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<東京怪談・PCゲームノベル>


ハーモナイズ

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 異なる二つの属性が混ざり合う。
 その成功例は、極端に少ない。
 互いの魔力が同じくらいでないとならぬのに加えて、
 互いのことを誰よりも理解している必要がある。
 とはいえ、親子や兄弟ですら成功するのは稀だ。
 重要なのは、シンクロできる存在か否か。
 非常に難しく、これまでに成功した生徒は一組のみ。
 その変わらぬ事実に、教員たちは焦りを覚え始めていた。
 このままではマズイ。
 必要になってくるのだ、この先。
 ハーモナイズ。
 それを可能とする対なる生徒が。

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「よし。んじゃあ、行こうか」
「はい」
 微笑んで席を立ったヒヨリに頷き、後を付いて行くアリス。
 深夜、ハントの為に登校して早々、指導室に呼ばれた。
 何かマズイことでもしただろうかと思い返してみたが、思い当たる節はなかった。
 アリスは、学校では優等生だ。それこそ、漫画に出てくるような典型的な優等生。
 しちゃ駄目なことはしないし、授業態度も至って真面目。
 成績は、常に上位だ。先日の中間テストでは、見事な結果を収めた。
 ヒヨリがアリスを呼び出した理由。
 それは、御誘いだった。
 一緒にハントしに行かないか、という御誘い。
 断る理由はない。教員とハントなんて、滅多に出来ないことだ。
 今後の為にも、色々と勉強になるに違いない。
 アリスは二つ返事で了承し、ヒヨリとの共同ハントが成立。
 どうして一緒にハントするのか、誘ってきたのかは理解らない。
 その辺りを尋ねても、ヒヨリはクスクス笑ってはぐらかす。
 いつもの気まぐれなのか、それとも何か意味があるのか。
 理解らない。理解らないからこそ、この人は面白い。
 ヒヨリの後を付いて行くアリスは、嬉しそうに微笑んだ。

 二人が共同ハントで討伐するスタッカートは、レベルS。
 討伐レベルは、SS(ダブルエス)からD(ディー)まであり、
 SSが最高レベル、次がS、次がA、次がB、次がC、最低レベルはDとなる。
 Sレベルともなると、物凄い額の報酬が手に入るが、それに伴って危険も増大。
 基本的に、Sレベル以上は、ソロでの討伐遂行が非推奨とされている。
 大切な生徒を守るため、学校側が制定しているルールだ。
 ほとんどの生徒は、Sレベル以上のスタッカート討伐にあたる際、
 仲の良いクラスメートを誘って、チームを組んで遂行する。
 中には、恋人同士で、或いは兄弟や親子でチームを組む生徒もいるようだ。
 アリスにとって、Sレベル討伐を遂行するのは今日が初の事。
 特にチームを組んでいたりしないが故に、討伐機会も少ない。
 ヒヨリと一緒に初体験できることも、アリスを微笑ませている理由の一つ……かもしれない。
「あと3分くらいだね」
「はい」
「いつもどおり、好きに動いて良いよ」
「あなたは、どうするんですか?」
「うん? 俺? 俺のことは気にしなくて良いよ」
「教えて頂けませんか。どのように動くおつもりなのか」
「何、あなたを支えたいんです。とか、そういうスタンス?」
「……まぁ、そんなところかもしれません」
「あっはは。健気だなぁ。女の鏡だね」
「馬鹿にしてます?」
「してませんよ?」
 クスクス笑いながらアリスの頭をパフパフと撫でたヒヨリ。
 うん。馬鹿にはしてない。本当に健気だなぁと思ってる。
 だって、君って普段は、そういうスタンスじゃないでしょ。
 思うが侭に、私欲の為に動く。そういうスタンスでしょ?
 それなのに、これだもん。そりゃあ、可愛いなぁと思いますよ。
 ん、まぁ、そういう感じでも良いかもしれないな。
 一番活きる姿勢で実践したほうが、良いデータが採取できそうだし……。
 本人の気持ち次第だよね。こればっかりは。よし。
 暫く考え込んでから、ヒヨリはニコッと微笑んでアリスに伝えた。
 今から3分後、自分がどのように動くつもりでいるか、そのプランを。

 巨大な鳥。
 深夜0時を回った瞬間に出現したレベルSのスタッカート。
 なるほど、確かにこれは、ソロ遂行は厳しい。
 バサバサと翼を揺らしながら下降してくるスタッカートを見上げ、ゴクリと唾を飲んだアリス。
 初めて目にする高レベルのスタッカートは、とても魅力的なものとして映った。
 普段討伐しているスタッカートとは比べ物にならないほどの魔力。
 その魔圧に押し潰されそうになる、この感覚。
 すぐそこに危険が迫っている状態であるにも関わらず、
 アリスはニコニコと微笑んだ。嬉しくて、たまらない。
 平穏な毎日も捨てがたいけれど、やっぱり、こういうのが良い。
 ゾワッとする、ゾクゾクする、この感覚。たまらない。
 嬉しそうに微笑むアリスを横目に、ヒヨリが動く。
 弾く指、その指先が奏でる闇のメロディ。
 とりあえずは挨拶代わり。
 槍の形を成して飛んでいく闇のスキル。
 何度も対峙しているタイプのスタッカートだ。
 ヒヨリにとっては、雑魚でしかない。急所も把握している。
 でも、そこを射止めることはしない。早々に倒してしまっては意味がないから。
 飛んでくる闇槍に気付いたスタッカートは、すぐさまグルリと旋回して避けた。
 今宵は満月。その所為か、いつもより動きが良く思える。
 まぁ、だから何だということもないのだけれど。
 それに、満月のチカラが作用するのは、こちらとて同じこと。
 微笑み、アリスを見やったヒヨリ。
 既に詠唱を開始している。唱うのは、重力を操る歌。
 閉じていた目をパチリと開け、アリスは放つ。
 躊躇うことなく放たれる、重力の鎖。
 目には見えぬ、その鎖は、スタッカートの四肢に絡みつく。
 突如、身体が重くなるような感覚。スタッカートは、不愉快そうに鳴いた。
 苛立ちからか、やや粗暴な動きになる。そうすれば、必然的に隙が生じる。
 まぁ、雑魚レベルではないだけに、その隙を見つけることは難しいのだけれど。
 標的の動きをアリスが抑制、束縛。そこへ、ヒヨリが追い打ちをかける。
 躊躇うことなんてしない。袋叩き上等。不憫に? 思うはずがない。
 ちょっとした悪戯心は忘れずに、適度にチカラを抜きながらの猛攻。
 反撃する暇もないほどに続く攻撃は、アリスの援護によって増強されている。
 闇と重力。似て非なるこのふたつの魔素は、元々相性が良い。
 反発することなく重なり合う、闇と重力のセッション。
 見事に重なり合うハーモニー、その理由にアリスは気付いている。
 互いの魔力、その均整が取れていなければ、ここまで心地良くはなれないだろう。
 悪戯好きで気まぐれとはいえ、ヒヨリは、れっきとした教師だ。
 生徒である自分よりも、魔力は当然高い。
 コントロールしてくれているのだ。
 重なり合うように、ズレが生じぬように。
 今宵はサポートに徹してみようと思ったのに……結局、自分がサポートされている。
 ほんのり悔しく、ほんのり嬉しく思う。この現状。
 アリスとヒヨリは、会話するようにスキル発動を続ける。
 言葉はなくとも、重なり合うハーモニー。
 その心地良さに酔いしれるうち、アリスの理性が飛びかける。
 トリップ現象というやつだ。興奮状態になり、魔力の抑制が出来なくなる状態。
 それなりの魔力がなければ、決して起こらない現象。
 宿している魔力が大きければ大きいほど、トリップの度合いも増す。
 我を忘れる、その時間が長くなるということだ。
 楽しそうなのは何よりなのだが、
 トリップ状態が持続するのは、良いことではない。
 ましてや、アリスは生徒。まだ未熟な部分が多い。
 トリップが続けば、最悪、魔力が枯渇して元に戻らなくなってしまう。
 大切な生徒。大切な候補。大切な素材。大切な女の子。
 こんなところで、その未来を絶やしてなるものか。
 ヒヨリはクスリと笑い、スキル発動を中止してアリスのもとへ駆け寄る。
 スタッカートは既に絶命している。滞空したまま、アリスの魔重圧に押し潰されて。
 アリスは、その事実に気付いていない。今もなお、標的が牙を剥いているように見えている。
 今なら、何でも出来るような気がする。
 欲しいものも、好きな人も、何もかもを手に入れることが出来るような気がする。
 強引に奪い取るのも手段のひとつ。悪いことだなんて思わない。
 欲しいと思うのなら、もぎ取りにいかねば。自分の手で掴まねば。
 逆立つ髪、止まらない笑い。

 ヤメラレナイ? トマラナイ? モット? モット?

 小さな女の子、可愛い声が聞こえたような気がした。
 遠くで笑う声が聞こえたような気がした。
 その笑い声に合わせるようにして、自分も楽しんで。
 覚えていないわけじゃないけれど、詳しく説明することは出来ない。
 ただ、楽しかった。その感覚だけが、今も残っている。
「おかえり」
 呼吸を整えるアリスに、微笑んで言ったヒヨリ。
 アリスは、ヒヨリをジッと見つめながら返す。
「ただいまです」
 理解は出来ないんだろうな。
 何が起きていたのかも、自分の心がどこか別の場所へ行っていたことも。
 おかえりって言われたから、反射的に、ただいまって返した。そんな感じなんだろうね。
 違和感は残るだろうけれど、追求はしないほうが良い。
 いつか、嫌でも理解る時がくるから。その時までは、曖昧なままで良いんだ。
 うん、立派だったよ。御見事だった。まぁ、心配なんてしてなかったけど。
 支える、援護する。そのスタンスも、向いているのかもしれないね。
 まぁ、相手が俺であることが前提になりそうな感じだけど。……とか、俺、調子に乗りすぎ?
「お手をどうぞ」
「はい。あの……」
「戻りながら説明してあげるよ」
「わかりました」
 差し伸べられた手を取り、立ち上がるアリス。
 月灯りに照らされるヒヨリの姿が、いつもよりずっと綺麗に見えた。
 何だろう、この感覚。また、どこかへ心が飛んでいってしまいそうな感覚。
 不思議と、その感覚に恐怖はなくて。寧ろ、愉しいというか……幸せというか。
 このままどこかへ、飛んでいってしまいたい。そんな衝動に駆られて―
「駄目だよ。まだ、行かないで」
 クスリと笑い、アリスの手をギュッと握ったヒヨリ。
 意味は理解らなかったけれど、その言葉でアリスはハッと我に返った。
 まるで、夢から醒めるように。
 候補人材と確定人材。その相違点は、ひとつだけ。

 "声" を聞いたか否か。

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 7348 / 石神・アリス / 15歳 / 学生(裏社会の商人)
 NPC / ヒヨリ / 26歳 / HAL:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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