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<東京怪談・PCゲームノベル>


ハーモナイズ

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 異なる二つの属性が混ざり合う。
 その成功例は、極端に少ない。
 互いの魔力が同じくらいでないとならぬのに加えて、
 互いのことを誰よりも理解している必要がある。
 とはいえ、親子や兄弟ですら成功するのは稀だ。
 重要なのは、シンクロできる存在か否か。
 非常に難しく、これまでに成功した生徒は一組のみ。
 その変わらぬ事実に、教員たちは焦りを覚え始めていた。
 このままではマズイ。
 必要になってくるのだ、この先。
 ハーモナイズ。
 それを可能とする対なる生徒が。

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「それで、その後は、どんな感じになったんですか?」
「んー? 特に何も。家まで送って終わり」
「……ふぅむ。そうですか」
「あっはは! 何だ、その顔。変なの」
「あれ。変な顔してましたか、僕」
「うん。変顔してた。あ、変顔対決しよーぜ。まだ時間あるし」
「……。何ですか、それ」
「変な顔して対決すんの。例えば、こーいう……」
「……! あはははははっ」
「笑ったら負けー」
「……あっ。そうなんですか」
 キャッキャとはしゃぐ霊祠と海斗。
 緊張感皆無な状態だが、二人はこれからペアハントを実行する。
 先生からの指示で組まされたわけだが、その真相は不明。
 まぁ、クラスメートだし仲も良いし、嫌ってことはないのだけれど。
 現在時刻は23時50分。標的が出現するまで、あと10分。
 待機時間の最中、霊祠は海斗に "その後" を尋ねていた。
 例の……ユナとのことだ。その後、進展らしきものはあったのかと。
 残念ながら、特に進展はしていないらしい。
 二人きりで出かけたりはしているようだが、
 海斗は、それをデートだと解釈していない。
 鈍感なのにも程がある。ここまでくると、ユナが不憫だ。
 そんなことを思いながら、変顔対決に付き合う霊祠。
 海斗は強敵だ。何度試みても、瞬殺されてしまう。
 真夜中、公園で大笑いする少年が二人……。

「こいつら組ませたの失敗だったかもしんねぇな」
「今更何言ってるのよ。発言には責任持ちなさい」
「いや、だってお前……。緊張感もクソもねぇだろ、これ」
「そうね。でも良いんじゃない? たまには、こういうのも」
「まぁ、な。神妙すぎるのもアレだしな」
「でしょう? ほら、データ採取の準備」
「あぁ、はいはい」
 HAL本校、3階にある情報室にて。藤二と千華の会話。
 モニターには、変顔対決で盛り上がる霊祠と海斗の姿。
 どうやら、二人の動向をモニターでチェックしているようだ。
 二人にペアハントを命じたのも藤二。何の為に、こんな指示を飛ばしたのか。
 モニターチェックしているあたり、何らかの理由がありそうだが……。

 *

 変顔対決の結果は、海斗の圧勝。18勝0敗となった。
 笑いすぎて腹筋が痛い。霊祠は、お腹を摩りながら名残笑い。
 いつまでもケラケラ笑っているわけにもいかない。
 時刻は0時ちょうど。標的が姿を見せる時間だ。
 それまでのマッタリとした雰囲気から一変。
 二人の表情は、きりっとした真面目なものへと変わる。
 満月の光を背に浴びながら降りてくるスタッカート。
 シルエットこそ天使のようだが、実体は不気味な悪魔だ。
 標的を視界に捉えた瞬間、二人の背筋をヒンヤリとしたものが通った。
 ゾクリと走るそれは、対峙する標的の底知れぬ魔力によるもの。
 普段討伐しているスタッカートとは比べ物にならない魔力だ。
 こうして見上げているだけで、どうにかなってしまいそうになる。
「強いな、あいつ」
「ですね」
「抜き打ちテストみたいなもんかな。おもしれーじゃん!」
「はい。頑張りましょう」
 顔を見合わせて微笑み頷いた二人。
 格上の敵だとて、焦ることも戸惑うこともない。
 寧ろ逆だ。張り合いのある相手だと、嬉しくなってしまう。
 ピンチになったらなったで、そのとき考えれば良い。
 とりあえずは全力で、ガッと突進してみてナンボ。
 意外なことに、霊祠もそういうスタンスだ。
 彼の場合は、海斗のように無邪気で無鉄砲というより世間知らずな要素が強いけれど。
 スタンス、姿勢が一致するのもまた、二人が組まされた理由のひとつなのかもしれない。
 抑えていた魔力を解放し、臨戦態勢へと入った霊祠と海斗。
 二人の姿を視認し、スタッカートも狙いを定めて降下してくる。
 腰元から自慢の武器 "魔銃" を抜いて、その銃口に炎を灯した海斗。
 ニッと笑い、躊躇うことなく連発すれば、無数の火の玉がスタッカートの頬を掠める。
 恐れるものなど何もない。そんな先制攻撃に、少々退いた様子のスタッカート。
 気持ちというか、心構えの面で先手を打った効果はデカい。
 退いたところへ追撃。霊祠は、指先で空に魔方陣を描いた。
 二人で一緒に討伐するのなら、それなりに "合わせ" ねばならない。
 魔力にしても、スキルにしても。相手と噛み合うようにせねばならない。
 海斗は元々、好き勝手奔放に動くタイプだ。
 同じクラスだからこそ、彼の性格諸々は把握できている。
 それならば、自分はサポートに徹する動きをするのが望ましい。
 霊祠は、援護の呪術と呪撃で、海斗の動きに合わせていく。
 何か特別なことを仕掛ける必要はない。
 というか、格上、レベルの高いスタッカートを相手に仕掛けを試みるのは危険だ。
 いつもどおり、小細工なしに的確にスキルを放っていくのが正しいだろう。
「霊祠、もーちょいアゲてこ」
「はい。了解です〜」
 お互いの癖をも把握出来ているからこそ可能なコンビネーション。
 いかに反撃する暇を与えず攻撃していくことができるかが鍵。
 反撃されてしまっては、一気にピンチに陥ってしまうかもしれない。
 それならば、反撃させなければ良い。それだけのこと。
 二人の噛み合った動きに、スタッカートは手も足も出ない。
 その状況が苛立ちを募らせる。不気味な鳴き声をあげるスタッカート。
 かなり御立腹だ。感情を乗せて反撃してきたら……恐ろしい。
 猛攻は猛攻で成功しているのだけれど、いつまでも持続できるものじゃない。
 魔力全開状態が持続しているわけだから、体力も落ちてくる。
 どちらかが少しでも気を抜いてしまえばバランスが崩れ、猛攻不可に。
 このスタッカートが、その隙を見逃すはずがない。
 そうなる前に、トドメを刺すべき。
 バランスが崩れる前に、トドメの一撃を。
 魔銃の銃口にフッと息を吹きかけて、いったん炎を消した海斗。
 その海斗の所作に、霊祠も動きを止める。
 霊祠を見やり、海斗はニッと笑って言った。
「デカいのちょーだい」
 その言葉の意味をすぐさま把握した霊祠は、コクリと頷き微笑み返す。
 指先で逆十字を刻み、解放する風の能力。風のスキル。
 デカイの頂戴。海斗の望みどおりに、霊祠は幾重もの風を紡いで突風を放つ。
 霊祠が突風を放った瞬間、海斗は銃口に白い炎を灯して発砲した。
 標的へと向かう最中、炎と風は混ざり合い、炎の突風へと姿を変える。
 一瞬だった。刹那のトドメ。
 ジュッと焼け焦げる音が響いたかと思えば、
 次の瞬間には、原型を留めていないスタッカートがベチャリと地に落ちる。
 凄まじい威力だ。格上の標的だったなんて思えぬほどに、あっけない幕切れ。
 あまりにもアッサリとトドメを刺せた事実に、霊祠と海斗もキョトンとしている。
「あれ。終わり?」
「みたいですねぃ」
「早っ!」
「ですねぇ……」
「つか、今のスゴくね? めっちゃカッコ良くなかった?」
「はい。ちょっとビックリしましたですよ」
「スキルって混ぜれるんだなー。知らんかったー」
「混ざる……とは少し違うような気もしましたけどねぇ」
「そか? あ、とりあえず採取しよーぜ。小瓶持ってきた?」
「はい。海斗くんは、絶対持ってこないと思ってましたから」
「あっははは! さっすが〜!」


「…………」
「…………」
 モニターの前、絶句状態の藤二と千華。
 データ採取もクソもない。あっという間すぎる。
 ちょっと目を離した隙に討伐完了させてしまうとは何事か。
 藤二は苦笑ながら煙草に火をつけて称えた。
「参った。予想外だ」
「肝心なところを見逃したわね……。録画は?」
「もちろん、してるよ。巻き戻すか?」
「そうね。それ、吸い終わってからで良いわ」
「おぅ。その間に気持ちの整理でもしとくか。くくっ」
 苦笑する藤二に、苦笑を返す千華。
 対なる生徒、スキルの融合、ハーモナイズという現象。
 二人ならば可能なのではないかと思い、ペアハントを指示した。
 まさか成功するだなんて思いもしなかった。それも、こんなにあっけなく。
 二人は気付いていない。先程の現象をハーモナイズと呼ぶことも、その真価も。
 教えることもない。いや、教えることが出来ない。今はまだ。
 今日のところは、とりあえず、お疲れ様と労っておこう。
 それから、貴重なデータを有難うという感謝の気持ちと拍手も贈っておこう。
 "声" を聞けていれば満点評価なのだけれど……欲張りは厳禁かと思う。
 ハーモナイズの成功。教師という立場から見れば、それは嬉しい結果。
 けれど……教師という立場を取っ払った状態で見れば、喜べぬ結果。
 こんなにも微妙な心境になるのに、どうして。
 どうして自分達は、続けるのだろう。月への貢ぎを止めぬのだろう。
 沈黙したまま、煙草をふかす藤二と、その手元へ灰皿を置く千華。
 二人が浮かべる、何とも切なげな笑みの意味は。

 ヤメラレナイ? トマラナイ? モット? モット?

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7086 / 千石・霊祠 /13歳 / 中学生
 NPC / 海斗 / 19歳 / HAL:生徒
 NPC / 藤二 / 28歳 / HAL:教師
 NPC / 千華 / 27歳 / HAL:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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