイズ。
 その成功報告を纏めた書類を、校長へ提出する為に。

 *
 *

「やば。ちょっと、やりすぎじゃん。これ」
「……。大丈夫ですよ。これを持っていきましょう」
「ほとんど塵じゃん。大丈夫かな」
「証としての役割は果たしますよ。きっと」
「そっかなぁ」
 粉々に粉砕したスタッカート。
 二人が我に返った時、スタッカートは既に塵と化していた。
 標的が絶命していたのにも関わらず、二人は攻撃を続けたのだ。
 跡形もなく、こうして塵になるまで。延々と。
 気付くことが出来なかった。楽しくて仕方なくて。
 二人で歌う、奏でることに夢中になりすぎて。
 途中、女の子のような……可憐な声が聞こえたような気もしたけれど。
 討伐の証として、塵(元スタッカート)を、専用の小瓶に入れた千早。
 残りの残骸は一ヶ所に集めて、光で焼き消す。
 後処理も完璧。これにて、討伐は完遂。
 小瓶をポケットにしまい、フゥと息を吐き落とした千早。
 そんな千早へ、慎は微笑み掛ける。
「ね、隣。座りなよ。ほらほら、ここ、ここ」
「……うん?」
「今日も月が綺麗だねー」
「……? どうしたの、急に」
「いや。何となくね。楽しかったなーって」
「……うん。僕もそう思いますよ」
「また一緒にさ、ハントしよ」
「……うん。構いませんよ」
 並んで座る、ビルの屋上。夜空には綺麗な銀の月。
 何ともいえぬ満足感、安心感、高揚はまだ冷め遣らぬまま。
 それ以上に言葉を交わすことはなかったけれど、沈黙に気まずさはなかった。
 寧ろ、その沈黙さえも心地良く思えて。
 冷め遣らぬ高揚と、静かな夜に酔いしれる。
 時々顔を見合わせては、クスクスと笑い合う。
 何がおかしいんだろうねって、お互いに首を傾げて。
 重なり合う笑い声に反応するかのように、ぼんやりと光を放つ物。
 二人の懐にある、HAL学生証。
 その裏面に 『Hz』 の文字が刻まれたのだけれど。
 その事実に二人が気付くのは、まだ少し先の話。
 その意味を二人が知るのは、まだまだ先の話。

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 6408 / 月代・慎 / 11歳 / 退魔師・タレント
 7888 / 桂・千早 / 11歳 / 何でも屋
 NPC / 千華 / 27歳 / HAL:教員
 NPC / ベルーダ / 22歳 / HAL:教員

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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