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<東京怪談・PCゲームノベル>


ハーモナイズ

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 異なる二つの属性が混ざり合う。
 その成功例は、極端に少ない。
 互いの魔力が同じくらいでないとならぬのに加えて、
 互いのことを誰よりも理解している必要がある。
 とはいえ、親子や兄弟ですら成功するのは稀だ。
 重要なのは、シンクロできる存在か否か。
 非常に難しく、これまでに成功した生徒は一組のみ。
 その変わらぬ事実に、教員たちは焦りを覚え始めていた。
 このままではマズイ。
 必要になってくるのだ、この先。
 ハーモナイズ。
 それを可能とする対なる生徒が。

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「……。それ、何だ?」
「ん? 秘密兵器〜♪」
「へぇ……。持とうか」
「ありがと〜。じゃ、こっちだけ持ってくれるかなっ」
「了解。……重っ」
「にゃっはは♪」
 キャッキャとはしゃぐ雪穂と、その隣で淡く微笑む斉賀。
 二人はこれから、共同ハントへ。どちらが誘ったということもなく。
 今夜は、先生からの指示でペアハントを実行する。
 どうしてまた二人が組まされたのか。その辺りは不明。
 元々、ハント活動に先生、もっといえば学校側が意見してくることはない。
 生徒に任せっきりというか、生徒自身に力量などを判断させるが故に。
 だから、こうして指示が飛んでくるのには何かしらの理由があるわけだ。
 まぁ、理解らないし、二人には追求する気もないようだけれど。
 指示されたのなら言われたとおりにすれば良いだけの話。
 仲の悪い奴と組まされるわけじゃないから断る理由もない。
 二人が今夜討伐するスタッカートは、レベルS。
 とはいえ、二人には、このレベルは知らされていない。
 討伐難易度の高いスタッカート。ぶっつけ本番というやつだ。
 雪穂は、斉賀と一緒にハントできるのが嬉しいのか、ずっと笑顔。
 何やら秘密兵器とやらも持ってきたようで。かなり楽しそうだ。
 現場に到着した後も、二人は談笑を続ける。
 スタッカート出現時刻まで、あと5分くらい……。
 大きな鞄を漁りながら、雪穂はポツリと言った。
「斉賀兄って〜。彼女いるの〜?」
「……。何で?」
「ん〜。何となく気になった感じ?」
「ふぅん。いないけど」
「そうなのか〜。モテそうだけどね〜」
「……。俺が?」
「うん。優しいし〜。ちょっとカッコいいし〜」
「初めて言われた。そんなこと」
「ありゃ。そ〜なの? おっかし〜ね〜。あっはは♪」
「……。……ところで、それ。どう使うんだ?」
「内緒だよ! あ、斉賀兄はね、いつもどおり動いていいよ〜」
「……ふむ。了解」
 他愛ない話をするうち、時刻は深夜0時に。
 これまでは気にならなかったけれど、0時になると……何というか独特の雰囲気になる。
 HALに通いはじめてから、深夜の雰囲気がガラリと変わった。
 張り詰めるというか、何だかヒンヤリ冷たい風が吹くような……妙な雰囲気。
 見上げれば満月。その光を背中に、スタッカートが出現する。
 鳥だ。鳥タイプのスタッカート。真っ黒なその姿は、カラスにそっくり。
 さほど大きくはないけれど、それでも普通のカラスよりは大きめかな。
 何よりも異なるのは、その魔力。
 ただ降下してきているだけなのに、何だかプレッシャー。
 いつもと違う雰囲気に、雪穂と斉賀も、すぐに気付いたようだ。
「強いよね、あれ〜」
「そうだな……。AかSかってところだと思う」
「よ〜し。んじゃ、頑張ろ〜!」
「先に?」
「ううん。斉賀兄からゴーゴー」
「了解」
 真っ直ぐに躊躇うことなく二人に向かって降下してくるスタッカート。
 手始めに、と斉賀は、指を弾いて重力の魔砲を放ってみた。
 初発は控えめに、あくまでも標的の力量を調べる為に。
 放たれた重力の魔砲は、スタッカートの翼を掠めた。
 結果……。まったくもって、ノーダメージな様子。
 スタッカートは不気味な鳴き声をあげながら、スピードを上げて降下してくる。
 ふぅと息を吐き落とし、斉賀は身構えた。
 目を伏せ精神を統一し、魔力のコントロールを図る。
 手加減する必要はない。寧ろ、手加減していては勝てない。
 初発の結果から、それは明らかだ。定かではないけれど、かなりの高レベル。
 スッと目を開けると同時に、斉賀は、それまでの魔力制御を解放した。
 辺りにブワリと舞う、ずっしりと重い風。本気モードになった証拠だ。
 雪穂はケラケラ笑いながら、バサバサと揺れるスカートを押さえる。
 そして、斉賀が踏み出すと同時に秘密兵器のスイッチを押した。
 昨日完成したばかりの魔力増幅装置。試動もバッチリ。
 装置から放たれる光に包まれた雪穂と斉賀の魔力がグンと底上げされる。
 一気に身体が綿のように軽くなる感覚は、とても心地が良い。
 斉賀は嬉しそうに微笑み、襲いくるスタッカートを迎え撃つ。
 今までも何度か、こうして一緒にハント活動をしている。
 だからこそ、互いの動きや癖は把握済み。
 お互いが動きやすいように、足を引っ張ることのないように思いやりながら。
 二人のスキルは炎と重力。異なる二つのスキルが、交互にスタッカートを襲う。
 反撃する暇もないくらい、見事なコンビネーションだ。
 スタッカートもマズイと思っているようで、動きがやや鈍る。
 標的が攻撃を躊躇ったとて、二人が攻撃を躊躇うことはない。
 ここぞとばかりに、二人はスキル発動を続けた。
 二人とも楽しそうに微笑んでいるがゆえに、ちょっと怖い光景だ。
 最中、雪穂がピンと思いつく。
「斉賀兄〜! せーので一緒に撃ってみよ〜!」
「……一緒に? 大丈夫なのか、それ」
「楽しそうでしょ〜。駄目〜?」
「いや、いいけど」
「んじゃ、いくよ〜。せ〜の〜!」
 交互にスキル発動するのではなく、同時に発動してみようと提案した雪穂。
 特に深い意味はない。ただ単に、そうしたほうが早く片付くような気がした。
 既にスタッカートは瀕死状態だし、ここらでトドメを刺してやるべき。
 どうせ息絶えるのならば、最後は華々しく散らせてあげるのが優しさってもの。
 まぁ、正直なところは、楽しみたいだけなのだけれど。
 雪穂の掛け声に合わせ、二人は同時にスキルを放った。
 斉賀は重力の魔砲を、雪穂は炎の槍を。
 闇夜を舞う二つの異なるスキル。黒と赤。
 二つのスキルは、スタッカートに接触する寸前のところで混ざり合う。
 赤い炎が重力に包まれて、黒炎へと変わる、その様は何だか恐ろしいものだった。
 飲み込まれて姿を変える……その過程が、不気味なものに思えた。
 けれど、同時に見惚れてしまったのも事実。美しくも見えた。
「わ〜。何あれ! 何か綺麗だね〜」
「……。……まぁ、そうかも」
 夜空を見上げてはしゃぐ雪穂。斉賀も楽しんでいるようだ。そうは見えないけれど。
 混ざり合って完成した黒炎はスタッカートを包み込んで、更にその威力を増す。
 ゴォッと立ち昇る黒い炎、不気味な悲鳴。
 見たことのない現象を、並んで見上げる雪穂と斉賀。
 その姿は、まるで寄り添い花火を見上げる恋人同士のようだった。


「炎と重力って相性良かったっけ」
「良くはないわね。悪いってこともないけど」
「だよな。……ふ〜む」
 HAL本校、3階にある情報室にてモニターを見やるのは、藤二と千華。
 モニターに映し出されているのは、楽しそうに笑う雪穂と斉賀。
 どうやら二人の活動を監視していたようだ。何の為に……?
 モニターを見やりながら何やら考え込んでいる様子の藤二。
 そんな藤二の手元へ灰皿を置いて千華は笑う。
「灰、落ちるわよ」
「あぁ、サンキュ」
「とりあえず書類上げちゃいましょう」
「あぁ、そうだな。……しかしまぁ、何だ。微妙な心境になるな、これ」
「そうね。いつまでたっても慣れないものよね」
「こういうことやってると不安になるんだよなぁ」
「俺は何をやってるんだろうか、って?」
「そう。大事な生徒を使って何をやろうとしてんだかって」
「ふふ……。たまには先生らしいこと言うじゃない?」

 *
 *

「あちゃ〜。真っ黒こげだ〜。大丈夫かな〜これ」
「……多分。要は証拠になれば良いわけだから」
「そっか。そ〜だよね。あ、小瓶持ってくるの忘れたっ」
「俺、持ってる。これ」
「お〜。さっすがだね〜。ん〜? でもこの小瓶、変な色〜」
「……。ヘンじゃないだろ。綺麗じゃないか?」
「ううん。変だよ。緑と紫でしょ〜。うん、変だよ」
「……。さっさと入れて戻ろう」
 クスクス笑いながら、炭と化したスタッカートの残骸を小瓶に入れる雪穂。
 黒炎に焦がされたスタッカートの残骸は、ほんのりと温かい。
 その妙な温度が、不思議と気持ち良いものに思えた。
 このままずっと触っていたい。そう思わせるくらいに。
 斉賀の色彩センスがおかしい件? それはまぁ、置いておこう。

 今宵、二人は候補人材から確定人材へ。
 おめでとうだなんて、そんなこと言えない。
 記念すべき日だとしても。そんなこと言えるものか。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
 NPC / 斉賀・尚 / 16歳 / HAL:生徒
 NPC / 藤二 / 28歳 / HAL:教師
 NPC / 千華 / 27歳 / HAL:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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