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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


土人形の騎士

 物には心が宿るのだと言う。
 大事にされたもの、粗末に扱われたもの、宿る心は違えども心が宿った瞬間にソレは『イキモノ』なのだ。
「また帰ってきちまったのかい」
 アンティークショップ・レンの店主『碧摩 蓮』はため息混じりにソレを見た。
 彼女の視線の先にある物、それは大昔に作られた土人形だった。
 いわくつきでなければ、それなりに価値のある物だっただろう。
 しかし、その土人形は長い時を生き、様々な持ち主の影響で『心』が宿ってしまったのだ。
「お前も持ち主に影響を及ぼさなければ返される事もなかっただろうにねぇ」
 碧摩・蓮は苦笑混じりに土人形を見ると、まるで返事をするかのように土人形はカタカタと震えている。
「さて、次のお前の持ち主はどんな奴かねぇ」
 碧摩・蓮が呟いた瞬間、アンティークショップ・レンの扉が開かれる音が店内に響いたのだった。

視点→式野・未織

「あれ‥‥? 此処は何処〜‥‥?」
 式野はしょんぼりとした表情と口調で見慣れない景色の中を歩いていた。買い物をしていた所、色々な店を見るうちに迷子になってしまい、式野はペンデュラムを頼りに家へと帰ろうとしていた。
 しかし、アンティークショップ・レンの前でペンデュラムは激しく反応を見せる。
「え? 中に何かあるのかな‥‥?」
 式野は恐る恐る店内に入ると綺麗な細工物、明らかに呪われていそうな品物などが並べられていて、奥では碧摩・蓮が煙草を吸っている姿が視界に入ってきた。
「おや、どうしたんだい? そんな迷子みたいな顔してさ」
 まさにその通りです、とは言えずに式野は誤魔化すように「あはは‥‥」と笑って碧摩を見る――するとテーブルの上に置かれている『それ』に気がついて「あれ‥‥」と呟く。
 式野は自分の胸から下げているペンデュラムを見ると、土人形に反応しているように見える。
「あれが気になるのかい?」
 ふぅ、と碧摩・蓮が式野の視線に気がついたのか話しかけてくる。
「あ、はい――何か曰くつきの物ですか?」
 式野が問いかけると「‥‥まぁ、そうさね」と碧摩・蓮は曖昧に言葉を返してくる。
「だいぶ昔に作られた土人形だけど、色々ワケあってね」
 碧摩・蓮の説明に「へぇ、そうなんですか」と式野は身を屈めて土人形を見る。その人形はよく見れば剣と楯を持っており、騎士を模られていた。
「昔に作られた物なのに今でも残っているって事は、大切にされてきたって事なんですよね?」
 式野は土人形を見ながら「ふふっ」と笑いながら呟くと「それは‥‥心を持ってる空嫌われるのさ」と碧摩・蓮はポツリと言葉を漏らした。
「心、ですか?」
「そう、イキモノじゃないのに心を持つから厄介なのさ――ただの物としてあった方がこいつも幸せだったろうにねぇ」
 碧摩・蓮の言葉に「それは、違います」と式野は短く言葉を返した。
「たとえ人じゃなくても『心』を持てる事は幸せだと思います、心が無かった方が良かったなんて‥‥寂しいです」
 式野の言葉に土人形がカタカタと震える。まるで『ありがとう』と言われているような気がして「どういたしまして」と式野は答えていた。
「そういえば、土人形さんは会いたい人っています?」
 土人形に式野が話しかけるが、カタカタと震えるだけで式野が分かるように言葉を返してくれない。
「無駄さね、人の言葉は分かっても『話す』と言う事は出来ないみたいだからねぇ」
 碧摩・蓮がため息混じりに言う。
「もしかしたら、土人形さんに心が宿ったのは、持ち主さんに何かしてあげたかったからなんじゃないでしょうか?」
 式野の言葉に「してあげたかったこと?」と碧摩・蓮が聞き返すように呟く。
「理由もなく心が宿る筈はありません、きっと土人形さんは何か理由があったんだと思います」
「だけど、もし仮にそうだとしてもこいつはだいぶ前に作られた物だ――かつての持ち主が生きてるとは思えないけどねぇ」
 碧摩・蓮が呟くと「所縁のある場所や人なら見つけられます、土人形さんだって本当に会いたい人の近くにいたいと思うんです」と式野は言葉を返した。
「仕方ないねぇ、ちょっと待ってるんだよ」
 面倒そうに呟くと奥へと引っ込んで、一枚の紙を持って来る。
「これはその土人形を持ってきた奴が置いていったものでね、何か分かるといいんだが‥‥」
 そう言って碧摩・蓮は「頑張りな」と言って式野に資料を渡したのだった。
「何で、そんなに頑張るんだい?」
 碧摩・蓮が問いかけると、式野は少し考えた後に口を開く。
「心が宿っている事はただの物じゃなくて、ちゃんとした1つの命って事ですよね? それなら、ミオは土人形さんが本当に幸せになれる場所を捜したいなって思ったんです」
 式野はにっこりと笑顔で言葉を返す。その表情を見る限り彼女に嘘偽りが存在しない事ははっきりと分かった。

「うぅん、これは恋人へのお守りとして作られた人形なんですね」
 資料を見ると、作られた経緯、最初の持ち主などの名前が書かれており、その一番下には手放された理由があった。
「‥‥これが、土人形さんが心を持った理由――‥‥」
 この土人形の最初の持ち主は女性で、恋人がお守りとして土人形を贈った後、暫くしてから病気で亡くなっている事が分かった。
 そして――その死が土人形のせいにされて別の人の手に渡り、二番目の持ち主は夜中に勝手に動き出すと言って手放している。
(「土人形さん‥‥恋人の娘さんを守りたかっただけなんですね‥‥自分が守るべき人の所に帰りたかっただけなんですね」)
 式野は手に持った土人形を見ながら心の中で呟く。そしてダウジングを使用して土人形の幸せの為に、自分が行きたい場所を探す。
 この時に少しでも他の事を考えてしまうと、其方の方に引っ張られてしまうので何も考えないように集中して土人形の為に必死に探した。
 そして――到着した場所、そこは古いお寺だった。
「‥‥此処が、土人形さんが幸せになれる場所?」
 シンとしており、住職らしき老人が掃除をしている姿が見える。
「あの‥‥何か御用ですか?」
 住職が式野に話しかけてきて「えっ、あの‥‥」と思わず口ごもってしまう。
「若い方がいらっしゃるのは珍しい――おや、その人形は‥‥いや、そんなはずは‥‥」
 住職の言葉に「何かこの土人形さんの事を知ってるんですか?」と式野が問いかける。
「いえ、私の曽祖父が話していた人形と似ていたものですから‥‥昔、恋人の贈ったと言う人形なんですが、流石に残っているわけはありませんし‥‥」
 住職の言葉に「その人形です」とズイッと住職の前に土人形を差し出しながら短く告げる。
「‥‥え?」
「色々な人の手に渡ったけれど、やっぱり自分が会いたい人のところに戻ってきたんです」
 式野の言葉に住職は土人形を見ながら「本当ならば‥‥」と背中の所を少し強い力で押すと、ベコンと音をたてて土人形の背中が取れて中から赤い石のついた指輪が出てきた。
「当時、好きだった女性に贈る筈だった指輪だそうです、まさかこんな形で戻ってくるとは‥‥曽祖父は人形を探してくれと祖父、父に話していたそうです――曽祖父の願いが今、叶えられました」
 住職は涙混じりに呟き「これは曽祖父の墓前に置かせてもらってもよろしいでしょうか」と式野に言葉をかけてきた。
「もちろんです。ミオはその為に土人形さんを此処に連れてきたんですから」と言葉を返した。
「一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「何ですか?」
 式野は首を傾げながら住職の言葉を待つ。
「あなたは何故、このような事を? 此処を探すのも苦労したでしょうに‥‥何があなたをここまで動かさせたのですか?」
 住職の言葉に「そんなの、簡単ですよ」と式野は笑って言葉を返した。
「土人形さんは此処に帰って来るのが幸せだと思ったんです、お友達の幸せを願うのは、当たり前の事でしょう?」
 式野がにっこりと笑顔で言葉を返すと「あなたは優しい人だ」と言って指輪を渡してきた。
「えっ、こんなものいただけませんよ‥‥」
「いいえ、曽祖父もあなたが持つ事を望んでいるでしょう‥‥この人形の為に頑張ってくれたのですから‥‥」
 だから受け取ってください、住職はそう言って式野に指輪を握らせた。
 結局、式野は住職の言葉に押されて指輪を貰う形になった。その指輪は何処かきらきらと輝いていて、幸せそうに見えたのはきっと気のせいではないだろう。


END


――出演者――

7321/式野・未織/15歳/女性/高校生

―――――――

式野・未織様>
こんにちは、水貴透子です。
今回は「土人形の騎士」にご発注頂き、ありがとうございます!
内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでもお気に召す内容に仕上がっていると良いのですが‥‥。
何かご意見・ご感想などお聞かせ下さると嬉しいです。
それでは、シナリオへのご参加ありがとうございました!

2009/2/24