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<東京怪談・PCゲームノベル>


家庭訪問

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 生徒が自宅でそわそわしながら待機している中。
 職員室を出て、教員達は、それぞれがリストを見やる。
 普段、学校にいないときの生徒。そのライフスタイル。
 どんな環境で育ってきたのか諸々、知っておかねばならない。
 大切な生徒だからこそ、今後の為に。
 じゃあ、行きましょう。
 家庭訪問、スタート。

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 異界にある大きな屋敷。
 その中庭で、優雅なひとときを過ごす夏穂と雪穂。
 二人が楽しそうに話している姿に、傍にいる護獣達も御機嫌だ。
「ん〜♪ 美味しい。夏ちゃん、どんどん料理が上手になるね〜」
「ふふ。そう? 雪ちゃんにそう言われると嬉しいな」
「ねぇねぇ、これ何〜? 何かちょっと酸っぱいような甘いような不思議な、これ〜」
「それはね、オレンジピールっていう……」
 中庭にて、夏穂の手作りスイーツと紅茶を楽しんでいた二人。
 だが、その幸せな時間に介入してくる部外者がいた。
「え〜と。……しかしまぁ、何だ。デカい家だなぁ」
 キョロキョロと辺りを見回しながら突然ひょっこりと現れた藤二。
 夏穂と雪穂は、揃ってキョトンとした眼差しを向けた。
 二人を見つけた藤二は、微笑みながら歩み寄ってくる。
「あぁ、いたいた」
 歩み寄ってくる藤二を見ながら雪穂は言った。
「あれ〜? 先生だ。ど〜したの〜?」
「おいおい。どうしたのって。家庭訪問だよ」
「家庭訪問〜……。あ」
 同時に思い出した雪穂と夏穂。
 二人は顔を見合わせ、クスクス笑いながら声を揃えて言った。
「忘れてた♪」
「忘れてました」
 悪戯でも何でもなく、素で忘れていた様子の二人。
 おかしいなとは思ったのだ。何度呼び鈴を鳴らしても反応がないから。
 もしや居留守を使われているのか。生徒に嫌われているのかと不安にもなった。
 藤二は笑いながら、雪穂と夏穂に御願いする。
「御楽しみのところ申し訳ないけども、先生を接待してくれ」
「あっはは♪」
「すみませんでした。中へどうぞ」

 夏穂と雪穂、二人の自宅は尋常じゃないくらいに広い。
 外から見ればさほど大きくはないのだけれど。
 異界という場所にあるからなのか、それとも魔法か何か不思議な力で空間を広げているのか。
 その辺りは不明だが、敢えて藤二は追求しない。別に問題点ということでもないし。
 永遠に続いているのではないかと思わせるほど長い回廊を抜けた先、
 リビングに通された藤二は、夏穂に促されるままソファに座る。
 少々御待ち下さいと言い添えて、キッチンへ紅茶を淹れに行った夏穂。
 リビングに残された藤二と雪穂は、向かい合うようにして座っている。
 暫しの沈黙のあと、藤二は尋ねた。
「随分と立派な屋敷に住んでるんだな」
「うん〜。綺麗でしょ〜。お気に入りなんだよ〜」
「二人っきりで住んでるのか? ここに」
「ううん。お兄ちゃんが二人とね〜。イロウソウさんが五人いるよ〜」
「イロウソウって何だ。居候、だろ」
「あ、うん。それだぁ」
「ふぅん。兄が二人、ね……」
「お兄ちゃん達も双子なんだよ〜」
「へぇ。そりゃまた珍しいな。 居候ってのは、お手伝いさんか何かか?」
「ううん。お友達だよ。ネコさんとかね」
「猫? ペットか」
「違う違う! ネコさんはお友達だよ〜。家族みたいなものだよ〜」
「あぁ、そうかそうか。ごめんごめん。ペットも立派な家族だよな」
「違うってば〜。ペットじゃなくて、ネコさんっていうのはね〜……」
 微妙に会話が噛み合っていない。まぁ、無理もないのだけれど。
 必死に "ネコさん" について説明しようとしている雪穂。
 だが、藤二は聞いていない。とあるものに視線が釘付けになっているのだ。
 藤二が見やっているのは、花。まぁ、一見すると何の変哲もない花だ。
 けれど、この花。珍妙な動きをする。気のせいかとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。
 いやいや、そもそも花が動くっていうこと自体が珍妙なことではないか。
 藤二は苦笑しながら、雪穂の必死な説明を遮って尋ねた。
「なぁ。あの花、何? さっきから気になってるんだけどさ」
「だからネコさんは僕達のね〜……って、え? 花?」
「うん。ほら、窓辺にあるアレ。物凄い勢いで動いてるアレ」
「あぁ、あれはねぇ、クラソナっていう花らしいよ〜」
「くらそな……?」
 初めて聞く花の名前に首を傾げた藤二。無理もない。なぜなら、この花は……。
「それ、私が育ててる花です」
 紅茶とお菓子を持ってリビングへと戻って来た夏穂が言った。
 テーブルに紅茶とお菓子を置くと、雪穂は嬉しそうにそれらを口に運ぶ。
 俺に出されたものじゃないのか? と苦笑しながら、藤二は夏穂に尋ねた。
「育ててるってのは……夏穂が作ったとか、そういう感じなのかな?」
「はい。可愛いでしょう?」
「……うん。まぁ、それなりに」
「ここにいる子たちは恥ずかしがりやさんですから。先生のこと、かっこいいって言ってますよ」
「はははははは。そうかそうか」
 半分嬉しい気持ち、半分ついていけない気持ちで笑った藤二。
 微妙に噛み合わない。その状態を維持しつつ、家庭訪問は続いた。

 質問に対する返答から理解るのは、二人がいかに愛されているか。
 屋敷内で、二人がどんな立場にあるかが手にとるように理解る。
 二人の両親が既に他界していることは、入学時の面接諸々で知っている。
 夏穂も雪穂も、いつでも笑顔でいるけれど、本当は寂しくて仕方ないんじゃないだろうか。
 そう、いつも不安に思っていたのだけれど、余計な心配だったようだ。
 双子の兄にも、居候達にも、二人は愛されて暮らしている。
 彼女らの傍にいる護獣にしてもそうだ。
 広い屋敷は、決して殺伐とすることなく、いつでも賑やか。
 寂しいだなんて、そんなこと思わせる暇がないくらいに。
 家族(兄)や居候、護獣たち、屋敷を広くしている仕掛けについて、
 振舞った紅茶とお菓子について、普段、屋敷でどんな風に過ごしているかについて……。
 学校の休み時間さながらに、自然体であれこれと御話していく夏穂と雪穂。
 二人が楽しそうに話す姿を見ながら、藤二は微笑んだ。
 心のどこかで、ホッとしながら。娘の話を聞く父親のような心境で。

 *
 *

 訪問ついでに自室を拝見。
 生徒が普段、どんな部屋で思い思いの時間を過ごしているのか、
 先生としては、ちょっと気になるところ。
 案内されて二人の部屋を拝見した藤二が抱いた一番の感想は "思ったとおり" だった。

 夏穂の部屋は、とにかく真っ白。ソファもベッドも棚もカーテンも全てが真っ白。
 色づいているものといえば、部屋の各所におかれた ぬいぐるみくらい。
 綺麗に整理整頓された部屋は、生活感を感じさせない。
 俺の部屋とは真逆な感じだなと笑う藤二。
 ふと、部屋の隅、折れた白い矢が目に留まった。
 綺麗な部屋には不釣合いに思える。矢が置かれている付近だけ雰囲気が違うようにも思える。
 あの矢は何? そう尋ねようとしたのだが……藤二は口を噤んだ。
 振り返って尋ねようとした矢先、俯く夏穂の表情が泣いているように見えたのだ。
 聞いてはいけないこと。聞くべきではないこと。踏み入ってはならぬ領域。
 それを理解できぬほど、下劣な男じゃない。
 藤二は微笑み、視線を戻して別の質問をした。
「夏穂。これは何?」
「あ、はい。えぇと、それは占いの道具で……」

 雪穂の部屋は、淡いピンクで統一。ソファもベッドも棚もカーテンも全てが淡いピンク。
 家具に関しては、夏穂の部屋にあったものと同じ。色違いなだけのようだ。
 部屋の中は、バニラのような甘い香りで満ちている。
 最近、アロマキャンドルにハマっているらしい。
 夏穂の部屋同様に、雪穂の部屋も綺麗に片付いている。
 だが、机の上だけは別だ。何やら色んな道具でゴチャゴチャしている。
 机の上だけ、俺の部屋と一緒だと笑う藤二。
 置かれている様々なものを見やりながら藤二は尋ねた。
「へぇ。これ製作図か」
「うん。そうだよ〜」
「こりゃ凄い。魔道具の授業なんて簡単すぎてツマラナイんじゃないか?」
「ううん。そんなことないよ。新しいアイデアとか浮かぶし〜」
「そうか。そりゃ良かった。ツマンナイですって返されたら担当教師的には切ないからなぁ」
「あっはは♪」
「ん。これ何だ。製作途中?」
「うん。それはねぇ、魔力を転送する装置でね〜……」


 あれこれ色んなことを見聞きし、家庭訪問は無事に終了。
 夏穂と雪穂は、次の生徒宅へと向かう藤二を見送る。
 二人の視線を背中に感じながら、藤二は考え込んだ。
 言うべきか、言わずにこのまま帰るべきか。
 気になることがあったのだ。
 これもまた、踏み入ってはならぬ領域、それに該当するかもしれない。
 そう思うからこそ、藤二は悩み躊躇った。
 一歩踏み出して留まった藤二。夏穂と雪穂は、首を傾げる。
「先生? どうしたんですか?」
「何か忘れ物した〜?」
 振り返れば、そこには、あどけない表情の可愛い女の子が二人。
 いつもと何ら変わらぬ二人の表情。だからこそ、藤二は躊躇う。
 家庭訪問の意味。どうして、ここまで来たのか。
 面倒だけど仕方ないとか、そういう感じで来たわけじゃない。
 先生として、生徒のことを知っておく為に。教えてもらう為に、ここに来た。
 聞いてはいけないことなのかもしれないけれど。聞かねばならぬことでもある。
 しばらく黙りこみ、二人の顔を見つめた後、藤二は意を決して尋ねた。
 気になったこと。
 それは、彼女らの自室にあった "ランドセル"
 使われた形跡のない綺麗なままの赤いランドセルが、やたらと気になった。
 どこかへしまわれるわけでもなく、部屋に置かれていたそれが、何とも切なくて。
 藤二の質問に、夏穂と雪穂は黙り込む。
 やはり、聞かずにおくべきだったか……と後悔した藤二。
 だが、すぐに雪穂がいつもの明るい笑顔を見せた。
「しょうがなかったんだよ。僕達のことを認めてくれない所に行ってもね」
 ワクワクした。ドキドキした。学校って、どんなところなんだろうって。
 赤いランドセルを、前の晩から何度も背負ってみたりして。
 でも、楽しくなかった。楽しいところじゃなかった。
 二人にとって小学校への初登校、その日は切ないものになった。
 イジメというほどのものではなかったけれど、
 クラスメート達は、彼女らを受け入れなかった。
 彼女たちそのものを受け入れなかったというわけではない。
 彼女たちの傍にいた、護獣の存在を受け入れることが出来なかったのだ。
 一般の普通の人から見れば、黒い猫又や灰色の狼、
 不思議な色の鷹や大亀は "魔物" のように映ってしまう。
 それらを連れて歩いている夏穂と雪穂もまた然り……という具合で。
 初登校の翌日から、二人は小学校への登校を止めた。
 とある組織に所属し、それぞれの能力を極めんと修行に打ち込んだ。
 つまらないところに行く必要なんてないよね、とお互いに言い聞かせながら。
 過去を思い返して話す夏穂と雪穂。藤二は二人の頭にポンと手を乗せた。
 それ以上は思い返さなくて良い。聞かせてくれだなんて言わない。
 嫌な質問をしてゴメンだとか、謝る気もない。
 ただ、ひとつだけ。最後に一つだけ聞かせて欲しくて。
「今は、どうだ?」
 目を伏せて尋ねた藤二。
 その質問に、夏穂と雪穂は声を揃えて返事をする。
「今は違うよ!」
「学校、楽しいです」
 目を開けて見やれば、そこにはいつもの可愛い笑顔を浮かべる二人の姿。
 藤二はニコリと微笑み、二人の頭をワシャワシャと撫でた。
「そっか。んじゃ、また学校でな」
「うん。先生、またね〜!」
 ブンブンと手を振って見送る雪穂と、その隣で小さく手を振る夏穂。
 またね。その言葉を、今日ほど素敵なものだと思ったことはない。
 楽しくあるように。毎日を笑顔で過ごすことが出来るように。
 寂しい、悲しい過去なんて、全部忘れてしまえるくらいに。
 楽しいスクールライフを送れますように。
 願うだけじゃなく、努力もせねば。
「先生って……責任重大だなぁ」
 苦笑しながら呟いた藤二は、どこか嬉しそうだった。
 開く手帳、さてさて、次に訪問する生徒は……と。

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 ■■■■■ CAST ■■■■■■■■■■■■■

 7192 / 白樺・雪穂 / 12歳 / 学生・専門魔術師
 7182 / 白樺・夏穂 / 12歳 / 学生・スナイパー
 NPC / 藤二 / 28歳 / HAL:教師

 シナリオ参加、ありがとうございます。
 不束者ですが、是非また宜しくお願い致します。
 参加、ありがとうございました^^
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 櫻井かのと (Kanoto Sakurai)
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